お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話 作:たーぼ
翌日の夜19時、栗東寮の一室では複数人のウマ娘がテーブルを囲んでいた。
夜という事もあり全員寝巻き姿のパジャマでテーブルの上や床には教科書やノート、お菓子にジュースなどが雑に置かれている。
言わば女子会というやつだ。冬休み、練習もなくウマ娘にとっては珍しい完全休暇。人々をレースで魅了する彼女達も年齢で言えばまだ子供である。
それを満喫しないはずもなく、お年頃の少女達は貴重な休みを満遍なく堪能するつもりなのだった。
さてそんな中、たった1人だけ若干浮かない顔というよりかはまるで取調室にいる追い詰められた犯人のような表情になっているウマ娘がいた。
まずそんな少女へ問いかけたのはマヤノトップガンだ。
「で、結局何でネイチャちゃんは昨日宿題だった数学の教科書とノートを忘れたのかな?」
ポテトチップスを1枚頬張りながら聞いているのを見るに、別に責めている訳でも何でもないのは分かる。
ただ本当に気になるから聞いているだけのようだ。
「まあ別の教科進めたからいいんだけど、珍しいよね。ネイチャが忘れ物するなんて」
軽いフォローを入れるように言ったのはマチカネタンホイザである。室内であっても欠かさず破れた(もしくは破った)帽子を被っていた。
そして件のナイスネイチャは正座で苦笑いをしたままこう答えた。
「や、まあ……別にアタシもいつもしっかりしてる訳じゃないし? こういう事くらいあってもおかしくないって、ね?」
「いーやあるね! ネイチャちゃんはいつも何だかんだ抜かりなく準備してるんだってマヤ分かるもん! だから絶対おかしい! 昨日の夜戻ってきた時だってちょっとヘンテコな顔してたもん!」
「褒めてるのかちょっとバカにしてるのかどっちよそれ」
昨夜、担当トレーナー渡辺輝への恋心を自覚してしまったネイチャ。
一度溢れ出してしまった想いはもう自分でも止める事はできず、気持ちに整理がつかないまま戻ってしまったのがいけなかったらしい。何かと物事に対してすぐ理解してしまうマヤノがいたからかすぐに異変を察知されてしまった。
まあただ忘れ物を取りに行くだけなのに、その忘れ物を持ってくる事を忘れていたとなれば何かあったに違いないと思われるのも仕方ないが。
完全に自分の落ち度であった。
「マベちんなら何か知ってるかもと思ったけどいつも通りマーベラスを探しに行ってまだ帰ってきてないし……ぜーったい何かあるのに!」
「あはは、だから何もないって……ただホントにドジして忘れただけだから……」
隠し通せるかは別として、何もなかったらないで穏便に済ませられるためネイチャとしては勘付いてほしくないのだが。
忘れてはいけない。このマヤノトップガン、その場にいれば超人的な直感力ですぐさま事態の真実を見抜いてしまうウマ娘なのだという事を。
「……あ、そういえばネイチャちゃん、忘れ物は
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………、」
沈黙は肯定という言葉がある。それだけでも証拠になり得るのにネイチャの尻尾は正直なようでしっかりと逆立っていた。
必死に目を逸らしているがおそらく意味はまったくない。むしろ逆効果だろう。
直感で察したマヤノ、ここまである意味露骨な反応だと却って分かってしまったマチカネタンホイザ。
そしてもう自分でバラしたようなものだと後から気付き冷や汗が止まらないネイチャ。
昨夜戻ってきてからのネイチャの頬がずっと赤かった理由。
時たま何かを想うような表情と瞳。それらを見逃さず見ていたオトナに憧れしウマ娘は完全に分かったようだ。
すぐ隣までマヤノの顔が近づいてきて、こう言った。
「何かあったんでしょ?」
「……………………ハイ」
圧が凄かった。
吐いた。
もう洗いざらい吐いた。というより吐かされた。
お年頃の女の子の恋バナに喰い付く勢いは凄まじく、ただ自覚しただけなのにもの凄く質問攻めにされたのだ。主にマヤノに。
そして色々言わされたネイチャの顔は案の定髪と同じように紅くなっていた。
(どうしてこんな目に……)
「いや~あのネイチャちゃんもとうとう恋をしたんだね~」
(ネイチャいつもマヤノちゃんに嘘のオトナ情報教えてからかってるから絶対その仕返しされてるけど黙っとこ……)
三者三様の顔色が部屋に蔓延していた。
大人びたい年頃のマヤノトップガンは屈託のない笑みで言う。
「トレーナーさんが好き、か~。ねえねえ、どんなとこが好きなの!?」
「……あの、それを今のアタシに言わせるのは酷なものだと思うんだけど、マヤノには遠慮というかさ、優しさってモンはあるかな」
「ないよっ! だって気になるし!」
(マヤノちゃん容赦ないね!?)
