暗い……あまりにも…   作:薄氷の仮面

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第3話 韓皋城

秦との国境にも、魏との国境にも近い趙の韓皋城を目指して王騎の率いる秦軍15万が迫るという報告を受けた劇辛は、韓皋城のやや北にある屯安の城へ入城していた。西と東で直接刃を交えたことは無いが、同じ時代を生きた大将軍として劇辛は王騎を高く評価しており、気が付けば矛を持つ手が震えていた。それを部下達に悟られないよう、檄を飛ばし、斥候からの情報を待つ。

 

「劇辛将軍、どうやら秦軍は韓皋城まであと4日ほどで着くとの情報が」

「報告!李牧率いる援軍が到着するまであと5日です!」

「ふん、僅かに間に合わんかったか」

 

攻めて来る秦軍15万に対して3万と数が少ない上、援軍も遅れてくることが発覚した劇辛軍は、韓皋城へ入り籠城するように献策する者が多かった。しかし劇辛はこれを跳ね除け、万極に1万の兵を持たせて屯安から逆に秦国へ侵攻を仕掛ける。

 

本来であれば、1万という兵数で秦の奥深くまで突っ込むというのは無謀な作戦であり、任される将や兵は拒否することすらあるだろう。しかしながら、今回その特攻任務を劇辛が任せたのは万極とその部下であり、万極は喜々としてその任務を引き受けた。下手すれば全滅という可能性があるのにも関わらず、それでも彼らがその任を引き受けたのは長平での秦への恨みからだった。

 

1000人単位の隊に分裂し、秦の国境付近の村々を襲う万極軍。鬱陶しい存在が越境して来たことに対し、王騎は即座に対応する。

 

「騰。2万を率いて入り込んで来た趙軍を捉えなさい」

「ハ!」

 

1万の万極軍に、2万の兵を割いたのは同数だと討ち漏らす危険性があるからだ。その危険性を王騎はよく知っており、万全を期すために一番信頼の置ける騰に殲滅を任せる。

 

そして15万という大軍から足の速い2万を抽出したために、行軍は少し遅れる。結果、李牧の援軍は間に合うことになった。

 

「秦軍13万、対してこちらは民兵を含めても8万ですか……。

守るだけであれば、確実に韓皋城は落ちないでしょう。姜燕殿、魏加殿が率いる援軍が着くまでは守りに入るべきですが……問題は秦が後続の軍を出すかどうかです」

「必ず出す!秦にとっての韓皋城は、喉から手が出るほど欲しい城だからな。何せ、あの王騎を復活させてでも欲しい城だ。魏、趙、秦の3国にとってこれほど重要な拠点はない。

ところで李牧よ。総大将の座は明け渡すが、俺が率いる中央軍の戦い方まで口出しさせんからな?」

「もちろん。むしろ天下の大将軍である劇辛将軍に総大将を代わって欲しいぐらいですよ」

「ワッハッハッ!それはならん。李牧を俺の後進として、育成しろとの命もあるからな」

 

李牧が総大将であることは悼襄王からの指示でもあるが、劇辛がそれに反発する可能性を考え、悼襄王は手紙で李牧の育成をしろとの命令を劇辛に出していた。

 

それに気が乗った劇辛は、軍議で幾つかの発想を李牧に伝える。それは春秋戦国時代で一番の軍師だともされる、軍神楽毅の戦役の知だった。

 

秦軍と趙軍が対峙し、李牧は王騎を討つために野戦を選択する。中央には劇辛将軍が入り、左翼には韓皋城城主の豪紀、右翼には老将である晋成常が入った。

 

 

 

援軍を率いる李牧を見送った後、俺はお仕事をして疲れた身体を大きな風呂で癒す。いやあ、この時代でもお風呂に入れるキングダム世界は凄いわ。めっちゃ癒される。

 

「ふぅ」

「アハハハハ!」

「クスクス!」

「フフフ!」

 

原作でも、悼襄王はお風呂に入るシーンが多かった。というか死に場所もお風呂だった。郭開が原作で悼襄王を庇う際に「日頃のお疲れを癒している最中だ」とか言ってた気がするけど、悼襄王になって分かったことは、悼襄王はマジで日頃の疲れを癒していただけだったということ。

 

