お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話   作:たーぼ

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15.若駒ステークス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず最初に言っておく」

 

 

 

 京都レース場。

 その控え室でトレーナー、渡辺輝はこう言った。

 

 

「テイオーを意識しすぎるな」

 

「え?」

 

 思わず椅子で座りながら聞いていたナイスネイチャも声を上げる。

 これまでにしてきた練習、このレースで勝つための指標にしていた目的をいきなり無に帰そうとしたのだから。

 

 しかしここで訂正が入る。

 

 

「と言ってもまったくするなって事じゃない。当然テイオーはこのレースでも1番人気だ。実力もあるし分かってた事だから多少の意識はしておくべきだろう。だけど、テイオーだけを見てると確実に足をすくわれちまう」

 

 テイオーだけが強敵ではない、と言いたいのだろう。

 もちろんその事はネイチャだってよく分かっている。テイオーがいる時点で主人公枠は奪われているようなものだ。

 

 1番人気のテイオーと違い、ネイチャは5番人気だった。もはや3番ですらない。きっと相手にもされないと思えてしまうほどの差だ。

 そしてそういう意味で言うと2番人気と3番人気、4番人気のウマ娘がいる。自分よりも上で、過去のレースでも良い結果を残したのだろう。

 

 こういう風にレースの格式は上がっていき、その分勝つ事もだんだん難しくなっていく。

 それがレースなのだと思い知る。

 

 

「ま、やっぱそんな簡単にはいきませんよね~」

 

「ただ」

 

「……ただ?」

 

「強いウマ娘に勝つためには相手の隙を突く事も大事だ。今回はそこを狙えるかもしれない」

 

 出バ表を見ながらトレーナーは続ける。

 

 

「良くも悪くもネイチャは9人いる中で5番人気だ。他のウマ娘からも絶妙に注目されてないレベルだな」

 

「え、今回はトレーナーさんがディスってくる番?」

 

「ちげえよ。……え? 今回はって今までディスってきてたのもしかして自覚してた? ……いや今はそうじゃなくて、5()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「利用って、そんな事できるの?」

 

「テイオー以外のウマ娘達には通用するかもしれん。全員に効くかは定かではないけどな」

 

 ネイチャにも同じ出バ表を渡す。

 テイオーと自分、他にも合わせて9人の名前が書いてある。

 

 

「レースでの人気ってのは結構重要でな。それによって誰が強いのか、誰が期待されているか、誰が掲示板に入り込んでくるかって感じで如実に表れるんだよ」

 

「うんうん」

 

「つまりだ。そんな重要なモンを相手のトレーナーやウマ娘が調べないはずがないだろ? だから事前に人気のあるウマ娘がどういう風な走りやスパートのタイミング、位置取りをしてくるかってのは割と研究されてるもんなんだ。そういう意味ではトウカイテイオー、あいつの圧倒的な人気っぷりはそれが出すぎてて他のウマ娘達は大概そっちの対策で手一杯だろうさ」

 

「はえー、何番人気っての、そういう見方もあるんだ」

 

「あくまで俺ら(トレーナー側)の見方だけどな。観客は純粋な好みとかで人気を選んでるだろうよ」

 

 ウマ娘を育成するプロにとって、レースでの勝ち方や分析は出来る限り細かくしなければならない。

 鍛えるだけが、勉強するだけが、研究するだけがトレーナーの仕事ではないのだ。

 

 視野を広く持て。相手との差を見極めろ。そして劣っているならば差を詰めるだけの作戦や実力を底まで出し尽くせ。

 トレーナーに出来る事は決してウマ娘を勝たせるだけではない。いかに担当ウマ娘の緊張を解して走りやすくさせるか、レースですら楽しく走り切らせる事が出来るかだ。

 

 トレーナーはとにかく、と付け加えて、

 

 

「5番人気ってのは実にちょうど良い。2番3番でもなくちょうど真ん中。圧倒的な1番人気がいるおかげでレース前から調べてた限りではみんなテイオー対策しかしてない。これならチャンスは必ずどこかにある。掲示板に入り込めるチャンスがだ」

 