「ストレートすぎて逆に清々しいなッ」
ツッコミをしても逃してはくれないらしい。
どうやらこの目付きと食い付きよう、言わないとずっとネチネチ聞いてくるタイプのやつだ。
とはいえネイチャもまだ『恋』というものを自覚したばかり。正直に言ってしまうと誰かを好きになったのは初めてなので自分でもどう言えばいいのか分からないところが本音だ。
しかし目の前のアイコピー少女はそれで満足してくれなさそうな気がしてならない。
どうにか誰もが納得しそうで現実味のある答えを探した先に出たのは、
「……えと、気付いたら全部好きになってた、とか……?」
あまりにも言い訳苦しくて誰もが照れて誤魔化しそうな時に言いそうなものだった。
ありきたりすぎて自分でも言ってて恥ずかしくなったのかまたも顔を赤くするネイチャ。一つ言っておくならばネイチャの出した答えがあながち間違いでもなく、ネイチャ自身の本音も間違いなく入っているという事だ。
そんな赤いネイチャを見たからか、聞いてきたマヤノも満足いったようでむしろテンションが上がっていた。
「そうなんだ……そうなんだ~! ねえタンホイザちゃん! これが大人の恋ってやつなのかな!? きっとそうだよ!!」
「むしろ初恋レベルの初々しさ感じるんだけどマヤノちゃんがそう思うならそうなんじゃないかな」
「うっ……」
マチカネタンホイザの苦笑い混じりな返しがネイチャに精神ダメージを与えた。
マヤノよりもタンホイザの方が思考は大人らしい。彼女のツッコミにより変な勘繰りが入らないか見てみると、
「いいな~。マヤもそんな大人な恋をしてみたいな~!」
聞いちゃいねえようだった。
どうやら自分の世界に浸っているらしい。さすがはネイチャがチョロかわと称するだけの事はあるか。
キラキラとデジっているマヤノを尻目に、マチカネタンホイザは普通にネイチャへ問いかける。
「トレーナーさんの事が好きって気付いたって事は、ネイチャはトレーナーさんにアプローチするの?」
「えッ……!? いや、そ、それは……」
「だって好きなんでしょ? だったら早めにアタックしないと勿体ないんじゃないかな?」
タンホイザの言い分も分かる。
せっかく気付いたならアプローチすればいいと。お互い担当同士なのだから距離も近く、その分いくらかやりやすいはずだ。
しかし、踏み込めない理由だってもちろんある。
「け、けどさ……あっちは大人でアタシはウマ娘でもまだ子供じゃん。そもそも相手にされるかどうかも怪しいと思うし、今はトゥインクル・シリーズで現を抜かしてる場合でもないって思っちゃうと、変にアピールしてもただ迷惑かけちゃうんじゃないかってなるんだよね……」
「なーにを言ってるのネイチャちゃん!」
「うおわっ!? な、何!?」
いつの間にか自分の世界から戻って来ていたマヤノが大きく身を乗り出してきた。
「女の子の恋に迷惑とかないんだよ! 好きになったらもうまっすぐ突き進むくらいの勢いでいかないとダメ!」
「うぇえ!? いや、そ、でも……」
いっそマヤノくらいの自信と精神があれば何か違ってたかもしれない。
レースに対しても最近は勝ちたいと素直に言えるようになってきたが、恋愛面ではまだまだのようだと今更自覚する。そういう意味でもマヤノには羨ましい気持ちが湧いてきてしまう。
「まあネイチャのそういうとこもきっと良いとこなんだけどさ、せっかく担当がネイチャしかいない今がチャンスなんだから、少し頑張ってみるのも悪くないんじゃないかな?」
「絶対そうだよ! 頑張ろうよネイチャちゃん! レッツ大人な恋だよ!」
「……そう、だね。うん、ちょっとくらいアプローチするのも、いいかな」
大切な友人がここまで言ってくれる。
同年代とはいえ自分の恋を相談するのは誰だって恥ずかしいし簡単に言えるものではない。しかしここまで親身になってくれる友人がいるというのは、それだけで大きな価値だと言えるだろう。
優しさに浸ればいい。信頼できるのはトレーナーだけじゃない。友人だってそうだ。
半ば強引に言ってしまった初恋だが、過ぎてしまえばもうどうにでもなれだ。
恥ずかしさなんてもう振り切れているのだから迷う事もない。
優しい世界にどんと頼ればいい。
「ねえ、アピールとかってさ……どんなのがいい、かな」
思い切ったネイチャの相談に、待ってましたと言わんばかりのタンホイザとマヤノが答えてくれる。
「んー、やっぱりまずは積極的にいくべきとか? 王道的なとこでいくとほら、ネイチャ料理得意だしトレーナーさんにも何回か作ってあげてるって言ってたよね。その頻度を増やしたり、家庭的な一面を見せるという事で部室とかトレーナー室を掃除してあげるっていうのはどうかな?」
