お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話   作:たーぼ

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16.ケガの功名(前編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 若駒ステークスも終わり、ネイチャはいつも通りトレセン学園で走行トレーニングをしていた。

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

「3分休憩したらまた走るぞー。次はウマ娘だと遅く感じるかもしれんが、人間並みのスピードでダッシュしながらフォームを意識して走ってもらう」

 

「はーいよー。ドリンクドリンクっとぉ」

 

 タオルで軽く汗を拭きスポーツドリンクを取って口に含む。

 その間、トレーナーはネイチャの改善点やこれからの課題を分析しメモに書いている。

 

 疲れた体に冷たいドリンクが体内を通っていくのを感じながらネイチャはトレーナーに話しかけた。

 

 

「そういえば次のレースって決まったの?」

 

「いや、そこんとこはまだ決めてない。やるにしても夏辺りになるだろうな」

 

「ありゃ、結構期間空くんだね」

 

「まあその間にじっくり鍛えるのも悪かないだろ。着実に強くなってるのはこの前のレースで分かった事だし。いきなり短期間でレース出まくるのも気が張りつめて疲れちまうからな。のんびり気ままにやろうぜ」

 

「そんなもんですかね~」

 

 トレーナーがそんな事言っていていいのかと思わなくもないが、実際成長を感じているのはネイチャも実感している。

『あの』テイオーが自分をマークしてくるなんて絶対にないとネイチャは思っていたのにだ。

 

 まだまだ到底届かない相手だというのは理解している。何せ自分はそこら辺にいるモブのようなもので、テイオーはまさにキラキラしている主人公だ。

 次元が違う。しかしこのトレーナーに着いて行けばいつかは、という思いもある。

 

 こんな自分が、なんていつもの卑屈思考も出てくるが少しは自信を持ってもいいのだろうと思えてきた。

 水分補給も取り、息も整ってきたとこで練習を再開する。

 

 

「態勢低めのフォームのまま一周してみてくれ」

 

「了解デース」

 

 低めの態勢で先ほど言われた通り、『人間』並のスピードに合わせて走る。

 ウマ娘からすれば遅いが、常にフォームを意識しながら走るという点においてはピッタリのトレーニングだ。

 

 全速力ではなくいつもより遥かに遅い。

 だからフォームを意識しながらもその余裕からネイチャの思考は他所へと飛んだ。

 

 

(もしあのレースの時、テイオーがアタシをマークしなくて普通に走ってたらどうなってたんだろう。みんなテイオーを警戒してたから思い通りの走りは出来なかった? けど、『あの』テイオーだもん。きっと普通に走っててもみんなを掻い潜って1着になってたんだろうな)

 

 反省点、というよりかはもしもの振り返り。

 その先にあるのは揺るがないテイオーの勝利だった。ある種の憧れへの信頼。負けるはずないという絶対的王者の風格。

 

 

(やっぱりアタシが万全でも勝てるビジョンは見えないや。かぁ~、やっぱ強いわテイオー。主人公街道まっしぐらってね~)

 

 トレーニング中。特に走っている最中によそ見は禁物だ。

 慣れていると油断が生まれ、その油断が事故を起こす。

 

 途端、走っていたネイチャの足がもつれた。

 

 

(ぁ、や、ばッ……!?)

 

 分かりやすく言えば、転倒した。

 それを見ていたトレーナーの反応も早かった。

 

 

「ッ、ネイチャ!!!!」

 

 練習用のレース場は本番の物と同様に広い。

 いちいちコースに従って回る必要はない。そのまま真ん中を突っ切ってネイチャの方へ全力で駆けていく。

 

 着いた頃にはネイチャは起き上がって座っていた。

 

 

「いつつ……」

 

「大丈夫かネイチャ!?」

 

「あーうん……ごめん、ちょっと考え事しながら走ってたらやっちゃったわ……」

 

「んなのどうだっていい。ケガは? どこが痛む!?」

 

 ネイチャの返答を待ちもせず視線を足へ向けると、彼女は足首をさすっていた。

 

 

「……足首か」

 

「……ハイ」

 

 トレーナーはウマ娘を育成するプロだ。

 だからトレーナーライセンスを取得する際には最低限の医療知識などが必要とされる。トレーナーの判断は早かった。

 

 

「よし、保健室に行くぞ」

 

「え? ちょ、ひゃあっ!?」

 

 いわゆるお姫様抱っこだった。

 軽くネイチャを持ち上げたトレーナーはそのままグラウンドを突っ切って歩いていく。

 

 もちろん戸惑っているのはケガをしているはずのネイチャだ。

 既に顔は自分の髪色のように染まり、足首の痛みよりも困惑が感情を支配していた。

 

 

「ととととととトレーナーさん!? い、いったいなななにゃなな何を……!?」

 

「決まってんだろ。極力足首を刺激しないよう運ぶのにはこれが最適なんだ。歩きだから少し時間は掛かっちまうけど保健室まで我慢してくれ」

 

「そ、そういう問題とかじゃなくて、デスネ……!? 色々と視線を買ってしまうような気がしてならないんですけど!」

 

 ネイチャの気持ちとは裏腹にトレーナーは足を止めずに突き進んでいる。

 

 

「あん? こちとら担当ウマ娘の緊急事態なんだ。視線なんて気にするだけ無駄だっての。それとも何か? お姫様抱っこに憧れてたけど不本意なシチュエーションだから気に食わないとか?」