……一国の王が行う、とても重要で大きなお仕事と言えば子作りである。悼襄王にも子供がいるのは原作からして分かることだし、当然史実でも子供は存在している。あれだけショタコン描写されていても、ヤることはヤっていたということだ。というかあれだけのショタコンなら、子作り自体苦痛だった可能性はある。この時代の宮女は基本肉食系女子ですし。

 

「五月蠅いぞガキども!それだけ元気ならさっさと揉め」

「はーい!」

 

なお俺はショタコンじゃないのでこのお風呂にはロリもいます。というか名家の息子娘が沢山います。今ここにいるのは今代の王である俺と、次代の王である嘉の2代に渡って仕える奴らということだし、裏切らないように洗脳教育……いや調教……裸の付き合いをしている。

 

俺が揉めと言ったら、身体の隅から隅までマッサージしてくれる子供達。王として一番重要な仕事のせいで身体が疲れているので凄くありがたかったりする。なおこの子供達に見捨てられる未来が原作的にあり得るという悲しい事実。せめて今だけは王を堪能するために母性溢れるロリっ子の膝枕でウトウトする。短命は確定してるし、これぐらいの役得はあって良いだろ。

 

湯から上がり、王の寝室に戻ると先ほどまでイチャコラしていた幽連が眠っている。……原作ヒロインである羌瘣の敵であり、わりとあっさり退場した殺人鬼でもある。蚩尤を嫁にするとか気でも狂ったのかと原作読者には言われそうだし、実際部下達には気が狂っていると散々言われた。

 

しかし場所が分かっていて、上手く行けば間違いなく最強格の護衛が手に入るというのに、俺が行かないわけないだろう。あ、別に原作不遇キャラ救済とか崇高な目的は無いです。ただ単にひたすら都合の良い女がフリーだったから王の威光を頼って捕まえただけ。

 

「どうした?ニヤニヤして。気持ち悪いぞ」

「いや、最近は丸くなったなって。あ、身体のことじゃないぞ?たぶん身体の方も丸くなっているけど」

「殺す」

 

少々からかうと、わりと殺気が込められた殺害宣言を為されるけど別に手は出してこない。2年ぐらいかけて求婚したかいはあったということだ。殺されかけたけど。というか現在進行形で殺気向けられてるけど。

 

「王騎か。私がパッと行ってパッと首だけ持って帰ってこようか?」

「龐煖が行ったから心配はいらんぞ。というかそういうことは頼まないって言ってるだろ」

「……強情な奴め」

「お互い様だろ」

 

寝床の上で、秦軍と趙軍が無事相対し、劇辛将軍率いる中央軍が奮戦しているという開戦初日昼までの報告が届いたので、その報告書を読む。でも実際に起こったのは3日前だから、もうそろそろ決着は着いているはず。少なくとも、姜燕と魏加の援軍は着いた。ここからだと、本当に祈るしかないのが辛い。

 

あ、今は格好つけてお前に頼らないとか幽連に言ってるけど本当に不味い時になったら頼る予定です。普段から頼っていたら格好つけて言った口説き文句が泡と消えるし、実質最終手段。だけど保険は幾らあっても困らない。

 

……報告書を読んで気になったのは、開戦5日前に秦の領内へ特攻したと書いてある万極軍の存在だな。どうやらこの1万程度の万極軍を相手に、王騎は2万の兵を差し向けたらしい。ここで1万の兵力差を削っているの、地味に大きいし劇辛の手柄だ。軍神楽毅の戦を全て盗んだと豪語しているだけはある。万極軍がどうなったのかは知らん。

 

後は昼までの戦いだけど、劇辛の最強の手駒である毒犬が中央に突っ込んで来た蒙武軍を背後から襲っている最中らしい。どうやって回り込んだし。いや速度が異常なことは分かっているけど、突っ込んで来た軍の背後に回って後続の軍を狩りつつ蒙武軍の背を討つって強すぎだろ。

 

というか蒙武がいるのか。原作でも韓の侵攻には関わってなかったし、王騎と一緒に馬陽の戦いで趙軍と戦っていたから、侵攻して来た軍にいるとは予想出来ていたけど、実際にいるとなると荷が重い。……将来的なことを考えると蒙武も討ちたいけど、難しいだろうなあ。


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