お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話 作:たーぼ
お気に入り登録ご感想高評価本当にありがとうございます。
「おっし、トレーニングは出来なくなったし今日はもう帰るだけだな。とりあえず帰り支度のためにトレーナー室行くか」
「一応聞くけど、どうやって?」
「さっきみたいにお姫──、」
「せめておんぶでッッッ!!」
保健室での一波乱があった。
「これはこれで何か恥ずかしいですけど……」
「そうは言ってもおんぶを所望したのはネイチャだろ。あんま文句を言いなさんな。ケガしたんだからしょうがないと思えば気にならないっしょ」
「気にしてるから言ったんだけどなあ」
廊下を歩きながら進む2人。
放課後という事もあり、ほとんどのウマ娘はトレーニングで外にいるとはいえ、それでもちらほらと教室や廊下に残っている生徒はいる。
トレーナーと契約していないウマ娘でも、座学の教師や契約済みのトレーナーとは違って教官と呼ばれる育成者の元で担当が決まるその日までトレーニングを行うのだ。
そのため今日はオフなのかな、なんて事を思いながらトレーナーはウマ娘達をチラリと見つつ自分のトレーナー室へ歩を進めていく。
「そういや保健室の先生、何か最後笑ってたな。何でだろ?」
「アタシ達の今の姿見たからじゃない? 結構一悶着もあったしね……」
「あれはお前が頑なに拒否するからだろ?」
「アタシはお姫様抱っこされて喜ぶお年頃じゃないっての! トレーナーさんが強引にしようとするからでしょ?」
「俺はお前のためを思ってだな?」
おんぶしている者とされている者がわーぎゃー廊下で騒いでいると、自然と視線が集まるのは必然である。
結論を言えば、保健室の先生が笑っているように見えたのは滑稽だったからではない。
微笑ましい、または初々しいとでも言うべきか。
とにかくまだまだ未成熟な想いを目の当たりにすると、人はそれを青春と呼びついつい口角が上がってしまうものだ。加えて自覚していない果実ほど甘酸っぱさは増して見ている者は悶える事もあるという。
「そうだ。着替えはどうすんだ? 自分で着替えられるか? 何だったらマーベラスかマヤノ辺りを呼んで手伝ってもらった方がいいんじゃね?」
「いちいち来てもらうのも悪いし今日は着替えずに寮まで戻ろうかな~ってオイ、まてまて待ちなさいな。何でマーベラスとマヤノの名前がすぐに出てくんのさ? てゆーか何で愛称で呼んでる訳~?」
「え? あー、あれだ。ネイチャのトレーナーだからって結構話しかけてくれるんだよ。その過程でUMAINも交換したぞ。てかスマホ奪われて勝手に登録されたけど」
「……ほーん?」
「何だ? どうかしあだだだだだっ。強いっ、ちょ、肩がっ、俺の肩が!」
何故か肩を掴んでいるネイチャの力が強くなった。ウマ娘の力でやられれば普通に痛すぎる。
決して肩が凝っている訳ではないと思いたい。
「ほらっ、トレーナー室着いたからさっさと支度するぞ」
「鞄に制服畳んで入れるだけでいいからトレーナーさんはアタシを椅子に座らせてくれるだけでいいよ。後は部屋から出てってね」
「え、何で? お前の制服畳むくらいは俺だって出来るぞ?」
「はいデリカシーポイントマイナス5ね。女の子の制服を畳む男の人とか世間的に危ないので却下でーす」
「デリカシーポイントって何だよ」
とはいえ現役女子学生にそんな事を言われたら迂闊な行動はできない。
ちょっとした善意がさじ加減一つで淘汰される時代だ。ここは素直に部屋を出ていった方がいいだろう。
(送迎するなら明日は車で行くか)
部屋の外。
いつもは徒歩で来ているが、ネイチャの事を考えると明日は車で寮まで迎えに行く必要がある。
ウマ娘のサポートをするのがトレーナーの仕事だ。
それも大事な担当なら余計に。出来る限り最大限ネイチャに尽くす事に何の疑問も抱かない。
「ネイチャー」
「なにー?」
「明日は車で迎えに行くからー」
「えっ!?」
部屋の中からドガシャンッ! と、机に手をぶつける音がした。
────────
翌日の朝から栗東寮前でちょっとした視線が集まっていた。
「ホントに寮まで来たの!?」
「昨日言ったじゃん車で迎えに行くって。ありがとなマーベラス、ネイチャをここまで連れてきてくれて」
「全然いいよ! こんなに思ってくれてるトレーナーがいるってすっごくハッピーだねネイチャ! まさにマーベラースだねっ!!」
