お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話   作:たーぼ

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20.栄養管理はしっかりと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さすがに少し暑くなってきたな」

 

 

 

 撫でるような風とは裏腹に、照り付けるような太陽が頭上から差し掛かっている。

 春も過ぎた頃のグラウンド。そこでいつも通り渡辺輝とナイスネイチャはトレーニングをしていた。

 

 タイムを見つつネイチャのフォームとスパートのタイミングを見定める。

 以前と比べるとまた速くなっている。彼女の努力が本物だと思える証拠だろう。

 

 走り終えたネイチャがこちらに近づいてくると、少し息を切らしたまま、

 

 

「どう? 少しは速くなってる?」

 

「ああ。前よりもタイムは縮まってるよ。やっぱ目標を見据えた方が練習にも精が出るな」

 

「ま、一応やれる事はやりたいからね。アタシに出来る事はトレーナーさんのメニューをこなす事だけですよー」

 

「それでレースで勝てれば万々歳だな」

 

「そう上手くいきますかね~」

 

 走り込みの後でも軽口を叩けるならまだ余裕は残ってそうだ。

 スタミナもだいぶ付いてきている。これから狙うレースには長距離だってある。その第一に、『菊花賞』に出る事を決めた。

 

 距離は3000m。

 若駒ステークスの時と比べると1000mも長くなる。これまで以上にスタミナを要求される事は想像に難くない。

 

 そんな長距離の『菊花賞』は重賞、それもGⅠである。

 当然、無条件で出られるほど容易なレースではない。ある程度結果を残さなければならないのだ。

 

 それにその『菊花賞』にはトウカイテイオーも出るらしい。今の彼女は絶好調と言っていいほど順調にレースで勝ち続けている。

 何せ同じGⅠの『皐月賞』と『日本ダービー』すら1着で今も無敗を誇っているのだ。

 

 テイオーの目標が無敗の三冠ウマ娘なのは知っているが、このままだと本当に叶えてしまいそうな勢いである。

 つまり、ネイチャからすればどんどん目標が遠くなっていっている状態か。

 

 

「……、」

 

 思わず拳に力が入る。

 同じ同期のウマ娘があんなにも活躍しているのに自分はどうなのか。比べるのすらおこがましいほど実力差があるのにだ。

 

 どうしても考えてしまう。焦燥感に駆られる。

 やはり元からセンスが違うのか。勝てる相手ではないのか。

 

 そこでネイチャの頭に手が置かれた。

 

 

「焦る必要ねえさ」

 

「……トレーナーさん」

 

「お前はお前の……いいや、俺達のペースで頑張っていけばいいんだ。大丈夫、()()()()()()()()

 

 何も言っていないのに何故こうも自分の気持ちを見透かされるのか一向に謎だと思うネイチャ。

 しかし、それでも悪い気がしないのはトレーナーが自分の性格を理解してくれているからか。

 

 こんな事を言われればもう変に考えるのはなしだ。

 無駄に考えるだけ卑屈な自分はマイナスの底へ沈んでしまう。その前にレールを元に戻す。

 

 

「は~あ、よくもまあそんな主人公が言いそうな事をアタシに言えますな~。……まあ、おかげで気は楽になったけどさ」

 

「何言ってんだ。俺からすれば主人公はネイチャだっての。GⅠで1着取ってウイニングライブをセンターで歌うお前を見るのが俺の夢なんだからな」

 

「え? そんな事言ってなかったよね? いつの間にそんな無謀な夢出来たのさ」

 

「テイオーが皐月賞とか日本ダービーでセンターでウイニングライブ披露してたの見て羨ましくな」

 

「ハードル高いし夢見つける動機が不純!」

 

「へぼぅあッ!?」

 

 見事なチョップがトレーナーの腹へ直撃した。

 この男、良い事言って上げた後は余計な一言で下げる天才か何かだろうか。

 

 

