お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話 作:たーぼ
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9月も中旬になった頃。
とある街の神社付近にネイチャのトレーナー、渡辺輝はいた。
トレセン学園で着ている普段のスーツとは違い、一応は成人している事もあってか普通にラフな私服状態だ。
時刻は夕方の6時半前。トレーナーは6時には着いていたが待ち合わせ時間にはまだ5分ほどあるのでスマホを操作し適当にマンガアプリで暇潰しの最中である。
視界の端に映るのは男女のカップルや友人グループ、家族連れや学校帰りなのか制服のまま来ている者達もいた。
そしてより目立つのは6割ほどの女性が浴衣を着ている事か。対して男連中は視界に映る限り全て私服だ。ここに男女の意識の差というものを感じる。
一つのイベントを普段と変わらず過ごすか、大事な青春の1ページにするため最大限の努力をするかだ。
(うん、やめよう。私服の俺がブーメランで自滅するだけだ。それに俺は大人だしああいうのは子供達だからこそ青春って感じがするしな)
子供を見ていると時折自分の年齢を実感してしまう。
バカみたいに騒いでいたあの頃なんてもはや懐かしいと思ってしまうほどだ。どうやら大人になると歳をとる感覚が短くなっていくのは本当らしいと悟る23歳。
そんな自虐めいた思考をしているとすれ違う人々とは違う足音がした。それは確実にこちらを向かってきているようで、トレーナーがその音の方へ視線を向けると、音の主がいた。
カツッカツッと、下駄の音が止まる。
見慣れた担当ウマ娘が見慣れない恰好でやって来た。
「……え、えっと……お、お待たせ~」
下駄を履いているので当然私服でもない彼女、ネイチャは浴衣姿だった。
白を基調としていて彼女の髪のように赤い水玉模様が特徴的な浴衣だ。浴衣という事もあってか、それに合うように髪はいつものツインテールではなく後ろに結んだポニーテールだ。
そのせいで普段とのギャップが凄い。
まだ中等部の女の子なのに大人びた雰囲気が漂っている。
「待った?」
「……いや、俺もさっき来たとこだからちょうど暇潰しにマンガでも読んどこうかなって思ってたとこだ」
「相変わらずトレーナーさんはブレませんな~」
たははと苦笑いしているネイチャを尻目に少しだけ目を逸らす。
一瞬でも見惚れていたなんて絶対に言えるはずがない。ましてや大の大人が教え子に、だ。それだけで何だかイケない匂いがプンプンしてしまう。
「んじゃネイチャも来た事だし、さっそく行くか」
そう、3連戦のレースを終え残るは10月の
残された日数もまだ余裕があり、トレーニングも順調だしという事で以前から息抜きとしてどこかに行こうとしていた予定が決まったのだ。
それが夏の恒例行事、夏祭りである。
トレーナーとならどこに行っても良いとネイチャが言っていたが、どうせなら少しでも季節のイベントを楽しんでもらおうとして決めたのがこれだ。彼女に言ったら二つ返事で了承してくれたのでトレーナーとしてもありがたい。
しかもネイチャがこんなにもおめかしして来るという事はそれだけ楽しみにしてくれていた可能性も高いのだ。
提案したこちらとしても悪い気分ではない。
そうして神社の入口に入ろうとしたところで、
「……ねえ」
「どうした? 下駄だと歩きにくいか? もちろんペースはネイチャに合わせるぞ」
「いや、それもありがたいんだけど……えと、そうじゃなくてですね……」
何やらもじもじしていらっしゃった。
浴衣でそんな事をしていると衣擦れの音が凄いのでちょっとやめてほしい。嫌でも意識してしまう。
そんなネイチャは業を煮やしたのかとうとうボリュームを上げてこう言った。
「だーもうっ、だからさ、あ、アタシの浴衣姿見て、何かこう……ないんですかね……!」
最後の方はちょっと小さくなっていた。さすがに周囲の人の事も気にして恥ずかしいらしい。
とはいえ思春期の、ましてや捻くれ系女子がなけなしの勇気を持って聞いてきたのだ。であればこちらも大人としてちゃんとした言葉を返さなくてはならない。そういうとこは弁えているのだ。
「ああ、お前は何着ても似合ってるし誰が何と言おうと世界で一番可愛いと俺は思ってるぞ」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はあ~」
長い沈黙からの溜め息であった。
あれ、思ったより反応が悪い? と思いつつもネイチャの顔を窺うトレーナー。それに気付いたネイチャはさっさとトレーナーよりも先に神社の入口へと進んで行く。
「もぉ、早く行くよっ。お祭りのためにお腹空かせてきたんだから」
「お、おう」
言葉の選択肢は間違っていなかったように思うが、結局はそれを貰った個人次第だ。捉え方は人によって違う。
ネイチャに掛ける言葉としては失敗だったのかもしれない。
(確かに普通にあんな事言ったらむしろクサいと思われちまうか? マンガに影響されすぎたかなあ)
趣味とはいえマンガの読み過ぎには注意しないといけないか、と勝手な推測をたてつつネイチャに着いて行く。
そして、だ。
件のネイチャはトレーナーから見えないよう必死に顔色を元に戻す努力をしていた。
(あーもうっ、あの人はああいう事を普通に言ってくるから一応心の準備はしてたのにい! どうしてこういつもいつも簡単にぶち破ってくるかなあ……!)
