お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話   作:たーぼ

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1.ネイチャを追い回して担当契約を頼む話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、ない。ないわー。ほんっとないわー。いまだにないわー」

 

「だからそれは何度も謝っただろ? 悪かったってネイチャ」

 

「普通スカウトするだけであんな変な言い方してきますかねー? 無駄にビビったアタシの気持ち返してほしいわ全く」

 

 

 

 

 広大なトレセン学園の中を歩く2人の人物がいた。

 1人はウマ娘のナイスネイチャ。腕を組み少しむくれながら歩いている。

 

 そしてもう1人はトレーナーの渡辺輝(わたなべひかる)。何故だかナイスネイチャに対してバツが悪そうな顔をしながら謝っている。

 実はあの謎の告白から一週間がたっているのだった。

 

 

「てか結局あの謎めいた言葉になったのは何でなの? その辺の説明をしてくんないとこちらとしても入部届けを提出するか迷うとこなんですけど」

 

「いやほら、俺もトレーナー資格取ってから初めてのスカウトだったしどうすれば誠意が伝わるのかちゃんと考えた末のアレですはい」

 

「誠意の方向性がぶっ飛んでるんだよなーもー」

 

 結局、ネイチャの密かな期待通りのスカウトだったのだが、如何せんトレーナーの言葉が悪かった。

 あの場面、傍から見れば普通にただのプロポーズにしか見えない。何ならネイチャ本人が一瞬そういう勘違いをしてしまうほどに。

 

 初対面の者に告白するようなバカは早々いない。それにすぐ気付いたネイチャは少し赤くなっている自分の頬を夕陽のせいにし、渡辺輝にこう言った。

 

 

『……あ、あの~、一緒になろうって、ど、どゆこと……ですかね……?』

 

『え? 当然一緒のチームになってくれって事だけど?』

 

『…………あー、はいはい。予想の範囲を遥かに超えた言葉だったからちょっと頭パンクしそうになったけどそういうことね。うんうん、分かってた。分かってましたけどー……え、もしかして色々ヤバい人?』

 

 何をどうしたらスカウトが告白じみた言葉に変換されるのか。

 スカウトされた事実よりもトレーナーに対してというか人としての不信感が真っ先にのし上がってきた。単純に頭ぶっ飛んでる系男子にしか思えない。

 

 

『そんなことより俺と担当契約結んでく──、』

 

『あっ、他の子当たってくださーい』

 

 ウマ娘としてどうかとは思ったが、スカウトされた嬉しさよりも不審者系トレーナーから逃げるという選択肢が勝った。

 

 

『あ、おいちょっと待っ……いや速えな知ってたけど!?』

 

 颯爽と走り去っていくナイスネイチャに呆ける形で見ることしか出来なくなってしまったトレーナー。

 こんな感じで、2人の出会いはものの2分程度で終了した。

 

 

「ったく、普通あんな逃げたら諦めるでしょうに」

 

「何言ってんだ。俺は一度こうと決めたら諦めないんだよ多分」

 

「最後ちょっと自信なくしてんじゃん。だから一週間ずっとアタシの事追いかけ回してきたのか……」

 

 そう、この一週間、トレーナーは毎日ネイチャを見つけては入部してくれと追い掛け回していた。

 人間とウマ娘。追いかけるのと逃げるのに関しては絶対に勝てないため、その度ネイチャには逃げられていたのだが、会うたび会うたび言ってくるのだ。

 

 

『ネイチャああああああああッ!! 俺と一緒(のチーム)になろうぜええええええええッ!! ネイチャああああああああああああああああッ!!』

 

 と。

 ネイチャ本人を見失っても叫び続けるせいでこのトレセン学園、当然ウマ娘が多数在籍しているせいでいつの間にか色々周知されていた。

 

 これを一週間毎日だ。何にしても言葉足らずが過ぎる。誤解しか招かない事をずっと叫んでいるのだ。普通にやばいヤツである。

 ネイチャ本人はもちろんだが、周囲の友人も知っているわけで何かと質問されることも多かった。いつもはぐらかしてきたがそろそろネイチャのメンタルも持たなくなっていたのだ。

 

 

『おっ、標的発見。ネイチャー俺と一緒──、』

 

『わ、分かったって! 分かったからもうそれ以上言わないでってば! 入部すればいいんでしょっ』

 

『……おお、まじか! ようやく俺の思いがネイチャに届いたんだな! っしゃあ!』

 

『いやだから言葉に語弊がありすぎるんだってば……』

 

 毎日告白めいた言葉を言われると真意を分かっていても顔が熱くなってしまう。

 手をパタパタさせて顔を仰ぎながら何とか平静を装う。

 

 こうして何やかんやあり現在に至る。

 トレーナーの粘りによって折れたネイチャ。しかし入部するとなれば気になることも必然的にあった。

 

 

「……ねえ、一つ聞いていい?」

 

「何だ?」

 

「何で……アタシなんかを選んでくれたわけ?」

 

 純粋な疑問。

 というよりはいつもの自分の面倒くさい性格が出てしまった。

 

 

「だってアタシ以外にも良い子なんていくらでもいるじゃん? 一着だったテイオーは当然だろうし、二着だった子もいる。他の選抜レースにも良い成績を残した子達だってたくさんいるのに、何で模擬レースでも選抜レースでも三着のアタシなんだろって思って、さ」

 

「……、」

 

 ネイチャの言い分も少しは分かる。

 結局、三着というのは一番記憶に残りづらいのだ。

 

