お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話 作:たーぼ
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12月下旬。
年末もすぐそこまで迫り、街中の景色を見ればおせちを売っている店や売り尽くしセールなどがやっていて正月の事前準備もあってか今年も終わるという実感が強くなってくるものだろう。
すっかり外も寒くなったせいで迂闊に外へ出るような真似はしたくないと思う寒がりな人々がいる中。
府中トレセン学園。そのトレーナー室にいる渡辺輝は自費で買ったこたつにくるまり顔だけをテーブルの上に置いて誰が見てもアホな顔をしていた。
「あうあうあ~」
「溶けてる溶けてる。声も顔も溶けてますよトレーナーさん」
向かいの正面に座っているナイスネイチャがみかんを食べながら呆れている。
練習もせずサボっている訳ではない。今日はオフの日……でもなく、今日からしばらくはオフと言った方が正しいか。
年末年始はさすがにトレセン学園にいるウマ娘達も一部を除いては休みに入るのだ。休みよりも練習に力を入れたい生徒は事前に学園、もとい何故か理事長ではなく生徒会長のシンボリルドルフに許可書を提出して練習場を使わせてもらっているらしい。
しかしこの現状の通り、ネイチャとそのトレーナーはもれなく年末の休みを満喫している最中であった。
「やる事もなくただただこたつでのんびりしてたらそりゃ溶けるじゃろうて」
「口調までおかしくなってるし……。まあ、部室もあんまり使わずだしこの部屋の大掃除くらいしかやる事なかったけど、まとめてやるのも面倒だから毎日こまめに掃除してたらすぐ終わっちゃったしねえ」
「そもそも年末年始はしっかり休むって決めた時点でこうなる事は想像できてた」
「てかこまめに掃除する羽目になったのはトレーナーさんがすぐ部屋を散らかすからなんですけど、その辺のお気持ち聞かせてもらってもいいですかね」
「お前は将来良いお嫁さんになるよ」
「げふんっ……まーたすぐ調子いい事言っちゃって」
そんな事を言いながらもしっかりと目を逸らして頬を赤くしているネイチャ。こたつの熱のせいだと誤魔化せるかは分からない。
そして相変わらず顔が溶けているトレーナーはそんな事にも気付く気配すらなかった。
「ちょっと前までは色々忙しかったしそうなるのは分かるけどさ、もう少ししっかりしてくれてもいいんじゃない? ほれ~あなたの担当ウマ娘がヒマしてますよ~構え~」
「みかんのおかわりならあそこの袋の中にあるぞ」
「そゆことじゃないわ」
「『マイルチャンピオンシップ』と『有馬記念』は惜しかったな」
「あうあうあ~」
「顔も声も溶けてんぞ」
晴れて両方とも溶けてしまった。
みかんの皮だらけのテーブルにあった書類にはこう書かれている。
ナイスネイチャ、マイルチャンピオンシップ3着。有馬記念3着。
天皇賞(秋)の2着と比べても決して悪い成績でもなく、どちらかと言えば立派な好成績と言えるだろう。堅実な実力を持ち掲示板入りも安定している。
しかし、結局はそこまででしかない。
1着は遠く、またGⅠレースがどれだけ難しいかも余計思い知らされた。
何より気になるのは、
(マイルCSの時も有馬の時もネイチャは
天皇賞(秋)のレースでネイチャの瞳から舞うように発現していた深緑の光。
それがどちらのレースでも見られなかったのだ。
(考えられるのは発動条件が揃っていなかった事。実力は足りているにしてもその日のコンディション、集中力に関しては簡単にどうにかなるもんじゃない。そもそも
そうなると
幸いそれがなくとも5着以内に入れている事が収穫と考えればいい。絶対に1着に及ばない訳ではないのだ。
「あーペース配分もスタミナも良い感じだったのになあ。もう少しのとこで届かないの何なんだろ。神様はアタシに3着しか取らせない気かねー」
「笑っちまうくらい『3』って数字に縁があるよなネイチャって。好かれてんじゃね」
「もはや呪いだと思ってるんですが……」
「まあいいじゃねえか。『有馬記念』ではテイオーに勝ったんだから。お前が3着でテイオーが11着。改めて見ても信じられないけどな」
「走る前から脚を気にしてたし、レース始まった後も走りづらそうだったからね。しかも先行集団が多かったせいで結構ブロックされてたし、最終的には脚を庇いながら走ってたから結果がああなったのも無理ないよ」
