お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話   作:たーぼ

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26.勝負服

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は約1ヵ月前まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よし、ネイチャ、採寸するぞ』

 

『……え?』

 

 オフの日にトレーナー室で本を読んでいたネイチャにトレーナーが突然そう言ったのだ。

 当然何の事か一切分かっていないネイチャの脳内には疑問符しか出てこない。

 

 

『よし、ネイチャ、採寸するぞ』

 

『一字一句言い直さなくても聞こえてるから。どういう意味なのかって事の“え? ”だったんだけど』

 

 率直に言えば急に何言ってんだこいつ状態である。

 採寸と言うだけあって既にメジャーを構えながらネイチャの方へにじり寄って来ていた。事前説明がないので見た目がただの変態に見えてきてしまうのは気のせいか。兎にも角にも確認だけはちゃんとしないと気が済まないネイチャ。

 

 

『何を採寸すんの? もしかしてアタシ?』

 

『当たり前だろ。1ヵ月後には菊花賞があるんだ。待ちに待ったGⅠ、つまりはだ』

 

 そこまで聞いてようやく理解した。

 言わなくても分かってるだろという視線を向けてきたトレーナーにも納得がいく。

 

 そう、つまりは。

 

 

『勝負服がいる』

 

『それでアタシを採寸しようって事ね』

 

『おうとも』

 

 言い分は分かった。

 しかし納得できない部分があるのも確かだ。

 

 ナイスネイチャはウマ娘というだけあって女の子である。それも思春期真っ只中で大人達に囲まれて育ってきたマセた子供だ。

 そんな女の子が採寸するのに、何故成人男性であるトレーナーがメジャーを持っているのか。何故採寸してくれる女性トレーナーやウマ娘がいないのか。答えを知っているのは目の前の男だけだ。

 

 

『で、トレーナーさんがメジャーを持ってる理由は?』

 

『俺がお前を採寸するからだけど』

 

『普通に真顔で言ってくんなっての! 常識的に考えて他の女性トレーナーさんか知り合いのウマ娘呼んでってば!』

 

『……あ、その手があったか。すまん』

 

『ホントこういう時だけ周り見えなくなるよね……』

 

 危うくセクハラになりかけたトレーナー。

 せっかくなのでネイチャの友人であるマヤノトップガンに連絡したらすぐに来てくれる運びとなった。

 

 

『つうかたかが中等部の子供の下着姿とか見たぐらいで俺は一ミリも何も思わんけブルゥッハァッッッ!?』

 

『そんな事いちいち言わなくていいっつの!! てかそれ思いっ切りセクハラだから! そんなんだから彼女できないんだよもうっ!』

 

ふぉふぇんふぁふぁい(ごめんなさい)……』

 

 普通にセクハラしてぶん殴られたトレーナー。

 彼女いない歴=年齢だと女の子とのコミュニケーションにもっと気を配らないといけないと反省した。多分今までで一番強いパンチだったと思う。

 

 バタンッと、トレーナー室のドアが勢いよく開かれた。

 

 

『ネイチャちゃんのためにマヤが来たよ~! ……って、あれ? 何でネイチャちゃんのトレーナーさんこんな所で倒れてるの?』

 

『さてマヤノ、来てくれてありがとね。さっそくなんだけどこのおバカさんを外に放り出して服の採寸してほしいんだけど、お願いできる?』

 

 少し顔を赤くしているネイチャ。頬にぶたれた跡がくっきり残ったまま倒れているトレーナー。その手に持たれているメジャー。ネイチャからの採寸の依頼。

 これ以上ないほど状況証拠がばっちりあった。

 

 すぐに察したマヤノは倒れているトレーナーへしゃがみ込んで笑顔でこう言った。

 

 

『これはトレーナーさんが全部悪いねっ!』

 

『べぅ……』

 

 10:0で罪人扱いだったが正論すぎて何も言えない。

 そのままウマ娘の力で廊下に放り出された。

 

 中からマヤノとネイチャの会話がうっすら聞こえてくるのを耳に感じつつ、地味に彼女できないんだよと言われた心にショックを受けるトレーナーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時間は現在まで戻る。

 

 

 

 

 トレーナー室。

 そこでオフだからとまた居座って適当にスマホを弄っているネイチャがいた。

 

 トレーナーは荷物を取りに行くと言ってトレセン学園から一旦外に出ている。

 時計を見るとそろそろ戻ってきてもいい頃合いのはずだ。そんな事を思っていると廊下の方からバタバタと足音が近づいてきた。

 

