お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話 作:たーぼ
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「せっかく入部したのに何で初日にミーティングとかトレーニングじゃなくて部室の掃除になるかなー」
「契約するウマ娘がいない間は俺が自分の部屋のように扱ってたからな。ウマ娘にも部室だからって変に気負う必要もなく、自室のように伸び伸びできる空間をと思ってですね」
「はい屁理屈という名の言い訳はその辺にしてさっさとこのゴミ袋を外に出す」
「あ、はい」
初っ端から出鼻を挫かれるレベルってもんじゃないほど部室が悲惨になっていた。
このトレーナー、もしかしたら自分の家でもこんな地獄絵図で暮らしているのだろうか。だとしたらやばい。主にゴミの臭いとか漂わないか心配になってくる。
「……、」
「……ん? え? 何、どうした急に」
「……すんすん……んー」
「え、もしかして俺臭いと思われてる? 22という歳でもう加齢臭とか出ちゃってる? 噓でしょネイチャ。嘘って言ってくれよお!」
(服やトレーナーさんからは何も臭わない、と。何ならトレーナーさん自体はちょっと良い香りがする。え、何故に?)
無言でトレーナーの服をくんくんと匂いを嗅いだら普通に良い香りがした。
その報告がないせいでトレーナーに至っては自分が臭いと思ったのか袖などを嗅ぎまくっている。しばらくは放っておいた方が部室を荒らした罰として機能するかもしれない。
「軽い香水振ってるつもりなんだけどもっと良い香水使うべきか? いやでも匂いがキツいのはウマ娘達が嫌がるかもしれないし、我慢するっきゃないか……?」
何やら1人で自問自答している。どうやら成人男性に匂いの話はあまりしない方がよろしいかもと判断する。主に精神的ダメージが凄そうだ。
そうしている間にもお菓子袋やメモがたくさん書かれていたであろう紙くずのゴミもだいぶ片付いてきた。これで使えるレベルにはなっただろうと思う。しかし時計を見るともうトレーニングをする時間というには中途半端だった。
「ねえ、これからどうすんの? もうトレーニング始めるような時間帯でもないし、アタシが言うのもアレだけど軽いミーティングでもしとく?」
「と言ってもなあ、元々入部してくれたらその日はトレーニングとかじゃなくて、まずは軽くお互いのことを知るって意味で雑談でもしようかと思ってたんだよな」
「……そんな呑気でいいの?」
「言い方に問題がある。親睦を少しでも深めることが出来れば信頼性が増すし、トレーナーとウマ娘はどちらかが上の立場ではなく対等な関係だって事を知ってほしいわけよ。端的に言えばネイチャも俺に何か言いたいことがある時は変な遠慮はいらねえ的な」
「おし、じゃあトレーナー室行こっか。どうせそっちの部屋も散らかってるだろーし、何ならトレーナー室の方が広いからそっちでゆったりしながら話しますかねー」
「あれ、何かもう俺が使う部屋全部汚いとか思われてない? 遠慮はいらないってそういう事じゃないよ? 気遣いはもうちょっとあってほしいななんて思ったりもするんですがいかがでしょうかネイチャさん?」
「はーい行きますよー」
「ちくしょう何も聞いてねえ!」
そんなこんなでトレーナー室へやってきた。
いったいどれだけ散らかっているのやらとドアを開けてみると、多少散らかってはいるものの先ほどよりかは全然綺麗に見える。
「ありゃ、ここは案外普通なんだね」
「何でもかんでも散らかすと思うなよ? ここは俺がようやくトレーナー資格を取って与えられた部屋だからな。大事に扱うためにもできるだけ自分で掃除したりしてるんだよ」
「へー、ちゃんとしっかりしてるところはしてるんだ」
「まあな」
ドヤ顔しているトレーナーを放置して室内を見て回る。掃除は10分程度で終わりそうな感じなので、そこまで急がなくてもいいだろう。というかこの程度ならトレーナーだけで掃除させた方が将来のためにもなる。
