お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話   作:たーぼ

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46.酒は程々がちょうど良い(後編)

 

 

 

 

 

 

 さて、やってきた。

 買い物袋を両手にトレーナーの家へやってきた。

 

 

 

 

 一旦栗東寮へ帰り門限時刻を過ぎても問題のないよう、外出許可書を寮長に提出し何故だかニンマリと許可を貰ってから私服に着替えスーパーや商店街などで食糧調達。

 資金はお駄賃込みで事前にトレーナーから1万円とあり余るほど渡されたので問題はなかった。

 

 いっそ1万円もあるのだから全部使って良いモノを、とも一瞬思ったがネイチャは庶民派なのでその線はすぐに断ち切る。何より今夜は豪勢な晩ご飯ではなくお酒を消費するためのおつまみ料理を作るのが目的なのだ。

 ちなみに実家のバーで鍛えられた本場の手作りおつまみというものをトレーナーに食べてもらい、いつもの料理とはまた違う事を思い知らせ胃袋を掴む事もネイチャの目的には含まれている。

 

 自分は普通の料理以外の工夫も出来るんだぞというさり気ないアピールと、あわよくば酒に酔うトレーナーが見られるかもしれないという期待。

 まさに一石二鳥を狙うウマ娘ここにありだった。もはや清々しいほど下心しかない。

 

 

「トレーナーさーん、あなたの担当ネイチャさんが来ましたよーっと」

 

 さすがに冗談のつもりでもあなたのネイチャと言うのはあまりにもハードルが高すぎて顔を合わせたら自爆しそうなのでこれで留めておく。

 声を掛けて数秒、ダンダンッと軽い足音が室内から聞こえたと思うとすぐにドアが開いた。

 

 鍵が開いてるかどうかはさておいて、ネイチャにはまだ知らない人にこれが見つかってしまったらとんでもない誤解が生まれそうな男性の家の合鍵というシークレットアイテムを持っているはずなのだが、それを使わない理由は一つ。

 

 

「よお、てか鍵開いてるぞ……ってああ、こりゃまた豪勢な事で」

 

 出てきたトレーナー、渡辺輝がネイチャの言葉に何の反応もなく視線を落とした先には両手いっぱいに買い物袋を持っているネイチャが突っ立っている状態だ。

 察するにはこれ以上ない理由ですぐ納得したようで、特に何も言わずんっ、と促すように声を出し手を出してきた。

 

 何度かトレーナーの家で晩ご飯を作る機会があり分かった事がある。

 ウマ娘は人間と比べても数倍の力を持っている。だからぎっしり詰まった買い物袋程度の重さはネイチャにとっては何てことない。むしろ軽いレベルだと思っている。

 

 だが渡辺輝はそういう事を分かっていて尚、そんなのは関係ないと言わんばかりの気遣いをしてくれるのだ。女の子に重い物を持たせる訳にはいかない。

 ウマ娘であってもそれは渡辺輝の中だと例外ではないのだ。てんで当たり前の気遣いを、たったの一度も彼は忘れた事がない。

 

 だから嫌でも差し出された手の意図は分かる。

 甘えるように、だ。ネイチャは持っている買い物袋を手渡した。軽く指と指が触れ合う程度で。

 

 

「豪勢なんて言ってますけど、これほとんど商店街の人達がサービスで多くしてくれたのばっかだからね。実際資金は7割以上余ってるし。てかこれ、ホントに貰ってもいいの?」

 

「おう、とっとけとっとけ。ウマ娘の本分は走る事だが学生の本分にゃ勉強ともう一つ遊びも含まれてんだ。そういう時のための小遣いと思ってくれればいいさ。何かと弁当とか晩飯作ってもらってるしその礼も含めてるけどな」

 

 いやむしろ礼としては足りないか、と呟きながら部屋へ入っていくトレーナーにネイチャも付いて行く。

 いつの間にかトレーナーの家に置いてあったネイチャ用のエプロンを身につけるとさっそく調理の準備をする。

 

 冷蔵庫を覗くと、

 

 

「缶ビール2本にワンカップが1本、か。思ってたよりあんま残ってないんだね」

 

 少し期待外れな感じがした。

 これだけならいくら酒が弱いと思われるトレーナーでも変に酔うことはなさそうだ。

 

 と、そう思っていたらトレーナーの予想外の返事がきた。

 

 

「え……ネイチャの認識だとそれあんま残ってない判定なの……。俺の中だと酒豪レベルに強くねえと酔っちまう代物なんだけど。特にワンカップとかラスボスだろアレ」

 

「……ほ~ん?」

 

 前言撤回。これは期待できそうだ。

 まあ酒の強い弱い、酔う酔わないは個人差があるのでネイチャもそうと断言はできない。が、トレーナーの反応からして実家のバーに来ていた常連達がどれだけ強かったのかが分かる。

