お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話   作:たーぼ

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23.七夕に何を願う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 7月7日。

 

 

 

 まだ完全に梅雨が明けた訳ではないが、この日は雨が降る様子も一切なく雲一つない快晴の空。

 

 

 

 

 

 

「いやあっつ!!」

 

 突き抜ける太陽光が容赦なく人様の頭を熱していた。

 トレセン学園。その中にあるグラウンドでトレーナーこと渡辺輝は練習中にも関わらず思いっきり太陽へ愚痴っている。

 

 

「何なんだよこの暑さ。久々に湿気がないと思ったら今度はカラッカラの灼熱地獄じゃねえか! 太陽テメェこの野郎少しは遠慮しやがれ気遣いってもんを覚えてこいド阿呆がぁーッ!!」

 

 何か太陽に向かってめっちゃ暴言を吐いていた。

 そこへやってきたのが担当ウマ娘のナイスネイチャだ。半袖半ズボンの体操服に汗だくの状態で腰に手を当てている。

 

 

「何で太陽に喧嘩売ってんのさ。アタシなんてこのこの暑さの中を何周も走ってんだからトレーナーさんはまだマシでしょ? 暑さに負けないために体力増やさないとって言ってたのはどこの誰だっけ?」

 

「それはネイチャの話であって俺の話じゃないから関係なうゅあぅえぁ~」

 

「ほら溶けないでちゃんと立つ。もう、次からちゃんと自分の日傘とか日除けのパラソルとか持ってきなね? トレーナーさんが熱中症になったらアタシが困るんだから」

 

 溶けかけたトレーナーをあらかじめ持って来ておいたネイチャの日傘に入れる。

 陰があるだけ幾分かはマシになるだろう。

 

 人間とウマ娘では体の作りが少し違うのか、ウマ娘は一般の人よりも暑さに耐えれるらしい。

 それを含めてもこのトレーナーの暑がりは異常だが。いいや、寒がりでもあったか。

 

 

「日陰って素晴らしい。ネイチャ、俺はこれから陰キャになるよ」

 

「なるな」

 

 冗談が言えるくらいには暑さを凌げたらしい。

 確かにこの暑さの中、まだ猛スピードで走って風を感じれるネイチャよりも、その場でじっとそれを見ているトレーナーの方がじんわりと熱に侵食され辛いのかもしれない。

 

 ネイチャは流れた汗をタオルで拭きつつ、クーラーボックスからスポーツドリンクを出し水分補給をする。

 熱い体の中を冷たいドリンクが流れていくのを感じた。この時期の水分補給はこまめに多く摂取しなければならない。暑い中を走るウマ娘なら特にだ。

 

 そしてそれを見守るトレーナーも。

 

 

「ほい、トレーナーさんの分のスポドリ。ちゃんと飲まないとだよ」

 

「おう、サンキュー。……いや何で俺がサポートされてるんだよ。逆だろ」

 

「思ったより暑さにやられてるからでしょ。それにアタシの担当なんだからネイチャさんがトレーナーさんを逆に支えるのも道理じゃない?」

 

「……? そうなのか?」

 

「そうそう。お互い支え合ってこそのパートナーじゃん?」

 

「ふむ……なるほどな。うん、よし、さすが俺の最高のパートナーだなっ」

 

 ペシンッと、納得したトレーナーがネイチャの頭に手を置こうとしたところでネイチャの手によって弾かれた。

 いつもなら素直に受け入れるのにだ。笑顔で手を弾いてきたのだ。

 

 

「……、」

 

「……、」

 

 ペシンッ、ペシンッと、無言の戦いが始まった。

 

 

「何で弾くんだよ! そこは受け入れるところじゃん! 俺達って支え合うパートナーだよね!? 思いっきり拒否されてるんですけど!?」

 

「今日は暑くていつも以上に汗かいてるから個人的に嫌なの!」

 

「そんなのレースの後と変わんないだろ?」

 

「気分が違うから!」

 

 どうやら乙女心は難しいようだった。

 嫌がるのに無理矢理という趣味はないのでここは素直に引いておく。弾かれて地味に傷付いたのは決して顔に出さない。

 

 

「アタシはまた走ってくるから、ちゃんと見ててよ」

 

「バッカ、どんだけ暑くてもお前の走りから絶対目は逸らさねえっての。トレーナーだからな」

 

「ハイハイ」

 

 軽く流したまま彼女はコースの方に駆けていった。

 外はどれだけ暑くても心の中はそこはかとない寂しさで冷えるトレーナーであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレーニングが終わっても空はまだ暗くはなっていない。

 陽が長くなるとこういう事も良くある事だ。

 

