お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話   作:たーぼ

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41.芽生えるココロ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネイチャが去ってからPCに向かい作業をすること1時間。

 渡辺輝はこれまでの練習やレースで分かった事をレポートに書きながら過去の資料もいくつか見直していた。

 

 

(ネイチャの実力は申し分ない。重賞レースでも実力者達と渡り合える力は既に持ってる。けどだからと言って絶対に勝てるとは言えないのがレースだ。1番人気のウマ娘が負ける事なんて珍しくもない。つまりは実力と運、その日のコースと他ウマ娘の対策が勝利への鍵となるのは明白……)

 

 目を通し、資料の紙を脱力気味に手放す。

 どれだけネイチャのために尽くそうと色々見ていても結論は同じだった。

 

 

(結局やる事は練習と対策。特にネイチャの得意な末脚を伸ばす事だけ、か。最近のトレーニングを見てると負荷を増やすのも悪くはないな。あとは……レース中にどれだけ良い位置につけるかをもっと意識させてみるか)

 

 同じコースを走っていてもウマ娘達のいるポジションによって走行距離は変わるものだ。

 良い位置につけなければ外を走らされ体力の消費が激しくなってしまう。走る全員が常に最善の位置を狙うからポジションも変わりやすい事が多い。レースに集中しながら視野を広げ、スピードも調整しつつ他のウマ娘も注意しなければならない。

 

 

(改めて考えるとウマ娘って凄えな……)

 

 人間離れした走りと筋力。離れた場所からでも声を聞き取れるウマ耳。感情のままに揺れる尻尾。不思議な存在ではあるが人間と何ら変わらない生活をし、人間と結婚して添い遂げるウマ娘もいる。

 そしてその多くがウマ娘と共にレースを走り切ってきたトレーナーと結ばれたと聞く。

 

 やはり一緒にいる時間が長いとそういった気持ちが芽生えてくるものなのだろうか。レースに勝つという志を共にしている以上、距離は近くなり絆は強くなるとは思うが、あくまでトレーナーとウマ娘だ。そもそも年齢の差がある。

 

 

(そういや結構歳の離れたトレーナーとウマ娘が結婚したって何度か滝野さんも話してたな。何で自分はまだ結婚出来ねえんだって嘆いてたけど)

 

 恋愛経験のない自分には分からない事だらけだが、実際恋愛には年齢の差なんて関係ないのだろうか。

 悲しくも恋人いない歴=年齢の渡辺輝は経験も知識も皆無なので全て憶測でしか測れない。だから自分と担当ウマ娘が、なんて事も考える脳を持ち合わせてないのだった。

 

 というよりも今はレースの事で精一杯だからそれ以外の事を考える余裕もなかったりする。

 

 

(っと、余計な事を考え過ぎたな)

 

 思考のズレは脳の疲労からか。1時間でも集中して資料と睨めっこしているとさすがに目も疲れてくる。

 外を見ると18時だというのにすっかり空は暗くなっていた。冬休みという事もあり、教師もトレーナーもウマ娘も今トレセン学園にいる人数は少ない。

 

 いつもは廊下や外から聞こえてくる喧騒も今は全くと言っていいほど聞こえない。

 冬の夜景色。部屋とは違い寒いだろうと思いつつも席を立った。

 

 

「……コーヒーでも買ってくるか」

 

 軽い息抜きのために。

 

 

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

 

 

「廊下にも暖房付けるべきなんじゃねえのマジで……」

 

 冬休みだから購買は当然やっておらず、仕方なく中庭にある自販機まで行く羽目になった。

 その帰り、もはや外も廊下も気温はほとんど変わらず真冬の空気が渡辺輝を襲う。外とは違い風がないだけマシか。

 

 トレーナー室に着いてから飲もうとしている缶コーヒーをカイロ代わりに両手に持ちながら部屋を目指す。

 本来ならまだ生徒も残っていて、練習場には多数のウマ娘達がいる時間帯だからか誰もいない練習場を窓越しに見て少し違和感を抱いてしまう。

 

 

(ネイチャは今頃マヤノ達と遊んでんのかな)

 

 冬休み。普通の人間が通う学校ならば宿題をしつつ後は休みを満喫するだけでいい。

 しかしトレセン学園に通うウマ娘はレースのために練習したり、遠征しにいったりするのが基本だ。いわば部活の上位に位置するものか。

 

