お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話   作:たーぼ

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21.女の子の手作り弁当とかいう最強アイテム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 栗東寮にあるキッチン。

 そこに1人のウマ娘がいた。

 

 

 

 

 

 

「……うーん」

 

 ナイスネイチャだ。

 既に大量のビニール袋と野菜などが調理台に並べられている。総量を見れば主婦でも音を上げそうな重さだが、それを一人で軽く持ち帰ったネイチャはやはりウマ娘故か。

 

 顎に手を当て、食料を見つめ出た言葉はこうだった。

 

 

「いや多いなっ!」

 

 悲しき1人ツッコミがキッチンに響いた。

 ここに置いてある野菜や肉類、他にもたくさんあるが省略。とにかく多い。元々食堂にあった物ではなく、これらはネイチャが行きつけの商店街で買ったものである。

 

 いいや、正確には3割はネイチャが買ったのだが、後の7割は商店街のおっちゃんおばちゃんが半ば強引にサービスしてくれたのがほとんどだ。

 買い手からすればありがたいと思うのが本音だろう。しかしネイチャとしては普通に貰いすぎてもはや申し訳なさがあった。

 

 

「まったく、いいって言ったのになぁ。ホントお節介焼きが多いんだから」

 

 主に買い食いや暇つぶしで商店街に通う事が多いネイチャ。そんなネイチャが珍しく大量の買い物をしていたら仲の良い人達は当然疑問に思う。

 そこで質問された時、素直に答えてしまったのがいけなかった。

 

 

『不健康な食生活をしてるらしいからさ、と、トレーナーさんにお弁当作ってあげたいんだよね……』

 

 

 年頃の女の子があからさまに取り繕ったような赤面顔でこんな事を言ったらどうなるか。

 もうおっちゃんおばちゃん大騒ぎであった。お節介焼きの本領がこれでもかと発揮されたのだ。

 

 ネイチャが所望した物を手早く一番良い状態でくれたり、遠慮しているのに買った商品より高そうな肉をサービスとか言ってレジ袋に入れられてたりした。

 おかげで気付いた時には想定の数倍ある荷物の量になっていたという訳だ。

 

 

(1人分、アタシのを入れて2人分としても全部使える量じゃないしなあ)

 

 弁当箱に入れるのだから、当然内容量には限界がある。そもそもこんな量、工夫さえすれば10人前の品が作れてしまいそうだ。

 せっかくの厚意を無下にしたくないが、これだけあると出番のない食べ物は必ず出てしまう。

 

 

(仕方ない。余りそうなやつはとりあえず保存して、と)

 

 使わなそうな物を野菜室やら冷蔵室、冷凍室など用途に分けて入れていく。

 ようやく本番。いいや、食べてもらう明日が本番なら今は前哨戦か。エプロンを着け、手を洗って事前の準備を済ませる。

 

 ひょんな事から始まった弁当作り。

 実家のバーで自然と鍛えられた料理の腕が鳴る。

 

 

「さて、いっちょ仕込みからやったりますか」

 

 レースとはまた違う、彼女の負けられない戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の昼。

 

 

 

 

 チャイムが鳴り、トレセン学園全体が昼食の時間になった頃。

 トレーナー室のソファで何のこっちゃか分からない状態で待っている渡辺輝がいた。

 

 

「……え、昼飯どうすりゃいいの俺」

 

 昨日の会話を思い出す。

 いつもこの時間帯はカップ麵を食べているのだが、今日はそれをするなとネイチャに言われたので何もする事がない。

 

 コンビニで弁当でも買ってくるべきだったかとも考えたが、ネイチャの言葉的にも彼女が何か代わりに買ってきてくれるのだろうか。ちなみに朝は普通にパンを食べたトレーナーである。

 一応お金を渡せるように財布は出しておくかと思っていた矢先、ドアが開かれた。

 

 

「……お、おいっすぅ」

 

「おっす。昨日ぶりだな」

 

 たどたどしさ満載のネイチャがトレーナーの隣へ座る。

 片手で何かを持っているようだが、トレーナーからは見えないようにしているようだ。

 

 彼からすればネイチャが購買で何かを買ってきた可能性があるかぐらいか。ネイチャは弁当を作ってくるとは一言も言っていないのだから想像できないのも無理もない。

 そんなネイチャが切り出してきた。

 

 

「あ、あのさ」

 

「うん?」

 

「お昼、まだ食べてないよね?」

 

