お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話 作:たーぼ
投稿が遅れてしまい申し訳ございません。
GW中は執筆する時間がありませんでした故……。
誤字脱字などのご報告や訂正などもありがとうございます。助かってます。
京都レース場。
芝、良。距離、1400m。天候、晴れ。右・内回り。
あれから2週間が経ち、そのレース場では歓声が響き渡っていた。
『未勝利戦』。
メイクデビューで勝利できなかったウマ娘が出走するレースであり、それに勝利するまで未勝利戦以外のレースには出られない仕様となっている。未勝利戦で勝利すれば次回からプレオープン以上のレースに出走する事が出来るのだ。
ナイスネイチャのメイクデビュー戦は二着と未勝利になった。
だから今回の未勝利戦に出走している。ここで何としても勝たないといつまで経っても大きいレースには出られない。目標すら見据えられないままじゃ進む事だって出来ないのだ。
およそ2週間と短期間での挑戦にはなったが最終コーナーを迎えた今、ネイチャは現在二位まで上り詰めている。
一気に後方から差していった結果だ。先頭ウマ娘との距離も一バ身差と充分に勝てる範囲内だった。
(よし、今回は少し早めに仕掛けさせたが上手くいってる。見てる限りじゃスタミナも余裕そうだ。このまま行けば勝てる……!)
前回とは違いゴール前の席から見ているトレーナー。
最後の直線に入った所から、徐々にウマ娘達の凄まじい足音が近づいてきているのが分かる。
最も近い足音はと聞かれると当然分からないが、そんなものは走っている本人を見ればすぐに分かる事だ。
見える。いいや、見えた。
ナイスネイチャが、先頭のウマ娘に並んだと思った瞬間に抜いたのだ。
「よしッ!!」
まだ勝利が決まっていないのにも関わらず、トレーナーは思わず小さなガッツポーズをした。
自分のウマ娘が先頭を走っている。それだけでこんなにも気持ちは昂るのか。
(最後まで気を抜かずに走りぬく! 前回とは違うんだから……ッ!!)
一方、ネイチャは直線を全力で走りながらも警戒心は解かなかった。
前回はあと一歩のところで二着に終わった。ギリギリで勝ったと思ったのに結果はあの惜敗だ。それだけは許されない。
差し切ってゴールする。誰にもこの先頭は譲らない。その一心で気は抜かずに目線は前だけを見る。
後ろから聞こえてくる足音は徐々に遠のいていた。もはや聞こえるのは自分が出している音のみ。
ちらりと、ゴール付近のスタンドに立っているトレーナーの姿が見えた。前だけを見ていなければならないのに、見てしまった。
笑っていたのだ。自分を見て。もうすぐで勝てそうな自分を見て歯を食いしばりながら笑顔で見てくれている。
(……ああ、もうっ……気を抜いたらいけないのに、そんな顔で見られたらこっちまで緩んじゃうじゃん)
不思議と、スピードが衰える事はなかった。むしろより一層速さが増したようにさえ思える。
自分のためだけではなく、誰かのために頑張る事は意外と悪くないのかもしれない。卑屈なままでも我武者羅に走る事は出来る。
(っし……行くよッ!)