部室よりも広いトレーナー室には色々な物が揃っていた。資料、レース場の詳細が載っている分厚い本。ウマ娘の脚質や適性距離を見極めるための極意の本。ざっと見ただけでもネイチャにとっては見慣れない本ばかりが棚に置かれている。新鮮さというよりは驚愕が大きい。
「はえー、トレーナー室ってこんなに本置いてあるんだ」
「と言ってもそいつらは全部俺が揃えたんだけどな」
「……え、
「
これまた驚いた。アレが一週間語弊ありまくりで追いかけ回してきた男なのかと本当に疑ってしまう。
この若さで中央のトレーナー資格を取るだけのことはある。もしかしたらバカと天才は紙一重かもしれない。
「ふーん、なるほどねー」
「……何だよ」
「べっつに~。トレーナーさんも案外やるじゃんって思っただけですよー」
「当ったり前だろ。そしてそんな俺が認めたお前だ。一着なんてまだでかい事は言えないけど、磨いていけば絶対に良いとこは行ける確信がある」
「そこは言い切らないんだね。てっきり一着にさせてやるーとか言うもんだと思ってた」
大見栄を張るわけでもなく、トレーナーにしては珍しい発言だとネイチャは思った。
普通ならこういう時こそトレーナーはトップに立たせてやるとか鼓舞をしてくるものだと思っていたのだが、この渡辺輝という男は違うらしい。
「そう言ってやりたいのは山々なんだけどな。さっきも言ったがここは『中央』だ。元々センスのあるウマ娘も多い中、好成績のウマ娘を育ててきたベテラントレーナーもたくさんいる。悔しいけど、場数で言えば俺はまだまだひよっこレベルにすら達してない。そういう意味でも、まだお前には変な希望を持たせたくないんだよ」
「……そっか」
「失望でもしたか?」
トレーナーはそう聞いてくる。
本来であれば、嘘でもそこは希望を持たせるのがトレーナーの仕事なのだろうと思う。一着を取らせてやると、センターで踊らせてやると言うべきなのだろう。
しかしこの男はそんな誑かすような嘘は言わなかった。現実と自分の経験値や現状をちゃんと踏まえた上で正直に言ってくれた。
他のウマ娘ならそれで不安になってしまったかもしれない。愛想尽かせて出ていってしまうウマ娘もいるかもしれない。
けれどナイスネイチャは違う。
子供の頃から少し捻くれた思考を持っているせいか、変に希望を持たせてくるよりもこうして正直に言ってくれる方が納得できるタイプなのだ。
だからこそ、信頼できる。信用もできる。
このトレーナーに着いて行って間違いないのだと再認識する。無駄に熱い人よりも、しっかりと現状を把握していて冷静に見ることのできるトレーナーの方が良いと思うのは当然だろう。
そして何より、今のネイチャの気質と合っている。
だから、だ。
「……ううん、むしろそれが当然だってアタシも分かってるしね。トレーナーさんがスカウトしてくれただけでも本当はありがたいんだから、これ以上は高望みしませんよー」
「そっか。じゃあ良かったよ」
「んじゃまー、パパッと掃除しちゃってー。そしたら適当にくっちゃべろー!」
「あれ、一緒に掃除するんじゃなかったっけ?」
「こんくらいならトレーナーさん1人ですぐ終わるっしょ? ほら、さっさとやる」
「うわひでえ! 騙したなコノヤロー!」
「元凶は誰かなー?」
「ゴメンナサイ」
そもそもの原因がトレーナーなので反論の余地は一切ないのだった。
とは言いつつもテキパキと片していくトレーナーをネイチャは微笑みながら見ている。
まだ契約したばかりでお互いの事をちゃんと知っているわけでもない。だけど、これからこのトレーナーと励んでいく事に何の嫌悪感もなかった。
先ほどの言葉を思い出せばまた自然と口角が上がってしまいそうだった。
「(ありがとね、トレーナーさん)」
「お礼言われるような事したっけ?」
「いや聞こえてんのかい」
────────────
掃除も早々に終わり、雑談という名のちょっとした親睦会も終えたところで2人して廊下を歩いていた。