「お前が昨日食うなって言ったからまだ何もありつけてないぞ。正直腹ペコです」

 

「そ、そうだよね~……」

 

 一応は言いつけを守ってくれたらしい。

 ならば自分もそれに応えるのが道理だ。ネイチャは意を決した。

 

 隠していた片方の手から用意していたものを差し出す。

 

 

「こ、これ!」

 

「……あれ、購買で買ってきたものじゃない? いや、これってまさか」

 

 彼女が差し出してきたのはランチクロスに包まれた箱のようなものだった。

 その時点で中身が何なのかはトレーナーもすぐに分かった。

 

 

「……お弁当」

 

「もしかして、ネイチャが?」

 

「う、うん、一応、全部アタシが作ったよ。トレーナーさんの口に合うかどうかは分かんないけど……」

 

「まじでか。え、てことはこれ女の子の手作り弁当って事じゃん!! やべえ、テンション上がってきた!」

 

 さっそくランチクロスを広げ弁当箱を開ける。

 そこには白ご飯はもちろん、から揚げ、ミニハンバーグ、きんぴらごぼう、卵焼き、ウインナー、ブロッコリーにほうれん草とコーンのバター焼きが入れられていた。

 

 

「そこまで盛り上がる事でもなくない?」

 

「何言ってんだ。女の子の手作り弁当ってだけでそこにゃあ弁当以外にも付加価値が乗るんだよ。男にとっちゃそれだけでステータスが上がるってもんだ。つうかめちゃくちゃ美味そうだな」

 

「トレーナーさんの好みが分かんないからさ、とりあえず今回は誰でも食べれそうなやつを作ってみたんだよね」

 

「へえ、食べていいか?」

 

「どぞ」

 

「んじゃ、いただきますっと」

 

 特に上品にという訳でもなく、普通にミニハンバーグを箸で掴んで口に頬張る。

 咀嚼しているトレーナーを見るネイチャは少し不安そうでもあった。誰でも食べられそうなものと言っても味付けで好みが変わるのは必然だから、いくらハンバーグと言えど油断はできない。

 

 こういう時は素直に聞くしかないのだ。

 

 

「ど、どう、かな……?」

 

 おそるおそる聞いてみる。

 ご飯も一口分頬張った後、しばらく咀嚼して口の中に何もなくなったのを確認してからトレーナーは小さく呟いた。

 

 

「……ぇ」

 

「え?」

 

「うめえ、めちゃくちゃ美味いぞネイチャ!!」

 

「あ、え……?」

 

 隣にいるのに急に顔を近づけられて安堵よりもまず混乱が頭を支配した。

 次にから揚げ、その次に卵焼きと頬張っていく。

 

 

「から揚げも卵焼きも全部お前が作ったんだよな? すげえ、こんな丁寧な弁当俺が学生の時なんて一度もなかったぞ」

 

「そ、そうなの?」

 

「ああ、俺の両親は共働きだったからな。朝も忙しくて弁当のおかずはほとんど冷凍食品とかだったよ。俺としては親が忙しいのは分かってたし、例え冷凍食品ばかりの弁当でも作ってくれるだけありがたかったし、何より美味かったから何の文句もなかったけどな。元々食にこだわりとかあんまないからさ俺」

 

「へえ、そうだったんだ……」

 

 彼の食への関心のなさはこういう所にあるのではないかと思ってしまうがそこは家庭の事情、仕方ないのである。

 

 

「けど卵焼きだけは絶対手作りで焼いてくれてて、その味が好きだったんだよ。それがまさかネイチャの焼いてくれた卵焼きと味が似ててビックリしたわ。こう、ちょっと甘めな感じの卵焼き? 好きなんだよなあ」

 

「ふ、ふーん……?」

 

 ネイチャ、心の中でガッツポーズだった。

 たまたまではあるがトレーナーの好みにストライクだったらしい。これは後々の参考になる。

 

 美味しそうに食べているトレーナーを見て、ようやくネイチャにも笑みが零れた。

 これだけ言ってくれているのであればもう心配はいらないだろう。自分も似たようなキッチンクロスを広げて弁当箱を開ける。中身はトレーナーのものと一緒だ。

 

 というか何なら弁当箱に至ってはお揃いの二段弁当である。

 ネイチャは基本、昼食は食堂か購買なので弁当箱を持ち合わせていなかった。そして急遽弁当を作る事になったので昨日適当な店に行って買ったのだ。わざわざお揃いの物を。

 

