お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話   作:たーぼ

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14.年明けは案の定寒い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、いたいた。トレーナーさーん、こっちこっち」

 

「おーう。ったく、人が多くて堪ったもんじゃねえな」

 

「レース場はもっと密度高いじゃん」

 

「好きな場所とそうでもない場所だと価値観も変わるもんなんだよ」

 

 

 

 1月1日。

 年明けの新年。近くの神社には人はもちろんウマ娘もたくさんいた。

 

 その中に2人、待ち合わせ場所を決めて合流したばかりのトレーナーとナイスネイチャの姿があった。

 特に振袖という訳でもなく、普通に私服である。雰囲気を楽しもうとする気持ちは一ミリもあったもんじゃない。

 

 

「結構トレーナーと来てるウマ娘もいるんだな」

 

 見渡せばトレーナーらしき人物の周囲には基本的に何人かウマ娘がいる。

 もちろん友人と来ているウマ娘だけのグループもいるにはいるが、何だか今回はトレーナーとウマ娘という枠組みが多い気がした。

 

 

「まあレースに向けての勝利祈願ってのが大半だろうね。だからトレーナーも一緒に来てるのは当然みたいな感じじゃない? ほら、ここってトレセン学園から一番近い大き目な神社だし」

 

「そういうもんか」

 

 言われてみればである。

 この神社はトレセン学園から最も近くにあって、それなりに有名な神社でもあった。

 

 昔からあるようで所謂レースで勝利祈願をするならこの神社、と言われるくらいらしい。わざわざ地方からこの神社にお守りを買いに来るウマ娘もいるとか何とか。

 ちょっとしたパワースポットなのかとトレーナーは思う。

 

 

「ん? じゃあネイチャが俺を誘ってきたのも勝利祈願って事か?」

 

「アタシは別にそういうの特に信じてる訳でもないですけどねえ。それで勝てたら苦労しないし。お守り買ったとして勝てなかったら何だったんだよーってなるじゃん?」

 

 一応神聖な神社で何てこと言うんだこの子と口に出そうになるも何とか抑え込むトレーナー。

 言葉にした瞬間自分もとばっちりを喰らいそうで怖い。有名な神社は信仰が強く、その分神様とやらが力を発揮してくれるとよく聞くが実際は分からない。が、用心しておくに越したことはないのだ。

 

 だとすれば、だ。

 

 

「なら何で俺を誘ったんだ?」

 

「……、」

 

 当然の疑問である。

 そして墓穴を掘ると当人は思考が砂漠の砂嵐のようにサラサラと飛んでいくらしい。

 

 噓でも勝利祈願と言っておけば良かったか。いつもの捻くれた思考をここぞとばかりに後悔するウマ娘。さっそく罰が当たった。

 真冬の寒さなのに顔は紅潮していくばかりだ。体温は上がれど対面で見ているトレーナーからすれば寒さで顔が赤くなってる程度としか思えない。不幸中の幸いである。

 

 

「ほ、ほら、せっかくアタシ達のチーム名も決まったし、契約してから初めての年始じゃん? だからまあ、その……特別なイベントだしちょっとした親睦を深めよう的な……?」

 

 取り繕うように言っているが、実は全く取り繕えていないのを果たしてこの少女は気付いたか。

 何かもう普通にドストレートでトレーナーともっと仲良くなりたいと言っているようなものだ。さすがに言ってから気付いたのか、より顔を沸騰させ仕舞いには言い訳すら思い付かない様子だった。

 

 そしてトレーナー。

 担当ウマ娘が精一杯(?)言ってくれた言葉を無下にするほど落ちぶれてはいない。意味もちゃんと理解している。多分。

 

 

「何だ。そういう事か。ならもっと前に言ってくれりゃよかったのに」

 

「え?」

 

「そうすりゃネイチャの振袖姿を見るためにレンタルしたり、おせちでも予約して俺の家でもいいし学園の食堂でも借りて食えたのになあ」

 

「わ、わざわざそこまでしなくても大丈夫だってっ」

 

 トレーナーの家と聞いて一瞬耳がピクンッと跳ねたのは内緒だ。気取られる訳にはいかない。

 このトレーナー、いつもはレース場以外での人混みを嫌い、ウマ娘関連以外の事では気だるさ満点のくせにネイチャの事になると普通に態度が一変するのは何故なのか。

 

 何とかして話題を切り替えたいネイチャ。

 とにかく周りを見渡してイベントらしいイベントをこなす事に専念する。

 

 

「あーえっとー、あっ、ほらトレーナーさん、今なら空いてるからちゃちゃっと参拝してこっ」

 

「ちゃちゃっと済ませていいのかそれ」

 

 とはいえ新年といえば初詣がメインイベントだ。

 せっかくここまで来たのだからやっておくべきだろう。ネイチャのトレーナーとしても。

 

 看板に書かれている通りに礼をして拍手、お決まりの5円玉を賽銭箱に入れて願いを祈る。

 

 

(定番中の定番だけど、せっかくウマ娘と所縁がある神社でもあるしな。ネイチャがレースで勝てますように……いや、全勝できますように? 違うな、レースで勝つのには確かに運も必要だけど、それよりも自分の力を信じて実力を出し切る事だ。ここで神頼みしてどうにかなるような問題じゃない。つまり俺がここで祈るべきなのはネイチャの勝敗なんかじゃない。俺が祈るべきなのは、ネイチャがこれからも大きなケガなく走れるようにだ)

 

(レースで勝てるようにとか贅沢な事は言わないからせめて良いとこまでいけますようにっ。あとトレーナーさんともっとな……か良く、なれます、ように……。いや何願っちゃってんのアタシ……!?)