 約2週間の休みはなく、1週間弱休みがあれば上々。

 いくらウマ娘といえどまだ学生であり子供だ。学業やレースだけじゃなく、学生なりに冬休みを満喫してほしいという考えもあってか、渡辺輝はネイチャに休める時は目一杯休んでほしいと思っている。

 

 

(学生でいられるのは人生でも今の内だけだしな。あいつは変に大人ぶった思考してるし、こういう時くらいは適度にハメ外して楽しんでくれてたらいいけど)

 

 突き当たりを曲がればもうトレーナー室はすぐそこ、という時だった。

 曲がり角から足音がしたのだ。そして同時に発せられた声は自分を呼ぶものだった。

 

 

「よっ」

 

「滝野さん」

 

 渡辺輝の師匠的存在。ベテラントレーナーでありネイチャのライバル、トウカイテイオーの担当トレーナー滝野勝司が目の前に現れた。

 いつから待っていたかも不明なチリチリと髭を生やした滝野は言う。

 

 

「久々に世間話でもどうだ」

 

 

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

 

 

「あ──もうっ、忘れ物するなんて何してんだアタシ……!」

 

 逃げるようにトレーナー室を出たのが災いしたのか、ついうっかり部屋に宿題用のノートを置き忘れていたのに気付いたネイチャが戻って来ていた。

 食べ歩き一軒目で気付けたのが不幸中の幸いだっただろう。マヤノ達も商店街で待ってるからと言ってくれたので、ウマ娘お得意の走りですぐさまトレセン学園へ帰ってきたばかりだ。

 

 

(他の教科ならまだしも今日一緒に進める予定の宿題忘れるとか一番ないでしょ。ナイナイ!)

 

 宿題の話題になり少し確認しようと鞄を見たら見事にピンポイントで数学のノートと教科書だけ入ってなかった。

 宿題の範囲を見てどこまで進めるか考えていたのに忘れるとは自爆この上ない。空は暗いが時間はまだ遅くないので校門も普通に開いていた。

 

 トレセン学園の廊下は原則としてウマ娘は静かに走るというルールである。

 つまりは静かであれば普通に走っていいのだ。もちろん注意はしながらだが。

 

 トレーナー室が見えたところでスピードを落とし普通に歩いていく。

 そこでネイチャの耳がピクンッと動いた。

 

 ウマ娘の耳は人間とは違い優れた聴覚を持つ。なので多少距離の離れた場所でも誰の声なのかを察知できるのだ。

 普段とは違ってほとんど誰もいない校内から聞こえる話し声。ネイチャでなくともウマ娘なら嫌でも聞こえてくる。

 

 

(この声……)

 

 そしてその声には聞き覚えしかなかった。

 トレーナー室からではなく、突き当たりの曲がり角からそれは聞こえた。

 

 

(トレーナーさんと……確か、テイオーのトレーナー?)

 

「で、この先勝算はあるのか?」

 

「あるにはありますよ。ネイチャにはちゃんと素質があるんですから」

 

(アタシの話、してる……?)

 

 何故か姿を出す事なく、角から隠れるようにしてネイチャは話に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

 

「けど、レースに絶対がない以上、100%勝てる自信は持てません」

 

「へえ、意外だな。お前ならあの娘を信じて勝てるって断言すると思ってたんだが」

 

「そりゃ今もこれからも俺はネイチャを信じてますよ。でもあいつは年齢の割に妙に現実的な考えをしてるから、下手に取り繕った言い方をしてもすぐバレちまう。だからこういう時は正直に言うって決めてるんです」

 

 100%勝てるレースがあるならみんなそれに出るに決まっている。

 勝てるか分からなくとも勝率の高いレースがあるとも限らない。みんな様々な目的があってレースに出るのだ。それに絶対に勝てるレースの何が面白いのか。

 

 ネイチャだって言っていた。

 ちゃんと競り合った上でトウカイテイオーに勝ちたいと。ならばその気持ちを汲まなければならない。

 

 

「なるほどな。それで、来年出るレースは決まってるのか?」

 

「大体は。中距離を主軸にしながら長距離も出る予定です。上半期は控え目にして下半期に色々出ていく感じですかね」

 

「……GⅠは? 出るのか?」

 

「……ええ、出るのは下半期ですけど」

 

「そうか……」

 

 滝野勝司は渡辺輝の期限を知っている。

 来年末までにGⅠレースで1着を取らなければいけないと。それを気遣っての質問だが、如何せんベテラントレーナーの滝野と言えどこればかりはどうなるか分からないから下手な事は言えない。

 

 しかしこれだけは言っておかなければならないと思っているのだろう。

 そういった表情で滝野勝司は言った。

 