先頭のまま、ナイスネイチャが更に加速した。
残り100mを切り、二位のウマ娘との差が3バ身まで開いていく。
もはや独壇場だった。
他の追随を許さない。客の視線はネイチャへと集中し、実況も興奮したようにネイチャを語っている。歓声が大歓声へと変わっていく。
誰がどう見ても結果は覆らなかった。
京都レース。
未勝利戦──ナイスネイチャ、一着。
控え室。
そこにネイチャが帰ってくると、既にトレーナーが待っていた。
「トレーナーさん、もういたんだ」
「おう、一着になったお前の顔を一番に見ようと思ってな」
改めて言われてもあまり実感が沸いてこない。
未勝利戦と言えど、一着は一着。まさに正真正銘の勝利をしたのだ。自分とは無縁かもしれないと思っていたモノを掴み取った。
「……ははは、とは言ってもまだ全然大きいレースとかじゃないし、素直には喜ぶほど子供なネイチャさんじゃありませんよー。テイオーはちゃんとデビュー戦で勝ったって連絡来たしね」
「だとしてもだっつうの。そもそも一回目の未勝利戦でちゃんと勝てたんだからもっと誇っていいんだぞ。俺からすればデビュー戦も実質勝ってたまである」
「いや負けてたんだけどね」
何はともあれ勝つ事は出来た。正直、ネイチャの中にもまだ少しあるのだ。
興奮のような高揚感のようなものが。
「とりあえずこれでもっと大きなレースに出られる。今回のはそのための小さな一歩だ。だけど、確かな一歩でもある」
まずここで勝たないといつまで経っても前に進めない。最初に立ちはだかる壁を見事に突破したのは大きいだろう。
新人とは言っても彼は中央のトレーナーだ。それなりの成績を収めるだけじゃ物足りない。目標はあくまででっかくだ。
「次からのレースは今よりもっと激しくなる。当然勝つ事も簡単じゃない。ネイチャの実力はもちろん、相手との駆け引きやその時のバ場や天候によって勝敗は大きく変わってくる」
「……、」
当たり前の事をトレーナーは言う。
しかし、それをちゃんと把握しておくかしていないかでは対策のしようも違ってくるものだ。基本だからこそ、そこは大事にしなければならない。
「それに対応できるように俺もこれからのトレーニングを更に調整していく。だからお前にももっと気合い入れてもらうぞ」
「ふーん……ってことは、もう次のレースは決まってるってわけ?」
「ん? ああ、そうだ。次のレースは……っと、その前に」
「?」
言いかけて止める。
次の目標を言う前にまずやるべき事があった。
「よく頑張ったなーネイチャ!」
「ぅふぇあっ!? と、トレーナーさん!? な、なに!?」
「何って、担当ウマ娘が一着になったんだ。褒めるのはトレーナーとして当たり前の事だろ。俺は褒めて伸ばすタイプの人間だ」
わしゃわしゃとネイチャの頭を撫で繰り回す。
突然の事に色々と理解が追いつかないネイチャだがレース後の自分は体も頭も汗だくな訳で、思春期ウマ娘にとっては割と死活問題だったりする。
「あ、アタシ今汗かいてるから触らない方が良いって! 汚いってば!」
「なーに言ってんだ。ウマ娘の汗は勲章モンだろ。一着なら尚更な」
全然撫でるのを止めてくれない。これはもう諦めた方がいいと判断したネイチャ。抵抗は余計にトレーナーを加速させるものだと最近学習したのだ。
されるがままである。というかだ。トレーナーに撫でられるのを悪くないと思ってしまっている自分がいた。
口ではああ言っても尻尾は綺麗に上がっている。完全に体は喜んじゃっていた。
ひとしきり撫でられた後、トレーナーは手を頭から離して切り替える。
「さて、次はウイニングライブだろ? 一番前の特等席で見とくから張りきっていけよ」
「……う、うん」
やるだけやって出て行ったトレーナー。
ネイチャもネイチャでウイニングライブのために軽く髪を整えて控え室を出る。
観衆を前に自分がセンターで踊る。前回は二着だったが同じように踊ったので特に問題はないだろう。
それよりもだ。ネイチャにとってはウイニングライブよりも新たに分かった大事なことがある。
(勝ったらトレーナーさんが撫でてくれる……勝ったらトレーナーさんが撫でてくれる……一着になったらトレーナーさんが撫でてくれる……)
頭がそれで埋め尽くされていた。勝てば褒美としてアレをしてもらえるのであれば、今後のトレーニングはもっと頑張らなければならないと密かに決意するネイチャであった。
──────────
ウイニングライブも無事に終わり、2人は帰りの新幹線に乗っていた。
「やっぱ自分の担当ウマ娘がセンターで踊ってるのを見るのは良い気分だな」
「さっきからおんなじ事ばっか言ってるよー」
「仕方ねえだろ。何回もそう思っちまってんだから」
スマホを片手に外の景色を見ている窓側席のネイチャ。家族や友人に一応勝ったと連絡しているのだろうか。
「ところでさ、さっき控え室でも言ったけど次のレースって決まったんだっけ?」
「そういやそうだったな。決まってるぞ」
言って出走予定表を出す。決まったと言っているならば既に登録は済ませているのだろう。
