お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話 作:たーぼ
お気に入り登録ご感想高評価ありがとうございます。
『とにかく、自分の気持ちに気付いたんだったらすぐに行動だよネイチャちゃん! トレーナーさんは人間だからライバルもウマ娘だけじゃなくて人間の女性の人もいるって思っとかないと!』
『今まで自覚なしで色んな事やってきたんだから、次からさりげなくアタックするのもアリだと思うよっ。頑張ってネイチャ!』
『マーベラスに攻めましょ!!』
友人達からのありがたーいお言葉を受けて今はもう年明けの1月1日である。
世間もテレビも特別感満載で盛り上がっている中、1人の少女がある店でひっそりと意気込んでいた。
「……よしっ」
年始から早々、恋するウマ娘の勝負が始まろうとしていた。
────────
3度目の初詣ともなれば待ち合わせの場所ももはやお馴染みとなっていた。
風を通さないダウンジャケットに1度目の時にうっかり忘れていた手袋もしっかりと装備し、マフラーを口元まで巻いて完全防寒の渡辺輝は時計を確認しつつもう一度手をポケットへ入れる。
(ちょっと早く来すぎたか?)
待ち合わせ時間は11時。今は大体10時40分だ。
ネイチャだから5分前には必ず来そうだが、それでも寒がりなトレーナーにとってはトレーニングとは違いこの待ち時間が地獄なのである。
すれ違いざまに横切っていく人達を見ると、これも見慣れてきたのか行き交う人は友人等と来ているウマ娘やトレーナーと一緒に来ているウマ娘が多い。
普通に私服で来たり振袖姿で来たりしていてつくづく年始というイベントを実感させられる。
「……、」
そう、
つまりはもう今年が期限だという事。この1年が終わるまでにGⅠレースで1勝しなければ、来年の春にはもう中央トレセン学園に自分の居場所はない。本当ならめでたい年末年始。しかしじりじりと迫り来る期限に思う所はある。
(あーダメだ。1人で何もしない時間になると余計な事考えちまう。やっぱギリギリまで何かしら作業でもしてた方が良かったか。いやでももしそれでネイチャを待たせる事になったらまずいしなあ……)
気付けば1人で腕組みをしていてうんうん唸っている不審者の出来上がりだった。
マフラーで口元を隠しているから表情が分かりにくいというコンボ付きである。時計が10時42分に回った時だ。
ふと背後から声をかけられた。
「や、やっほー……トレーナーさん」
聞き慣れた声に振り向くと、
「おう、結構早かったなネイ──、」
見慣れない姿のナイスネイチャがいた。
というか振袖姿だった。珍しく髪を後ろに結びいつものもふもふツインテールではなくポニーテール。赤を基調とした松竹梅の花柄の振袖姿は出会った頃よりも成長しているネイチャによく似合う雰囲気を醸し出している。
見方が少し変わる。
中等部の子供だと思っていた彼女も契約してから2年近くが経ち、大人への階段を一つずつ駆け上がっているのだ。
「ど、どう、ですかね……?」
頬を掻きながら控え目に聞いてくるネイチャ。
せっかくの振袖姿なのだから、似合うかどうか聞いてくるのは当然だろう。もちろんその意図はさすがにトレーナーも理解している。
「ああ、よーく似合ってるぞ。正直別人と思っちまうとこだったわ」
「べ、別人って、そこまで違って見えた?」
「まあ普段と全然違うからな。ツインテールでもないし、軽くメイクもしてるだろ? 何つうか、可愛いよりも綺麗って言った方がいいのかこれ? うん、あれだ。どっちにしろ抜群に似合ってる。さすが俺の担当ウマ娘だ」
「……ぅぇ、あ、ありがと……」
恋愛経験のないトレーナーは悲しくもこういう時の正解が分からない。
のでとりあえず全力で褒める事に徹した。可愛いのも綺麗なのも似合ってるのも本音だから全部言えばいいやと思った結果である。
そして、全力投球のストレートを貰った恋する乙女の反応だが。
「じゃあさっそくだけど長蛇の列になる前に参拝行こうぜ。……どうした?」
