お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話 作:たーぼ
まさかの総投票者数も100超えとなりました。マジか……となりつつ感謝しかありません。
「いや~、やってまいりましたな~」
「ソウデスネー」
「京都に着くとあれだな。何だかこう、こっちまではんなりしそうだな」
「デースネー」
「ところで適当抜かしてたけどはんなりってどういう意味?」
「だーもうっ、現実逃避はいいから行くよ! 誰のせいで遅れそうになってると思ってんのさ!」
「体調、かな……」
京都に着くや否や、青年とウマ娘少女のコントが繰り広げられていた。
外から見れば何だかオシャレな建造物にも見える京都駅。そこで渡辺輝とナイスネイチャは目的の出口まで走っている。もちろんネイチャがペースを合わせてだ。
「駅に着くなりいきなりトイレ行ったと思ったら20分も籠るとかどんなお腹してんの!?」
「いやほら、あんじゃん。緊張してたら腹痛くなるとかってよく聞くだろ? アレだよアレ。お前のデビュー戦だから緊張してたんだってば」
「それフツーアタシがするやつじゃん。何でトレーナーさんが緊張するのさ?」
「そりゃだってお前、お前の体は俺のものでもあ──、」
「あ、やっぱ言わなくてもいいや。これ以上言わせたら多分アタシ今日走れなくなりそうだし。余計な事言うに決まってるし」
「ねえ、最近俺の事普通にディスってくるようになったよね?」
この男の不意打ちは本番に良くない影響を与えてくるのは知っている。主に心臓に悪い意味で。
出会ってから誤解を招くような発言をするのは今も変わっていないらしい。
タクシーを待たせている場所まで行くと、腕時計を見ながらドアにもたれ掛かっている運転手のおじさんがいた。
「遅れてすいません! 電話をさせて頂いた渡辺です!」
「ああ、お待ちしておりました。大丈夫ですよ。行き先は京都レース場ですね?」
「はい、お願いします」
普通に優しい運転手さんで胸をなで下ろす2人。京都には優しい人しかいないのか。
タクシーに乗るとすぐに発進した。ナビ設定もしていないのに異様に慣れた運転にも見える。
「その子が今日デビューするウマ娘ですか?」
「え? ああ、そうです。ほれ、挨拶しとけ」
「うぇえ!? や、まあその、ハイ……どーも、ナイスネイチャでーす……」
「これはまた可愛い子ですねえ。ははっ、この時期になるとメイクデビューするウマ娘とトレーナーさんがよく予約入れてくるものですから、私も京都レース場に行くのがもう慣れちゃってましてね」
「なるほど」
これで納得がいった。何度も行っているからスムーズに運転できるのか。
「どうですか? デビュー戦は勝てそうですか?」
「確信がある訳ではないですが、必ず良い線はいけると思ってますよ」
「もう、買い被りすぎだってば。そんな期待背負えるほどネイチャさんは優れてませんよー」
「こんな感じでちょっと捻くれてはいますけど、ちゃんと良い脚持ってるんですよ」
「ちょ、いいってそんなこと言わなくて!」
「はははっ、まだデビュー戦前だというのに仲が良いですねえ」
どうやら運転手さんのおじさんにはこのコントが仲睦まじく見えるらしい。
ミラー越しに見えるおじさんの微笑ましいものを見ているような表情に、トレーナーは当然だと言わんばかりのドヤ顔に、ネイチャは少し照れている感じだった。
「こいつがこういうフラットな性格してくれてるおかげで、自分も気兼ねなく接する事が出来るんですよ。トレーナーとウマ娘は対等な関係だと思ってる自分には相性の良いヤツだと思ってます」
「かぁーっ、よくもまーそんなことをスラスラと言えますなー。知ってるんだからね。最近のトレーナーさんがアタシが照れるのを面白がって言ってるのくらい」
「ほら、ちょいと捻くれてるでしょ? 基本的に斜に構えてるんですよ」
「そういうお年頃なんですね」
「ちょ、運転手さんまで!?」
敵が1人増えた。大人というのは軽々しく子供を可愛がってくるので、少し大人びた性格をしているネイチャにとっては天敵なのだ。
無邪気に喜べない分余計にタチが悪い。こうなってくるとただ黙ったままで抵抗するしかないのだった。
「面白い方達ですなあ。私はあまりこの子だ、と決めたウマ娘はいませんでしたがファンになっちゃいました。仕事があるので今日のレースは見れませんが、あなた達を応援させてもらいますよ」
