お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話 作:たーぼ
今日は練習もミーティングもなく、いわゆるオフの日だった。
「ふんふふーん」
なのに、ネイチャの目的は友人との放課後トークや買い食いぶらり旅でもない。
向かっているのはトレーナー室。もはやネイチャにとって第二の自室と言っても過言ではない場所となっている。
オフの日が被った友人の遊びの誘いを断り別れを告げ、まるで浮足立つかのようにそこへ向かう。
理由は、特にない。
(トレーナーさん何してんのかなー)
オフなんだからわざわざトレーナー室に行く必要は皆無だ。暇であれば友人と遊びに行っても良かったはず。
だがそれもしないで何故トレーナーがいるであろう部屋へ行くのか。理由は、やはり特になかった。
練習があってもなくても気付けば一緒にいるし、適当な会話で時間を潰す。そんな関係に2人はいつの間にかなっていた。
強いて言うなら、何気ない時間をトレーナーと過ごすためにトレーナー室へ向かっているというのが理由になるだろう。
ウマ娘やトレーナーにとってのオフ。
それは予定も何もない日となる。
となれば向こうはネイチャが来るとは思っていないだろうし、ちょっとしたドッキリ気分だとネイチャは思う。
まあ過去に何度かオフでもトレーナーに会いに行っていた事もあるが。
トレーナー室の前に着く。
そして左右の廊下を見て誰もいない事を確認してから自前のウマ耳をピトッとドアへ引っ付ける。
(……話し声は聞こえないから誰か来てる感じではなさそうかな。じゃあいつも通り作業でもしてる……?)
こういう時はいつも部屋へ入る前にこうして耳で確認するのだが、普段と同じなら微かにカタカタとキーボードを叩く音が聞こえるはずなのに今日は何も聞こえない。
普通に考えるならレース映像を見て研究しているかメモ帳に何か書いているかだろう。
こうなるともう部屋に入らなければ分からない。
正直ここまではネイチャがいつも経験してきたものだ。今更どうという事でもない。トレーナーが作業中でも邪魔にならない程度に話題を振ればいいだけの話。
という事でさっそくドアを開ける。
第二の自室のようなものなのでノックなんてしないのだった。
「おいっすートレーナーさーん。今日はオフだけどネイチャさんが来ましたよー……って、あれ?」
ネイチャの視線はトレーナーがいるはずのPC前のイスなのに、そこにトレーナーはいなかった。
とすればどこだ? パッと見でトレーナーの姿は見えない。そう思ったところでネイチャから見て縦になっているソファに違和感があった。
ちょっとした死角に彼はいた。
「何だ、トレーナーさんいたんだ。いるならちゃんと返事くらい……ん?」
いつものようにテーブルに自分の学生鞄を置き、トレーナーを見ると彼は目を瞑っている。
リズミカルな呼吸で表情もどことなく柔らかい。
「もしかして、寝ていらっしゃいます……?」
綺麗にソファに横たわり熟睡していた。
いくらオフとは言ってもトレーナー室で堂々と寝るのは少々度胸がありすぎな気もするが仕方ない。
せっかく練習がないから来たのに寝ていたら余計暇になってしまう、という思考をネイチャは持っていない。
そこは実家のバーで育っただけの事はある。器の広さは伊達じゃないのだ。
「まあ、いつもこんなアタシなんかのために頑張ってくれてるもんね」
しゃがんで目線を寝ているトレーナーに合わせる。
仮眠を取っているのか、はたまたレースを見ている内に寝てしまったのか。トレーナーの手のすぐ側に置いてあるリモコンを見るに、レースを見ていたがそのまま寝落ちして録画映像は終わり、しばらく操作されなかったからテレビが自動的に電源を切ったと考えるのが妥当だろう。
普段の気の抜けた表情や練習の時の意外と真面目な表情とは違い、トレーナーの寝顔はネイチャも初めて見た。
自分よりも年上なのに、まるで子供のような寝顔にも見える。
「……、」
何を思ったのか、ネイチャの好奇心が突然表に出てきた。
軽く人差し指でトレーナーの頬をツンツンと突いてみる。
「(おーい、ネイチャさんが来たのに何寝てんのー)」
小声で言ってみたものの起きる気配はまったくない。
もう少し動くやら呻くなどのアクションがあると思ったのだが、どうやら相当眠りは深そうだ。
(眠りが深いって事は、結構疲れてる……?)
