お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話   作:たーぼ

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45.酒は程々がちょうど良い(前編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2月上旬。

 まだまだ真冬の寒さが猛威を振るう中、トレセン学園のグラウンドではちょうどコースを走り終えたネイチャが担当トレーナー、渡辺輝の元へ駆け寄っていた。

 

 

「ふぅ、タイムはどう?」

 

「ああ、さっきより早くなってる。やっぱり今のフォームに変えてから格段に良くなったな。よし、フォームに関してはこれで完成形と言っていいだろ。これからは今のフォームに慣らしつつレースでも走っていこう」

 

「オッケー。アタシも走ってて違和感もないしむしろ走りやすかったかな。てかよくフォーム変えた方がいいって分かったね?」

 

 ネイチャは息を整えながらポッケに手を入れてトレーナーに聞く。

 そしてニット帽にネックウォーマーの上からさらにマフラーを巻き、風を通さない素材で出来た分厚い上着とズボンに手袋という完全防寒装備もといほぼ雪だるま状態のトレーナーは答える。

 

 

「ネイチャもまだウマ娘として成長期だからな。身長が伸びると共に適正体重も増えればそれだけ走ってる時にかかる負担やバランスも変わってくる。だからその時によってフォームを変えた方が良い時もあるんだよ。なるべく負担を減らしつつネイチャの走りに合った型を探す。それもトレーナー()の役割だからな」

 

「ふーん……アタシの事、ちゃんと見てくれてるんですな~」

 

「当たり前だろ? 担当ウマ娘の事は他のトレーナーよりも知ってて当然。対策や研究されてるとしても俺の方が絶対にネイチャの事を一番見てるし理解してる自負はある」

 

「……ほーん?」

 

「……え、何、何でそんな見てくんの? まさか一番見てるとか言われてセクハラとか言わないですよね? 今の時代そういうのホント厳しいからそれだけはやめてっ! 俺は下心とか一切ないから! 純粋にトレーナーとしての仕事で見てるだけだから!!」

 

「いきなりそんな被害妄想しなくても……ちゃんと分かってますって。トレーナーさんがアタシのために頑張ってくれてる事くらい」

 

 セクハラパワハラモラハラだのと昨今の世間事情からトレーナーの気苦労も分からないでもないが、そこまで気にするものなのか。

 まあウマ娘とはいえ年頃の女の子を徹底指導するにあたり、そういう事には人一倍気を付けなければならないという考えを持っていないとまずトレーナー業は出来ないだろう。

 

 そういう意味では目の前にいる渡辺輝は心配の欠片もないとネイチャは結論付ける。

 残念な事に趣味がウマ娘やレース関連、マンガ漁りくらいだ。学生のネイチャですらこのトレーナーは現代の若者とは少しかけ離れた性質をしていると思っているほどだ。

 

 下心がないと言っていたがおそらく、いいや本心でそう思っているに違いない。ウマ娘の事しか考えていないトレーナーに下品な思考を持っていると思っている方が無理があるだろう。

 トレーナーとしては理性的であり最適な考え。中央のトレーナーを務めるだけの事はある。

 

 そう、トレーナーとしてはだ。

 ネイチャの個人的な考えではこう至った。

 

 

(……けど少しくらいは下心あったっていいと思うんだけどねえ)

 

 担当ウマ娘としては嬉しい限りだが恋する乙女としては複雑な心境であるのも確かだ。

 この男、本当の本当にピクリともネイチャのアプローチに反応しない。自覚を持ってからさり気ないアタックはしているものの、見事に空振り三振状態が続いている。自覚する前から気付かず色んな事をしていたせいもあるかもしれないが、それにしてもここまで反応がないものか。

 

 

(っと、いけないいけない。トレーナーさんはあくまでアタシのために考えてくれてんだから、アタシが変な願望持ってたらそれこそ失礼じゃん)

 

 思考を振り切るように首を振る。もふもふツインテールも一緒に揺れた。

 今はトレーナーの誠意に応えるのが最善だ。レースが下半期とまだとはいえ、それまでにどれだけ強くなれるかが課題である。自分が成長しているという事は、他のウマ娘達も成長しているという事。

 

 油断なんて一切出来ないのが現状だ。

 もっと強くなり、GⅠレースで勝ってトレーナーに自分はGⅠウマ娘の担当だぞと誇らせたい。それがネイチャの密かな夢でもある。

 

 

「じゃあ後一周したら今日は終わりにするか。気温も大分下がってきたし風邪引いちまうと元も子もにゃにがニャにゃ」

 

「凍ってる。口が凍ってるからトレーナーさん。何でそんだけ防寒対策してるのにまだ寒いかな~」

 

「寒ぎゃりってのはちょっとやそっちょの軽い防寒じゃあ対策出来にゃいんじゃじぇ」

 

「防寒装備で疑似雪だるま状態なのに軽い対策なんだ……」

 

 極寒の北海道にいてもおかしくない装備をしていてまだ寒いと豪語するトレーナーに軽い溜め息が出るのと同時に安心感さえ覚えた。

 もう長い付き合いにもなるがこういうところは何も変わっていないのだ。極度の暑がりであり寒がり。ここまで来ると将来が不安になる。

 

 

「最近の技術ってすげえよな。手袋したままスマホとかタブレット操作できるし。たまにタップミスするのが難点だけどずびー」

 

「鼻水出てるから。はいティッシュ、アタシラスト一周走ってくるけどマフラーに垂れないようにしなよ」

 

「うーい」

 

