お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話   作:たーぼ

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37.天皇賞(秋)前編/白蒼領域、覚醒

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、方針が変わる事はなかった。

 

 

 

 

 来年末の『有記念』までにGⅠレースで1着をとる。

 そのために何をするか。結論は一つであり、不変であった。

 

 ただただトレーニングをこなす。勝つための努力を惜しまない。特別な練習法を思い付けばそれを取り入れるが、基本的にやる事は変わらないのだ。

 いつもと同じようにその時に適したトレーニングをさせる。これに尽きると渡辺輝は考えた。

 

 勾配のある坂を走っても大丈夫なようにスタミナは強化してあるし、囲まれても抜け出せるように筋トレでパワーも付けている。

 最近は集中力を高めるトレーニングをし、レース中に一点集中できるようにもした。

 

 最大の相手に挑むための、最強のライバルに勝つための準備を整えてきた。

 控え室、そこで深呼吸を終えたナイスネイチャは立ち上がる。

 

 

「何せ相手は18人だ。トウカイテイオーだけが要注意じゃないのは分かってるな」

 

「うん。油断は一切しない。それに何だか今日は身体が軽いんだよね。だから今のアタシに出来る全力で走ってくるよ」

 

「……その様子だと言う事は何もないな。後はいつも通り楽しんでこい」

 

 10月下旬。

 秋のGⅠレースに含まれる中の一つに、ネイチャは挑もうとしていた。

 

 

「うんっ、じゃあちょっと行ってきますわ!」

 

 控え室を出ていったネイチャを確認してから自分も出る。

『天皇賞(秋)』。春の天皇賞の京都レース場とは違い、秋の天皇賞は東京レース場で行われ秋の数あるレースの中でも最高峰と言われる重賞レースだ。

 

 それ故に出走するウマ娘達のレベルも高く、またコースの複雑さもあるからか1番人気とされたウマ娘でも期待通りに1着を取るのは難しいと言われている。

 ただでさえ勝利を掴む事が難しいこのレースで、ネイチャが勝つイメージが浮かぶかと問われれば、迷いなく首を縦に振るべきなのだろう。

 

 しかしトレーナーである以上、相手の力量も見れば大体分かってしまうので素直に首を縦に振れないのも事実。ましてや相手にはトウカイテイオーがいる。

 ネイチャの同期の中では頭一つ抜けている最強格の1人。そこに喰らい付くにはそれ相応の努力と根性が必要だろう。

 

 観覧席に出ると既に客は殺到しており大歓声がレース場に響いていた。

 いつものようにゴール板の近くのスタンド前まで移動して目の前に映し出されている大画面を見る。パドックを終えたウマ娘達が次々とゲート前まで移動していた。

 

 

(ネイチャを除いても17人のウマ娘がいる。全員を警戒しつつ自分のレースが出来れば勝機はあるかもしれないが、基本は差しでいくネイチャだ。人数が多ければ多いほど囲まれると厄介になっちまう。2番人気だとまさにブロックの対象にされる可能性も高い)

 

 1番人気は言わずもがなトウカイテイオー。次いでネイチャだ。確実な掲示板入りを見越しての人気なのは明白だろう。

 しかし1番と2番には見えない差がありすぎると思っている人々がほとんどだ。勝ち数の多いトウカイテイオーとイマイチ勝ちきれないネイチャ。どちらが人気になるのかは火を見るよりも明らか。

 

 それでも。

 

 

(それでも、ネイチャが勝つ事を俺は信じてる)

 

 最近のネイチャはトレーニングに熱心だった。以前よりも遥かに努力していると言ってもいい。敗北の悔しさを素直に受け止め、勝利への渇望が身体を突き動かしていた。

 そしてその努力は着実にネイチャを強くしていた事もトレーナーが一番よく知っている。

 

 トウカイテイオーとの再戦。

 その成果が試される時が来たのだ。

 

 パドックを終えたネイチャが画面に映る。変に強張っている様子もなく程よい緊張感でいれている。とりあえずの心配はなさそうだ。

 と。

 

 

(……ん?)