クリティカルヒットだった。
キャッチボールでフワッと優しい返しが来ると思っていたら剛速球ストレートを返された気持ちである。
幸い周りに見知ったウマ娘や人はいない。そのためにわざわざ地元と少し離れた祭りを選んだのだ。
端的に言えば、知り合いがいないここでなら思う存分楽しめるということ。顔に集中していた熱は何とか治まった。
今から始まるのは何てことのない、ただの男女が祭りで遊ぶだけだ。
だからこそ、価値あるものにしなければならない。
「さて、トレーナーさん。何からします?」
やはりそこはネイチャのトレーナー。一年半近く共にいると最高の相棒みたいなものでやりたい事の一つや二つ分かったり分からなかったりする。
この場合は分かった時だった。
「決まってんだろ。とりあえず片っ端から腹ごしらえだ!」
「さっすが分かってるうっ!」
こうして、トレーナーとネイチャのお祭り弾丸ツアーが始まった。
「おぷぅ……」
「いや食べすぎだってば……」
瀕死のトレーナーが人気の少ないベンチで横たわっていた。
あれから数十分、ありとあらゆる屋台の食べ物をトレーナーの奢り(ここでネイチャと割り勘かどうかで一悶着があった)でほとんど食べ尽くしたのだが、一般男性の胃袋の許容量はそんなになかったらしい。
「ウマ娘のアタシと人間のトレーナーさんじゃそもそもの食べる量が結構違うんだからね。無理したらそりゃそうなりますわ」
「反省はしている。後悔はしていなうぇぷ」
「ったく、男の人って何でこう後先考えず突っ走っちゃうかねえ」
「大人になっても男は心に少年魂を飼ってるんだよ」
「アタシに膝枕されてる状態で言われてもダサい事には変わりないよ」
人気が少ないからこそ膝枕をしてあげていた。
浴衣が崩れないか心配だったから断ろうとしたのだが、ネイチャが固いベンチで寝させるのはダメだと頑固だったので甘える事になったのだ。
休憩してから10分ほどたった頃。
ようやくトレーナーが体を起こした。
「ふう、ある程度回復した。悪かったな、せっかくの祭りなのにこんな事でロスさせちまって」
「あの張り切り様見てたらこうなるって分かってたし別にいいよ。アタシもトレーナーさんと同じもの食べるの楽しいし」
何て良い娘なのだろうと思わず涙が零れそうになるのを堪えるトレーナー。
ならばもっと楽しませてやるのが自分の義務だ。
「よし、今度こそ遊びまわるか。ちなみにネイチャはまだ食べたい物とかあるか?」
「うーん、りんご飴とかはまだだし最後に食べたいかな」
「分かった。じゃあ最後にそれ買うか。それまでは適当にやりたいもんでもやろうぜ。全部俺が出すから気にすんなよ」
「自分の分は自分で出したいんだけど、言っても聞いてくんないし……仕方ないから甘えちゃおうかな」
「おう、甘えろ甘えろ」
いよいよ祭りの醍醐味を味わう事になった。
「金魚すくいとか何年振りだ? 子供ん時もそんなやった事なかったし……お、こいついけそうだな。……ちょ、ま、ああッ!? おい一回目なのに盛大に破れたぞおい!? こんな脆かったっけか!?」
「水に深く浸けすぎなんだって。これをこうして……ほら取れた」
「一気に二匹取った……だと……!? プロか? プロの金魚すくい師なのかお前!?」
「いやウマ娘ですけど」
「射的って倒した物を貰えるんだっけ。倒したら別の景品貰えるんだっけ。どっちだっけ?」
「アタシもよく分かんないや。どっちのパターンもあるんじゃない?」
「だよなあ。明らかにいらん景品とか立ってるし」
「言い方」
「とりあえず簡単に倒せそうなお菓子とかやるか。にんじんポッキーでいいか。そいっ……」
「ビクともしないね」
「……、」
「や、そんな連発しなくてもアタシ他の景品でもいいからさ?」
「おい親父テメェこら絶対倒れねえように細工してんだろこれ!?」
「にんじんポッキーは頑丈なんだよ兄ちゃん。ほら、彼女さんにプレゼントしたいんならもっとチャレンジしな!」
「か、かのッ……!?」
「おっしゃやってやんよ上等だこの野郎! どんな手段を使ってでもぶっ倒してやらあッ!!」
「かかってきな兄ちゃん!! アンタのそのやる気をぶつけてみろ!」
「何も聞いてないなこの人」
「10回やっても取れないからって鉄砲ごと投げるのはどうなのよトレーナーさん」
「どんな手段を使ってでもって言ったろ。最終的に取れたんだからいいじゃねえか」
