お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話 作:たーぼ
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10月下旬、京都レース場。
「いよいよGⅠレース、菊花賞だな」
「あ~、さすがに緊張してきた……」
「まあGⅠともなれば客の数も注目度も結構違ってくるしなあ。しかも今回は4連勝してるから2番人気だ。だからこそ今日まで練習頑張ってきたんだし、俺としてはそこに不安はないよ」
「簡単に言ってくれちゃってますねえ」
ウマ娘からすればGⅠは大舞台だ。レースである程度結果を残さなければ出られない。そんな晴れ舞台でネイチャが走る。
トレーナーとしては彼女は成長しているし申し分ない実力を持っていると思っているのだが、彼女の性格上素直に自信があるとは言えないのだろう。これまで4連勝という事もあり注目もされているネイチャ。そのプレッシャーと圧は彼女にしか分からない。
「いつもの走りが出来ればテイオーにだって勝つチャンスはあるはずだ。GⅠだから他のウマ娘達も強いが、それはネイチャだって一緒なんだからな」
「テイオーに勝てるチャンス?」
「前の若駒ステークスの時と一緒だよ。テイオーは1番人気だし、みんながみんなテイオーを警戒してくる。若駒の時とは違って今回はGⅠだ。手強いウマ娘達が揃ってテイオーをブロックしてくれるなら都合が良い。前回同様、逆手を取っていけ」
無敗の三冠ウマ娘を狙っているトウカイテイオー。皐月賞と日本ダービーをも勝ち取り見事に無敗を続けている。
誰もがテイオーが三冠を取る瞬間を見たいと思っているだろう。だからこそ、その注目度こそが逆転のチャンスになり得るのだ。
「もちろんGⅠだからそう簡単にはいかないって事もネイチャなら分かってるとは思う」
「そりゃあね。アタシは自惚れる程のモンは持ってないし」
「当然あえてテイオーなんて眼中になしで勝ちに行くウマ娘もいるだろう。しかも前回まで4連勝で2番人気だ。代わりに若駒でテイオーに狙われてたネイチャが警戒されていても不思議じゃないと思え」
「あー、それもそうですよねえ」
この大舞台ではネイチャも等しく警戒されている事を忘れてはいけない。
卑屈な思考や自惚れなど関係なく、ネイチャも注目されている事実は変わらないのだから。
それでも無敗のトウカイテイオーに劣るのは必然だが、確かにあの日ネイチャから聞いたのだ。
「だけどあの時グラウンドでテイオーに勝つって言ったんだ。少しは良いとこ見せないとだぞ」
「はぁ~何であんな事言ったんだろアタシ……その場の勢いってホント怖い……」
「そんな落ち込む事か……? でもさ、テイオーに勝ちたいって気持ちに偽りはないんだろ?」
分かりきった質問をする。
これはきっとネイチャの気持ちを再確認するためだ。勝ちたくないウマ娘なんていない。誰もが勝ちたいと思って走るのがレースなのだ。
観客の期待、願い、想い、それらを背負ってウマ娘は走る。自分が一番速いと証明するために。
目の前の少女だってそうだ。その場の勢いだとしても、思っていなかったらそもそも口にはしない。心のどこかで勝ちたいと思っているから出た言葉。紛れもない本音。
そこにこそ、言葉の価値は生まれる。
「……うん」
静かに頷く少女。
どれだけ卑屈だとしても諦めきれない気持ちがあるのならそれは本物だ。トレーナーとして、最大限のサポートをするだけである。
腕時計を見る。パドックまでもうそろそろだ。
少しでも勝利へ導くために、トレーナーはこう切り出した。
「よし、じゃあ作戦の最終確認とテイオー以外に警戒しておいた方がいいウマ娘を伝えておくぞ」
「分かった」
「まず──、」
その時だった。
不意に慌ただしいノックと共にドアが開かれた。
「すいませんっ。今少しだけお時間よろしいでしょうか!」
京都レース場の職員だ。
何故か緊迫した表情で息も切れている。全部の控え室を走って回ってきたのかもしれない。
「どうかしたんですか?」
「突然ですいません。出走ウマ娘に変更がありましたのでお知らせにあがりました!」
「出走ウマ娘に変更?」
ピリッと、雰囲気がガラリと変わる気配を感じた。
職員が焦った様子で来たという事は、それだけの事情がある。そして、微かに嫌な予感がトレーナーの脳裏をよぎった。
「トウカイテイオーが、出走を取り消しました」
「なっ」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………え?」
時が、止まった気がした。
真実を受け入れるまでに進む時間がそれを許してくれない。今でも刻一刻とパドックの時間が迫っているのに。
それでも僅かに振り絞った声を出したのはネイチャだった。
「……な、何でテイオーが!?」