 お揃いであればまずネイチャの弁当箱におかずを詰め込んで見栄えなどを整える見本として使える。そして量のバランスなども比べる事ができるから……という言い訳にも近い動機を当てはめる事にした。

 

 

「ふう、ごちそうさまでした」

 

「え、はやっ」

 

 ネイチャが二口目のご飯を飲み込んですぐだった。

 

 

「いやー、美味すぎてついがっついちまった」

 

「もー、お行儀悪いよ?」

 

 ふぃー、と言いながら腹を抑えるトレーナーに呆れた笑みで返す。

 少し注意しながらも表情が綻んでいるのは、昨夜から頑張って作った弁当をこんなにも早く平らげてくれた事の喜びが原因か。

 

 

「こんなにも料理が上手いとは思ってなかったぞ」

 

「これでも一応実家のバーじゃ手伝ったりして料理の腕は鍛えられたからねー。ふふんっ、珍しくネイチャさんが自信のある唯一の特技と言ってもいいくらいだよ」

 

「特技か。そうだな、こんだけ美味いんだ。特技と言っても全然過言じゃねえ。店で出してたんなら普通に店レベルの腕って事だもんな」

 

「と言ってもバーで出す程度のもんだけどね。卵焼きとか酔ったおっちゃん達のために優しい味付けで作ってたらこうなった感じだし」

 

「だとしてもその歳でこれだけ料理が出来るのはすげえよ。わざわざありがとな。俺のためにこんな美味い弁当作ってくれて」

 

「いいって別に。アタシが勝手に作ったんだからさ。まあトレーナーさんの食生活に不安があるのは否めないけど」

 

 元々トレーナーのバカみたいな食生活が原因でこんな事になったのだ。

 これを機に改善してほしいのが本音だが、人間そう簡単に変われるほど単純な生き物ではないのである。

 

 

「てか久々に誰かの手料理食べたな。何か感慨深いわ」

 

「え、そうなの?」

 

「言ったろ。俺はほぼ年がら年中パンとカップ麵とコンビニ弁当だって。まあ自炊も出来ねえからそうなっちまうんだけどさ。コンビニとか常連すぎてもはや女の子の店員さんとちょっと話すくらい仲良くなってるレベルだぞ。あ、悲しい大人だなとか思うのはナシな。寂しさで泣くから」

 

「……ほーん?」

 

 何やら聞き捨てならない事を聞いたような気がするが堪える。

 一応は感謝の気持ちを伝えてくれているのだから追及はしない。いやそんな権利も自分にはないのだが。

 

 

「だからネイチャの弁当食べたらちょっと感傷に浸っちまったわ。美味すぎてってのが一番だけど、それを誤魔化すのに早く食い終わったのもそれが原因だ。俺にとっちゃ女の子の手作り弁当も冷凍食品じゃない弁当も初めてだったからかねえ。いや、ネイチャの弁当が何か母さんの味みたいなせいかもしれない説もあるか」

 

「……ふふっ、何それ。褒められてる気がしないんですけど?」

 

「褒めてる褒めてる。俺なりにすげえと思ってんだからな? やっぱ持つべきものは優秀な担当ウマ娘だねえ」

 

「優秀かどうかは分かんないとこだけどねえ」

 

 ゆったりとした時間が流れていた。

 食べ終えたトレーナーは紙コップに入れたお茶を一飲みし、ネイチャはまだ残っている自分の弁当をマイペースに食べている。

 

 

「いやいや、充分優秀だって。こんな美味い料理が出来るんだ。ほんと、お前なら将来良いお嫁さんになれるよ」

 

「ぶふぉうッッッ!?」

 

 口に含んでいたお茶を吹き出した。ご飯とかではなかったのが不幸中の幸いか。

 いきなりの爆弾投下は心臓に悪い。そういえばこの男は突然こういう事を言いだすのだったと少し忘れかけていた。何事も不意打ちほどダメージが大きいものはない。

 

 咳き込みながらも即座にテーブルの上に置かれていたティッシュで吹き出したお茶を拭きながら、

 

 

「な、何をいきなり言い出すかなーもー! ビックリしたじゃんっ!」

 

「ええ~、普通に思った事言っただけじゃんか。お前の将来の旦那が羨ましいよ。毎日こんな美味いもん食えるなんてさ」

 

「だ、だんっ……!?」

 

 もう弁当にかまける暇もない猛攻(トレーナーは無意識)がきた。

 こいつこの無自覚野郎よくもまあそんな恥ずかしい事を簡単に言ってのける。いくら子供相手だからってもっとデリカシーを持てないのか。

 

 このままだとペースはトレーナーに握られてしまう。

 何とかしてこの話題から少しでも逸らさないといけないと思ったネイチャは脳内をフル回転させた。

 

 

(何も思い浮かばない!)

