お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話   作:たーぼ

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31.有マ記念

 

 12月下旬。

 年の締めくくりとして最後の大レースが始まっていた。

 

 

 

 

 

 

 中山レース場。GⅠ『有記念』。

 芝、良。距離、2500m。天候、晴れ。右・内回り。

 

 

 

 

 ゲートが開かれ15人のウマ娘達が一斉に駆け出していく。

 外回りからスタートし、初角となる第3コーナーまでは192mと短い。問題は一周目と二週目の第4コーナーを終えてからの直線にある上り坂。スタミナはもちろんタフさやペース配分と器用さが求められる。

 

 最初の第4コーナーを終えたところで、ナイスネイチャは後方集団にいた。

 それを確認しながらとりあえずは予定通りの出だしで安堵するトレーナー渡辺輝。いつもと同じスタンド前に立ってレース映像と走っているネイチャ達を交互に見ている。

 

 

(よし、好調なスタートを切ったし最初のコーナーも後方で控えてるから接触も変なブロックもされてない。上々だな)

 

 有記念。ファン投票から選ばれる事もあるが、これまでに優秀な成績を残したウマ娘も出走できるとされ中央の一年を締めくくる最後のレースとなっている。

 そこにもはや掲示板常連のネイチャも選ばれ、今こうして走っているのだ。

 

 しかし、そこにトウカイテイオーはいない。ケガは順調に治りつつあり、トレーニングもしているのだが出走できるまでの調整は叶わなかったようだ。

 だからチーム・アークトゥルスとチーム・スピカの再戦は実現しなかった……という訳でもない。

 

 

(やはり先頭集団にいるか。メジロマックイーン)

 

 メジロマックイーン。薄い紫のような芦毛、名門メジロ家出身であり生粋のお嬢様気質なのが特徴のウマ娘だ。落ち着いた淑女的な物腰と気品からファンだけでなくウマ娘達からも人気があるらしい。

 そんな彼女の得意な距離こそが、長距離レースだ。

 

 渡辺輝が出走ウマ娘のデータを分析していた際、最も警戒すべきウマ娘の筆頭がメジロマックイーンだった。

 長距離を得意とし、その実力も折り紙つきである。今回の1番人気が彼女で、ネイチャが2番人気なのもそこが理由だろう。有記念の2500m、長距離とされるこのレースは普通に考えればマックイーンの方が圧倒的有利になる。

 

 だが、渡辺輝はこのレースで警戒すべきウマ娘がもう2人いるとレース前の控え室でネイチャに言っていた。

 

 

(3番人気のウマ娘は言わずもがな気を付けないといけないのは他のウマ娘達も分かってるはずだ。当然みんなマックイーンとネイチャも警戒してるかもしれない。けど、俺がどうしても気になるのは……)

 

「よお、輝」

 

 突然隣にやってきたのは渡辺輝にとってはとても見覚えのある人物だった。

 

 

「滝野さん」

 

 滝野勝司。渡辺輝の師匠的存在であり、トウカイテイオーも所属しているチーム・スピカを率いているベテランのトレーナー。

 何故こんなとこにいるのかと疑問に思う訳もない。

 

 

「ナイスネイチャ、順調に強くなってるようだな」

 

「まあGⅠはまだ勝ててないですけどね。これからですよ」

 

「確かにあの走りを見てるとまだまだ成長できるだろうな。今後が楽しみだ」

 

「それよりあの娘の調子も良さそうですね」

 

「ああ、()()()()()()の事か」

 

「それ以外に何があるんですかね……」

 

 話している間にもレースは続いている。一回目の上り坂を終えて今は第2コーナーから第3コーナーに入ろうとしていた。

 会話をしながらもウマ娘達からは目を離さない。ネイチャが走っているこのレースさえ他のウマ娘からデータを取るためだ。

 

 高低差約2mある上り坂を終えても、ネイチャの顔色に変化は見当たらない。まだスタミナも温存できている証拠だろう。第3コーナーが終わると後方から少しずつペースを上げている。