「詳しい事はこちらもまだ……ですが、直前でケガをしたと聞いています」
「ケガ……? 一昨日まではそんな情報はなかったはず……だとしたら昨日か? それとも今日ケガが判明した……?」
「ひとまずお伝えしときます。それでは失礼します!」
走って去っていく職員。一番注目されているであろうトウカイテイオーがレースに出ない。それは観客だけでなく当然関係者達にも影響が出てしまう。
そして必然的に、トウカイテイオーと走るウマ娘にもだ。
「テイオーが……ケガで、出ない……?」
(ま、ずい……ッ)
「レースに出れない程のケガって大丈夫なのかな……ひどいのかな? いいや、というか……」
一番テイオーを意識していたのは誰だったか。テイオーに勝つための作戦を考えていたのは誰だったか。テイオーを目標にして背中を追いかけていた者は誰だったか。
今まで築いてきた牙城に、亀裂が入っていく音がした。
「とりあえず落ち着けネイチャ」
「無理だよ! だって、せっかくテイオーと戦う覚悟してたのに……アンタに勝つのが夢って言っちゃったのに……今日まで頑張ってきたのに……」
ある意味テイオーと戦うという目標が彼女の支えになっていた。それが突然失われてしまうと、いとも簡単に何もかもが崩れ去ってしまう。
テイオーに勝つという目標も、テイオーに勝つための作戦も、全部ご破算となってしまった。
「トレーナーさん……」
弱りきった声が控え室に響いた。
「アタシ、今日誰の背中を追って走ればいいの……?」
勝負服に身を包んだ少女の姿はあまりにも小さく見えた。目標を見失えば人は心の路頭に迷う。
誰かに手を引っ張ってほしいと思ってしまう。新しい道を指し示してほしいと願ってしまう。
トレーナーとして、今のネイチャにとって何が最善なのか考えろ。
テイオーがいない以上、それに準じた作戦が必要だ。
「テイオーが出ないのはこの際仕方ない。気持ちは分かるけど大事なのは切り替えだ。今から別の作戦を伝えるぞ。1番人気のテイオーがいないから2番人気のネイチャが狙われる可能性が一気に上がってくる」
圧倒的な力を持つトウカイテイオーが不在となれば、力量の差がまだそんなにないネイチャが狙われてしまえば一気にレースは苦しくなってくる。何とかしてそれを避けなければならない。
「さっきも伝えようとしてたけど他にも警戒しなきゃいけないウマ娘がいる。時間がないから簡潔に言うが、8番、10番、18番のウマ娘には気を付けろ。特に8番と18番の最後の追い込みはネイチャとほぼ同等と思え。変にブロックされたら厄介だ。それと10番は逃げが得意だか──、」
「そろそろパドックのお時間なので各ウマ娘の皆さんは準備お願いしまーす!」
控え室の外からそんな声が聞こえてきた。
「くそっ、もう時間か!」
「じゃあトレーナーさん、アタシ行ってくるね……」
「ネイチャ!」
トレーナーの顔を見る事も振り返る事もなく控え室を出るネイチャ。
彼女の顔は見えない。いったいどんな表情をしているのかさえ分からない。
「……ッ」
念願の勝負服なのに。初のGⅠレースなのに。
ナイスネイチャの背中がどことなく小さく感じてしまった。ただ見つめる事しかできない自分に腹が立つ。
(こんな状況でレースを楽しんでこいなんて、言える訳ねえだろ……)
友人がケガで出られなくなり、追いかける背中を見失い、一緒に走るという一つの目標が無くなった彼女の心境を考えるととてもじゃないが楽しめなんて言えない。
拳を強く握りしめる。最後までネイチャがこちらを振り向かなかったのは放心故か、それとも情けない顔をトレーナーに見せたくなかったのか。
それは彼女にしか分からない。しかし、自分が彼女の力になりきれていなかったのは紛れもない事実だ。
滝野勝司というベテラントレーナーの元で修行していたとはいえ、渡辺輝はまだ新人トレーナーだ。どうしたって足りない経験や知識がこういう時に容赦なく降りかかってくる。
こういう土壇場で担当ウマ娘のメンタルケアも出来ないようではまだまだだと自分を戒める。
だがウマ娘がレース場に行ってしまった以上、もうトレーナーにできる事は信じるのみだ。
「……ネイチャ、頑張ってくれ」
信じてくれた人達の願いや期待、想いを背負ったクリスマスカラーの勝負服を身に纏った少女が
後半へ続きます。
久々にイチャイチャなしのスポ根になりそうな予感。イチャコラを見たい方は少しだけ辛抱頂けますと幸いです。
これも未来のラブコメのため……。
では、今回高評価を入れてくださった、
宮部仁さん、蜜柑泥棒さん、Conley11さん、タイガードさん
以上の方々から高評価を頂きました。
本当にありがとうございます!!
水着ウマ娘が実装されるならクリスマスカラーの勝負服だし12月はネイチャのサンタ衣装来るんじゃねと勝手に予想してジュエル貯める決意をした作者です。
サンタ衣装のネイチャ見たくないですか?