お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話 作:たーぼ
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「はぁ~、マジで何もやる気起きねえなー」
ソファに大きくもたれ掛かり天井を仰いでいるのは渡辺輝。
今は放課後だ。本来ならトレーニングがあり今頃グラウンドでネイチャの練習を見ているはずだった。
そして件のナイスネイチャはトレーナーの隣で1人何やら格闘していた。
「うがーっ、めんどい! まじメンドイ!」
隣で叫ばれると嫌でも視線はそちらに向いてしまうものだ。
やる気なさ全開の表情のままトレーナーは担当ウマ娘に声をかける。
「何やってんだ?」
「見て分かるでしょ。髪を櫛でといてんの。毎年この季節になると髪が爆発するから手入れも面倒なんだよね」
「あー、なるほどね」
必死にサイドにある爆発もふもふツインテールを手入れしていた。
そういや去年もやっていた気がする。
6月下旬。
梅雨の季節はまだまだ終わりそうになく、今日も今日とて激しい雨が窓を叩きつけている。レース本番日には雨が降る事も少なくない。だから重バ場でも慣れておく必要がある時は雨の中でも練習はするのだが、今回はそれどころではなかった。
テレビを点ければニュースでは大雨警報が出ている。
幸い風は弱く帰宅する分には何の問題もなさそうではあるが、如何せんこの強すぎる雨が練習自体を妨害してくるのだ。
試しにカッパを着たトレーナーが外に出たら、大量の小石でも降ってきているのかと思うほど大粒の雨が真上から降り注ぎ、風が少し強くなれば無防備の顔面に小石並の雨粒が襲い掛かって来る始末。
これではまともに練習が出来ないと判断した結果、今日の練習はオフとなった。
あとは少しでも雨が弱まれば帰る手筈となっている。
ただいつその時が来るのかは分からない。窓の外は今も雨の槍が空を支配しており弱まる気配はなさそうだ。
ともすれば、今はまずこの雨で湿気った嫌な気分を転換する必要がある。
渡辺輝。ウマ娘やレース以外の事ではもうからっきしぐうたらお気楽青年だという事を忘れてはならない。
このうだうだした気分を改善できるのなら利用できるものは全て利用するのだ。
そのための相手が隣にいるではないか。
ネイチャを見る。
彼女は今必死に膨張したもふもふツインテールを何とかしようと奮闘している最中だ。
「……な、なに?」
トレーナーにはボサボサになった髪の自分をあまり見られたくないのか、少し恥ずかしそうにネイチャは強い視線で見てくるトレーナーへ疑問をぶつけた。
勘違いしてはいけない。彼はネイチャが思っている以上にこういう時はふざけるヤツなのだという事を。
「わはは、もふもふがでかくなりすぎてまるで顔が三つあるみたいだぞネイぶほぅえあッ!?」
「だからデリカシー身に付けろっての!!」
相手の機嫌を転換してしまったようだった。
横っ腹へウマ娘の力が入ったまま櫛がめり込んだ。どうあがいても自業自得である。
「ったくもう、いくらトレーナーさんだからって好き勝手言っていい訳じゃないんだからね? トレーナーさんだからこそってのもあるけど」
「ぎゅぶぅ……」
聞いちゃいねえようだった。
乙女の問題に土足で入り込めばこうなる事を覚えておかなければならない。誰にだって踏み込んでほしくない領域というものは存在するのだ。
とはいえ一応は湿気った気分ごと痛みへ変換された。
結果は違うが作戦は一部成功と言っていいか。
ようやく痛みが和らいできたところで普通に質問する事にした。
「俺はそんなだけど、ネイチャは結構髪とかボサっちまうんだな?」
「まあロングとかボリュームあるヘアスタイルしてる娘とかは割とそうなっちゃうかな。対策しててもなる時はなっちゃうしね。アタシの場合は髪質とかもあるんだろうけどこればかりはどうしようもないかなあ」
「そんなもんなのか。さっきは茶化しちまったけど、普通に今のも悪くないとは思うけどな。ボサボサってよりはまだもふもふが増したようにしか見えないし。あと何か面白い」
「おい最後」
今度は弱めに横っ腹をツンと指で突つかれた。
ネイチャも自分の髪を何とかするのに手いっぱいらしい。
気分は変わってもジトジトした空気はまだ変わりそうにない。
こんな時は適当にでも会話を続けた方が幾分かマシにはなるだろう。
「そうだ、なあネイチャ。これ見てみろよ」
「なにそれ?」
一旦PCのある席に移動して引き出しから一冊の雑誌を取り出した。
それを持ったままソファに戻ると適当にページを開いていく。
レース関係の雑誌かとも思ったが表紙からして違うようだ。
何かと聞く前にトレーナーが口を開いた。