「アタシ達もテイオー対策しかしてないんですけど。それって大丈夫なの?」

 

「実際俺は何度もこっそりテイオーの偵察をしに行った。勝つためのレースをさせるために。……けど、その分何度も思い知らされたよ。ネイチャなら分かるだろ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って」

 

「……まあ、だね」

 

 あれだけテイオーに勝つための練習だと息巻いていたのにも関わらずだ。

 見れば見るほど次元が違うと思えてしまう。ウマ娘を育成するプロのトレーナーだからこそ余計に、その強さが本物だと分かってしまうのだ。

 

 それをネイチャは理解している。何なら最初から。

 キラキラ主人公は元より自分とは違う次元にいる。こんなモブとは違うのだと知っている。実力の差は歴然。

 

 それを踏まえた上で、だ。

 

 

()()()()()()()()()()()()()。もちろん今日も勝てそうなら全然狙いにいっても良い。けどそれはあくまで第二の目標だ。今回の第一の目標は、掲示板に入る事。最低5着、出来れば2着を狙いたい」

 

「それもアタシからすれば結構難しい目標だと思うんですが……」

 

「大丈夫だ。テイオー以外のウマ娘は突出した部分が特に見受けられなかった。実力もネイチャとさほど変わらないとみていい。そこで5番人気だ」

 

「……そこで?」

 

「ああ。絶妙に誰からも警戒されてないって事は、その分自由に動けるって事にもなる。考えてもみろ。怖くないか? 一番強いとされているテイオーを狙ってたらまったく気に留めてもいなかったウマ娘にいきなりぶち抜かれるなんて」

 

「……言われてみればそう、かも?」

 

 レースに絶対はない。だからテイオーが狙われるのなら彼女がバ群に呑まれて思うようなレースができない可能性も万一にあるかもしれない。あくまで万一だが。

 それでも、そこに少しでもチャンスがあるのなら狙うべきだ。何百通りもある勝ち筋から最善のルートを選ぶしかない。

 

 

「もちろんテイオー以外をちゃんと警戒しているウマ娘もいるかもしれない。自分はヤツに釣られないぞって感じでな。だがそれはネイチャも同じだ。テイオーを意識しすぎない事で視野を広げられれば一気に掲示板に入れる確率は上がる」

 

「ん~、まあやるだけやってみるけど、あんま期待はしないでよ? ネイチャさんはそんなに器用でもないんでね~」

 

「そう言いながらも頑張ってくれるお前の姿に期待するよ」

 

 レース前の軽口。緊張を解す手段としても行われるいつものルーティーンだ。

 時計を見るともうパドックが始まろうとしていた。ここからは2人ではなく1人の時間になる。

 

 最後に、部屋を出ようとしたトレーナーは振り返って言った。

 

 

「走る事を楽しんでこいよ」

 

「そんだけの余裕があったらね」

 

 即答で返す。

 ガチャリと、ドアの閉まる音を聞いてから微笑むネイチャ。

 

 勝敗に関わらず、ただウマ娘の本能として走る事を楽しめと言ってくれるのは彼の優しさだろう。

 スマホのホーム画面。自分と不器用な笑顔のトレーナーを見る。いい加減、画面を開く度に口角が上がってしまうのをどうにかしないといけない。

 

 

「さて、行きますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パドックも終わりいよいよゲート前。

 観客のいるレースも慣れリラックスしている所に声をかけられた。

 

 

「ネイチャー!」

 

「テイオー」

 

 1番人気のトウカイテイオーだ。

 

 

「レース場では久しぶりだね!」

 

「教室では毎日会ってるけどね。てかどうしたの? アタシに用でもあった?」

 

 友人だからわざわざ声をかけてきたのかは怪しいところだ。

 教室では友達でもレース場ではライバルである。そんな自分に声をかける理由は、牽制か? 