「お、やったなネイチャ。さっそくお前のファンが増えたぞ」
「もう、ちょーしいい事ばっか言っちゃって……どもデス」
ウマ娘にとってファンが増える事はモチベーションに係わるのでこれは普通にありがたい。
それはそれとして商店街の人達然り、ネイチャはおじ様おば様に好かれやすい性質なのだろうかと時々疑問に思う。
「勝たなきゃな」
「……だね」
だけど、京都で出来た初めてのファンだ。
ネイチャのやる気を上げるには十分の出来事だった。
目的地が見えてきた。
──────────―
京都レース場。
GⅠはもちろん、GⅡやGⅢといった重賞レースが多く行われている立派なレース場でもある。
そこで今日、ナイスネイチャのトゥインクル・シリーズ初挑戦、メイクデビューが行われる。
控え室に2人はいた。
既にネイチャは体操着に3番のゼッケンを付けて待機中だ。
「緊張は?」
「してない、と言えばウソになるかな。けど、うん、調子は悪くないよ」
2人共タクシーに乗っていた時とは顔つきが変わっていた。
以前の模擬レースとは違い、これは本番のレースだ。それに、ネイチャにとってもトレーナーにとっても大事なデビュー戦でもある。
何としても、勝ちたい。
「他のウマ娘については事前に調べはしたが、何かに突出したようなウマ娘はいなかった。勝てないレースじゃないぞ」
「ふーん……」
何を言わんとしているか、ネイチャにも即座に理解出来た。
飛び抜けたウマ娘がいない。つまり、あのトウカイテイオーみたいな才能を持っているウマ娘は今回レースにはいないという事になる。
だけど、だ。
「油断はするな、でしょ?」
「ああ」
「分かってますよー。元々そんなつもりもないし、アタシだけが強いなんて毛頭思ってもないし」
自分の実力は自分が一番よく分かっている。
だから油断も容赦も遠慮もしない。
走る以上は全力を出し切るまでだ。
「分かってんならいい。後はそうだな。作戦としては先頭集団に紛れて最後に差していけ。タイミングはネイチャの好きにすればいい。直感でもいいぞ。好きに走ってこい」
「前回とあまり変わらないんだ?」
「そのためのトレーニングだったからな。お前の脚とスタミナを重点的に鍛えて末脚を伸ばす。それでごぼう抜き出来れば完璧だ」
「そんな上手くいきますかね~」
「まあ、今回はデビューと言ってもそんな気負う必要はないさ。トレーニングの成果がどんなもんか見るためでもある」
絶対に勝てと言わない辺りがトレーナーの気遣いを感じられる。
けれど勝てない試合ではないのなら、勝ちにいくだけだ。
時間まであと10分ほどになった。
「っと、んじゃ行ってこい」
「はいよー」
デビュー戦が、始まる。
「うわー、観客いっぱいいる……」
パドックも終わり、いざゲート付近まで出てくるとまず圧倒された。
模擬レースにいた野次ウマ娘とは違う。観客席はありとあらゆる人間で埋め尽くされていた。
(こんなにも、いるんだ……)
全てが初体験のようだった。
周囲を見れば他のウマ娘も似たような表情をしている。何たってデビュー戦だからだ。
初めて本番を走るウマ娘。次世代のトゥインクル・シリーズを盛り上げてくれるようなウマ娘を探しに、あるいは見に来た人達。
たったそれだけの要素で会場はこんなにも簡単に埋まる。
先ほどのトレーナーが言った言葉を思い出す。
緊張は? と。きっと、こういう事を含めての事だったのだろう。
(そりゃ、緊張もしますわな)
種類にもよるが緊張で体に変な力が入ると思うように走れない。だから人を含めウマ娘はそれを解すためいくつかの手法やルーティーンを持っている。
例えば決まった行動や動作を行うか、脳内で緊張を上書きするような出来事を思い浮かべるか。
ナイスネイチャは予め用意していた。
どちらかと言えば後者を。
ネイチャにとって心が安らぐモノ、出来事。
思い浮かべる。トレーナーの顔を。細かく言えばホーム画面に設定したトレーナーとの2ショット写真を。
(ふふっ…………ヨシッ)
力が自然と抜ける。
案外、他者がそんなものでと思うようなものが、緊張を無くす事だってある。
ネイチャからすればそれがトレーナーのぎこちない顔だっただけに過ぎないのだ。
次々とゲートに入るウマ娘に続きネイチャもゲートへ向かう。
この狭い空間がネイチャの集中力を高めていた。
(大丈夫、冷静になれてる。後は作戦通りに走るだけ……!)