トレーナー業とはウマ娘を指導するだけが仕事ではない。
日々のトレーナーとしての勉強や研究はもちろん、担当ウマ娘の走りの癖を見抜きその時に合ったトレーニングメニューを考えたり、ライバルチームの偵察に行ったりなどする事がとにかく多かったりする。
サブトレーナーや同じチームのウマ娘がいれば幾分か手分けするなり偵察を任せたりできるのだが、『チーム・アークトゥルス』には渡辺輝とネイチャの2人しかいない。
詰まるところ複数人いないとキツイのをこのトレーナーはたった1人でしている事になる。
ネイチャが努力している以上に、トレーナーも頑張ってくれているのだ。
それが分かってしまうと、どうにも何か出来ないかと思ってしまうのが彼女だった。
トレーナー室。
ここにいるのは寝ているトレーナーとネイチャのたった2人。
何が出来るか、と自問自答すれば出てくるのは一つの答えしかなかった。
ソファで寝ているトレーナーは自分の腕を枕にしている。痺れてしまわないかという心配は置いておいてだ。
相手の意識がないのなら多少は積極的になってもいいのではないか、と無自覚ながらその結論に至る。
善は急げだった。
(起きない、よね……?)
一応先ほどの指ツンで確認したが起きないなんて確信は結局どこにもない。
まずはそっとトレーナーの首と頭を両手で支え浮かせる。
僅かに出来たソファのスペースに自分が座ると、トレーナーが起きないか逐一確認しながらゆっくりトレーナーの頭を自分の太ももの上へ乗せた。
ふにっと、太ももへ乗った感覚と彼の頭が乗っている重量感がネイチャの体を刺激する。
ゆっくりとはいえ動かしたというのにトレーナーが起きる気配は微塵もないようだ。
いわゆる膝枕だった。
(こ、これはこれでむず痒いなぁ……)
自分達以外に誰もいないとはいえ、膝枕などという意外と高等なプレイをしているのは中々にどうなのか。
そもそも今時膝枕をする者など存在するのか。それこそマンガやアニメの中だけではないのかとネイチャも思うが、やってしまった後ではもう遅い。
もうなるようになれである。
身動きができないのでスマホでも触って暇つぶしをしてもいいのだが、かといってこの時間は割と貴重なのでは? と思いトレーナーに目をやる。
手持ち無沙汰になった手はおもむろにトレーナーの頭へ。
恐る恐る撫でてみる。軽くワックスでセットしているからか、ほんの少しだけ抵抗感のある固めの髪だ。
だがそれがネイチャの好みど真ん中だった。
(ふふっ、何だか猫みたい)
実は猫が好きなネイチャ、動画サイトではよく猫動画を見て癒されるほどだったりする。
休日にはよく猫カフェに行ってもふもふするくらい猫には目がない。
だから何となく分かる。
これは長毛種の猫を撫でている時の感覚と非常に似ているのだ。こうなっては止まらないネイチャ。セットが崩れない程度にトレーナーの頭を撫でくり回す事にした。
(むふふ、これは中々……止められませんな~)
むず痒さはどこへやら、いつの間にかネイチャも癒されていた。
猫が嫌がらない絶妙な力加減で撫でるせいか、その心地良さからトレーナーの寝顔も人知れず和らいでいる。
気付けばお互いWINWIN状態になっていた。
1人は知らない内に女の子の膝枕と頭を撫でられ、1人は猫の毛に似ているからと勝手に撫でて癒されている。とことん無駄に相性が良い2人であった。
トレーナーが眠っているからか珍しくにへらと緩んだ顔のまま撫でるネイチャ。
もはやこの2人の空間だけ他から断絶されているような感覚すらある。
そしてそうなると必然的に周囲への警戒心は薄れ、誰かがこの部屋へ近づいて来る足音すらも気付かない。
「~♪」
実家で親が歌っていた子守歌を鼻歌で再現していたら、その時は突然来た。
ドアの方から軽いノックが2回した後、ゆっくりと開かれた。
「ねえ、渡辺君宛ての荷物が何故か私のトレーナー室にあったんだけどこれって間違……ありゃ?」
若い女性トレーナーだった。
おそらくトレーナーと同期の人だろう。目的は言わずもがな、今言っていた事で来たのだろうとは思うが、問題はそこではない。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………、」
女性トレーナーの目線の先には、ソファで寝ているであろうトレーナーとそれを膝枕しながら頭を撫でている最中のナイスネイチャが固まったままこちらを見ていた。
顔は固まっているがその色は青ざめるよりもだんだんと赤くなっていく。
静かな空間。2人っきり。膝枕。頭撫で。女の子の赤面。
完全に状況証拠はバッチリだ。
そしてオトナな女性トレーナーはすぐに察した。
出来るオンナはそそくさとドアの方へ引き返すとこう言った。
「荷物はまた後日持って行くって伝えといてね。そんじゃ後はごゆっくり~」
そっとドアを閉め去っていくのを確認した。
今度はちゃんと足音も聞いて、それが聞こえなくなるまで耳も澄ました。
喋る暇も誤解を解く(そもそも誤解でも何でもないのだが)暇もなく固まっていたネイチャは、ようやっと自分を解放する。
(あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!)