 

 ネイチャから他のウマ娘にカメラが切り替わる瞬間、何かが見えた気がした。

 ほんの一瞬だったからか気のせいかもしれないし単なる見間違いかもしれない。そもそもカメラ越しのスクリーンにそんな()()が見える確証もないから確信も持てない。

 

 ただ、その一瞬に見えた気がした。

 ネイチャの瞳から、何かが舞うように漂っていたモノが。

 

 

(他の人には、見えなかったのか……? いいや、そもそも見えてない?)

 

 自分だけに見える何か。まだまだ分からない事だらけだが、人間で自分にしか見えないのなら色々と好都合なはず……と思いたい。

 もしもネイチャの瞳に見えたのが見間違いではないとしたら、それはそれで頼もしい限りではないか。勝機は充分にあると言っていいかもしれない。

 

 こんな都合の良い考えが出来るほどネイチャは強くなったのだと、確信を持って言える。

 スクリーンには次々とゲートに入っていくウマ娘が映っている。

 

 観覧席はこんなに盛り上がっているが、件のゲート周辺は逆に静寂で包み込まれているだろう。

 GⅠレース。最高峰のレースともなれば走るウマ娘達の集中力も段違いだ。歓声に囲まれているトレーナーにまで緊張感が伝わってきそうな勢いである。

 

 全てのウマ娘がゲートに入った。

 

 

 

 

 東京レース場。GⅠ『天皇賞(秋)』。

 芝、良。距離、2000m。天候、晴れ。左回り。

 

 

 

 

 この一瞬だけは、観覧席も含め東京レース場が静寂の空間に支配される。

 そして、ゲートが開かれた。

 

 

 

 

 

 

 一斉に駆け出していくウマ娘達。

 その中でネイチャはまず後方につきつつコースの内側へすぐさま移動していく。

 

 

(よし、とりあえずは作戦通りコーナー前に内まで来れたっ。あとは終盤まではこのままをキープ!)

 

『天皇賞(秋)』のコースは第1コーナーの奥にあるスタート地点から始まる。

 そのため第2コーナーまで短く、そこで外を走らされると距離のロスが激しく余計なスタミナを減らす羽目になってしまうのだ。最後の直線までは何とかスタミナをキープしておきたい。

 

 最初の直線に入る。

 視認できる範囲にトウカイテイオーはいた。先行集団の中団に彼女はいる。仕掛けるのは最終コーナーを終えた直後。まずは第3コーナーに入る前に目の前の坂で少し距離を詰めておきたい。

 

 

(テイオーは少し外めにいる。いつでも仕掛けられるようにしてるんだ。アタシは……ちょっと囲まれてるな。最終コーナーで列が乱れる瞬間に外に出られればいいけど)

 

 作戦がネイチャと同じ差しで走っているウマ娘が多いのか、後方集団がやけにいる。

 先頭で引っ張っているウマ娘は1人か。だがこのペースならまだまだ余力は残せそうだ。坂を上りつつ前との距離を詰める。

 

 普通、この速度で坂を上るとどれだけスタミナがあっても多少は脚が重くなるはずなのに、その感覚が今はない。

 

 

(やっぱり、今日は何だか脚が軽い感じがする……。視野も確保出来てるし、今もこうして考え事をしてるのに常に集中力が全開って感じだ)

 

 第3コーナーに入る。

 そろそろ仕掛け準備をするウマ娘もいる中、ネイチャも少し外へ行けるように意識を向ける。不思議と調子の良い今なら、いける気がした。

 

 負ける気は毛頭ない。目指すは1着。ただそれだけだ。

 しかし、その集中力の中にいたからか、ほんの微かな違和感を感じ取った。

 

 

(そういえば……)

 

 視線を少しだけ斜め前へ向ける。

 白と青を基調とした勝負服を身に纏ったトウカイテイオーが走っている。それだけなら何ら違和感はないはずだ。ただ、彼女の走りを研究していたからこそ分かる。

 

