お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話 作:たーぼ
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「ぬぁーッ! また負けたー!!」
「おー、よく食ってんなあ……」
10月も中旬に入る頃。
GⅡレース『毎日王冠』を終えた翌日のトレーナー室に、商店街で買い漁ってきたのか大量のお惣菜をヤケ食いしているネイチャと、それを苦笑いしながら見ているトレーナーがいた。
「気持ちは分かるけどあんま食べすぎんなよ。来月には秋の『天皇賞』と『マイルチャンピオンシップ』があるんだからな」
「食べた分だけ走るから大丈夫!!」
どうやら取り入れたカロリーは練習場を何十周もして消費するという事で確定しているらしい。
焼き鳥にたこ焼き、から揚げなどをいくつも頬張っている。見てると普通にこっちまで腹が減ってきそうだ。
「それにしても珍しいな。負けてヤケ食いするなんてさ。いつもは自分を卑下してこんなもんかーとか言ってるのに、心境の変化でもあったか?」
片肘をついて聞いてみる。
目の前のヤケ食い少女は一旦箸を止め、口の周りを軽くティッシュで拭いてから少し目を逸らしながら言った。
「久々のレースだったからっていうのもあるけど……トレーナーさんの期待に応えられなかったから、それがめちゃくちゃ悔しくて仕方がなかったんだよ……」
前回のレースから約10ヶ月。それまでたくさん練習してきたからこそ勝ちたいという気持ちが強かったのだろう。
実際ネイチャはこの期間でタイムを縮めていたり末脚を強化した事により加速力も上がった。成長は確実にしていると言っていいだろう。
しかし。
「そういう気持ちを持ってるのは他のウマ娘もトレーナーも一緒だ。だからみんな必死に練習して次は勝つって意志を強く持ってる。レースに勝てるのはたった1人だ。また次頑張ればいいだけだよ。むしろ3着になれたんだからもっと胸張っていけ」
「……はぁ~、トレーナーさんはそう言ってくれるって分かっちゃうからあんまりその言葉には甘えたくないんだけどなあ」
GⅡレース『毎日王冠』でネイチャは3着という形で負けた。
成長しているのは自分だけじゃなく他のウマ娘も同じだという事を嫌でも思い知らされた気分なのかもしれない。勝ちたい気持ちはどのウマ娘だって一緒なのだから、それはもう仕方のない事だ。
ただ、ネイチャが素直にここまで悔しがれるという事は、それはもっと速くなりたいという気持ちがある証拠だろう。
悔しさをバネにして努力すれば誰だって今の自分よりも上にいける。契約した当初のネイチャと比べると、精神的にも成長しているのを感じて感慨深い。
「ダイタクヘリオスの1着にイクノディクタスの2着、か。ヘリオスの逃げっぷりは流石といったところだったけど、イクノディクタスはあと少しで抜けそうだっただけに惜しかったな」
「イクノとはクビ差だったからねー。あと20mくらいあったらいけてたのかなあ」
「だとしたら彼女もそれに合わせて走るだろうから結果はあんま変わらんと思うぞ。レースを振り返るのも悪くないが終わった事をいちいち気にし過ぎるのも良くない。次の事を考えようぜ。あ、から揚げ1個ちょうだい」
「はいはい、次はGⅠですもんねえ。ほい、口開けてー」
ネイチャの持っている箸から差し出されたから揚げをぱくりと頬張る。一口サイズのから揚げは食べやすいからお手軽だ。
噛む度に出てくるジューシーな肉汁を堪能しながら資料を手に取る。次の天皇賞の出走表だ。
「前回競ったダイタクヘリオス、イクノディクタス、メジロ家の令嬢メジロパーマーも出てくる。後は、久しぶりの対決になるな」
「うん、テイオーが出るってね」
今最も注目されているウマ娘の筆頭、トウカイテイオー。
『菊花賞』をケガで出られなかったが、復帰後の『大阪杯』では見事1着を勝ち取った。春の天皇賞ではやはりトレーナーの推測通り、距離適性の問題でマックイーンが1着となったため無敗のウマ娘としての目標は消えてしまったと聞いている。
だが、渡辺輝の師匠、滝野勝司が率いるチームに所属している以上油断はできない。
距離適性の合っている中距離では絶対的な強さを彼女は持っている。現にこの前遠く離れた場所からチーム・スピカの練習を偵察していた時、トウカイテイオーの速さは頭一つ抜けていた。
一度のケガと初の敗北を味わっても、彼女は挫けるどころかより大きく成長している。
脅威は減るどころか増すばかりだ。変に対策を練ったところでそれが通じるような相手ではないだろう。
「強敵ばかりだな」
「それは最初から分かってた事じゃん? まあアタシも負けに行くつもりはないからさ。やれるだけの事はやってみるつもりだよ」
「……そうか」
以前なら負けて当然みたいな事を言っていた彼女とは思えない発言だった。