 

 

「え? 特にないよ。ネイチャがいたから喋りたかっただけ!」

 

「ああ、さいですか……」

 

 深読みもいいとこだった。むしろ少し警戒していた自分が申し訳なくなるレベルだ。

 軽い挨拶だけしようとしていたのか、テイオーはそのまま自分のゲートへ向かっていく。

 

 その直前、1番人気がこちらに振り向いた。

 

 

()()()()()()()()()()()!」

 

「ッ」

 

 何故。そんな質問をする前にテイオーはゲートへ入った。

 わざわざこんな自分にそんなセリフを言う必要もないのにだ。

 

 ただ、ほんの少しでも彼女はネイチャを意識している、という事なのだろうか。

 真意は分からない。これが相手の作戦の可能性もある。しかし考えても時間は待ってくれない。仕方なくネイチャもゲートへ入る。

 

 観覧席から見ていたトレーナーもそれを目撃していた。

 

 

(テイオーがネイチャに向かって何か言ってた……? まるで宣戦布告みたいな感じだったけど、もしかして1番人気がそう言った事で他のウマ娘達の意識がネイチャにも向くって事か? いいや、テイオーはそんな器用な事はしない。となると……)

 

 考えられる結論は一つだ。

 

 

「滝野さんかッ!」

 

 ゲートが開かれた。

 

 

 

 

 

 京都レース場。オープン戦。

 芝、良。距離、2000m。天候、晴れ。右・内回り。

 

 

 

 

(よし、良いスタートは切れたっ。まずは他の子達を様子見しながら良いポジションを見付ける……!)

 

 出遅れにもならず冷静なままネイチャは第一コーナーを目指す。

 先頭にいるのが1人、先行集団は5人、そしてネイチャのいる場所はその後ろ。

 

 前の集団を見ながら終盤で仕掛ける作戦だ。

 トレーナーの言っていた通り、他のウマ娘達はテイオーを狙う事を考えているのか、ネイチャをブロックしてくる者はいない。これなら前方を常に確認しながら位置取りも楽にできる。

 

 

(………………あ、れ?)

 

 だから、気付いた。

 いいや、気付いてしまった。

 

 違和感。それがネイチャの心を徐々に支配していく。

 ネイチャがいるのは後方だ。自分を含め9人しか走っていないこのレース。前で確認できるのは6人。自分を合わせると7人だ。

 

 出場者の大半が前にいるのは分かっている。

 だから、なのに。

 

 

(テイオーは……どこ!?)

 

 前を走っているウマ娘達がネイチャをブロックしてこない()()()()()()()()()()、テイオーを狙っているからではない。

 その逆だ。

 

 狙うはずの獲物が、どこにもいなかった。先頭でも、先行集団の中にも紛れていない。ターゲットがいなければ、そもそもそれを基に練っていた作戦はご破算となる。

 強者を相手にしなくちゃいけないのに、そいつがいなければそのために用意していた武器も無意味になるのと同じように。

 

 全員が動揺していた。

 レースの序盤からこの時のために練っていた手段を奪われた。一瞬の判断がミスに繋がるこのレースで、それは命取りになってしまう。

 

 そして。

 全員がくまなく探している本命は果たしてどこにいるのか。

 

 

(……ッ!?)

 

 ゾワリと、だ。

 第二コーナーに差し掛かったネイチャが悪寒を感じた。

 

 普通に考えたらその結論に至るのは必然なのに、脳が、固定観念が、それを勝手に可能性の引き出しから閉じ込めていた。

 トウカイテイオー。8人のウマ娘達を欺いた彼女は、確かにいた。

 

 

(何で、そんなとこに……!?)

 

 ナイスネイチャのすぐ斜め後ろに。

 

 

 

 思わず席を立ったのは渡辺輝だ。

 第二コーナーが終わり前半の直線に入ったところで、彼は信じられないようなものを見る目をしていた。

 

 

(バカな……あんな後ろにいるって事は、先行じゃなくて差してくるつもりか!? テイオーの走りは後方からの差しに向いてないはず……! いくら狙われるからといってもそんなに後ろじゃ……ッ、いいや、まさか……)

 

 憶測は仮説に変わり、レースの状況を見てどんどん確信へと変わっていく。

 テイオーは誰の後ろに付いているか、会話が聞こえなかったせいで不確定だがレース直前にテイオーは宣戦布告のようなものをしていたはずだ。

 

 つまり。

 

 

(狙いは……ネイチャか!?)