レース前からトウカイテイオーの脚の調子がおかしく、若干不安はあったものの彼女の走る意思を尊重して許可をしたが結果は著しくなかった。
と、渡辺輝はトウカイテイオーのトレーナー滝野勝司から聞いている。後半から脚を庇いながら走っていたおかげか大きなケガもなく、今は様子を見ながら少しずつ慣らしてから走っているらしい。
ウマ娘の走る速度から考えても脚にかかる負担は相当なものだ。下手をすると命にも関わる事故が起きてしまっても不思議ではない。そういうものを回避するためにウマ娘のトレーナーや専門の医者がいる。
そういう意味でも渡辺輝はネイチャに過度なトレーニングは絶対させないようにしているのだ。
「それにあれはアタシのしたい勝ち方じゃないから。ちゃんとテイオーと競り合った上で勝つのがアタシの目標」
「……へえ。言うようになったじゃねえか。ちなみにそれテイオーにも言ってんの?」
「……やっぱまずはそれなりに段階を踏まないとですねえ」
「だろうとは思った。まあいいや、それだけお前が全体的に成長したって事くらいは分かってるからな。今後の更なる伸びしろも楽しみにさせてもらうよ」
今後。渡辺輝にとっては来年末までの勝負となるが、果たしてどうなるかは分からない。
しかし
そんなところで自分もみかんを食べようと袋に手を伸ばして気付いた。
「ありゃ、もうみかんないのか……って」
テーブルを見てまた発見。ネイチャの前には大量のみかんの皮が置かれていた。
さっきまではなかったのにちょっとした山にまでなっている辺りこのウマ娘、一度も手を止めずみかんを食べていたのか。
「あ、ごめん。ここにある全部食べちゃったわ」
「いくらみかんだからってそんなに食ったら腹膨れるんじゃねえのか?」
「んー、何だか最近食欲が凄いんだよねえ。けど運動もしてるから変に体重増えたりとかはしてないよ」
「……そうか。ならいいんだけど」
ネイチャの話が本当なら思い当たる節が一つある。が、今はまだ確信がある訳でもないので黙っておく事にする。
ふと外を見ると太陽も沈む準備を始めていた。冬は陽が短く夕方になるのも夜になるのも早い。時刻はまだ17時だが空は暗くなりつつある。
「そういや休みだってのに何でこんなとこ来てんだ? あまりにも自然にいるもんだから普通に俺も過ごしてたけど」
クリスマス辺りから冬休みに入り、『有馬記念』が終わってからは本格的な休みになったはずなのに今こうしてネイチャは目の前にいる。
本来であればわざわざトレセン学園に来る必要はないというのにだ。もしかすると何かしら真面目な理由があるのかもしれない。
「え? ああ、後でマヤノ達と商店街食べ歩きしよーって予定だったからそれまでの暇潰しに来ましたーって感じ」
「めちゃくちゃ普通だなオイ」
何の理由もなかった。
「っと、噂をすればマヤノから連絡来た。んじゃアタシはもう行くねっ」
「おう、若者は寒空でも元気だな。商店街の人達にもよろしく言っといてくれ」
「はいはい。……ところでトレーナーさん」
「何?」
こたつからで鞄を持ったネイチャが振り返って言う。
「トレーナーさんってどうせ明日も明後日もここに来るんだよね?」
「どうせって何だどうせって。冬休みって言ってもトレーナーとかは来年の調整とか連絡とか色々あるからな。俺はひと通り終わらせてるから大丈夫だが、一応はここにいてるぞ。それがどうした?」
「じゃあ明日も明後日もアタシここに来るからよろしくねっ。それじゃ」
「え、何で? ちょ、待」
言い終わる前にネイチャは部屋から去って行った。
練習があるならまだしも許可証を提出していないからここに来てもほとんど無意味なはずだ。なのに何故わざわざここに来るのか。
理由は分からないが、
こたつから出てすぐ自分のPCへ向かう。トレーナーとウマ娘にとって1年なんてものはすぐに終わってしまう。ネイチャのために、自分のためにやる事はたくさんあるのだ。
表面上はやる事もなく暇そうに。
裏面上はネイチャが勝てるように。
あくまでお気楽そうなトレーナーを演じ続けろ。
はい、マイルCSと有マ記念は飛ばせていただきました。
レース描写ばかり書いてるとほのぼの書けませんので。
そして最後にメインタイトルの一部にもなっている『お気楽そうなトレーナー』にも触れました。
ちゃんと理由があったんですぜ。
では、今回高評価を入れてくださった、
頑張るざるそばさん、雨に濡れた犬は臭いさん、takosuoisiiさん
以上の方々から高評価を頂きました。
本当にありがとうございます!!
イベポイント100万までがキッツい……。