「おじさんがその心意気に免じて譲ってくれただけじゃん」
「けど俺はあの親父がにんじんポッキーを縦から抜いたの見てたからな。あいつあのゲス野郎割り箸仕込んでやがった」
「もーいいじゃん。ほら次行こ?」
「へえ、輪投げ上手いんだなネイチャ」
「アタシもまさかこんな上手くいくとは思ってなかったけどねー。で、トレーナーさんの成果は?」
「ゼロだけど? 何か?」
「トレーナーさんホントレース以外の事だと上手くいかないよね」
「何気に気にしてる事言うのやめて!」
「くじとかはやんないの?」
「子供の頃にゲーム機当てようとお小遣い全部注ぎ込んで爆死してからはやらないようになったな」
「何やってんのさ……」
「そのせいで晩飯代わりのお小遣いまで失ったから家で親に泣きついて晩飯食わしてもらったなあ。あの頃は俺も若かった」
「子供特有の欲だよねえ」
「ちなみに中二の時な」
「アタシと一緒の時かい!!」
最後にりんご飴を買って、帰路についている時。
「そういやここの近くでは花火とかはやってなかったみたいだな」
「あー確かにそうだね。小さめのお祭りだったからかな?」
小さい神社の祭りだったからなのか、ここいらで花火大会をやるという情報はなかった。
ネイチャはどこでも良いと言っていたが、規模の小さい祭りでも良かったのかは正直分からない。
「ここに決めたのは俺だけど、楽しめたのか? 規模も小さいし、花火もなかったけど」
「そんな事気にしてたの? 前も言ったけどアタシはトレーナーさんとならどこでも良いの。お祭りだってちゃんと楽しめたよ」
「……そうか」
「何やらご不満な様子ですねえ? アタシの言った事が信じられない?」
トレーナーとしてレースを頑張ってくれているウマ娘を労いたいという気持ちは本物だ。
そこにレースでの勝敗など関係ない。だからこそ、やはり心のどこかではもっとネイチャを楽しませたいという思いが出てくる。
「そういう訳じゃないんだけどな。俺としてはもっとネイチャを労いたいというか、楽しませたいってのがあるんだよ。担当ウマ娘のために俺が出来る事は何かってどうしても考えちまう」
「屋台じゃあんなにボロボロだったのに、レースとかウマ娘の事となるとホント真面目になるよね~」
「それが今の俺の生き甲斐みたいなもんだからな。ネイチャをもっと大事にしたいんだよ」
「っ……すぐそういう事言うんだから」
真面目に自分の事を考えてくれている。それだけでネイチャは充分なのだ。
これ以上を望むのはきっと我が儘だからと思っているのに、トレーナーはそれでも良いと言っている。
「よし、決めた!」
「うぇえ、どうしたの急に?」
突然トレーナーが声を大きくして言った。
まるで決定事項だと言わんばかりに。ネイチャの些細な我が儘を押し切るようにだ。
「来年も一緒に祭りに行こう」
「……え?」
「そんで今度はもっとでかい祭りのとこに行ってさ、花火でも見ようぜ」
「……いいの?」
「じゃあ逆に俺が聞かせてもらうよ」
立ち止まる。
他に帰宅途中の人達が過ぎていくのを尻目に。
「ネイチャ、これが俺の我が儘だ。だから、俺の我が儘を聞いてくれるか?」
これ以上を望むのはきっと我が儘だから遠慮していた。
中等部だけど、まだまだ子供だけど、周りのウマ娘達よりも少し大人びた思考を持っているから我慢していたのに。
トレーナーがそんな事を言ってくるなら、断る事なんてきっと出来ない。
ズルい、と少し思ってしまった。しかしそれと同時に嬉しくあったのも事実だ。
だから、答えは決まっている。
「仕方ないなあ、トレーナーさんは。だったら来年も楽しみにするしかないじゃん」
「決まりだな」
来年の楽しみが増えた。
はい、今回はお祭り回でした。
ネイチャの浴衣姿絶対可愛いんですよね(確定事項)
では、今回高評価を入れてくださった、
ff_akssphrさん、りゅーどさん、香具土美鳥さん、ユキワラさん、味の染みない染みこんにゃくさん、表の月面さん、Morse信号機さん、宮部仁さん、カナハナさん、ナキネナ・F・Aさん、ravellさん、ぐみすらいむさん、まいせんpammさん
以上の方々から高評価を頂きました。
様々な激励を頂いており励みになります。本当にありがとうございます!!
活動報告にて頂いているシチュエーション募集の話に関しましては、関係がもう少し進展してから書いていきますので、しばしお待ちを!