 あれも作戦の内だ。

 

 有記念の最後の直線は310mと短い。だから直線に入ってからスパートを仕掛けても捲る前にゴール板へ逃げられてしまう危険性が高いのだ。

 それを知っているウマ娘は、そのほとんどが残り1000mを切ってからペースアップをしてスパートをかけるようになっている。だが、早い内に仕掛けると最後の上り坂でスタミナを使い切ってしまうウマ娘も多いため、タイミングとスタミナ、末脚の持続力が問われる難しいレースだ。

 

 そんなレースを、だ。

 メジロマックイーンが先頭集団を率いてペースを作っている。

 

 何故渡辺輝の師匠、滝野勝司がここにいるのか。その理由も至極簡単で単純なものだ。

 メジロマックイーンはチーム・スピカの一員だから。これだけの事に過ぎない。トウカイテイオーはいないが、今ここでチーム・アークトゥルスとチーム・スピカが戦っている真っ最中なのである。

 

 

「実際マックイーンの調子はいい。走る前も落ち着いていたし、長距離はあいつの適性距離だからな。負ける確率は少ないとは思ってる。だが……」

 

「レースに絶対はない、ですか」

 

「ああ。あのシンボリルドルフほどの実力があるならまだしも、他のウマ娘はそうじゃない。だからレースに絶対なんてない。何が起こるか分からないんだぞ。まあ、それがレースの面白さでもあるけどな」

 

 レースに絶対はない。だからこそネイチャがマックイーンに勝つ可能性も充分にあるし、この先トウカイテイオーに勝つ事だって全然あり得る話だと思っている。

 1番人気のウマ娘だけが勝ち続けるレースに面白味は感じない。どんでん返しがあってこそのレースだ。誰も想像し得ない結果になった瞬間、レース会場は沸き立つのだから。

 

 そしてその可能性は、ウマ娘を強化する専門のトレーナーだからこそ感じ取れるものがある。

 渡辺輝はレースを見ながら静かに口を開く。

 

 

「だから警戒しなきゃいけない相手は必ずしも注目されてるウマ娘だけじゃない……」

 

「……5番人気までのウマ娘の他に、そういう相手がいるのか?」

 

「あくまで俺の個人的な主観になりますけど……」

 

 最低でも掲示板に入る可能性が高い5番人気までのウマ娘は誰からも警戒されるものだ。とりあえずはそこを押さえておけばある程度の対策は練れると言ってもいいだろう。

 しかしそうなると必然的にそれ以外のウマ娘への警戒心は自然と弱くなってしまう。たまにあるのだ。そうやって油断していると後ろから全く意識していなかったウマ娘に差されてゴールされる事が。

 

 レース前、ネイチャに伝えていた懸念点。

 普段なら警戒の外へ追いやっていたかもしれない可能性の一つ。出走人気で言えばそれほどないのかもしれないが、有記念に出走できる実力と人気があるのなら絶対にその可能性を無視してはならない。

 

 渡辺輝がマックイーンや他のウマ娘よりも警戒しなければならないと思ったウマ娘。このレースを荒らす台風の目となるかもしれない存在。

 それを彼はハッキリと言った。

 

 

「ダイサンゲン。14番人気で本来なら意識の外にやってたかもしれない彼女ですけど……あの娘、纏ってるオーラがいつもと全然違います」

 

「ダイサンゲンっていうと、今マックイーンの後ろにいるあの娘か」

 

「ええ。何だか嫌な予感がするんです。もしかしたら、今日一番の敵はあの娘かもしれません」

 

「……確かに明確に実力のあるウマ娘にはただならぬオーラとかたまに瞳から異様な稲妻のようなものが見えるっていうが、まさかあのウマ娘にそれが見えるって事か?」

 

「俺も詳しくは分からないんですが、何か周りに白いオーラが漂ってる気がするんです」

 