「ほら、7月の下旬から短い期間で何個もレースがあるだろ? 3回連続小倉レース場だから何日かあるオフは福岡に泊まって足を伸ばすのも悪くない。それに真夏だし、オフともなるとちゃんとリラックスできるものが良いかと思ってさ」
「うん?」
「夏にどっか行きたい場所とかあるか?」
「…………ええッ!?」
理解するのに数秒かかった。
この男自身にはそんな自覚も一切なくただのオフの日をどう過ごすかというだけなのだろうが、率直に言ってしまえばデートのお誘いだった。本当にトレーナーは何の意図もないのだが。
しかしそこは年頃の女の子ナイスネイチャ。
あんな事言われれば嫌でも意識してしまうのも無理はない。というか誰だってそう思ってしまう言い方をするトレーナーが悪い。
言われるがまま渡された雑誌を見る。福岡の旅行雑誌のようだった。
適当に見ていくだけでも豪華なホテルや観光地に海水浴場まである。はっきり言って中等部の自分にはまだ早いと思ってしまうほどのレベルだ。
「ね、ねえ、アタシは別にこんな豪勢な場所とかじゃなくても大丈夫なんだけど……」
「せっかくの夏だぞ。クソ暑いだけでもやってらんねえのにレースが続くんだからオフはみっちり満喫しないとモチベも保てないってもんだよ」
「もしかしなくてもさ、トレーナーさんとアタシの2人だけだったりする?」
「当たり前だろ。チーム・アークトゥルスは俺達だけなんだから」
これで確定してしまった。
2人っきりだ。たった2人で福岡でオフを楽しむ男女の出来上がりが確定してしまった。
そこら辺の店やデパートに行くのとは訳が違う。どうあがいてもただのお出掛けとは意味が異なってしまう。
もはや爆発しているもふもふなどどうでも良くなっていた。
ならばほんの少しでも、と思い雑誌を見る。
どこもかしこもロマンチックな景色や豪勢な食事、賑わいのある観光地などの見出しが書き込まれていた。
呑まれてしまってはダメだ、と思う。
こんなにも魅力のある場所に行ってしまえば、きっと思い出はその場所の方に大きく残ってしまう。
(ほんの少しでも……トレーナーさんとの思い出を強く残したい……)
ネイチャにとってどこに行くかなどの場所は正直どうだっていい。
大事なのは場所よりも思い出。つまりはどれだけ相手の心の中に自分が強く残っているかだ。
であれば。
申し訳なく思いつつも雑誌を閉じる。
「どうした? 行きたい場所なかったか?」
もっと色んな雑誌を持ってくるべきだったかと思っているトレーナーへ首を横に振る。
いつもよりボリューミーな髪を指でクルクルと巻きながら、だ。
ネイチャはあえてトレーナーと視線を交えてこう言った。
「アタシね、トレーナーさんと一緒ならさ……別にどこだっていいんだよ」
「……、」
何か髪を弄りながら指をくねくねしている。
こちらの金銭面を心配しているのだろうかと勘繰るトレーナー。趣味が基本的にないのでこういう時こそあり余った貯金を崩せるというものなのだが、ネイチャはそういうとこを気にしてしまう性格なのだろう。
ただネイチャの気遣いを無下にしてしまうとこの優しい娘はいつまでも気にしてしまうので、結局はトレーナーが折れるしかないのだった。
溜め息一つ。せめて彼女が満足できるような返しをする事に全力を尽くす。
「しゃあねえ。じゃあどこに行くかはその時また決めるか。俺もお前とならどこでも楽しめそうだしな」
「んっ」
ニカッと笑うトレーナーに笑みを返す。
きっと、これでいい。その方がずっと心に残ると信じている。
「雨はまだ止みそうにないな。ちょっとトイレ行ってくるわ」
「はいはい、相変わらず空気をぶち壊すのが得意なようで」
部屋に1人残った少女。
テーブルに置かれた雑誌を一瞥し、スマホのカレンダーを開く。
思わぬ形とはなったが、夏にトレーナーとどこかに行けるというイベントが増えたのだ。
ならば、気持ちも湧き上がってくるもの。
(元々負けるつもりはなかったけど、レースを頑張る理由が増えちゃったな)
梅雨のどんよりとした気分が一気に華やかになったネイチャだった。
もふもふが爆発しているネイチャの髪に手を突っ込みたいです。
きっと幸せになるに違いない。
では、今回高評価を入れてくださった、
HI ROさん、くろは?さん、フカヒレ珈琲さん、Raven(ゴミナント)さん、百々芦ぺろりんさん、ナナシロキさん、pika4thさん、ぺぺすけさん、ロクでなしの神さん、めうさん、因数分解さん、ガチタン愛好者さん、どらごんずさん、ポケモンマニアさん、真暇 日間さん、danann_scpさん、主犯さん、島人さん
以上の方々から高評価を頂きました。
改めて創作する者にとって必要なのは読者の方々の励ましやご感想一つ一つなんだなと噛みしめています。これだけで意欲が湧いてくるんじゃ。
本当にありがとうございます!!
実は安直ではありますがトレーナーの名前にもちゃんと由来や意味があります。