 

 

 

 

 渡辺輝とは離れた観覧席。

 トウカイテイオーのトレーナー、滝野勝司は冷静にレースを見ていた。

 

 

(他のウマ娘達には悪いがあれじゃテイオーの脅威にはならない。確かにあいつは先行から一気に駆け抜けるのが得意だ。いずれ重賞レースに出る際は差しだと通じないだろう)

 

 なのにあえて今回は後方からのスタートをさせた。

 理由は簡単だ。

 

 

(けどテイオーの柔軟な脚とセンスがあれば、()()()()()()()()()()()()()()()()。警戒されてるのだってバレバレなんだよ)

 

 トウカイテイオーは同期のウマ娘よりもレースセンスがずば抜けている。

 あのシンボリルドルフを目標にしているだけの事はあるだろう。並大抵のレースじゃ負けない自負すらある。

 

 とすれば。

 

 

(一番警戒すべきはナイスネイチャだ。輝が担当してるだけあってあの中じゃ群を抜いて成長している。唯一テイオーが負ける可能性として考えられるのはあの子の末脚と輝の入れ知恵、といったところか。だから、()()()()()()()()()()

 

 これはレースだ。紛れもない勝負だ。

 勝ち負けが存在する以上、負ける可能性は一つ残らず潰しておくのが定石。

 

 

(輝の事だ。テイオーの練習をいつも偵察しに来てたのくらいは知ってた。だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 テイオーが注目されているなら必ず誰かが偵察に来るのは分かっていた。ならば表では普段の練習風景を見せ、真冬の砂浜など誰も見ないような場所で本命の練習をさせる。

 まさに対策をさせないための対策。その術中に全員が嵌った。

 

 

(テイオーにはナイスネイチャを軸に全員を揺さぶっていく作戦を伝えたが、上手くいったようだな。これで万が一の可能性は減らせる)

 

 渡辺輝の、いわば師匠のような存在。

 それが滝野勝司だ。担当したウマ娘達は数々のレースに勝ち、何度も重賞を制覇している。そんなベテラントレーナーを相手に。

 

 まだ新人の渡辺輝が勝てるはずもなかった。

 観客を含め走っているウマ娘達にも動揺が走る中、レースは第三コーナーへ入る。

 

 

 

 

(ずっとアタシの斜め後ろ……ギリギリ視界に入るレベルでぴったりマークされてる……ッ!)

 

 そのギリギリが、ネイチャの思考を鈍らせる。

 いつ仕掛けてくるかも分かりづらい。かと言ってこっちが仕掛けようとすると大外に行かせないようにしてくるはずだ。

 

 ただでさえスパートをかけるのにはタイミングと位置取りが重要なのに、その二つを見事に封殺されている。

 こちらはコンマ一秒でも遅れたら致命的なのにも関わらず、テイオーにとってはそれすらも巻き返せるとでも言うのか。

 

 だとしたら本当にまずい。

 前を走っているウマ娘達はテイオーがまだ来ないならと最後のスパートを仕掛けようとしている者もいれば、既に仕掛けだした者もいる。

 

 

(テイオーを意識したらダメなのに……これじゃ、意識するなって方が無理だっての……!)

 

 第四コーナー、またの名を最終コーナー。

 レースが動こうとしていた。

 

 

 

 

(他のウマ娘達が一斉に仕掛けた。……けど、()()()()

 

 スパートを仕掛けるなら最終コーナーの最後か最終直線が基本だ。

 なのに、まだ最終コーナーに入ったばかりでスパートをかけたウマ娘が多すぎる。

 

 渡辺輝から見てこの状況を例えるなら、完全にテイオーの掌の上で踊らされている。

 いつ来るか分からないテイオーの加速に焦っているのだ。もたもたしている間に抜かれるなら、いっそ抜かれないレベルまで引きはがしてしまえばいいと。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そしてネイチャにとっても良くない展開だ。完全に他のウマ娘達からテイオーの囮扱いをされている。まるで私達のためにテイオーを食い止めていろと言わんばかりだ。このままじゃ確実に負けてしまう。掲示板にすら入れない可能性も高い。