 人間とウマ娘の違いの一つ、と言えばいいかは分からないが何かの一線を超えた時、またはその日の調子がいつもと別次元に良いと思う時、ウマ娘の身体にはちょっと変化が見えるらしい。

 それはウマ娘同士に見えるものでもあるらしいが、極稀に人間にも見えるほどのモノもあると言われている。

 

 ただ、渡辺輝にそれを見えているという事は。

 

 

(俺には何も見えないが輝には見えてる、か。()()()()()()()()()。マックイーン……)

 

 気付けばレースも終盤に入ろうとしていた。

 残り1000mを切った瞬間、全体的にペースが上がり直線前にスパートを仕掛けていくウマ娘もいた。

 

 

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

 

 

(よし、ここから!)

 

 同じタイミングでスパートを仕掛けたのはナイスネイチャだ。

 二週目の第3コーナーの途中、他のウマ娘と同じく強く脚を踏み込んだ。一気に加速していくと、スルスルと前方にいたウマ娘達を追い越していく。

 

 

(トレーナーさんが危ないって言ってたのはマックイーンだけど……一番警戒しなきゃいけないのがダイサンゲンって娘だったはず)

 

 前を見る。第4コーナーに入りネイチャの前にいるのは2人のウマ娘と、先頭争いをしているマックイーンとダイサンゲンだった。

 トレーナーの言っていた事が今のところ完璧に当たっている。

 

 ならば。

 

 

(最終直線は短いから、その前に全速力で追い上げて最後の上り坂でギリギリを差しにいく!!)

 

 最後の直線は310m。その中で最もキツイ瞬間の上り坂、そこに全てを懸ける。

 そのためにまずは目の前にいる2人のウマ娘を追い抜く。差すにもスペースは必要だ。

 

 

(直線に入った……。ここから行けるか……!?)

 

 2人を追い越し、前にいる本命との距離を測る。

 現時点でおそらく3バ身ほど離れている。長距離を得意としているマックイーンのスタミナ切れは期待できない。ダイサンゲンはもはや未知数と言っていいから油断も隙も無い。

 

 これ以上の差を詰めるのに相手が落ちる事を想定してはならない。終盤、その土壇場。試されるのは、頼れるのは自分の脚のみだ。

 

 

(いいや、行くしかないっしょ!)

 

 ダンッ!! と。

 ネイチャの脚が芝を弾いて更に加速した。

 

 上り坂に入るまでにはせめて1バ身まで詰めておきたい。そのためにスタミナをギリギリまで温存して末脚の持続力を鍛えてきたのだから。

 少しでも脚を前へと進める。案の定2人は減速していない。マックイーンよりもダイサンゲンの方が少し前にいるのが確認できる。長距離が得意なあのマックイーンが抜け切れていないのだ。

 

 上り坂に入った。何とかマックイーンとの距離を1バ身まで詰められたが、それだけで終わりではない。

 もしマックイーンを抜いたとしてもその先にダイサンゲンがいるのだ。しかも、マックイーンと彼女の差は2バ身ほどもある。ネイチャとの差は約3バ身。上り坂が終わればすぐゴールと考えると、さすがにキツイか。

 

 

(ぐッ……マックイーンも前に行かせてくれない……!)

 

 ダイサンゲンに負けじと差を詰めようとするマックイーンを捉えてはいるのに中々抜けない。

 これ以上の差が、詰められない。

 

 上り坂が終わる。それはもうほぼレース終了を意味していた。

 最初にゴール板を駆け抜けたのは、ダイサンゲンだった。

 

 

 そして。

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

 

「ごめん、トレーナーさん。また負けちゃった……」

 

 いつも通りの控え室。ネイチャの第一声はそれだった。

 俯く彼女に対してトレーナーのやる事は一つ。いつも通り彼女の頭に手を乗せる。

 

 

「色んな世代が走る有記念。1着はダイサンゲンだったけど、最も注目されてたマックイーンを相手にクビ差まで追い詰めての3着。ネイチャからすれば確かに残念な結果だったかもしれねえけどさ、俺としてはよくあそこまで食い付いたなって思ったよ。だからそんな落ち込む必要はないぞ」