「分かった。分かったからアンタは少し声のボリュームを下げなさい。朝っぱらから元気溌剌かっ」
「おーい、早く乗ってくれネイチャ。一応寮の前に車止めてるの目立つんだからなー」
ぞろぞろと寮から出てくるウマ娘達が何事かとこちらを見ている。
それはネイチャとしても好ましくない。マーベラスとトレーナーの手を借りて助手席の方へ座らせてもらう。
「どうせならマーベラスも一緒に乗ってくか?」
「アタシはだーいじょーぶ! お二人の邪魔はしないから安心してねネイチャ!」
「余計な事は言わなくていいから! ほらトレーナーさん、さっさと車出して」
「お、おう」
急かされたトレーナーはそのまま車を出してトレセン学園へ向かう。
とは言ってもただでさえ寮から学園までは割と近い。車で向かえばものの5分程度で着くレベルだ。
その道中。
こんな会話があった。
「トレーナーさんていつも徒歩なの?」
「そうだぞ。家からトレセン学園まで近いとこに引っ越したからな。ギリギリまで寝ときたいって理由だけで学園から徒歩7分程度で着く家にしたんだ」
「理由が不純ですな~。まあトレーナーさんらしいけど」
そんな事よりもネイチャとしては良い情報をゲットした。
(トレーナーさんの家……学園から近いんだ。じゃあ寮からも近いって事だよね……ふむふむ)
これは後々役に立ちそうだと思いつつ前を見ているとすぐにトレセン学園が見えてきた。
貴重なトレーナーとのドライブはほぼすぐに終わりを告げた。
しかし本番はこれからだ。
「さて、ネイチャを教室までおぶっていきますか」
「うあーッ!! そうだった、この地獄の時間が待ってたんだったー!!」
「はよおぶされい。今日は一日中俺が傍にいると思ってくれていいからな。あ、もちろん授業中は外にいるけど。でもあれか、授業中にトイおうわっ!?」
「ハイさっさと教室行く!!」
勢いよく乗ってきたネイチャのせいでバランスを崩しかけた。
多分またデリカシーポイントはマイナスになっただろう。
教室に行くまでの視線と着いてからの視線はもう諦めるしかなかった。
次が移動教室だと授業が終わればトレーナーが教室内に入ってきてそそくさとネイチャを担いできた。
「次は移動教室だな。行くぞネイチャ」
「待った待った! まだ休憩時間あるからいいってば! あと5分したらまたお願いしますんで!」
「……ふむ、それもそうだな。早く行っても暇なだけだし。んじゃ廊下で待機しとくわ」
注目を集めているにも関わらず平然と教室を出ていくトレーナーを見て口を開いたのは、ネイチャではなく後ろの席に座っていたトウカイテイオーだ。
「朝の時もそうだったけど、ネイチャのトレーナーは何をしてるの? 執事ごっこ?」
「アタシが捻挫したからそのサポートだーって言って車の送迎から歩かなきゃいけない場所にはおんぶしてくれるのよ。……相当ハズいからあんましお願いしたくはないんだけどね……」
「へ~……ボクのとこのトレーナーもそうだけど、やっぱネイチャのトレーナーも結構変なんだね」
「返す言葉もありませんよ」
言い返せる要素が一つもなかった。
何なら同意しかない。軽い捻挫でここまでやるトレーナーは果たしてどれだけいるのかと問いたいぐらいだ。
廊下を見れば待機してたはずのトレーナーが偶然見かけたであろうマヤノトップガンと雑談していた。
(むっ)
一瞬の胸騒ぎ。羞恥は消え新しく芽生えた感情は若干の苛立ち。
常に傍にいると言っていたのに自分から目を離して他のウマ娘と談笑するのはどういう事なのか。
詰め寄りたい気持ちを自覚したネイチャは自分を面倒くさいヤツだと分かりきった上で他の手段をとった。
「トレーナーさーん! 次移動教室だから至急お願いしてもよろしいでしょうかー!?」
ビクンッと、珍しくネイチャが大きい声を上げたので呼ばれたトレーナーの体が跳ねた。
マヤノに別れを告げ急いでこちらに向かってくる。
「目立ちたくない割に大声出すのかお前は。もしかして慣れてきた?」
「別に……んっ」
何だかむくれているような気もするが仕方ない。
両手を伸ばしてきているので素直におんぶ態勢に入る。今朝の嫌々しながら飛び乗ってくる感覚とは違い、今回は普通にもたれ掛かるように来た。
(女の子の気持ちは分からん……)
そんな去っていく2人を、背後から見ていたテイオーはただただこう思った。
「……おんぶじゃなくて松葉杖使えばいいんじゃ?」
簡単な答えを知る事もなく、2人は既に教室からいなくなっていた。
あっという間に放課後がきた。