 

 もはやこのレースはテイオーが支配している。

 テイオーに押される形でネイチャがペースを上げ、それに釣られるように前の集団も強引にペースを上げられスタミナの消耗も激しくなっていた。

 

 その上でこの早すぎるスパートだ。おそらく他のウマ娘達のスタミナは最後まで持たない。

 どこかで必ず減速し、そこをテイオーに抜かれる事になるだろう。

 

 そこまで想定して。

 

 

(……いや、待て)

 

 渡辺輝はネイチャを見た。

 確かにネイチャは先頭集団と離されている。本来なら追いつけるかも怪しいところだ。

 

 だが、それはウマ娘達がいつもの場所でスパートをかけた場合だ。テイオーによって焦って早く仕掛けたのなら、減速は必ずある。

 対して、離されているネイチャはまだ仕掛けていない。正確にはテイオーのせいで仕掛けられないと言った方が正しいか。

 

 まずい状況なのには変わらないが、スパートをかけていない今ならまだネイチャはスタミナが残っているはずだ。

 あとはテイオーがどこで加速するのかが問題ではあるが、懸けるならもうそこしかない。

 

 

(頼むぞ、ネイチャ……)

 

 

 

 先頭のウマ娘が最終直線に入った時だった。

 本命が、動き出す。

 

 

「さーて、行くよおッ!!」

 

「ッ!」

 

 突如、トウカイテイオーが背後から消えた。

 否、気付けば前に進んでいた。

 

 綺麗に大外から角度を気にせず突き進んでいく。

 そして、その時を待っていたのはネイチャも同じだった。

 

 

(ようやく外が開いた。こうなったらもうヤケだって逆にテイオーを意識しまくって仕掛けるのを待ってたけど、続くなら今ッ!)

 

 テイオーがいなくなった事で、ネイチャを封殺していたものは無くなった。

 それにより鍛え上げてきたご自慢の武器を解放する。

 

 ダンッ!! と。

 以前より遥かに大きい衝撃音がした。

 

 既に致命的な距離の差があるかもしれない。万が一の可能性すら潰されているのかもしれない。

 だけど、ネイチャはテイオーの後を続く。出来る限り続いてみせる。

 

 

(くッ……!)

 

 やはりペースを乱されていたのか、予想以上にスタミナを持っていかれていたらしい。

 だがそれは他のウマ娘も一緒だ。現に、もうスタミナ切れを起こして速度が落ちている者が複数いた。

 

 それでもその者達に比べればネイチャは体力温存できた方だろう。

 脚はまだ残っている。後はもっと前との距離を詰めて追い抜く事が出来れば上々だ。

 

 ネイチャが徐々に他のウマ娘達を抜いていくのに対し、テイオーはもの凄い勢いで抜いていっている。

 追い付くのは到底不可能だと察したネイチャは即座に切り替えた。

 

 

(テイオーはもう先頭を抜いて一番前にいる……。今回の作戦はとにかく掲示板に入る事。だから無理に追いつこうとしなくてもいいんだ)

 

 今更、トレーナーが言っていた意味を理解した。

 1着を取れなくても構わない。掲示板に入る事が出来れば今回はとりあえずそれでいい。

 

 常に1着を夢見るウマ娘にとってそれは作戦だとしても悪い例かもしれない。

 しかし、今回はそれが功を奏した。

 

 おかげでレース終盤、テイオーからのプレッシャーも消えたネイチャは冷静さを取り戻せたのだ。

 1着を取れるのは奇跡が起きない限りたった1人。そしてそれはもう決定している。

 

 なら狙うのはその次か次でもいい。今回に限ってだけ言えば、掲示板に入ればネイチャの目標は達成される。

 テイオーのペースに惑わされるな。失った失態はここで全部取り戻せ。誰からも注目されていない5番人気の底力を見せろ。

 

 

(残りおよそ100m。残った体力の全部を使い切るッ!!)