 

「輝、こんな事言うのは憚られるが一応俺もトレーナーをやってる身だ。お前達が挑むレースに俺のチームのウマ娘が出る事も当然ある。……その際は、悪いが手加減出来ないぞ」

 

「何言ってんですか。むしろその上で勝ちに行くんですからそんな事言うのは野暮ですよ。滝野さん達にんな事言われるほど俺とネイチャはそんなに柔じゃない」

 

「……そうでなくちゃ俺の弟子じゃないわな」

 

 どんな事情であれ、それはレースを走るウマ娘には関係ない事。

 トレーナーの事情に担当ウマ娘を巻き込む訳にはいかないのだ。

 

 そして。

 

 

「もちろん勝ちに行くのは大前提ですけど、俺はネイチャには出来るだけ気負わずに走ってほしいと思ってるし、何より走る事を楽しんでいてほしい。勝つ事だけに拘って楽しむ事を忘れてしまったら、それはもう無機質な機械と変わらない。俺は、あいつの笑顔が好きなんですよ」

 

「ははっ、そうかそうか。よーく言ったな輝。それでこそ俺が認めた男だよお前は!」

 

「いてっ痛って! 無駄に力強えんだってアンタは!」

 

 パンッパンッ! と大きな手振りで肩を叩いてくるチリチリ髭男。

 非常にご機嫌な様子だが、こういうところは少しだけ苦手だったりする。しかし、この目の前の男にウマ娘やレースについてのノウハウを全て教えてもらった事も事実。

 

 勝利する事も大事だが、ウマ娘自体が走る事を楽しめていなくちゃ意味がないといつも教えられていた。

 それだけはいつも胸に刻んでネイチャとも接しているのだ。何だかんだ滝野勝司から学んだ事は全て活かされている。

 

 

「お前もお前だが、ナイスネイチャも幸せ者だな。こんなに一途に自分だけを想ってくれるトレーナーがいるなんてよ」

 

「担当するウマ娘の事は第一にって口うるさく言ってきたのは滝野さんでしょ。俺はそれに倣ってるだけです」

 

「それは担当ウマ娘が複数いる前提の話だったんだけどな。担当が複数いりゃ忙しくなった時視野も意識も散漫になっちまう。そうならないために常にウマ娘第一って考えを意識しておくと優先順位含めて冷静でいられるって事なんだが。まあ1人でもちゃんと第一に考えてんなら全然良いって事だよ」

 

「だーもう痛えっての! もうちょっと力の加減考えろよアンタは! いつも担当ウマ娘達にいらねえ事して制裁喰らってるから加減の仕方忘れてんぞ!」

 

 とりあえず何かあると肩か背中を叩くのをやめてほしいと切に願う渡辺輝。

 このチリチリ髭、着々とめんどくさいオッサンルートへ足を進めていっているかもしれない。

 

 

「大事なんだろ、あの娘の事が」

 

「……、」

 

 油断すればこうだ。

 突然真剣な顔になって聞いてくる。オンオフ、メリハリ、表裏をしっかりと使い分けてくる。だから侮れないし尊敬できる。

 

 そんな人の下で経験を積んできた渡辺輝も、ハッキリとこう言った。

 

 

「もちろん。ネイチャは俺にとって掛け替えのない大事な娘ですよ」

 

 トレーナーとしてウマ娘を第一に。

 その思いもあるにはあるが、それ以上にナイスネイチャというウマ娘は非常に良い娘だ。

 

 家事も出来る。料理も出来る。努力も出来る。面倒見も良く、友人にも様々な人達からも人気で慕われている。

 トレーナーはウマ娘を支える存在ではあるが、自分に至ってはネイチャに支えられている部分も多い。栄養管理がなっていないとほぼ毎日弁当を作ってくれたり、たまに晩ご飯を作りに来てくれるからという理由で家の合鍵も渡している。

 

 そういう意味でも全信頼を置いているくらい渡辺輝にとってナイスネイチャは大切で大きな存在だ。

 

 

「こりゃあ強敵なライバルさん達はまだまだ強くなりそうだな。俺達のチームもうかうかしてらんねえや」

 

「ライバル意識持ってくれてるようで何よりです。だけど、これだけは言わせてもらっておきます」

 

「ん? 何だ?」

 

 師弟関係の2人。

 その関係は続きながらも、今はもう立派なライバル同士だ。

 

 チーム・アークトゥルスとチーム・スピカ。

 そのトレーナーである渡辺輝と滝野勝司は対面に向き直る。そして渡辺輝は師匠であった滝野に向かって確かに言ったのだ。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