「あ~……色んな意味で疲れた……」
「それほぼ一日中お前をおんぶしてた俺が言うセリフじゃね」
「普段のアタシ達はもっと厳しいトレーニングしてますけど」
「そもそも人間とウマ娘の身体能力を同列に扱う時点で間違いなんだ。俺だって疲れるんだからね!」
「ハイハイ」
夕方の廊下だった。
呆れたように流してきたネイチャは当然おんぶされている。
トレーニングは出来なくてもミーティングは出来るので、軽いレースの振り返りと今後のレースについて話し合った。
その後には保健室に行き先生から足の様子を見てもらったら予想以上に治りが早く、明日には軽いトレーニングは出来るとの事。
ネイチャとしてはいつまでもトレーナーにおんぶされるというのも耐えられないので非常に助かる吉報だった。
昼休みには食堂まで連れられた際、学年の枠を超えて注目されたのが一番精神的にダメージがあった。
声を掛けられては事情を説明するの繰り返しだ。
さすがに精神的疲労が凄い。
「けどさ」
トレーナーの優しい声があった。
「色んな収穫があったよ」
「収穫? そんなのあった?」
「もちろん」
即答だ。
廊下の窓から差す夕陽を見ながら、トレーナーは言う。
「トレーナーの俺達は普段トレーニングの時しかウマ娘と関わらない。だからこうして普段のお前達の学校生活を可能な限り一緒に過ごして分かった。ネイチャ、お前は友達に恵まれてるな」
「え? そ、そうだっけ?」
「マーベラスやマヤノは当然として、昼休みの時も事情を説明したらすぐにネイチャがいつも頼むメニューを代わりに注文してくれたり、俺の昼食まで頼んでくれた娘までいた。それに移動教室の時だって必要な教科書を後から持ってきてくれた娘もいたしな。確かマチカネタンホイザって娘と、ツインターボだっけ。ネイチャの周りは良い娘ばかりだな」
「……まあ、アタシの友達が良い娘ばかりってのは、完全に同意かな」
本来はレースで競い合うライバルでも、それ以外では普通に仲の良い友人。
ここではそれが普通かもしれないが、こういった緊急時に助けてくれる友達というのは非常に心強いのと同時に、ネイチャが親しまれている何よりの証拠だ。
「良いよなあ、そういう関係って」
ネイチャの目に映ったのは、夕陽に照らされながら微笑んでいるトレーナーの横顔だった。
「……、」
ふと、それに見惚れている自分がいた。
トレーナーのこんな優しい表情を初めて見たからだろうか。
これは危ない。胸の鼓動が高鳴っていく。
おんぶという密着状態のせいか、この早くなった鼓動を聞かれるのはまずい。
(……ッ、何考えてんのアタシ!? トレーナーさんはただトレーナーとしてそう言っただけであって別にアタシとか何の関係もないんだから……!)
幸いトレーナーは振り返れないのでこの顔を見られる心配はない。
ただ、何かの弾みで、細かく言うとふとした窓の反射などで見られる可能性はある。
「よし、帰るかっ」
「……うん」
とすれば。
ネイチャのとる手段は一つだった。
成人男性なのにまだどこか少年っぽさのある笑顔で言ってきた彼に答える。
おんぶ。背負われている者の特権。
彼の首に優しく両手を回し、見られないように顔を彼の首のすぐ後ろにうずめる。
時折ネイチャのツインテールが彼の顔に当たり、くすぐったそうにする彼を見て静かに笑う。これもおんぶの特権。
(色々あって今日は疲れたけど)
トレーナーとの距離がこんなにも近くになるのなら、それも悪くない。
そう思うネイチャだった。
(こんな日もまあ、たまにはありかな)
はい、という事で後編でした。
これでネイチャもまだ好意を自覚してないのヤバイですね……。
そろそろネタ切れなので、次回から更新頻度は少し遅くなるかもしれません。
次回は金曜更新を目指します。目指します(ここ重要)
ハイペースで低クオリティーで投稿するよりも、遅めでも可能な限り高クオリティーで出したいのでね……。
では、今回高評価を入れてくださった
長船さん、龍神将さん、くりとしさん、因数分解さん、あきたんさん、ポケモンマニアさん、デキンハンザーさん、うすいさん
以上の方々から高評価を頂きました。
皆様の感想一つや評価の一つあるだけで作者はモチベ上がるようなちょろい奴なので毎回何度か見返したりしてます。
本当にありがとうございます!!
いっそ活動報告などでネイチャとのこういう話が見たいとかそんな感じのネタ募集したらどうなるのか気になるところ。あくまで気になる程度の思考です。