 

 ネイチャの位置は4番目ほど。だがすぐ前のウマ娘はもうスタミナを使い切ったのかバテている様子だ。

 これならいける。まだ加速しているネイチャは前のウマ娘を抜いて3番手に躍り出た。

 

 

(……けど、さすがにあれは……無理、かも……!)

 

 テイオーとの距離はもうどれほど離れているかすら分からない。

 そして2番手にいるウマ娘とは4バ身もの差がある。ゴールは目前。これ以上の差を詰める余裕は、なかった。

 

 

 

 

 

 

 京都レース。

 オープン戦──―ナイスネイチャ、3着。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 終わってみれば、圧倒的だった。

 適正ではない作戦をしていたテイオーが圧勝し、まんまと嵌められた上に2着ではなく3着。

 

 やはりギリギリまで抑えられていたのが痛かったのだと控え室に向かいながら思うネイチャ。

 けれどテイオーはあそこから1着まで上り詰めた。得意な先行ですらなかったのに。それでも勝てるレースなのだと思い知らされた。

 

 

(やっぱ強いなあ。キラキラ主人公は)

 

『チーム・アークトゥルス』は『チーム・スピカ』に大敗を喫した。

 負けると分かっていても、今回は負けて良いと分かっていても、だ。やはり悔しいものは悔しい。

 

 ウマ娘なのだから勝ちたいと思うのは当然だ。勝てる可能性があるのならそれに喰らい付きたいと思うのは必然だ。

 しかし、今回はどうあがいても勝てるビジョンが見えなかった。だからトレーナーもそれを踏まえた上で今日のような目標を提示してきたのだろう。

 

 苦笑が出る。

 自分の控え室のドアノブを引いて開けると、先客がいた。

 

 

「……トレーナーさん?」

 

「おう、おかえり」

 

 椅子に座ったままトレーナーが振り返る。

 まあ、レースが終わった直後ならいて当然かと思い近づく。

 

 口から出る言葉は当たり前のようにレースの事だった。

 

 

「ったくもー、テイオー強すぎでしょ。最初から最後まで思うようなレース出来なかったし、まさかアタシが最後までマークされるなんて思ってなかったわ~」

 

 トレーナーですら呆気に取られた相手の作戦だ。

 実際走っていたネイチャはもっと動揺していたのだろう。

 

 

「……ごめんね、トレーナーさん。一応は頑張ったんだけど、2着になれなかったや」

 

 ネイチャは申し訳なさそうに笑う。

 それを見て、トレーナーは静かに立ち上がった。

 

 そしてネイチャに近づき両手を肩に置いた。

 突然の事にビクンッと体が跳ねる。何を言われるかも分からない状況でネイチャが何か言おうとした瞬間。

 

 

「あ、あの~、トレ──、」

 

「すげえよネイチャ!!」

 

「……はい?」

 

 まさにもう興奮した状態のトレーナーの顔が目の前にあった。

 

 

「序盤からギリギリまでテイオーに抑えられてたのに、最後にほとんどのウマ娘をぶち抜いて3着だぞ!? 俺も差しで来られた時は完全にやられたって思ってたけど、そこから諦めずによく最後まで走り切ってくれたなあ! 並のウマ娘ならあそこから掲示板に入るのはほぼ無理のはずなのにだ。ネイチャは5着どころか3着。しかも2着は2番人気のウマ娘だし仕方なかったで済ましていいレベルなんだよ。それだけ追い詰められてたんだからな。それを……ああ、さっきの終盤を思い出しただけでまた叫びたくなっちまう!」

 

 何か早口オタクみたいに饒舌になっている。

 ネイチャにはどういう事なのかさっぱりだ。表情を見る限りどうやら本当にテンションが上がっているらしい。

 

 

「そ、そんなに言われるほどだったっけ……?」

 

 謙遜、というよりは普通に本心からの言葉だった。

 だからこそトレーナーは一瞬ポカンとした顔になる。大きくそれを否定するように、

 

 

「何言ってんだ? ()()()()()()()()()()()3()()()()()()()()()()()()()()

 

「え?」

 

