お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話   作:たーぼ

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39.気持ちの変化

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 控え室のドアを開けるとすぐに声がかかった。

 

 

 

 

「ネイチャ!」

 

「トレーナーさん……」

 

 あまり顔を合わせたくない気分のネイチャにとってはタイミングが悪い、とも思えない気持ちだった。

 担当トレーナーなんだからレース後に控え室で待っているのは当たり前であり、それが普通である。

 

 慌てた様子でトレーナー、渡辺輝はネイチャの肩を掴んだ。

 

 

「大丈夫か!? いつもより疲れてないか? 脚の痛みは? どこか違和感のある箇所とかもないか!?」

 

「うわちょちょ、いきなりどうしたのさトレーナーさんっ……。ち、近いっ、近いから!」

 

 気持ちよりも先に声が先に出た。

 表情から見るに本気でネイチャを心配しているようだ。トウカイテイオーと競り合ったレースの後だからという事もあるのだろう。

 

 

「大丈夫。何ともないよ。体調もいつも通りだし、気にしなくていいから」

 

「けどお前、()()に入ったんだろ?」

 

()()。即ち領域(ゾーン)。限られたウマ娘だけに発現するとされている領域。

 相応の実力と集中力、その日のコンディションを含め最高潮だった時に現れる現象。時代を創るウマ娘は必ず領域(ゾーン)に入ると言われていて、『あの』シンボリルドルフもその領域に至ったという。

 

 その1人として、今日ナイスネイチャとトウカイテイオーは仲間入りを果たした。

 領域(ゾーン)に入った者同士の対決。

 

 その結果は。

 

 

「でも負けちゃった。最初は並んだって思ったんだけど、すぐに差付けられたしね」

 

「けどクビ差だったろ。そこまで追い詰めたって事じゃねえか。それより本当に身体に異常はないんだな!?」

 

「トレーナーさんが前々から言ってた領域(ゾーン)ってこの事だったんだあって本能で分かったけどさ、テイオーまでアレになるのは反則でしょーってね。あと本当に大丈夫だから心配しないで、ありがと」

 

 そもそもあの状態に入れるのが一部のウマ娘しかいないという事を忘れてはならない。

 ネイチャも実力で言えば相当なものになっているはずなのに、超えるべき相手がその想像を上回っていくせいでイマイチ自分の成長が実感できないでいる。

 

 いいや、正確にはトウカイテイオーとの成長速度の差が気になっていると言った方が正しいか。

 同じ領域(ゾーン)に入っても元々の実力に差があっては埋まるものも埋まらない。絶対的に超えられない壁が存在している。それを埋めるためのピースが足りない。

 

 

「……確かにテイオーは強かった。期待以上の走りでレースを盛り上げたのも事実だ。領域(ゾーン)に入ったあいつの走りには絶対的な威圧感があった。まさに威厳のある『帝王』だったよ。普段の子供っぽいテイオーなんか想像できねえくらいの強さだった」

 

「うん……それは一緒に走ってたアタシも同じ事思ってた。レースになればみんな普段とは違うって事は分かってたのに、今日のテイオーは本当に別人のようだった」

 

 圧倒的な存在感を放つ走り、見る者も競る者も震わす威圧感。

 故に『帝王』。

 

 だが、発見も得るものもあった。

 

 

「けどさ、そのテイオーの顔には余裕ってもんがなかった」

 

「……え?」

 

「あれだけの走りをしても、ネイチャに抜かされないように必死な顔だったよあいつも。『あの』テイオーにそこまで喰らい付いて、ギリギリまで競って追い詰めたのは間違いなくネイチャ、お前だ」

 

「アタ、シが……テイオーを、追い詰めた……」

 

「ああ。今回は負けちまったけど、今日のレースは俺にとってそれ以上に価値のあるレースだった。迫ってるぞ。テイオーに」

 

 成長はしている。しかしトウカイテイオーとの差がどうしても気になっていたのも事実。

 自分からは見えなかったが、彼女も同じように必死な顔で走っていたのか。相手を格上だと断じてしまうネイチャの悪い癖の一つだが、見方を変えれば何てことない。

 

 彼女も自分と同じウマ娘だと思えばいい。相手のグレードを下げるのでもなく、自分のグレードを上げろ。

 現にトレーナーも言った通りトウカイテイオーには負けたがクビ差の惜敗だ。トレーナーと一緒にやってきたトレーニングは無駄なんかじゃなかった。

 