「お、お構いなく~……うぇへへ」
「?」
柄にもなく二へッていた。
好きな人からの言葉というものはそれだけで当人の性格を変えてしまうらしい。あのネイチャが卑屈にならずにただただ普通に喜んでいる。トレーナーとしても何だかむず痒い気分だ。
幸い列もそんなに長くなく、3分程度で参拝できるくらいの場所で2人は並んでいた。
前も後ろもウマ娘やトレーナーだから自分達の違和感も全然ない。気合いを入れて振袖姿を着ている人達が多いという印象があるのは、自分の担当ウマ娘がそうだからか。
「そういや今年は何で振袖姿で来たんだ? 去年と一昨年は普通に私服だったよな。何か心境の変化でもあったか?」
「えっ? あー……まあ、アレですよアレ。今年はレースとかも含めて色々気合い入れてくぞー、みたいな? ほら、今年は前半レースあんまないし後半からだからその分練習頑張んなきゃなって」
「それで振袖になるもんなの?」
「アタシだって一応は女子ですし? たまにはこうやって普段とは違う感じでいきたい気分でもあるんですよー」
「ふーん」
そんなものかと、とりあえず自分の中で結論付けるトレーナー。
女心は分からない。突然オシャレに目覚めるようなものなのかもしれない。ネイチャでもそういう気分屋なとこがあった事に少し驚きを感じた。
適当な雑談をしているとすぐに順番は回ってきた。
5円玉を放り投げて2拍手。
願うのは。
誓う事は。
(年末までにネイチャをGⅠレースで勝たせる。そして来年以降もネイチャと一緒に励めますように)
固く誓う。
本当に叶うかどうかは別として、これは一種の儀式だ。自分の願いを掴み取るまでの決意のようなもの。
隣で何を願っているのかは分からないが、とても真剣な様子で祈っているネイチャ。
彼女を自分でもないトレーナーに担当させると考えるだけで嫌な気分になる。誰にも譲らない。彼女を支えるのは自分自身だと今一度誓う。
対して。
ネイチャが願ったのは。
(レースでトレーナーさんの期待に応えられますように……。あ、あと、出来ればなんですけど、少しでも隣のこの人がアタシに振り向いてくれますように……! どうかお願いします神様ー!)
もう欲望丸出しであった。
そういうのはあまり信じていないと言っていた1度目の初詣とは大違いである。人間もウマ娘もどうしようもなく叶えたいものがあるととりあえず神頼みするらしい。
少女の願いは果たして叶うのかどうか。
まさに神のみぞ知るといったところか。
「今年は末吉って、一昨年は謎の平吉だし去年は小吉だし微妙なとこばっか彷徨ってんな俺の運勢。しかも仕事運のとこ『あんま無理すんなって。時には休むのも大事だぜ』とか書いてるし、何だよこの無駄に距離の近いコメント。友達かよ。こんなのに振り回される性格じゃなくて良かったな俺。一昨年のリセマラしようとした件については既に忘れたものとしよう」
参拝も終わりおみくじを引いていた。
1人でぶつくさ言っているトレーナーをよそに、ネイチャがおみくじを開けると、
「あ、アタシ大吉だ……」
「え!? うっそ大吉!? めっちゃいいじゃん! てかホントに大吉ってあるんだ人生で初めて見た!! すげえじゃねえかネイチャ絶対良い事あるぞ!!」
何か他人のおみくじでめっちゃ振り回されていた。
余程これまで大吉に縁がなかったらしい。周囲の人達に少し注目までされている。
喜ぶ前に当人、ネイチャが見たのは一昨年と同じく恋愛運。
明確に違うのは一昨年よりもトレーナーと親密になりネイチャが恋心を自覚したという点だ。今のネイチャにとってはレースと同じくらい大事な事である。
そこに書かれていたのは。
『鈍いのか鋭いのか分からないヤツにはとにかくさりげなくでもいいからアタックすべし。絶対いるだろそこに。そいつだよ。強引にでも分からせてやれはいレッツゴー』
相変わらず神社のおみくじとは思えないコメントが書かれていたが、こういう他の神社ではやってない感じが密かに人気を集めているらしいと最近ニュースで見た。
しかも結構当たると聞く。
(アタックすべし……)