新幹線、その中にある2人の席だけ少し張りつめたような空気になった。
「来年の1月後半、今回と同じ京都レース場。オープン戦、『若駒ステークス』。芝2000mだ」
「芝2000mかあ」
「前回のレースは1200mだったせいか、お前のスピードが乗り切る前に負けたからな。次回からは最低でも1400m以上で走ってもらう事になる」
ネイチャの末脚は終盤に加速する。距離が短いのであれば早めに仕掛ければいいだけの話かと思われるが、実際は違うのだ。
ウマ娘には距離の適性があり、個々によって細かい距離にもそれは影響してくるものだ。ネイチャのスタミナがあれば1600m以上からが実力を思う存分発揮できるとトレーナーは思っている。
トレーナーはそれに、と加えて言う。
「これからは大きなレースも目標に入れていくから、早めに2000m以上のレースを見越してもっとスタミナ増強を目指していく。もちろん脚の強化もな」
「ま、そうなりますわな~。厳しくなるのも仕方ない、か」
と言いつつ内心ではやる気満々のネイチャである。
勝てば褒美があるのだ。トレーナーには黙っているが実は楽しみにしている。
そして、もっと大事な報告があった。
「芝の2000m。確か模擬レースでも走ってたな」
「うん? そうだね。三着だったけど」
「なら実質の二回戦ってとこか」
「ん? どゆこと?」
ネイチャにとってはそれだけで戦慄が走るほどの衝撃が。
「トウカイテイオー。あいつもこのレースに出るぞ」
「ッ……」
因縁、というにはあまりにも烏滸がましいかもしれない。
そもそもあちらは自分をライバルとしてすら認識していないだろう。あくまで友人。それだけでしかない。
格が違うと思い知らされた。別の次元とすら思えてしまう才能を持っている。
『天才』と『平凡』など比べるまでもない。勝つという覚悟すら簡単に捻じ伏せてしまうような相手だ。
「そっか~。テイオーが出ちゃうかー。じゃあさすがに勝つのは厳しそうかなあ」
口から出たのは最初から負けると同義のような言葉。
トレーナーも真っ向からそれを否定してやりたい気持ちもあるが、トレーナーだからこそトウカイテイオーの強さをよく知っている分、強く言えない部分もある。
でも。
だけど。
それでも。
「そのために強くなるんだろ」
「トレーナー、さん?」
言わなければならない時がある。
ただの感情論かもしれない。たかが根性論かもしれない。
だとしても、自分がナイスネイチャのトレーナーである限り、絶対に言わなければならない事がある。
「テイオーに勝つためにネイチャが……いいや、
例え負けると分かっていても、まだ勝てないと思っていても、いつか必ずその時が来るのを信じて。
「俺もテイオーをギリギリまで分析する。だからお前もこれから俺が考えるトレーニングをこなすんだ。負けるレースじゃない。勝つレースをするために」
「……ふふっ」
「え、何かおかしい事言ったか?」
思わず笑みが出てしまう。
普段は気楽そうにしているくせに、こういう時だけは真面目になる。そんなギャップに笑ってしまうのだ。
おかげで強張った緊張が一気に解けた。
今なら何でも言えそうだ。
「いや、何も。まあ、やるだけやったりましょうか。アタシだって勝ちたくない訳じゃないしね」
「お、おう」
「んじゃレースとウイニングライブ終わりで疲れたし、ちょっとだけ寝ていい?」
「え? ああ、いいぞ。着いたら起こすよ」
「それじゃちょいと失礼して、と」
「ん?」
言ってひじ掛けを上に仕舞うネイチャ。
これがあると寝にくいのだろうかと思った矢先だった。
「っ」
「そのまま寝ちゃうとやっぱ首痛くなるからさ。少し貸してもらいますよー」
トレーナーの肩にネイチャがそっともたれ掛かってきた。
ネイチャのもふもふした髪が時折頬に当たりくすぐったくなると同時に、何だか甘い香りがする。ウイニングライブ終わりにシャワーを浴びたからか。
気付くと、案外あっさりとネイチャは寝息を立てていた。
負けられないレースとセンターでのウイニングライブもあったから疲れていたのだろう。
(どさくさに紛れて俺も寝ようかと思ったが、こりゃ眠れそうにないな……)
トレーナー、渡辺輝にしては珍しくだ。
ネイチャを少し意識してしまった瞬間だった。
はい、という事であっさりと『未勝利戦』一着です。
史実ではダートでの一着なのですが、これからを考えて芝に改変させていただきました。
もっと早く関係を進展させて色々書きたいんですが、じっくり書いてイチャイチャもさせたいジレンマ……。
では、今回高評価を入れてくださった
もりそばさん、とらきちさん、ビスチャさん、9様さん、SFさん、ruhaさん、gごとーさん、ブーーちゃんさん、Thallumさん
以上の方々から高評価を頂きました。
ランキングに何度も載せて頂いているのも皆様のおかげです。本当にありがとうございます!
ゴルシウィークのジュエルは全てファル子に消えました(当たったとは言ってない)