 あまりにも大人しすぎないかと。そして、パドックを終えた時にも感じていた雰囲気。いつものように話しかけれる様子でもなかった。

 前回の春の天皇賞でメジロマックイーンに敗北して初のレースがこれだ。この数ヶ月間、トウカイテイオーを偵察していたトレーナーもいつもとは変わらない様子と聞いていたが、もしかしたらそれは表面上だけだったのかもしれない。

 

 三冠ウマ娘も叶わず、無敗のウマ娘にもなれなかった。

 その果てにあるのは何なのか。何を思っていたのか。それはトウカイテイオー本人にしか分かり得ない事だ。

 

 悔しい思いをした強者ほど、バネの反動は大きく高く跳ね上がる。

 高く飛ぶために低くしゃがむのと同じように、助走をつけて飛ぶために後ろへ下がるのと同じように。強さというものは弱さから生まれるものでもあるのだ。

 

 敗走を知り、たゆまぬ努力を続けた強者。

 そうして得られたモノは彼女を豪速へと進化させる。

 

 最終コーナーに入り徐々にスパートをかけていくウマ娘がいてもネイチャは直線に入るまでは焦らない。おかげでスペースは出来ていき視界も広がっていく。

 

 

 

 

 そして、見えてしまった。

 

 

「ここからだ」

 

(…………え?)

 

 ネイチャの斜め前にいるトウカイテイオー。顔色もよく窺える。

 垣間見た。前兆を。片鱗を。その瞳から出る。

 

 

 白く蒼い稲妻を──。

 

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

 

 その違和感を感じていたのは渡辺輝もだった。

 大人しすぎるトウカイテイオーを見て、絶対に何かあると踏んでスクリーン越しに彼女を注視していた。

 

 最終コーナー辺りのトウカイテイオーが映った瞬間、即座に理解した。

 数ある資料を見ていく内にたどり着いた結論。

 

『そこ』に辿り着くにはいくつかの要素が必要だった。

 凄まじい集中力、相応の実力。時代を創るウマ娘には必須とされていて、自分の知らない豪脚を発揮できる。

 

 限界の先の先。

 真の強者が行き着く領域。

 

 スタンドの柵に手を掛け身を乗り出して、渡辺輝はこう言った。

 

 

領域(ゾーン)かッ!!」

 

 トウカイテイオーの両の瞳から漂っている純白の光と蒼穹の稲妻。

 スクリーン越しでもハッキリと見えた。もう見間違いでも何でもない。理由はどうあれ渡辺輝は完全に()()()()()()()()

 

 だとしたら。

 

 

(本当に領域(ゾーン)が現れるなんて……マズいぞ……ネイチャ!!)

 

 1人の強者が白蒼(びゃくそう)へと覚醒した。

 その強さは光が見えなくとも圧倒的な脚でもってレースを沸かせていく。最終直線の525mの途中には160mの坂があり、上りきった後にまた末脚を発揮しなければならないタフなコース。

 

 そこを押し切れた者が勝者となるこのレースで、誰もが超越した追い上げを見せるトウカイテイオーが勝つと思っていた。

 しかし、忘れてはならない。見逃してはいけない。

 

 トウカイテイオーの、すぐ後ろ。

 そこで必死に喰らい付いているウマ娘がいる事を。

 

 

 

 

 

 

 

 限界の先の先。何かがひび割れるような音が中で響いた。

 少女の瞳から、()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 





はい、という訳でトウカイテイオー、領域に入りました。
ここから史実とは異なる展開になっていくので、そこはご了承ください。

白蒼(びゃくそう)に関しては完全に語呂的にカッコよくね?ってなり勝手に作者が作った造語です。
適当に流してやってください。
これがシンデレラグレイに影響された者の末路。



では、今回高評価を入れてくださった、


光の狂信者ペニーワイズ@シングレ買ったさん、さんすいさん


以上の方々から高評価を頂きました。
本当にありがとうございます!!




時代を創れるウマ娘の器じゃないだろだなんて、絶対に言わせない。
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