現に一昨年の時も若干ではあるが当たっている感じがしたのは間違いない。
つまりはネイチャの努力次第ではより接近できるチャンスでもある。レースも恋愛も頑張ると決めたのだ。
(よし、が、頑張るぞ~)
今年の抱負が決まった瞬間でもあった。
おみくじも引き終えていつも通り帰ろうとしたところで。
ふとネイチャが立ち止まった。
「あ、ちょっとそこで待っててっ。買いたいのあるから」
「ん? 何か買いたいなら俺が買」
「こういうのは自分で買わないと意味ないんだってば!」
あっという間に神社の売店の方へ行ってしまった。
主にお守りやお札、たまに数珠なども売っている境内の売店だ。
ものの数分でネイチャは戻ってきた。
「お待たせ~。いやー買えた買えた」
「大体は想像つくけど何買ったんだ?」
トレーナーの質問にあたかも待ってましたと言わんばかりの表情で強調しながらネイチャは見せびらかした。
「レース勝利祈願のお守り。せっかくウマ娘にまつわる神社でもあるし、大吉も引いたから買っとこうかなってね。むしろ今まで買ってなかったのが不思議じゃない?」
「言われてみれば確かに。こういったゲン担ぎってのがいざって時に助けてくれる事もあるしな。いいんじゃねえの、まさにウマ娘って感じで」
「もしかして茶化してます?」
「気のせいだよアハハ」
やる事も終わったので2人して神社を出る。
あとは別れるまで同じ道を帰るだけ、だったのだが。
ネイチャの発言でそれは変わる事となる。
「まったくもー……でもまあいっか。そんじゃトレーナーさん家にでも行きますかっ」
「あれ、何で? そんな予定あったっけ?」
「ないよー。今作りましたし。先にレンタル屋さんでこの振袖返さないとなんだけどね」
「それはいいけど、俺ん家来て何すんだ? 正月番組見るとか? それかゲーム?」
2歩3歩と、少しずつトレーナーの前へ出ながらネイチャは答える。
必死に心の中にある照れくささを隠しながらだ。
そもそも、今日はポニーテール。
つまり、どれだけ恥ずかしくても照れてしまってもネイチャはいつものもふもふで顔を隠すという事ができない。いいや、自分でそれを封印したと言った方が正しいか。
照れ隠しで逃げないために、1歩踏み出すためにわざわざ髪を後ろに止めたのだ。
友人達に励まされ、ふざけたおみくじにも背を押されたからには止まれない。
「それもいいんだけど、ちょうど今ってお昼時じゃん? だからちょっと買い物してさ、トレーナーさんの事だからどうせおせちとか正月っぽいもの食べてないだろうし、アタシが即席で少し作ってあげようかと思いまして。ほら、お雑煮とかもあるしね」
「どうせって言われたのが何か癪だが的中すぎて何も言い返せねえ……。けどそうだな、ネイチャの作る料理は何でも美味いし、その案に乗らせてもらう事にするよ。久々に正月らしい日を過ごせるなら楽しみだ」
了承は得た。
急遽出来た予定に胸を躍らすのは正月料理が食べられると思っているトレーナー1人ではない。年始早々、トレーナーの家で2人で過ごせるという予定が出来たネイチャも一緒なのだ。
そして、トレーナーの前にいるネイチャは振り返る。
昼時、太陽が後光のように暖かく照らしつける中、赤い振袖に身を包んだ少女は華やかな笑みでこう言った。
「じゃあほら、早く行こっ」
レースの勝利祈願お守りと一緒に密かに買った恋愛成就のお守りを隠し持ちながら。
1度目の初詣回と比較しながら読むとまた面白いかも?
ただでさえアプリでもさりげないアタックしてくるネイチャなので、恋心を自覚して友人達に背を押されたら普通にアピールしてくる可能性高いのかなと。
では、今回高評価を入れてくださった、
how-kyouさん、脇腹にダメージさん、鴉の濡羽色さん
以上の方々から高評価を頂きました。
久々に日間ランキングで上位の方に載ってたらしく、お気に入り登録がいつもより増えてて驚きました。
本当にありがとうございます!!
普通に考えたら作中のネイチャは出会ってから2年近く経ってるのでもう高等部扱いでいいのか……?