「……ほお、言うじゃねえか」

 

 弟子から師匠へ下剋上宣言。

 成長の証だった。渡辺輝に迫る期限はもう1年とない。勝負はこれから約1年間。全てを出し切り最後に打ち勝つのはどちらか。

 

 対して、実績を積みベテランとまで呼ばれた滝野勝司は不敵に笑って返す。

 

 

「来いよ、挑戦者。ウチのチームが受けて立つぜ」

 

 師弟関係だからという訳でも、ライバルだからという訳でもなかった。

 ただどちらともなくお互いの拳を合わせたのだ。

 

 外にいるかのような寒い廊下。

 しかし2人のトレーナーは意に介さず笑う。確かに感じた。

 

 

 身体の内側、心が燃えるように熱いのを。

 

 

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

 

 

 激しい息遣いが宙を舞っていた。

 

 

「はぁっ……はぁ……はぁ……ッ!」

 

 トレセン学園校門前。

 そこまでノンストップで一気に走ってきたナイスネイチャは校門に手を付き息を整える。

 

 本来ならこんな距離を走ったくらいでは息が切れるはずもないのに、何故か動悸が治まらない。

 心臓が激しく鳴り響く。頭の中がグルグルかき回されていく。気持ちに整理がつかない。だけど体温だけは真冬の気温とは裏腹に上昇していった。

 

 

(何で……どう、して……ッ!)

 

 落ち着いていく脳内から思い出されるのは先ほど隠れて聞いていた会話。

 自分のトレーナーとトウカイテイオーのトレーナーが話していた言葉の節々。傍から聞いていれば何て事のないライバル同士の熱い会話だっただろう。

 

 しかし、捉え方は人それぞれだ。

 渡辺輝はあの場にネイチャがいなかったから取り繕う事なく本音で話していた。そう、本音で、だ。

 

 息は整ってきたのに心臓はまだバクバクと音を立てている。

 理由は、何となく分かっていた。いいや、気付いていた。

 

 

(ホントは……ダメだって分かってたのに……心のどこかで気付いちゃいけないって思ってたのに……)

 

 自分の気持ちとは不思議なもので、思っている事と感じている事が真逆でもそれは本心と何ら変わらないという事。

 そして帳面表力のようにギリギリまでせき止めていたはずの気持ちは、彼の本音によって容赦なく少女の気持ちを溢れさせた。

 

 

『今もこれからも俺はネイチャを信じてますよ』

 

『俺とネイチャはそんなに柔じゃない』

 

『俺は、あいつの笑顔が好きなんですよ』

 

『ネイチャは俺にとって掛け替えのない大事な娘ですよ』

 

『最後に勝つのは()()()()()()だ』

 

 

 何の意味もないと分かっていても両手が自然と胸へ強く押しつけられた。

 真冬なのに体は熱くなり顔は真夏のように赤くなっている。けれどどこか切なく淡い表情。無自覚に蓋をしていたものが強制的に開けられた感覚がした。

 

 夜空を見上げる。とても澄んでいる空気と一緒に景色が視界を覆う。軽く吐いた息は白くネイチャの世界を一瞬だけ霞ませた。

 呼吸が甘い。まるで今の心の色の味がした。いっそ認めた方が楽になるのか。無数の星々が夜空を支配する。世界の可能性は無限大で、きっと自分の悩みはちっぽけなものだと思う。

 

 だから。

 そして。

 

 

 

(ああ……アタシ……)

 

 

 

 少女は、自覚した。

 

 

 

 

 

 

(トレーナーさんが、好きなんだ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、40話越しにようやくネイチャさんが自覚しちゃいました。
今までのは無自覚だったようです。罪な女の娘やで……。

恋心にも気付いたしタイムリミットはあと1年なので次回から物語は更に動くかもしれませんし動かないかもしれません。片想い中のネイチャの話とか面白そうですよね。
活動報告に頂いたリクエストにもようやく応えていけると思いますので、それも含め是非ともより一層楽しみにしていただければなと思います!



では、今回高評価を入れてくださった、


ねこさんさん、rumjetさん、ナフタレンのストラップさん、島人さん、一 八重さん


以上の方々から高評価を頂きました。
いつも励まされております。本当にありがとうございます!!




これからもウマ娘の二次創作ガイドラインに抵触しないよう、モデルとなった実馬や馬主の方々に最大限の配慮と尊敬の念を持って書かせていただきます。
よろしくお願いいたします。
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