心の中で大絶叫だった。
(何やってんのアタシ!? 何やってんのアタシ!? ていうかみ、見られ……うあーッ、こんなの絶対誤解されたに決まってんじゃん!! いかにも分かってますよ黙ってますよの目してたもんあの人ー!! 自分だけの時間みたいに思ってる場合じゃなかったー!!)
器用にトレーナーを寝かせてる足は動かさずに両手で頭を抱え上半身を思い切りくねらせていた。
膝枕しているせいで身動き一つできなかったのが余計痛い。完全に油断していた。今後あの女性トレーナーと鉢合わせした時どう言い訳しようか考えねばならなくなってしまった。
しかし、過ぎてしまった事はもう戻せない。後の祭りである。
顔の熱はまだ戻りそうもない。また2人だけの時間がやってきた。
「……トレーナーさんのせいだからね」
頬をつつく。小さな八つ当たりだった。
彼は起きない。一度寝るとあまり目を覚まさないタイプなのだろうか。
時間は進んでいく。静寂が部屋を包む。聞こえるのは時計の針がカチカチと一定のリズムで進む音だけだ。
また頭を撫でる事にする。
ただそれだけの時間が、今は何だか愛おしく感じた。
(今は、アタシとトレーナーさんだけの時間)
女性トレーナーもトレーナーの顔をちゃんと見ずに察して帰っていった。
つまり、この寝顔をずっと見ているのはネイチャだけだ。そう思うと自然と口角が上がる。
(アタシだけがトレーナーさんのこんな無防備な寝顔を見れてるんだ……)
少しの幸福感とほんの少しの優越感があった。
これは担当契約している自分の特権だ。スマホを手に取り、そっとかざす。
(これは内緒にしてよっかな)
トレーナーの寝顔を撮り、それをしっかり保存する。
こんな経験は早々ないと判断しての事だ。トレーナーには以前マーベラスのせいで自分のパジャマ姿を見られた仕返しという言い訳を使わせてもらう。
まだ起きそうにないトレーナーを見て、仕方なくといった感じでネイチャは時間が過ぎるのを待つ事にした。
空虚ではなく、有意義な時間として。
「……んぁ?」
「あっ、起きた?」
目が覚めると何故かネイチャがいた。
おかしい。確か今日はオフで自分はレース映像を見ていたはずなのに、と思ったところで理解した。
「……寝ちまってたか」
「それはもうぐっすりとねー」
「それはそうと、何でいんの? てか、何でこんな事になってんの?」
気付いたらネイチャに膝枕されていたのは分かったが、経緯が分からない。
普通に考えたらネイチャがしてくれたのだと思うが、理由が不明だ。
「……ばーか」
「え!? 罵倒されるような事したの俺!? 寝言で変な事言ってないよな!?」
勢いよく起き上がると焦り出したトレーナー。
よくもまあ寝起きでそんな声が出せるなと呆れ気味になる。
重みがなくなった太ももに少し寂しさを感じつつ、ネイチャはトレーナーの質問に答えずこう言った。
「ごちそうさまでーすっ」
ネイチャに膝枕されたい人生でした。
では、今回高評価を入れてくださった
まがつさん、他人さん、ロクでなしの神さん、RAI9さん
以上の方々から高評価を頂きました。
そして何と感想も100件を超えました。何気に読んでる方の声がちゃんと分かりやすい感想が一番嬉しかったりします。
本当にありがとうございます!!
マチタン実装まだですかね。