「……あー」
そしてネイチャの中で流れが少しづつ変わっていく。
「それだけじゃ生温いよ! せっかくなら2人きりの部屋で膝枕とかして距離縮めるくらいしないとだよ! あとは2人でどこか出掛けたり~、いっその事トレーナーさんの家に行くとか!」
「いや、えっと……その、」
「それでそれで、トレーナーさんの家でネイチャちゃんが晩ご飯とか作ってあげたらきっともうすぐに距離も縮んじゃうよ!! 他の人にも協力してもらって外堀り埋めるのもいいかも!?」
「あの、2人共、ちょっと」
「お~、マヤノちゃんグイグイ言うねえ。私は~どうかな、行事イベントとか大事にして2人で過ごすのとか良いと思うんだよねっ」
「ちょちょちょちょ2人共ストップストーップ!」
大きめの声でヒートアップしていく2人を静める。
色々な気持ちが混ざりすぎてもはやネイチャの目はグルグルと渦巻いていた。
当然止められたマヤノとタンホイザはネイチャの方を見つめる。
何か言いたそうにしていたからだ。
グルグル目のまま、紅潮した顔で変に笑いながら控え目にもふもふツインテールは言った。
「……じ、実は、その……っ、ます……」
「「何て?」」
あまりに小声で言ってしまったため聞こえなかったらしい。
それもそのはず、ネイチャの気持ちを考えればこんな事を普通に言える訳もないからだ。
意を決してだった。
「じ、実はもう、マヤノ達が言ってくれたやつは前に全部しちゃってまして……何ならトレーナーさんの家のあ……合、鍵も……貰っちゃってます……ハイ」
部屋の中の空気が凍り付いた気がした。
両手の人差し指をツンツンしながら言ったが、今のところ反応はない。
恐る恐る2人の方へ視線を向けると、
「……え、無自覚でそこまでしてたのネイチャちゃん……」
「ネイチャ……それは流石にフォローできないかな……というかそこまでして何もない2人って……」
凍てつくような視線を向けられていた。
今思えばだ。恋心を自覚する前の自分の行動を思い返してみると普通にとんでもなかったのではないか。
何も想ってない2人では到底やらないであろう事ばかりしている気がする。
思い返せば思い返すほど自分達の行動に疑問が生じてきた。
「あ、ああぁあれ、あれ……? あ、アタシ……今まで何やって……あぁああぁぁぁあ」
ボフンッと、ネイチャの頭から煙のようなものが出てきてそのまま茹でダコのようになっていく。
ある意味突出していた行動力とトレーナーの包容力のおかげであまり不思議に思わず過ごせていた事も、今となっては一大事ばかりなイベントだと思う。
これにはマヤノもタンホイザも呆れた様子で、
「はあ……
「ええっ!?」
「
「うえぇえッ!? な、何!? 2人共もしかして、あ、アタシの気持ちにき、気付いてたりしたの!?」
「「何を今更」」
「へぁッ!?」
同時に部屋のドアが開かれた。
入ってきたのは当然、ネイチャと同じく部屋主のマーベラスサンデーだ。
「たっだいまー!! 今日もマーベラスをたくさん発見してきたよー☆」
「ま、マーベラスっ!」
「ん、なーにネイチャ?」
こうなればなりふり構っていられない。
何事も確認は大事だ。
そしてそんなネイチャをタンホイザとあのマヤノでさえ溜め息混じりに見ながら同じ事を思っていた。
((これは前途多難だなあ))
「ま、マーベラスってアタシがトレーナーさんの事……ど、どう思ってるか、分かる……?」
「どうって……普通に見てたら分かるよ! 好きなんでしょ☆」
「はぅあッ!?!!??!!?」
グルグル目のネイチャ、めちゃくちゃ良いと思います。
マヤノとタンホイザのお互いの呼称は不明なので自分の妄想です。
ネイチャに「はぅあッ!?」って言わせたかっただけの回。
では、今回高評価を入れてくださった、
蒼羽彼方さん、papemapexさん、ビスチャさん、無印読品さん、きりさんさん、ヨシムツさん、しまひとさん、鵜鷺さん、蔵土縁裟夢さん、rumjetさん、小十郎さん、タイガードさん、ポケモンマニアさん、haruhimeさん、takattiさん、本好きネコさん
以上の方々から高評価を頂きました。
恋を自覚するネイチャというずっと書きたかった回なので、様々なありがたい反響があり評価コメントを見ては書き続けて良かったと身に染みております。
本当にありがとうございます!!
無事キタちゃん完凸させたので育成頑張ります(白目)