 

「ネイチャ、できたぞ!!」

 

「何が?」

 

 ドアを開けて開口一番、トレーナーが興奮した様子で叫んだ。

 

 

「勝負服だよ勝負服! この前マヤノが採寸してくれただろ。あの後ネイチャの細かな希望とかも聞いて依頼した完全オーダーメイド、ネイチャだけの勝負服が完成したんだよ!」

 

「……ま、マジでっ!?」

 

 いつもは少し冷めたリアクションをとるネイチャが珍しくスマホを置いて立ち上がる。

 ウマ娘なるもの、GⅠで走る衣装というのはやはり特別だからだろうか。

 

 トレーナーがさっそく包装されている荷物を丁寧に開けていくと、それは姿を現した。

 しかしそれをトレーナーはすぐにネイチャに手渡すと背を向く。

 

 

「え、な、何っ?」

 

「せっかくなんだし廊下に出てるから着てみろよ。一応サイズとか諸々確認もしないとだしな。それに」

 

「それに?」

 

「最初の実物はちゃんとお前が着ているのを直接見たいから」

 

「っ」

 

 このトレーナーはすぐそういう事を言う。

 だがせっかくの勝負服、ネイチャ自身も着てみたいと思っているのは本心だ。レース本番の日に着るのも悪くはないが、トレーナーの言う通り万が一の事も考えてサイズの確認はしっかりしないといけない。

 

 

「じゃあ着替えるからちょっと待っててくれる? 出来るだけ早く着替えるからさ」

 

「了解した」

 

 そうと決まればさっさと廊下へ出ていくトレーナー。

 部屋に1人残ったネイチャは今一度手に持っていた勝負服を見る。

 

 この数分間だけは自分だけの空間だ。誰もいない。トレーナーすら外にいる。

 圧倒的な高揚感はどうやら抑えられそうになく、自然と口角は上がっていた。誰のものでもない、ネイチャだけの専用の勝負服。

 

 

「……っと、早く着替えないと」

 

 外にトレーナーを待たせている以上、ゆっくりしている時間はない。

 特殊な作りはしていないから割とすんなり着替える事ができるはずだ。普段と違うのはベルトがあるぐらいか。

 

 ともあれ、念願の勝負服に手をつける少女の顔はどことなく楽しげだった。

 

 

 外で待っているトレーナーもドアに背を預けながらこんな事を考えていた。

 

 

(ネイチャにしては珍しくテンション上がってたなあ。本人は頑張って表に出してないつもりっぽかったけど)

 

 衣装を受け取った時のネイチャの表情を思い出す。

 自嘲気味に笑うのでもなく、年相応の少女の笑顔があそこにはあった。

 

 まだレースの本番でもない。ましてやレースに勝ったわけでもない。それなのに、彼女の表情にはそれ以上の価値があるとトレーナーは思う。

 レースの結果だけが笑顔に結びつくとは限らない。ふとした時の不意に出る笑顔にこそ、彼女の素の気持ちが出るのだろう。

 

 

(勝たせてやんないとな)

 

 勝負服。ウマ娘にとって特別な意味を持ち、最高クラスの重賞、GⅠレースに出る者だけがそれを着て走る権利がある。

 そこにネイチャが出るのだ。トウカイテイオーを含めライバル達は多いが、ネイチャなら必ず良い線は行けると信じている。

 

 

(まあ、今はレースよりこっちか)

 

 思考を切り替える。

 レースの事はまた後日考えればいい。

 

 タイミングも良かったのか、ドアの向こうから声がかかってきた。

 

 

「トレーナーさーん、着替えたから入ってもいいですよー」

 

「おーう」

 

 そのままドアを開けて入ると、視界に最初に映ったのは当然ネイチャだった。

 

 

「あはは……ど、どう、ですかね……?」

 

 ネイチャの要望通り、目立ち過ぎず地味すぎずという事でイヤーカバーと同じ赤と緑の色を基調としたリボンと袖が特徴的な服で、ジャンパードレスとブラウスを着用している。

 

 全体的にクリスマスカラーを思わせるのはネイチャ自身に何か思い入れがあるからか。

 何にしてもだ。トレーナーとして言える事はただ一つ。

 

 

「ああ、似合ってるぞ。正直想像以上だ」

 

「さ、流石にそれは言い過ぎでしょ~」

 

「んなことねえって。うん、やっぱ元が良いから何着ても似合うとは思ってたけど、勝負服となると格別だな。俺の担当は世界一だ」

 

「すぐ調子良い事言うんだから……」

 