 もはや苦笑いのままコースへ向かう事しか出来ないネイチャであった。

 

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

 

 練習も終わり、着替えが終わって少しトレーナー室でゆっくりしていた。

 

 

「……っし、今日の作業完了~。はーやっぱあったけえこの部屋……」

 

「お疲れさん。ほい、コーヒー」

 

「ん? おう、サンキュー」

 

 事前に温めておいたポットで簡易コーヒーを作りトレーナーに手渡す。

 熱いのをお構いなしにトレーナーはそれを口に含んだ。どうやら口の中はそんなに熱がりではないらしい。

 

 

「ふぅ……つか集中してたから気付かなかったけど、まだいたんだな。明日は休日でオフだし今日は別にウチで晩飯作ってくれる予定もなかっただろ?」

 

「うん、まあね。少しこたつで温もってから帰ろうと思っただけだから」

 

「温もるねえ。まあ外はあんなに寒かったしな。ふはぁ、コーヒーが染み渡る……」

 

 PCを前にコーヒーを飲みながらリラックスするトレーナーの横で立っていると、何だか彼の秘書になったような感覚がしてそれも悪くないと勝手に1人思っていたネイチャ。

 ふとトレーナーのコーヒーを飲む手が止まった。飲み物関連で何か思い出したらしい。

 

 

「……そういや家の酒、どうにかしないとな」

 

「……ん?」

 

 何やら聞き慣れない単語が聞こえてきた。

 

 

「あれ、トレーナーさんって確か最初の頃お酒は止めたって言ってなかったっけ?」

 

「ああ、止めてたよ。けど2日前に滝野さんがウチに来てな。色々話してる内に俺の家だしネイチャもいないから少しだけ飲む事になったんだが、その残りの缶がまだいくつか家にあるんだよ。今思えばあのクソ師匠、全部俺に酒買わせてほとんど自分で飲んでやがったし次会ったら一発ぶん殴るか……」

 

「へ、へえ~……?」

 

 それどころではなかった。

 何故ネイチャのために止めたと言っていた酒を飲んでいるのか咎める気持ちなんて一切ない。むしろネイチャにとってはこれ以上ない機会が来た。

 

 一度酒での失敗談を聞いた時から気になってはいたのだ。

 トレーナーはあまり酒に強い方ではなく、酔えば絡み酒とやらになるらしい。実家のバーでも似たような酔い方をしている人を見た事あるが、とても自分のトレーナーがそれになっている姿を想像できない。

 

 故に興味津々なのだった。

 普段から自分の事を教えてはくれるが、もっと奥深くで思っている事は口に出さないのが渡辺輝だ。そんな彼が酔えばどうなるのか。

 

 単純に気になる。

 もはや先ほどまでトレーナーの誠意に応えるのが今やるべき事だと思っていたウマ娘はおらず、担当トレーナーの酔い姿を見てみたいという乙女しかいなかった。

 

 スイッチが入ってしまえばもう遅い。

 こういう時だけはスラスラとイタズラ心のように言葉が出てくる。

 

 

「じゃあさ、急だけど今日トレーナーさん家で晩ご飯作ってあげよっか」

 

「え、いやいいよ別に。お前に迷惑かけないために家で飲むんだから」

 

「大丈夫だって。そもそも実家だと酔っ払いの相手ばっかしてたんだからそういう耐性はありますし」

 

「や、だからそういう問題じゃ」

 

「それにアタシならお酒のおつまみに良いモノいっぱい作れるし。ほら、コンビニとかでよく食べるようなおつまみじゃなくてバーで鍛えられた本格手作りの出来立ておつまみですよー」

 

「ぐっ……」

 

 今ので完全に揺らいだのを確認する。

 自分じゃ基本自炊をしないトレーナーの事だ。同じような肴を何種類も買ってちびちび食べるつもりだったのだろう。そこへネイチャの提案が来た。

 

 ここに来て自分の料理が武器になるのはでかい。

 もう一押しがあればいけると確信したネイチャ。一気に畳み掛ける。

 

 

「ほらほら、お手軽だけど自分でやるのはちょっと面倒なキャベツの塩だれに枝豆、中盤には味の濃い目な豚の生姜焼きやピリ辛なエビチリも良いと思いません? それにサーモンのカルパッチョとか手羽先もガブリといっちゃいたいとかあるで」

 

「だーもう分かった! 分かったからッ! つまみとかはネイチャに任せるからそれ以上言わんでくれ! この時間帯にんな事言われたら嫌でも腹が減ってくる!!」

 

「ハーイじゃあ決まりーっと」

 

 これにてトレーナーとの晩餐が決まった。

 明日は休日。練習もないし寮には許可書を提出すれば多少帰りが遅くなっても問題はない。

 

 いそいそと帰宅準備を進めるトレーナーの見えないところで口角を上げる。

 このチャンス、無駄にはしないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうと決まれば買い出しに行きませんとですな~」

 

「迷惑かけまいと今まで貫いてきたのに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人のテンションに差があるのは否めないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






はい、トレーナーの酒解禁です。
皆さんも呑まれないように気を付けましょう。

それにしてもウチのネイチャは攻めますなあ。



では、今回高評価を入れてくださった、


舞子さん、バクシン、タキオン推しさん、はまはーまさん、じゃがりこexさん、ふがふがふがしすさん


以上の方々から高評価を頂きました。
この小説でネイチャを好きになった方もいるようで大変嬉しゅうございます。
本当にありがとうございます!!




このネイチャ、いつ掛かってもおかしくないな……?
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