そして。
ゲートが開かれた。
京都レース場。
芝、良。距離、2000m。天候、晴れ。右・内回り。
(よし、スタートダッシュは悪くない)
観客席から見ていたトレーナーはとりあえず安堵する。
スタートダッシュが遅れたウマ娘もいたが、ネイチャは良いスタートを切っていた。
まずは第一コーナー、作戦通り上手く先頭集団に紛れ込んでいる。
模擬レースの時よりもスタミナを強化していたからその辺の心配はいらないはずだ。前回の失敗にはならないと思いたい。
(逃げが1人、先行しようとしてるのが6人、か)
その6人の後ろから2番目辺りにネイチャがいた。
第二コーナーが終わり直線に入る。まだ動き自体はない。本番は後半だ。デビュー戦とはいってもやはり本番のレース。下手な動きを見せるようなウマ娘はいない。
だからこそ、だ。
(行けるぞ、ネイチャ)
誰も突出していないからこそ、あのテイオーほどではない。
別次元のウマ娘と走ったネイチャには、他のウマ娘は必ずテイオーよりも遅いという事が分かっている。隙のないテイオーとは違う。
第三コーナー。
レースが、動き出す。
ネイチャのすぐ後ろを走っていたウマ娘が仕掛けてきた。
(ッ……焦ったらダメ。今抜かされたって最後に抜き返せばいいんだから)
テイオーの時と同じ轍は踏まない。自分は自分のペースで走りつつタイミングを見計らえばいい。
最終コーナーに入りかけると、最初に仕掛けたウマ娘に釣られたウマ娘達が一斉にスピードを上げてきた。
集団がペースを乱されていると直感で分かる。
焦るな。よく見ろ。どこの空間が空いている。この溜まり切った末脚はどこでなら最高を迎えられるか考えろ。
先頭集団は固まったまま前を走っている。
ならば。
最後の直線に入る。
左に良いスペースがあった。
最高は、今だ。
(ここッ!!)
ダンッ!! と。
足で踏んだとは思えない音がした。
(よし、タイミングは悪くない!)
それを見ていた渡辺輝はようやくと言わんばかりに口角が上がる。
ネイチャは自分は強くないと言っていたが、あの末脚は間違いなくネイチャの天性のものだ。
デビューもしていないのにあの加速力を持っているのは後々確かな武器となると思っていた。
それを鍛えた成果が今見れる。ネイチャのトレーナーとして、これを楽しみにしない訳がない。
(すげえ、どんどん抜いていきやがるッ)
ペースを乱され執拗にスタミナを持っていかれていた先頭集団のスピードが遅くなるのに対し、ネイチャは更に速くなっていく。
周囲にいる観客もネイチャの加速を見て歓声が上がっていた。
これが堪らない。
自分と共に鍛えたウマ娘が、観客の歓声を浴びているのが嬉しくて堪らない。
残り200mを切り、ネイチャが2位まで上り詰めた。
1位との差も詰まってきている。
これなら。
「……いける。いけるぞ、ネイチャ!」
スパートを掛けているのに脚はまだ残っている感覚がある。
息も切れつつあるが、スタミナが尽きた訳ではない。
(もうすぐで追いつける……いいや、追い抜くッ!)
1位との距離までおよそ1バ身差。
残り100m。
もはや聞こえるのは自分と相手の凄まじい走行音と息遣いのみ。
観客の声援すら、今のネイチャの集中力の前ではシャットアウトされている。
(もっと……もっとッ! 速くッ!!)
デビュー戦。初戦も初戦。
ここで勝たないで何が成果だ。
トレーナーにあんな事を言っておきながらでも、勝ちたいものは勝ちたい。
そのためのトレーニングだったんだから。それだけの思いだったんだから。
更に加速。
差はもう分からないほど、いいや、2人して並んでいるようにも見えるまで追い詰めた。
(いける……)
(いける……)
ネイチャとトレーナーがシンクロする。
僅か数センチのとこまで並んだ。
((いけるッ!!!!))
そして。
2人のウマ娘がほぼ同時にゴールを切り、大歓声が京都レース場に響いた。
思わず身を乗り出しそうになるトレーナー。
先頭で立って見ているとはいえ、ここからじゃどちらが先かは見えなかったのだ。
「ハァ、はぁ……っ……?」
最後のスパートに全力を出し切ったネイチャの息は上がっている。
本人達でさえ、どっちが先にゴールしたのかは分かっていない。
掲示板の一番上に3と書かれていたらネイチャの1着が確定するが、2番だったら相手のウマ娘が1着となる。
トレーナーも、ネイチャ自身も最後は抜けると確信したところでゴールしたのだ。
つまりは、自信がある。
そして。
そして。
そして。
掲示板の一番上に出た数字は。
ハナ差の2番だった。
またしても、トレーナーとネイチャがシンクロした。
「「いや2着かい!!」」
京都レース。
メイクデビュー戦──ナイスネイチャ、2着。
はい、という訳で史実通りデビュー戦は2着となりました。
まさかのご都合展開とはいかず、しかしこれもネイチャの魅力の一つという事で。
では、今回高評価を入れてくださった
かーまいんさん、Minobusiさん、ガルパンお兄さんさん、旅人Tさん、kinoppiさん、 デホレスさん、fujisakiさん、提騎さん、大黒堂アキラさん、くゆちたさん、そうじゅさん、ICHI Y cronさん、そこら辺のペットボトルさん、星川スバルさん、janmilさん、ゆぎわさん、0rchisさん、イロワケカワウソさん、甚兵衛さん、blossomsさん
以上の方々から高評価を頂きました。
ここまで来たなら目標は大きく、次はお気に入り2000や投票者数200を目指したいところです。本当にありがとうございます!!
ゴルシウィーク楽しみましょう。