 

「……相変わらず優しいね。トレーナーさんは」

 

「俺は自分の気持ちは素直に言ってるだけだ。レースに勝つのは1人だけ。だから勝つ事の難しさも理解してる。何なら勝ち続ける事の方がよっぽど難しいんだ。負けは何も恥ずべき事じゃねえ。勝利よりも敗北からの方が学ぶ事はたくさんある。そんでまた強くなればいい。大丈夫だ。()()()()()()()()

 

「ッ……たはー、そんな事を簡単に言ってくるとはさすがですなあ」

 

 自分が欲しい言葉を必ずといっていいほど言ってくるトレーナーにネイチャも苦笑いを隠せない。

 けれど、それで喜んでしまっている辺り彼女も満更ではないようだ。

 

 

「反省会はほどほどにしてとりあえずはウイニングライブだな。3着だしセンターの隣だろ? 最前列で思いっきりペンライト振るわ」

 

「恥ずかしいので控えめでお願いします……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 中山レース。

 有記念──ナイスネイチャ、3着。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 

 

 

 メジロマックイーンの控え室でこんな会話があった。

 

 

「ネイチャさんはどうだったか……ですか?」

 

「ああ。今回は勝ったが、輝の事だからな。今後も警戒しとかんといつ寝首を搔かれるか分かったもんじゃないしな」

 

「そうですわね……。ゴール直前は必死だったのであまり意識しないようにはしていましたが……ネイチャさんのプレッシャーは凄まじいものでした。あともう少しゴールまで距離があったらどうなっていたかは……あまり想像したくはありませんわね」

 

「そうか……」

 

 ダイサンゲンを捉えるのに必死だったマックイーンでさえ、嫌でも意識してしまうほどの迫力がすぐ背後にあった。

 その実力は、以前よりも遥かに成長している。

 

 それに何より、だ。

 

 

(あいつには俺にも見えてなかったウマ娘の()()()()()()()()……。トレーナーとしての才能がより開花したのかはまだ定かじゃないが、俺も見逃していたダイサンゲンの強さを輝は最初から警戒していたんだ)

 

 弟子の成長を喜ぶべきか恐れるべきか。とにもかくにも渡辺輝のウマ娘を視るあの目は絶対に脅威になる事は確定だろう。

 ネイチャしか担当していない彼なら、彼女をどこまでも強くできてしまう可能性がある。伸びしろで言えばまだ30%ほどかもしれない。

 

 

(ナイスネイチャしか担当していない、か)

 

 それとは別の思いも滝野勝司にはあった。

 担当ウマ娘が1人しかいない。そのリスクを知りながら渡辺輝はネイチャしか担当していない。おそらくネイチャは、そのリスクの意味を知らない。

 

 中央にいるならば、それ相応の実績を必要とされるこの場所、トレセン学園の厳しさを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(彼女しか担当しないなら、それこそもっと勝ち続けなきゃ厳しいぞ。輝)

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、という事で有マ記念でした。
ダイサンゲンはアニメでも出てきましたが、そこから使わせていただいています。
ネイチャの成長を感じつつ、勝ちきれない彼女の諦めの悪さに魅力を感じていただければなと。

ウマ娘のオーラに関しては完全に作者の独断設定なのであまりお気になさらず。
アニメではどう見えてんのかなアレ……(ライスの黒いオーラとか)


では、今回高評価を入れてくださった、


麦丸さん、姉妹の兄で弟2さん、You刊さん、folpsさん、パスタデココさん、rumjetさん、アムネシアさん、ユー1234さん


以上の方々から高評価を頂きました。
投票者数がまさかの300を超えました!!これまで書いてきた自分の作品では初めての事なので、読んでくださっている皆様に感謝しかありません。
本当にありがとうございます!!





アニメ2期を見直してたら普通に何回も涙腺崩壊してしまいます。
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