 そして、ネイチャの心境にも変化があった。

 

 

「……いつもなら、ここで勝てないのも当然かーとか言ってたんだろうね」

 

「ネイチャ?」

 

 心の中にある本音を漏らす。

 弱音でも強がりでもない。紛れもない成長した心でもって言葉を紡ぐ。

 

 

「悔しいんだよ、アタシ。テイオーに負けて、本気で悔しいと思った。烏滸がましいとか思われるかもしれないからまだトレーナーさんにしかこんな事言えないけど、やっぱり勝ちたいよアタシも……」

 

 

 

 

 最後の方はどこか声が震えていた。

 今まで卑屈で斜に構えがちだった少女の紛れもない本音。成長したが故の悔しさ。瞳から出る雫はその証拠だった。

 

 ここまで言わせて、何も言わないなんて選択肢は渡辺輝の中にはない。

 彼女にはその名の通り『素晴らしい素質』がある。それを見出したのは自分だ。ならば勝たせるのも自分だ。拳を握る。

 

 あまり顔を見られたくないのか、彼女は近づいてきてそのまま額をトレーナーの胸辺りにコツンっと預けて言う。

 

 

「トレーナーさんと一緒に喜びたい……GⅠレースに勝って自信持ってこの人のウマ娘なんだって言いたいよ……」

 

 あれだけ凄いレースをした彼女が、今はこんなにも小さく見えてしまう。

 レースを沸かせるウマ娘と言っても彼女達はまだ子供なのだ。そんな娘が勝ちたいと、悔しいと言っている。

 

 なら導くべきは大人の自分であると思い直す。

 自然と、だった。

 

 

「……ああ。俺が絶対にお前をGⅠレースで勝たせてみせる。いいや、俺とお前で勝つんだ」

 

 いつか言った言葉にも似ていた。

 ネイチャの頭に手を置き、もう片方の手で優しく抱き寄せる。なるべく安心できるように。悔しさを分かち合うように。

 

 

「そして絶対にテイオーに勝ってセンターで歌うネイチャをファンのみんなに見せてやろう。それだけの願いを背負える力が、今のお前にはある」

 

 緑と赤のクリスマスカラーを模し期待と願いの象徴を持つ勝負服。

 それに相応しいウマ娘になると決めたあの日から、ナイスネイチャは大きくなった。

 

 今ならもうハッキリと言える。

 少し強く少女を抱きしめた。

 

 

「恥ずかしいんですが……」

 

「別に誰も来ねえよ。悔し涙くらい流したって構わん」

 

「今のアタシ、走った後だから汗臭いよ……」

 

「頑張った証だ」

 

「……次は勝ちたい」

 

「お前が諦めない限り、俺はお前と2()()()()()()()()()()()()

 

 来年末までにGⅠレースに勝利。

 それが出来なければ渡辺輝は地方のトレセンに行く事になる。だけど今回の結果で希望の道が増えた。

 

 ネイチャは時代を創れるウマ娘だ。

 つまり、勝てる見込みは大いにある。これからはきっともっと厳しいトレーニングになるだろうが、今のネイチャなら難なくこなしてくれるだろう。

 

 ふと、ネイチャの両手が背中に回された感触がした。

 表情は見えないが微かに震えている。今の自分に出来る事は、ただ優しくいつも通り頭を撫でてやる事だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな中、トレーナーの胸の中にいたナイスネイチャの心も大きく変わろうとしていた。

 いいや、正確にはその気持ちに気付きかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(トレーナーさん……)

 

 

 

 

 

 

 





はい、という事で天皇賞(秋)が終わった直後の話となりました。
この作品のネイチャはだんだん精神的にも成長していってもらうつもりです。

何気に気になってたんですが、アプリで中等部のウマ娘が3年間走り切った後はもう高等部扱いになってるんですかね?
となれば高等部のウマ娘なら……?とも考えますが、その辺りの設定がまだ詳しく分かってないので何とも言えないです。


では、今回高評価を入れてくださった、


キヌツムギさん、叢真さん、weibさん


以上の方々から高評価を頂きました。
何と念願のお気に入りが3000を超えました。こんなに伸びるとは思ってなかったので感激です。本当にありがとうございます!!




ネイチャは可愛い(再確認)
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