その事についつい口が緩む。負けた事に素直に悔しさを表し、次は勝ちに行く。それをネイチャが言動と態度に表した時点で活路は見出せる。
ネイチャがやる気になっているのならトレーナーとしてもそれに応えるのが義理だ。
(『毎日王冠』じゃどのウマ娘にもオーラのようなものは見えなかった。やっぱりその日のコンディションとか実力によって見えるものなのかもしれないな。一番嬉しいのは
ウマ娘以外の人間で何故か自分には見えたウマ娘のオーラ。それが相手であれば脅威以上に危険だが、ネイチャに出れば頼もしいのも事実。
しかし、そのオーラや瞳から出る稲妻とやらの発動条件も分からなければ必ず見えるという確証もない。そもそも渡辺輝だけに見えるというのもおかしい話なのだ。
実力以上の力を持つウマ娘のそれは極稀に人間にも見えるというが、そんな事もなかった。
まだまだ分からない事が多いこの現象。今の現状ではあまり役に立たないと思ったほうが賢明だろう。
それよりも、いくつかの懸念があった。
ネイチャの実績は今のところデビュー戦を含め5勝。GⅡとGⅢをそれぞれ1勝しているが、逆を言えばそれしか勝てていない。GⅠも入れて掲示板の常連と言えば聞こえはいいが、結局は勝ちきれていないという事実が圧し掛かる。
「ごちそうさまでしたっと。あ、アタシ今日マヤノ達と予定あるからお先に失礼するね」
「ん? おう、今日はオフだし好きに過ごしていいからな。青春を楽しんでこい」
「言い方がオッサン臭いよそれ。んじゃね」
ネイチャは手早く食べ終えたパックなどを片付けそそくさと部屋を出ていった。
軽く上げていた手を下ろす。表情に出ていなかっただろうか。ネイチャに悟られないよう上手く笑顔が出来ていたか。
「レースも大事だけど、こっちも色々考えなくちゃな。理事長にも滝野さんにも無理なお願いをしちまったし……」
チームに複数人ではなくたった1人しかいない。
2000人弱ものウマ娘がトレセン学園にいる。それに比べてトレーナーの人員不足が深刻視されている昨今、1人しか担当契約を結んでいないチーム・アークトゥルスは若干問題視されていた。
中央のトレーナーになるには相応の資格と努力がないと非常に厳しいと言われている。
そしてその壁を超えてくる者は現実問題として少ない。他にもいくつか理由があるが、それも含めてチームには原則として2人以上のウマ娘が所属するというちょっとしたルールが課されているのだ。
そのルールには例外もあるが、それもちゃんとした条件の下で許されている。
渡辺輝もその1人だ。滝野勝司に相談し一緒に理事長へ条件付きで許諾してもらった。
(最低でもGⅠレース1勝以上……)
基本的に掲示板にはいつも入っている事から決して不可能ではないかもしれない。
ベテラントレーナーである滝野勝司の弟子的存在として期待してくれているという条件でもあるのだろうが、その1勝が遠い。
(今の調子だとこれからもGⅠには出られる。チャンスだってまだまだある。焦っても何も変わらない。ネイチャには気にせず走ってほしいし、何より走る事を楽しんでほしい。俺の事情にあいつを巻き込む訳にはいかないんだ)
GⅠレースの1勝。近いようで遠い栄光。期限は来年末。つまりは来年の『有馬記念』までだ。
それまでに1勝出来なければトレーナーに待っているのは。
(ネイチャも悔しがってたんだ。だったら全力で勝ちにいくのは当然。俺だってネイチャを信じてる。その上で挑戦し続けて、それでももしも勝つ事が出来なかったら……その時はその時で考えよう。まずは目先のレースだ。相手のクセや脚質を軸に作戦を練らないと)
思考を切り替えて他の資料と過去のレース映像のDVDを取り出す。
やる事は変わらない。いつだって渡辺輝がやるべき事は、ナイスネイチャを1着にする事だ。
地方へ飛ばされないために。
あくまでこの作品内の設定と思って軽く流してくださいませ。
次回から史実もですが、物語が大きく動いていくかもしれません。
では、今回高評価を入れてくださった、
tk03さん
以上の方から高評価を頂きました。
本当にありがとうございます!!
【宣伝】
現在、ハーメルンで『またたね』さん主催のウマ娘企画小説が開催されています。ありがたい事に自分もお誘いを頂きましたので参加させていただく運びとなりました。
タイトルは『ウマ娘プリティーダービー企画短編集ーAutumnー』です!
“10月1日”~“10月9日”まで投稿され、自分の作品は“10月4日”(月)に掲載されました。
キングヘイローをヒロインとした単発小説ですので、よろしければ読んで下さると大喜びします。
そしてあちらの方で感想もいただけると嬉々として返信させていただきますので何卒!!
長々と宣伝にお付き合いいただきありがとうございます。
次回も皆様に読んでいただける事を祈りつつ、今回はここまでにさせていただきたいと思います。
アオハル決勝未だに安定して勝てません。うへえ。