 

 ダメだった。

 

 

「とにかくサンキュー。昼飯に満足できたの何年振りだろうって感じだったよ」

 

「あ、う、うん」

 

「しかしこうなったらカップ麵じゃどうにも満足できなくなっちまうなあ。これからはもうちょいマシなコンビニ弁当でも買っとくか? スーパーの弁当も悪くないな」

 

 自炊が出来ない悲しい成人男性だとどうしてもこの結論に至ってしまうのは当然か。

 ともかくネイチャとしても今の台詞は見過ごせなかった。

 

 一旦箸を置く。

 両手を膝の上に置き、いっそ改まったような姿勢でこう切り出した。

 

 

「しょ、商店街のみんながさ」

 

「ん?」

 

「トレーナーさんにお弁当作るって言ったらいっぱい色んなものくれてね、実はその残り物がまだたくさんある訳なんですけど……」

 

 トレーナーの目は見れない。

 代わりに上を向いて視線を天井に集中する。

 

 

「だから……明日とか、明後日とかも、ね……もし良かったらなんだけど、またアタシがトレーナーさんにお弁当……作ってあげよっか……?」

 

「マジでか!?」

 

「うぇええっ!?」

 

 予想以上の喰い付きだった。

 思わず目が合ったトレーナーの瞳はキラキラしている。まるでオアシスでも見付けたかのような希望の眼差しだ。

 

 

「いいのか!? 俺としては嬉しい限りでありがたい話でもあるけど、朝とか大変になるんじゃないか? あまりネイチャの負担になるような事は避けたいんだが」

 

「……はぁ」

 

 ここまで来て自分の心配をしてくれる彼に呆れた溜め息を出す。

 そんなものは愚問とばかりに、だ。

 

 

「いいよ。アタシもお弁当作るのは結構楽しいし、いつもアタシの事を考えてくれるトレーナーさんへの恩返しみたいなものと思って」

 

「? お前の事考えるのはトレーナーとして当たり前の事だろ? 恩とか売った覚えはないぞ」

 

「そう言うと思いましたよー。ま、アタシの勝手なお礼と受け取ってくれればいいからさ」

 

「けど、本当にいいのか? 無理はしなくていいからな?」

 

「くどいよトレーナーさん。アタシのお弁当食べたいのか食べたくないのかどっち?」

 

「超食べたい」

 

「っ、よろしい」

 

 食欲には忠実だったらしい。

 どうせなら美味しいものを食べたいと思うのは人としてむしろ在るべき欲望だろう。

 

 そんなに自分が作った料理を気に入ってくれたのかと思うと不覚にもニヤケてしまう。

 見られる訳にもいかず誤魔化すように残りの弁当を食べると、手早くトレーナーの弁当箱も含めて回収した。

 

 

「じゃあ、また明日作ってくるねっ」

 

「おう、ありがとな」

 

 少し慌てたようにネイチャが部屋を去って静かになったトレーナー室。

 おかげさまで満足感を得られたトレーナーは1人、こう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しばらく昼が楽しみになるなあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





これはまたマーベラスに質問攻めされそうな展開が来そうです。
ネイチャの作った手料理食べて満腹になり隊。

活動報告でネイチャとのこんな話が読んでみたいなどといったシチュエーション募集をしておりますので、お気軽にご要望くださいね!


では、今回高評価を入れてくださった


夜々空さん、おしるこなさん、骨折明細さん、麦丸さん、Honorific88さん、アコルさん、チュートンさん、koikoi0319さん、名無しさんですさん、kaz0429さん、タンポポ雲さん、コウ@スターさん、1201teruさん、みかん団長さん、ガチタン愛好者さん、KOBASIさん、れきさん、麟として時雨さん


以上の方々から高評価を頂きました。
毎回毎回こんなたくさん頂いていいのか……と思いつつ狂喜乱舞しています。
本当にありがとうございます!!







長期連載するつもりはなかったのにどんどん話数が増えてる事に戦慄してます(笑)
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