 

 最低でも8本くらいは残っていると思っていたが実際は3本。これはおつまみフルコースを練り直さないといけないか。

 幾度となく料理をしてきたネイチャにとって料理の見直しはすぐに終わってしまう。要は単純に品を減らして合う料理を出せばいい。

 

 

「とりあえずちゃちゃっと作ってくね」

 

「ありがたい」

 

 てきぱきと調理を始めていく。

 簡単な物から順に出来ていった。

 

 

 

 

 

 

「やっぱすげえなお前……」

 

「そう?」

 

 テーブルの上に並べられた料理を見て感心の声を上げるトレーナー。

 言われたネイチャは普通に返したが内心では喜んでいるのは内緒である。

 

 キャベツの塩だれ、ピリ辛エビチリ、味の濃い豚の生姜焼き、だし巻き卵にきゅうりのみそ漬け、香ばしいホッケも焼かれていた。

 おつまみというだけでなく、ちゃんと晩ご飯としても食べられるボリュームとなっている。

 

 

「残ってたお酒が少なかったから品数は少なく、1品1品の量も控えめにしてるから食べきれるとは思うよ。一応アタシも頂きますけど」

 

「当たり前だろ。俺だけ食うのはさすがに申し訳なさすぎる。ほれ、コップ」

 

「ん、ありがと」

 

 これもいつの間にか買われていたネイチャ専用のコップにお茶を注ぎ、トレーナーはカシュッ! と、缶ビールを開けた。

 

 

「一応最善の手は尽くすけど悪酔いしてからじゃ遅い気もするし先に謝っておく。ごめん」

 

「酔っ払いの対処法は知ってるから気にしなくて大丈夫ですよー。はい、乾杯」

 

 カツンッと、コップと缶のぶつかる音がした。

 さて、どうなるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 30分後。

 

 

「よ、弱すぎる……」

 

 大体の料理は食べたものの、テーブルにはぐったりと顔を突っ伏しているトレーナーがいた。

 理由は明白だ。残っていた酒は全部で3本。缶ビール2本とワンカップが1本。そのうちトレーナーが飲んだのは、何と缶ビール1本だけである。

 

 

「2本目のビールまで辿り着いてないなんて……ラスボスのワンカップとか絶対飲めないやつじゃんこれ」

 

 いつだかの商店街での会話。あの時トレーナーは結構飲んだとか言っていたが、おそらくあれはあくまで渡辺輝基準なのだと今更気付いた。

 この男、壊滅的に弱いのだ。弱い人はとことん弱いというが、まさかここまでとは思わなかった。会話しながらどんどんトレーナーの言葉がへにゃっていくのを思い出す。

 

 

(こりゃお酒も余るわけですわ)

 

 ネイチャの人生の中で酒に弱いナンバーワンがここに決定した。

 実家のバーに来ていた人達とは比べ物にならない。雑魚中の雑魚である。どうやってトウカイテイオーのトレーナーと酒を飲みながら話していたのか想像もつかない。

 

 一度はトレーナーの酔った姿を見てみたいと期待していたネイチャだが、これからは出来るだけお酒は飲まさないようにしようとひっそりと決意した。

 そんなぐったり酒雑魚トレーナーがふわりと顔を起こした。

 

 

「ぅ……うぅ……」

 

「あ、トレーナーさん、大丈夫? 気分悪いとかない?」

 

 たった1本でも酒は酒だ。酔う人はどこまでも酔って気分を悪くする場合がある。

 そういった対処法はネイチャも実家で叩き込まれているから大体は分かる。

 

 

「くそ……ネイチャにだけは迷惑かけないって思ってたのに、頭ん中がふわふわしてやがる」

 

 そういえばトレーナーは酔っていてもその自覚と理性はあると言っていた。

 理性はあるのに絡み酒のようになってしまうというある意味において一番厄介な酔い方だが、何だか今は出来る限り抑えている印象がある。

 

 ネイチャがいるから必死に振り切ろうとしている? 

 

 

「……、」

 

 自分のために迷惑をかけまいと酔いと戦っているトレーナーを見てゾクリッと、ネイチャの中で何かが芽生えた。

 今のトレーナーは聞いていた通りならいつもより本音が出やすい状態だ。普段から奥の底にある自分の部分までは決して話さないトレーナー。それが今なら聞けるかもしれない。

 

 自分のために戦っているトレーナーを、ネイチャは崩しにかかったのだ。

 欲望、関心、興味には勝てなかった。そもそもの目的が今叶おうとしていた。

 

 

「ねえ……トレーナーさんはさ」

 

「……?」

 

 あくまで普通に、聞いた。

 

 

「アタシの事、どう思ってる?」

 