 夏にもなるとさすがにネイチャもトレーナー室で直接着替えたくはないのか、シャワーを浴びてからトレーナー室に戻ってくる事が多くなった。

 そうなってくるとトレーナー室に残っているのは渡辺輝のみ。エアコンの効いた部屋というものは灼熱地獄の外を考えると天国のようなオアシスだった。

 

 

「もうこの部屋から出たくねえ……」

 

「たまにトレーナーさんってこの仕事に合わないんじゃないかってレベルで外の温度に弱いよね。特に夏と冬」

 

「むしろ暑いのと寒いのに強い人間がいること自体信じられん。実はウマ娘なんじゃねえかそいつら。そしていつの間に戻ってきた?」

 

「ただ単にトレーナーさんが弱いだけでしょ。あと今戻ってきたとこだよー」

 

 ソファから起きると隣にネイチャが座った。

 シャワー上がりだからかほんのりとシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。時計を見ると時間は夕方の6時半を差していた。

 

 

「アタシは帰るけどトレーナーさんは? まだ仕事残ってるの?」

 

「いや、もう終わらせたから涼んでたとこ。まあ時間も時間だし俺も帰るかねえ」

 

「じゃあ途中まで一緒に帰りません? トレーナーさん家も近いから徒歩なんでしょ?」

 

「別にいいぞ。にしても最近暑いし明日から車で来ようかな」

 

「徒歩数分で着くのに車って贅沢すぎません?」

 

「その数分でクソ暑くなるんだから仕方ねえじゃん。暑いのが悪い」

 

 他愛ない会話をしながら2人してトレーナー室を出る。

 さすがに夕陽も沈みかけてきて夜が来る雰囲気になりそうな空だった。

 

 廊下を歩きながら窓の外を見れば一番星が輝いている。

 星、というワードでようやく今日が何の日か思い出した。

 

 

「ああ、そういや今日って七夕か」

 

「トレーナーさんでもそういうの覚えてるんだね」

 

「大人になったし今となっちゃ特別感ってのは全然感じないけどな。ああいうのは小さい子供とか学生が短冊に色々書いて盛り上がるもんだろ。俺も中学生の時はふざけて空から大量の金が降ってきますようにとか書いてたし」

 

「欲望丸出しじゃん」

 

 トレーナーのロマンもへったくれもねえ過去が明らかになった。

 実際の言い伝えには一年に一度だけ天の川で彦星と織姫が会える日などと言われているが、現実の人々からすればそれよりも短冊に願い事や行事食としてそうめんを食べるなどのちょっとしたイベント気分でしかない。

 

 

「けど実際短冊の願い事って結局のところ望みという名の欲を書く事だろ? 夢が叶いますように、健康でいられますように、誰々とずっと一緒にいられますようにとかってさ、最終的には自分の欲じゃね」

 

「ホントトレーナーさんってロマンのロの字もないよね。や、アタシもそんなだけど」

 

 少し同感してしまう辺りネイチャもネイチャである。

 これでも自分で卑屈系女子と自覚しているのだから無理はない。無謀な願い(欲望)ほど叶いっこないのは重々承知しているのだから。

 

 

「そんなところでまた思い出したんだけど、トレセン学園って毎年この時期になるとウマ娘達が短冊に願い事を書けるようにその辺に笹飾りとか置いてるんだよな。……あ、あった。あれあれ」

 

「うへ~、もう結構飾られてんね」

 

 庭園に出ると笹飾りがあり、そこにはもう多数の短冊が飾られていた。

 

 

「『レースで一着になれますように』、『重賞レースに勝ってセンターでライブできますように』、『もっとたくさんのにんじんを食べられますように』、『食堂のメニュー全制覇したから新メニュー増えますように』、『もっとダジャレの腕が上がりますように』、『宇宙行きてえ~、誰か拉致って行くか』、『尊すぎてすぐ鼻血出る癖が治りま(ここから先は血で滲んで読めない)』、『ダジャレにもっと早く気付けますように』、『美味しいラーメンを広められますように』、『ビクトリーズがもっと勝てますように』、『常にバクシンあるのみです!』……後半欲望だらけじゃねえか」

 

「個性爆発って感じですなあ」

 

 まさに十人十色の願い事(?)が書かれている。

 ウマ娘にもそれぞれ欲があるらしい。一部願いですらないような気もするが。

 

 

「正直見てて飽きないなこいつらの短冊。いくつか誰のか分かるのもあるし。つか血が滲んでるヤツ大丈夫かよよくそのまま飾れたな」

 

「まあレースに勝つのは自分の努力次第だし、それなら短冊くらい自分の好きなように書いてもいいんじゃないって事かね~」

 

「中坊の時の俺とほぼ一緒じゃん」

 