 とは言いつつもにへら顔を隠せていないネイチャであった。

 勝負服だからか気が緩んでいるらしい。完全に満更でもない顔になっちゃっている。

 

 

「本気でそう思ってるよ。ネイチャから希望を聞いた時に何でクリスマスカラーなのかとか色々思い出話を聞かせてもらったからな」

 

「うぅ、軽率に話すんじゃなかったかな~……」

 

「俺は嬉しかったぞ? 大切な思い出話をしてくれたんだ。ちゃんと信頼してくれたのかなって思えたし」

 

「それは、まあ……そうですけど」

 

 こんな事を言われるともう何も言えない。素直に褒め言葉を受け取っておく。

 女手一つでネイチャを育てた母親。休む間もなく毎日ネイチャのために働きっぱなしだった。だから我が儘を我慢していたネイチャが唯一子供に戻れる日としてクリスマスがあったのだ。

 

 純粋な子供だったため、サンタを信じてツリーに願い事として書いた些細な我が儘。

 

『お母さんとキラキラなクリスマスパーティーがしたい』

 

 小さな子供が願うにはあまりにもちっぽけで矮小な願い。

 他の家庭なら当然に過ごしていたであろう特別な日を、子供だからおもちゃやゲームが欲しいといった欲望丸出しのやんちゃな願いを、ネイチャはその小さな体で子供ながらに内に潜めていた。

 

 それ故の、唯一のひと欠片ほどの我が儘を、本気で叶えてくれた大人達がいた。

 ネイチャの願い事を見た母親と、いつもバーに来ていた常連達だ。

 

 毎年クリスマスの日には集まって七面鳥代わりに焼き鳥、ケーキはおつまみ、イルミネーションはミラーボール。

 他の家庭のクリスマスとは全然違っていて程遠いのに、その思い出はネイチャの憧れているキラキラしたものとして記憶されていた。

 

 ありふれた特別な日常ではなく、ネイチャの場所だけでしか味わえない掛け替えのない一日。

 そんな思い出を、少女はこの勝負服に込めたのだ。似合わない訳がない。

 

 

「恥ずかしくないレースにしないとな」

 

「はあー、ちょっと今そういう事言うのやめてよ~。変にプレッシャーかかるじゃん」

 

「ははっ、勝負服姿のネイチャを見て俺も少し気持ちが昂っちまったかな」

 

「何、またセクハラ?」

 

「ねえ俺もういよいよ何も言えなくなってくるよ」

 

 匙加減はいつだって女の子側にあるので油断も隙も無い。

 しかし、実際気持ちが昂ったのはネイチャも同じだ。これを着ていると気が引き締まる。

 

 やる気は出てくる一方だった。

 

 

「ねえ、トレーナーさん」

 

「何だ?」

 

「今日オフなのは分かってるんだけどさ」

 

 ネイチャの手元を見ると、強く握られている。

 何を言いだすのかはもう想像できた。

 

 

「ちょっとだけ、練習してもいいかなっ?」

 

 オフの日にもちゃんと意味はある。

 身体を休めるのも練習の内だときっとこの少女は理解している。それでも内から湧いてくる気持ちに抗えないのだろう。

 

 ならせめて、自分の監視下で見ていれば大丈夫だろう。

 ここら辺はまだやはり子供だな、と思いつつトレーナーは仕方ないといった表情で口を開く。

 

 

「ったく、少しだけだからな?」

 

「……うっしゃっ、さすがトレーナーさん。話が分かるぅ!」

 

「ちゃんと着替えてからだぞ」

 

「分かってるって!」

 

 こんなにやる気になっているネイチャは珍しいかもしれない。

 本来なら休ませるべきなのだが、そこはもう理屈より気持ちだ。勝負服だけではない。彼女の希望を叶えてやるのがトレーナーの役割なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 菊花賞まで、あと一週間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






はい、ゲームの方の勝負服の話が良かったのでこちらでも扱わせていただきました。
ネイチャ良い娘すぎんか。



では、今回高評価を入れてくださった、


味の染みない染みこんにゃくさん、nuko1048さん、田舎野郎♂さん、百々芦ぺろりんさん、麦丸さん、xX やけ酒 Xxさん、柴ドリルさん、ziss_さん、豆狸0818さん、トーマスs かんたわさん、ポケモンマニアさん、eqriaさん


以上の方々から高評価を頂きました。
さまざまな方々から最高などと言ったお言葉を頂いております。本当にありがとうございます!!



これだけ上げておいて落とす訳な――。
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