「テイオーは完全にネイチャを負かすつもりでマークしてた。それも徹底的にな。どうあがいても掲示板に入る事すら出来ない可能性の方が高かったんだ。それを見事に覆した。それだけで今日のレースは俺達にとって想定通り……いいや、想定以上の収穫があったんだよ。ネイチャ、()()()()()()()()()()()()()()()。俺が断言するよ」

 

「こんな、アタシが……?」

 

「ああ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 言われて、少し納得した。

 警戒しない相手をわざわざマークしない。警戒しているからこそ、狙われるのだ。だから他のウマ娘達はテイオーを狙っていた。

 

 つまりは、そういう事だった。

 

 

「思った以上に向こうはネイチャを警戒してたらしい。どうだ、『あの』テイオーから意識されてるかもしれないんだぜ。そんだけ成長できてるっつう証拠だろ」

 

(……そう、なんだ。アタシ、ちゃんと強くなれてるんだ……)

 

 実感する。

 目の前で笑ってくれているトレーナーのおかげで、ここまで力がついたのだと。

 

 自分がそんなにと思っていた今日の結果は、トレーナーが喜んでくれるほどの成果だった。

 それが分かった途端、何だか体中の力が抜けるようだった。

 

 

「おっと、大丈夫か? 最後あんだけ追い込んだんだもんな。疲れて当然か」

 

 支えてくれたトレーナーの腕を掴む。

 

 

「うん、大丈夫。まだウイニングライブもあるしね」

 

「それもそうか。なら、しっかり応援してくれた人達に応えないとな」

 

 3着という結果になった今回のレース。

 しかしそれはしっかりと収穫のあったものだ。これからもっと前に進むための布石となる。

 

 今はまずウイニングライブだ。

 レースだけが全てではない。3着になったのならウイニングライブをしっかり終えてこそのレースだ。

 

 

「と、そうだ」

 

「?」

 

 思い出したようにトレーナーは部屋から出ようとして止まる。

 そのままネイチャの目の前まで来て、その手をそっと頭の上に置いた。

 

 

「今日もよく頑張ったな、ネイチャ」

 

 1着を取れなかったのに何故そのような笑顔を向けてくれるのか、何故勝てなかったのに撫でてくれるのかなど、そんな些細な事はもはやどうでも良かった。

 形容しがたい心地良さがネイチャの心を優しく覆う。

 

 それだけで、トレーナーの言葉を素直に受け取れるくらいには表情も綻んでいた。

 トレーナーの笑顔に応えるように、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うんっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネイチャは柔らかい笑みでそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、という事で予想以上に長くなった若駒ステークスでした。
この作品では一番文字数多くなりましたね。
史実とはレース内容は違いますが、着順はそのままです。


可愛いネイチャも好きですが、レースで必死な顔になるかっこいいネイチャも大好きです。
レース描写に気合い入れたのは、最近買ったシンデレラグレイを一気読みした影響かもしれません。面白すぎる……。



では、今回高評価を入れてくださった


チーフなっちゃんさん、Tenntiyoさん、風の魔法使いさん、なか丸さん、ソロランナーさん、うめたんさん、ヤング信者さん、エパルレスタットさん、Komimiさん、ユキルカさん、躬月さん、島人さん


以上の方々から高評価を頂きました。
様々なコメントを頂いております。まだまだいじらしい距離感の2人ではありますが、どうか見守ってやってください。
本当にありがとうございます!


【宣伝】

現在、5月22日(土)の21時より、『十五夜にプロポーズでも』という作品を執筆なされているちゃん丸さん主催企画小説『ウマ娘プリティーダービー〜企画短編集〜』が毎日一話ずつ9日間に亘って投稿されております。

自分のは既に投稿されたので、もしよろしければそちらの方も読んでくださるととても嬉しいです。
アニメ版ネイチャのチームのあの子を書かせていただきました。あちらの作品の方でもご感想お待ちしております!

他にも現在ウマ娘小説を書いている方や別作品を書いていたけどウマ娘が好きな方々が書く短編集なので、皆様ももしかしたら読んだ事のある作品の作者様がいらっしゃるかもしれません。
それも含めて一緒に楽しみましょう!!




特に関係ないですけどゾンビランドサガ面白すぎません?
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