 考えてみればネイチャもこの短冊を書いたウマ娘達もまだ学生だ。

 短冊にこんな事を書いていてもトレーナーの過去から見れば何ら不思議ではなかったりする。

 

 視線を横に向ければご丁寧に机とペンと短冊が置かれていた。

 

 

「お、ちょうどいいな。ほれ、ネイチャも願い事書いとけよ」

 

「えーアタシはいいよ別に」

 

「こういう行事には少しでも参加しときゃ気分も乗ってくるもんだぞ」

 

「じゃあトレーナーさんも書こうよ。そしたらアタシも書くからさ」

 

「まじか。何年振りだ書くの……」

 

 ネイチャに言われ仕方なくペンを手に取る。

 急に言われても願い事なんて出てきやしない。トレーナーになる夢は叶ったし、ネイチャをGⅠで勝たせるのは願いではなく誓いであり決定事項だ。書くべき事ではない。

 

 となると、やはりレース以外では基本無頓着なトレーナーは適当な欲望ばかりが出てきてしまう。

 ここは学生の時と変わりないらしい。

 

 

(子供の頃はふざけて書いてたけど、俺も今は一応学園の生徒に教える立場でもあるしバカみたいな事は書かない方がいいよなあ)

 

 ギリギリのラインでバカは踏み止まった。

 

 

(レースに勝つ……はアタシにとっては難しいから間違いではないんだろうけど、それだと勝てない前提みたいになってトレーナーさんに申し訳ないよね……。こればっかりは自分で何とかしないと)

 

 対してネイチャは案外真面目に考えている。

 

 

(七夕なんだからそれらしい事……ってなると……)

 

 そもそも七夕の由来は諸説あるが有名どころで言えばやはり織姫と彦星伝説だろう。

 普通に考えればロマンチックな願い事を書く人が多いようにも思える。

 

 斜に構えがちなネイチャも年頃の女の子。そういう事を考えなくもないのだった。

 隣を見る。何を書こうか迷っているトレーナーの横顔があった。自分よりも年上なのにどこか子供っぽい表情に見えて可笑しくなってしまう。

 

 自然と、持っていたペンが動いていた。

 

 

 

 

 

 

「……ま、こんなもんか。ネイチャは書けたか?」

 

「うん、アタシはもう飾ったよ」

 

 数分してようやく書けたと思ったら担当ウマ娘は既に飾り終えたという。

 そうなれば先ほど見たウマ娘達の個性豊かな願い事からして気になったトレーナーは聞いてみた。

 

 

「どんなの願い事書いたんだ?」

 

「え~ナイショ」

 

「何でだよ教えてくれたっていいだろ」

 

「気になるならこの中から探してみればいいじゃん」

 

「無数にある中から一個見つけ出すのはさすがに無理じゃん!」

 

 ただでさえ生徒数も多いこのトレセン学園。しかもみんなきっちり短冊に飾っているのを見るとほぼ全生徒が書いているのだろうと思う。

 渡辺輝、一目で諦めた。

 

 

「トレーナーさんのも別に言わなくていいからさ。どうせ子供っぽい事書いてるのは想像つくし」

 

「たまに君って俺の事めちゃくちゃ下に見てくるよね」

 

「違うの?」

 

「舐めんな。俺だってもう大人だぞ。少しは……いや、超絶大事なこと書いたっつうの」

 

「ふふっ、ホントかな~?」

 

「あれ、もしかして信用されてない俺?」

 

 トレーナーも短冊を飾り終えると2人して校門の方へ歩いていく。

 お互いの短冊を確認しないで、だ。

 

 そろそろ星も見えてくる空の中、一年にたった一度しかやってこない日を2人は普通に過ごしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪ネイチャと共にこれからも歩んでいけますように≫

 

 

 

 

 

≪トレーナーさんともっと長く一緒にいられますように≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっと、2人もそういう気分に乗せられたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





はい、という事で一日遅れの七夕でした。
昨日投稿したかったのですが、どうしても執筆が間に合わず申し訳ございません。


他のウマ娘達の短冊についてはある程度予想できるかと思われます(笑)


では、今回高評価を入れてくださった、


イナトさん、ルスワールさん、とめいとうさん、norosukeさん、まがつさん、いぬくまさん、qonopさん、太鼓さん、えふえふさん、曙好きの提督さん、hidarimeさん、eqriaさん、るいさん、獅子王鈴音さん、アヌベールさん、雑食さん、七篠言平さん


以上の方々から高評価を頂きました。
投稿する度にランキングに載せていただいて恐縮です……。のびのび頑張ります。
本当にありがとうございます!!




今回のウマ娘イベントに使われているVR、ファンタジー世界に行けるなら色々とネタが作れそう感ありますよね。
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