 一着はみんな覚えている者も多く、二着だって覚えられているウマ娘も多い印象を受ける。それが元々人気のあるウマ娘ならもっとだ。

 しかし、三着はどうだろうか。入着はしても、その記憶は人々からすれば忘れられやすいのではないだろうか。例えば好きな食べ物一位はすぐ答えられても、三位はすぐに出ないのと同じように。

 

 キラキラした一位にはなれない。そんな主役達と自分はかけ離れているから、そんな自分を選ぶトレーナーには何か別の理由があるはずだとネイチャは思う。

 面倒くさい自分だ。卑屈な自分だ。素直に物事を見られない自分だ。

 

 だから、そんなくだらない理由だけがすぐに出てきてしまう。

 

 

「ま、分かってんだけどね。テイオーはベテラントレーナーさん達にも引っ張りだこだし、それに時間を取られたくないトレーナーさん達はここ数日で二着の子に声掛けてたからさ。だからトレーナーさんは誰にも声をかけられないだろうアタシに消去法でスカウトしに来たんでしょ? 知ってる知ってる分かってますよー」

 

 こういう時だけ饒舌になってしまう自分にももう慣れた。

 そんなことない、という言葉をトレーナーはかけてくれるのだろうと予測もできる。

 

 やはり面倒くさい性格だなと自分で思いつつも、こうした自虐はもはや癖になっていてやめることもやめるつもりもない。

 取り繕うのは得意だ。自分を卑下するのはもっと得意だ。そんな自分を知って、トレーナーはそれでも自分を入部させようとしてくるのか。

 

 

「ははっ……これでも自分の性格って面倒なんだなって自覚はあるからさ、正直アタシをスカウトするの思い直すなら今だと思うけど?」

 

 人差し指で自分のツインテールの髪をくるくると巻きながら言葉を待つ。

 もし入部してこの性格が仇になり退部させられるような事があるなら、先にこれで愛想尽かせた方が良いと判断した。

 

 さあ、何を言ってくるかと目を逸らしつつ、チラリとトレーナーを見る。

 するとどうだろう。ネイチャがびっくりするほど間抜けを見るような目をしていた。

 

 

「いや、何言ってんだ?」

 

「……え?」

 

「そもそも俺は最初からお前に一目惚れだったからトウカイテイオーをスカウトするつもりは一切なかったぞ」

 

「なっ、ひっ、ひと……っ!?」

 

「あ、これじゃまた語弊生んじまうか。えっとだな、正確に言うと俺はネイチャのあの走りに一目惚れしたんだ」

 

 言われて気付く。また熱が顔に集中していたらしい。分かってはいてもそんな事を言われてしまえば照れるのが乙女心なのである。

 赤面させた元凶はそのまま続けた。

 

 

「確かにトウカイテイオーの走りも凄かった。柔軟性を利用した走りとバネの強さが印象的だし、選抜レースを見返した時は圧倒的だなって正直な所思ったのは事実だ」

 

「まあ、そうですよねえ」

 

 だからこそあのスカウト量の多さにも納得できる。

 遠巻きにテイオーを見かけた際はいつもトレーナー達に囲まれていたほどだ。それに比べてこの一週間、ネイチャのとこへは誰も来なかった。たった1人を除いて。

 

 

「けど俺はテイオーよりもネイチャの方が良かった。最後の追い込みからの末脚は大したもんだ。ほとんどのウマ娘達を差していったしな」

 

「……でも、三着だったよ?」

 

「だとしてもだ。一着はダメだったけど、入着にこぎつけられる実力を既に持ってるのは強い証拠だよ。だからそれを俺の元で磨きたい」

 

「こんなアタシでも?」

 

「むしろお前が良い」

 

「……はあ~……」

 

 トレーナーから見えないように俯いて出たのは震えながらもでかい溜め息。

 その真意はネイチャにしか分からない。

 

 こんな自分の走りに惚れ込んだと言ってくれる者がいた。

 この一週間ずっと諦めないで声を掛けてくれた者がいた。

 あのトウカイテイオーよりも自分が良いと笑ってくれた者がいた。

 こんなにも近くに、自分を認めてくれる者がいた。

 最初からずっと、ナイスネイチャを真っ直ぐ見ていてくれた者がいた。

 

 こんな顔、恥ずかしくてトレーナーには絶対に見せられない。

 だから死力を尽くして平静を装う。お得意の口調と共に、口角が上がりすぎないように気を付けながらポーカーフェイスを気取って顔を上げる。

 

 

「もう、しょうがないなー。折れましたよ完全に。ここまで言われたらさすがのアタシも信じるしかないわ」

 

「おっ、やっとその気になってくれたか」

 

 その厚意をまだ素直に受け取る勇気はできていないけれど。

 

 

「まあテイオーに勝てる自信はこれっぽっちもないし、勝てるなんて思っちゃいないけどさ。とりあえずはまあ、トレーナーさんに免じてアタシも少しは善戦できるようになりたいしね」

 

 絶対に一着になってトウカイテイオーに勝つなんて無謀なことはまだ言えないけれど。

 

 

「そこまで言ってアタシをその気にさせたんだから、トレーナーさんには責任とってもらいますからねっ」

 

「……お前もちょっと語弊ありそうな言い方するなっての」

 

 きっと、このトレーナーとなら上手くやっていけそうだと不覚にも素直に思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、ここは?」

 

「俺達の部室だ」

 

「うーわめっちゃ散らかってるー」

 

 

 

 

 

 

 さっそく不安になったナイスネイチャだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





はよほのぼのせんかい。
ネイチャの口調って結構難しいですよね。
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