「うべぅ……昼飯のカップ麺が出てくるとこだった」

 

「そんな強くしてないでしょうに」

 

「最近ツッコミの威力増してない? 主に物理的な意味で」

 

「遠慮しなくなったからかな? 信頼的な意味で」

 

「あれれ、おかしいな。どこで間違えたんだろ俺」

 

 くだらない事を言い合っている間に時計を見るとそろそろ交代の時間だった。

 

 

「あ、もうグラウンド交代の時間じゃん。ほら、次使う娘達が来る前に退散するよトレーナーさん」

 

「もうそんな時間か。最近暑いし今日はトレーナー室で涼んでから帰るか~」

 

「その前にアタシが着替えるから外で待っててもらいますよー」

 

「ねえ毎回思うけど何で部室で着替えないの。何のための部室のロッカーなの。トレーナー室で着替えるその理由をはいどうぞ」

 

「あっちの方がまだ清潔だし広いし涼しいしゆったりできるから」

 

「ちくしょう全部俺も思ってる事だから何も言い返せねえ!」

 

 2人共パイプ椅子とロングソファだと圧倒的に後者だった。部室にエアコンが設置されていないのが問題だと思う。部員が少ないチームの悲しい末路だった。

 タオルを首に巻いたネイチャと共にトレーナー室の方へ向かう。

 

 

「そういや次のレースは距離どのくらいだっけ?」

 

「1800mだ。若駒ステークスより200短い。その次も同じ1800m。それに勝てば次にあるGⅢの小倉記念は2000mだな。最後のGⅡ、京都新聞杯のトライアルは2200mになってるぞ」

 

「重賞レースかあ。やっぱまだ実感ないわ。出れる確証もまだないけど」

 

「とは言ってもネイチャならいけるだろ。少なくとも掲示板、もしくは3着以内には必ず入れる実力はあるしな」

 

 そういうのは逆にプレッシャーになるのだが、何故だかトレーナーが言うと安易に否定できない。

 時々新人トレーナーという事を忘れそうになるくらい無駄に自信があるのだ。そのくらいの意気がないとトレーナーなんてやってられないのかもしれないが。

 

 

「とにかく今はスタミナ増強だ。暑くなってきたし明日からはプールで鍛えるのも悪くないな」

 

「ねえ、疑ってる訳じゃないけどさ、そんな徹底的に体力付ける必要あるの? やっぱ3000mってめちゃくちゃしんどいとか?」

 

「それもある。けど、今回に至ってはそれだけじゃない」

 

 脇に抱えていたレースの資料を持ち直し、ネイチャに見せる。

 

 

「俺達の狙ってるレースはさっき話した4つ。けど最後のトライアル以外の3つのレースは間隔が短いんだ。最初のレースから次のレース、そしてその次のレースまでの間は約2週間しか空いてない」

 

「……あー、なるほどねえ」

 

「だから調整も細かく体調管理もこれまで以上に気を遣わないといけなくなってくる。しかも最後以外は季節は真夏だ。嫌でも体力を増やさないとすぐにばてちまうぞ。スタミナはあるだけあるに越したことはないからな。今やれるだけの事はしておこう」

 

「それもそっか。これも少しは善戦するためだし、やるだけやったりますかねえ」

 

 普通に考えれば過密なスケジュールだろうと思う。

 しかし、早い段階でこれに対応できればこれからのレースでもしまた同じような事があっても失敗する確率を大いに減らす事ができる。

 

 トレーナー室に着き、ネイチャだけ入って着替えを始める。

 外で誰も入ってこないようにドアにもたれたままトレーナーは話を続けた。

 

 

「スタミナつけるならトレーニングだけじゃなくて料理もがっつり食うんだぞ。肉食っとけ肉」

 

「男の人ってとりあえず肉食べとけばいいみたいな風潮まだあるんだ……。あ、もう入っていいよー」

 