 

「アタシの性格知っててそんな事言ってる?」

 

「失礼しました」

 

 いきなり感情のないトーンで言われると普通におっかない。

 校舎内へ入る。そうなると必然的に生徒数も多くなってくるわけで。廊下を歩いてるだけで視線はこちらへ集中してきた。

 

 

「はーい通してー。うちの子がケガしちゃったんで通してくださーい。道開いてそうありがとねー」

 

「ちょっといちいち声に出さなくていいってば! 余計見られちゃってんじゃん!」

 

「ウマ娘にとってケガは下手すりゃ選手生命に係わる事だってある。こうする事で自分はケガしないようにって気を付けてくれりゃこちらとしてもありがたいし道は開けてくれるし一石二鳥だな」

 

「それでアタシを利用しないでよ! あーもう、明日から校内歩きにくくなっちゃうじゃん……」

 

 そう言いながらもお姫様抱っこをやめてくれと言わない辺り、トレーナーの気遣いを思っての事か。

 それとも何だかんだで悪くない気分なのか。

 

 

「どうだ、まだ痛むか?」

 

「あ、うん。ちょっとズキズキ来る感じかも」

 

「そうか」

 

 少し速度が上がった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 保健室。

 独特な匂いが漂う本来日常とはあまり関わりのない異質な空間。

 

 

 そこで保健室の先生が言った。

 

 

「軽い捻挫ですね。人間程度のスピードで走ってたのが不幸中の幸いだったようです。1~2日ほど安静にしてればいつもの練習をしても大丈夫ですよ。まさかお姫様抱っこで来るとは思ってませんでしたけど」

 

「それにはアタシも同感です……」

 

「ウマ娘を大事にするのがトレーナーの役目なんで」

 

 もはや捻挫より熱があるのかと疑うほど顔が赤かった。

 しかしそこは保健室の先生。中央にいるという時点でどれほどのウマ娘達を診てきたかなど言うまでもない。

 

 ネイチャの顔が赤いのは熱によるものではなく、もっと心の奥底にある何かから来ているのは明白だ。

 彼女がそれを自覚できているかはまた別問題ではあるが、そんな野暮な事を言うほど無粋ではない。

 

 

「とりあえず、少なくとも今日と明日はトレーニングをせずに普段通りの生活をしてね。軽い捻挫と言っても無理をしたら悪化しちゃう時もあるから」

 

「はーい」

 

「任せてください。その間のこいつのサポートは俺がするんで」

 

「……え?」

 

 聞き捨てならない言葉が聞こえた。

 

 

「あらあら、そうですか。ではトレーナーさんにお任せしましょうかね」

 

「え、ちょっと待って。トレーナーさんがアタシのサポートするってどゆこと?」

 

「そりゃお前、悪化しないように基本は俺がお前を担いだりするんだよ。当然だろ」

 

「いやいや当然じゃないって。それアタシ見せ物みたいになっちゃうやつじゃん。さっきよりも目立っちゃうじゃん!」

 

「何か問題あるっけ?」

 

 本気で言っているのかこいつと唸るネイチャ。大真面目な顔で頭の上に「?」が浮かんでいる。

 普通にビンタしてやりたいレベルだ。

 

 

「……ちなみにどんな時にサポートしてくれる訳?」

 

「授業が終われば教室行くし昼飯も食堂まで連れて行く。行きと帰りは当然送って行く」

 

「ほぼ全部ッ。ムリムリムリムリ耐えらんないってアタシ! クラスの連中に見られたらそれこそ無理!」

 

「んな事言われてもケガしてる担当ウマ娘をサポートするのは俺の役目だし。あとちょっと面白そうだし」

 

「いや最後本音出てんじゃん。はあ……トレーナーさんはアタシを何だと思ってんのさ」

 

「俺の大事なウマ娘」

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………はあ~」

 

 もはや出るのは溜め息だ。

 即答でこんな事を言ってくるのはやめてほしい。ネイチャの心臓が持たない。しかも人前でだ。

 

 

「……あーもう、ほんっとズルいわトレーナーさん……」

 

「質問に答えたのにヒドイ言われようだな」

 

 しかし、これで悪くない気持ちになってしまっているネイチャも大概であった。

 太ももに肘を置いて頬杖を付きながら口元を隠すが口角は少し上がっている。

 

 

「あーーーー分かった分かりましたよー。そこまで言うならサポートされてやりますわまったく!」

 

「おう、それでいいんだよ」

 

「その代わり、ちゃんと大事に扱ってくんないと治った後でいっぱい商店街の食品奢ってもらうから」

 

「いつでも奢ってやるわそんなん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、トレーナーのネイチャサポート期間が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





はい、またも前編です。
夏まで期間があるのでしばらくはまたラブコメさせたいです。



では、今回高評価を入れてくださった


bunnbetuさん、reichiさん、むっしゅさん、あXゆうさん、tqくまさん、オレンジラビットさん、まがつさん、おすぽーんさん、ロクでなしの神さん、ムカウさん、ユキニティーさん、三毛猫。さん


以上の方々から高評価を頂きました。
皆様のおかげで投票者数も200を超えました。これからもこの小説で少しでもネイチャを好きになってくれる方が増えると信じて頑張ります。
本当にありがとうございます!




ウェディングマヤノかわいい。
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