ネイチャが商店街の人達に人気という事や、地元で親がバーをやっている事も聞き、お互いのことを少ない時間でも知ることができたのは大きいだろう。
ネイチャと話している時に分かったことがある。
彼女は基本的に達観しているというか言動からも分かる通り、中等部にしては少し大人びた思考を持っているようだ。だから自分の才能と他のウマ娘達との差を嫌でも分かってしまうらしい。
自分で自分を捻くれてるなどと言っていたが、それも言動からするに本当だと思う。
同期にトウカイテイオーというデビュー前なのに化物染みたセンスを持っているウマ娘がいるのだ。ネイチャは当然、他のウマ娘もそれに関しては痛感しているはずだ。
だからこそ、渡辺輝は思う。
ナイスネイチャが一着を取ってキラキラ輝く姿を見たいと。
だって、笑えるのだ。
普段あんなに斜に構えた言動と表情をするのに、話していると時折見せる年相応な可愛らしい笑顔で笑えるのだ。
それを絶やしたくない。もっとちゃんと笑ってほしい。本当の意味で、彼女を笑顔にしたい。隣で今も他愛ない話をしている彼女に報いたい。
こんなことを実際に言ったら笑われるだろうとトレーナーは思う。だからまだ口にはしない。ネイチャがそこまでの実力と自信を持った時……いいや、いっそ不意に言ってやるのも悪くないかもしれない。
「どうしたのートレーナーさん? 何か変にニマってるけど、おかしなモノでも食べた? それか元から?」
「ナチュラルにディスってくるね君。ったく、俺以外にはそんなこと言うんじゃねえぞー」
「トレーナーさんにしかこんなこと言わないですよーだ」
「それはそれでどうなんですかね……」
とまあ、初日でこれだけ心を許してくれているなら問題ないだろう。
明日からは本格的にミーティングやトレーニングに力を入れていく事になる。そこからゆっくりでも実力を付けていけばいい。
そんなことを考えている時だった。
ふと声を掛けられた。
「あ、ネイチャちゃんだ~! おーい!」
「ん?」
「ああ、マヤノじゃん」
ネイチャよりも身長が少し低めのウマ娘がやってきた。
長いロングの髪をそのままにぴょこんと小さなツインテールが印象的な可愛い子に見える。
「もしかして、この人が噂のネイチャちゃんのトレーナーさん!?」
「あー、うん。まあそんなとこかなー」
「何でちょっと言い淀んでんだよ」
「あはは、いやー何かさ……ちょっと何と言いますか照れくさいと言いますか~、ね……? こんなこと初めてなもんで」
どうやら本当に照れているらしい。頬を人差し指で軽く掻いている。今時そんな女子がいるのかというツッコミは野暮だろうか。
それはそうと、だ。
「俺は今日からネイチャのトレーナーになった渡辺輝だ。ネイチャの友達、でいいんだよな?」
「うん、そうだよー! マヤはマヤノトップガンっていうんだ~! よろしくね!」
何ともまあ元気な子だなというのが第一印象だった。
果たしてこんな明るい性格の女の子とネイチャは気が合うのかと疑問にも思うが、話している雰囲気からして普通に仲は良いらしい。
「いいな~ネイチャちゃん。トレーナーさんからずっとアプローチされてたもんね~! マヤも早くそれだけ想ってくれるトレーナーさん探さなきゃ!!」
「あぷっ……!? も、もーマヤノってば何言ってんのさまったくー! そんなんじゃないってば! ねっ、トレーナーさん?」
「そうそう、俺の熱いアプローチがネイチャにようやく届いたんだよー」
「なあ!? トレーナーさん!?」
「お~、いいな~これが相思相愛っていうの!?」
「おっ、良いこと言うねマヤノさんや!」
「もおー、2人ともいい加減にしなってばー!!」
悪ノリトレーナーと友人のマヤノトップガンによって、このあと数分は赤面状態のまま居させられたネイチャだった。
いつもwikiとにらめっこしながら書いてますが、今のとこ活かす場面がないという。
一話自体の文字数は少なめでいこうかと思っています。
ネイチャを弄り倒して赤面させ隊。