 それは多分食にあまり興味がないトレーナーが問題なのだという事をネイチャはまだ知らなかったりする。

 早々に着替えを終えトレーナーを部屋に入れた。

 

 

「トレーナーさんも夏はお肉とかばっか食べてんの?」

 

「あん? 舐めるな。俺の相棒は基本パンとカップ麺とコンビニ弁当だ。最近のコンビニ弁当は凄いんだぞ。ちゃんと栄養を考えられてる物だってあるんだからな」

 

「ふーん、何かあれだね。トレーナーさんってホントレースとかそういうの以外にあんま興味なさそうって感じ」

 

「ない訳じゃないけどな。せっかくお前の担当になれたんだし、今はそっちに専念する方が俺も楽しいんだよ」

 

 軽く聞き流しつつ、顔を拭いていたフェイスペーパーをゴミ箱に捨てようとしたところでネイチャが気付いた。

 

 

「……ん?」

 

「どうした?」

 

 トレーナーが言っていた事を思い出す。

 彼の基本食はパンとカップ麵と栄養(笑)を考えられたコンビニ弁当だと。たった一食の栄養管理弁当が何になるというのか。

 

 そんな大前提でだ。

 今ネイチャの目の前にある惨状は何だ。このゴミ箱に入っている大量のプラスチックの器はいったい何なんだ。

 

 思わず、ネイチャが手をゴミ箱の中に突っ込んだ。

 

 

「これも、これも……これもこれもこれもこれも!?」

 

「おいどうしたネイチャ? 間違えてプラスチックのゴミ箱に入れちまったか? 分別はちゃんとしなきゃだぞ~」

 

 呑気にPC前のイスに座り今日のトレーニングのレポートを書いているトレーナー。

 自分へ矛先が向けられるのをこれっぽっちも予想できていない憐れな男だった。

 

 

「……トレーナーさん」

 

「何?」

 

「もしかして毎日お昼はカップ麵だったりする?」

 

「そうだけど。さっき言ったのをほぼ年中続けてるぞ。たまに商店街とか自分へのご褒美で豪勢にピザの出前とかも取ってる」

 

 栄養もへったくれもない返答がきた。

 多分このバカトレーナーは一食の栄養管理弁当でどうにかなると思っているハッピーセットの頭をお持ちらしい。

 

 これには実家がバーのお節介ネイチャの血が騒いでしまう。

 というかここまで来れば無駄な口実ももう必要ない。何なら口実が出来たと言うべきか。

 

 振り返ったネイチャの顔はほんのりと赤かった。

 そして人差し指をトレーナーへ向けてこう言ったのだ。

 

 

「明日のお昼はアタシもここに来るからカップ麵にお湯とか入れないで待ってる事! いい!?」

 

「え、何でいきな」

 

「いーい!?」

 

「アッハイ」

 

 言い残すと鞄を手に颯爽とトレーナー室を出ていった。

 真意は分からないが、とりあえず言うとおりにしないとおっかない事になるのは確かだと思う。

 

 出ていったドアの方を見つめエアコンへ目をやる。

 ネイチャの顔が紅潮していたのは見間違いではなかったはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

「もっと温度下げてやるべきだったか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見当違いの推理のまま、明日の昼はネイチャと過ごす事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





はい、カップ麺ばかりのゴミ箱が見つかりました。
ネイチャの本領発揮です。



では、今回高評価を入れてくださった


チキチキさん、航太さん、九重義政さん、原始人さん、ロック365さん、ポケモンマニアさん、MASAKI-さん、アマゾネス使いさん、hakugyokuさん、ハサハサさん


以上の方々から高評価を頂きました。
毎話更新する度に高評価を入れてくださる方々がいてくれるおかげで頑張れてます。
本当にありがとうございます!




活動報告にちょっとしたシチュエーション募集をしたので、もし見てやろうかと思う方がいればそちらも見ていただければ幸いです。
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