 

 2人の温度差が凄かった。

 片や割と真面目に考えているが祈る時間が長すぎて後ろの人から睨まれている。そして片やウマ娘の方は文字通りパパッと終わらせて真冬なのに顔を手で扇ぎながら端へ移動する。

 

 

「何願った?」

 

「……そういうの口に出したら叶わないって言うじゃん?」

 

 遠回しの否定だった。というか完全に照れ隠しである。

 メインイベントの初詣はこれにて終わった。問題はここからである。

 

 

「さて、これからどうするよ。寒いし帰る?」

 

「自分に正直かっ。どうせならさ、おみくじだけでも買ってこーよ」

 

「そういやそんなモンも売ってたな。よし、いっちょ最初の運試しといくか」

 

 もちろんトレーナーがネイチャの分も買って2人でおみくじを開く。

 結果は顔を見ればすぐに分かった。

 

 

「ねえ、平吉って何? 末吉より立ち位置不明なの出てきたんだけど。吉より上なのか小吉より下なのか分かんないんだけど。何吉まであるんだよおみくじ結局俺の運勢はこのよく分からない立ち位置のやつに振り回されるわけ? え、もっかい引こうかな!? そういうリセマラってありかな!?」

 

 1人究極の選択に苦しんでいるトレーナーをよそにだ。

 

 

「中吉……まあ悪くないだけ良しとしますかねえ。えー何々……、」

 

 ふと目線がおみくじによくある恋愛欄にいった。

 そこにはこう書かれていたのだ。

 

『意外とすぐに接近できる。ぐっと近づいちゃえよユー』

 

 本当に有名な神社なのかと疑いたくなるほど軽い感じで書かれている。

 誰だこんなの書いたヤツと一瞬破ってやろうかと思うネイチャであった。

 

 気持ちも興醒めだ。

 とにかく新年という特別な一日にトレーナーと会えたのだから目標は達成。今日はもう帰ろうと心に決める。

 

 

「ほら、おみくじも引いたし帰るよトレーナーさん。リセマラしなくていいから」

 

 おみくじの列に並ぼうとしていたトレーナーの首根っこを掴み引っ張る。

 運のリセマラなどそれこそ神様への冒涜だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~ミスったなあ」

 

「どしたの?」

 

 帰り道。

 明らかに機嫌の悪いトレーナーが呟いた。

 

 

「手袋忘れちまったんだよ。絶対忘れないようにテーブルに置いてたはずなんだけど、完全にしくじった。手が死ぬ」

 

「……、」

 

 これは好機だと気付いたウマ娘。

 もはや照れている暇などない。チャンスは最速で掴んでこそ意味がある。

 

 ネイチャは両手で手を温めるように息を吹きかけているトレーナーへおずおずと提案した。

 

 

「あ、あのさ、トレーナーさん……もし良かったらなんだけど、アタシ手袋してるから……さ。も、もし良かったらなんだけど……手、繋ぐ……?」

 

「え、いいの?」

 

「トレーナーさんが良ければね!? 全然嫌だったらいいんだけど……」

 

 そしてこういう時に鈍いあんちくしょうはデリカシーの欠片もない様子でネイチャの手を取った。

 

 

「いや~俺って基本寒がりだから手袋常備なんだよ。なのに新年早々忘れるからおみくじで変なの出ても仕方なかったのかもな。そんな訳でありがたくその手を拝借させてもらうわ」

 

「……ッ」

 

 手を繋ぐ。

 割とありふれた行動の一つ。しかし、それを特別な意味で捉える事もある。

 

 ネイチャは先ほどのおみくじ、その内にあった恋愛の部分を思い出す。

 

 

『意外とすぐに接近できる。ぐっと近づいちゃえよユー』

 

 

 あんなにもふざけた文面だったのにも関わらずだ。

 

 

(もしかして案外当たってる……!?)

 

 

 

 

 意外とすぐに接近できた事に驚きを隠せないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、この感情はトレーナーに気取られる訳にはいかない。

 手袋をしていて良かったと心の底から思う。

 

 

 

 

 そうでなければ、きっと体温が伝わっていただろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、一度目の初詣でした。
一度目なので軽めです。微妙な距離感なので逆に難しい……。



では、今回高評価を入れてくださった


猫の手もかりたいぬさん、味の染みない染みこんにゃくさん、エパルレスタットさん、陽炎@暇人さん、ゆずポンズさん、天内玲音さん、ロクでなしの神さん、Ruinさん、まいせんpammさん、みんなまさん


以上の方々から高評価を頂きました。
毎回たくさんの方々から頂ける嬉しさったらありません。本当にありがとうございます!!




【宣伝】

明日5月22日(土)の21時より、『十五夜にプロポーズでも』という作品を執筆なされている知り合いであるちゃん丸さん主催企画小説『ウマ娘プリティーダービー〜企画短編集〜』が毎日一話ずつ9日間投稿されます。
お誘いいただいだ時は驚きましたが、ネイチャとは違うキャラで一話完結の話を書くので、もしよろしければ皆様も是非読んでいただけると幸いです!

9日間という事は、他にも現在ウマ娘小説を書いている方や別作品を書いていたけどウマ娘が好きな方々が書く短編集なので、自分も密かに楽しみにさせていただいております。
自分の出番は23日(日)なので二番目です!よろしくお願いいたします!
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