 捉え方だけなら何通りもある。

 ウマ娘としてなのか、担当としてなのか、はたまた友人としてなのか、それとも、女の子としてなのか。単純に気になる人がいて、その助言を貰おうとしているのかは定かではない。

 

 ただ、今のトレーナーは酔っていて正常な判断ができない状態だ。

 故に聞かれた通りの言葉の意味で脳が判断した。そして口に出す言葉は普段では口にしない心からの本音。

 

 

「俺は」

 

「……」

 

 ある種の本心だ。

 

 

「ネイチャを最高のウマ娘だと思ってる」

 

(……あ)

 

 そうして、今更ネイチャは気付く。

 いいや、後悔した。

 

 

「ネイチャの一番の理解者は俺だ」

 

「え、あ」

 

 このトレーナー、渡辺輝が実は情に厚い男だという事を忘れていたのだ。

 

 

「ウマ娘としても、それ以外でもお前はよく出来た娘だ。そしてそれを一番よく知っているのも俺なんだ。だから俺にはお前をレースで勝たせる義務がある。ナイスネイチャというウマ娘は強いんだって世間に知らしめてやるんだ。誰が何と言おうが、ネイチャは俺にとって一番のウマ娘なんだよ」

 

「へぐぇあッ!?」

 

 酔っているせいか言葉の繋ぎが若干おかしいところもあるが、あれも本心で言っている事くらいはネイチャにだって分かる。

 そもそもだ。本当にそもそも。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ネイチャを褒める事に関して言えば渡辺輝は一切の嘘をついた事がない。思った事をそのまま口に出す事は感情を加味すると本来難しい事もあるが、それを普通に言ってのけるのが渡辺輝である。

 

 本心や本音をそのまま出すのが今のトレーナー。

 つまりは聞き方を工夫し変えさえすればネイチャの()()()()()()()()は聞けるだろう。

 

 しかし、聞けない。

 酔ってはいても記憶は残り理性や自我もちゃんと持っているのだ。その状態で聞いてしまえば、返ってくるのは見当違いな拍子抜けかお互いにとっての地獄だろう。こんなのはただの反則だ。

 

 なら肝心なところでヘタレてしまっても構わない。トレーナーの本音でダメージを喰らうのは自分だけなのだから。

 であればと思考を切り替えてみる。褒めちぎられたダメージはまだ残っていた。

 

 

「じゃ、じゃあさ、アタシの料理はどうだった……?」

 

 変化球。これも捉え方ならいくつかある。

 問題はトレーナーがどう捉えて答えるか。言葉通りの意味か、それとも……。

 

 

「んなのめちゃくちゃ美味いに決まってるだろ」

 

「それはありがたいですな」

 

 これは予想通り。いつも美味い美味いと言ってくれているのでそれは酔っていても変わらないのは分かっていた。

 この際本音カウンターで照れダメージを喰らうのは想定内とした。ここまで来れば聞けるとこまで聞いてやろう。

 

 

「出来ればこの先も毎日食いたいぐらいだよ」

 

「ぶべうぁッッッ!!??」

 

 想定外の超絶特大カウンターがやってきた。

 女の子の手作り料理に対して毎日食べたいはもはやそんなのアレだ。ちょっとしたプロポーズなのではないのか。

 

 酔っているのはトレーナーなのにネイチャの方も顔が真っ赤になっている。

 

 

(こんなの……ズルじゃん……)

 

 本心。だからこそ重みがある。

 きっとトレーナーは本心ではあっても()()()()()()で言ってはいない。毎日食べたい、そのくらい美味しい、という意味なのだろう。

 

 分かっている。分かってはいるのだが。

 ネイチャの心が跳ねてしまう。期待していたのとは意味合いは違ってもニュアンスは似ていた。それだけで満たされてしまう自分の心が少し憎らしい。

 

 

「うぇぇ……」

 

 ぐでりとテーブルにまた突っ伏してしまったトレーナー。

 もうほとんど瞼が開いていない。元々酒に弱いのだからダウンも早いか。ここいらで潮時だろう。

 

 胃袋を掴むのと酔ったトレーナーを見る。

 とりあえずの目的は達成された。しばらくトレーナーには酒を飲ませない事を誓う。

 

 

(残ったお酒は……テイオーに言ってテイオーんとこのトレーナーさんに持って帰ってもらいますか)

 

 う~……と謎の声を出したまま寝かかっているトレーナーの頬を指で軽く突く。マヤノ達とは違って柔らかいというよりかは反発力を感じた。

 まだ寝ている訳でもないのに頬を突かれていても反応はない。

 

 

(ふふっ、こうしてると可愛いんだけどな~)

 

 トレーナー室とは違い、本当の意味で誰にも邪魔されない2人だけの空間。

 横やりなんぞ入る余地もなく、トレーナーの家というある種の密室。頬杖をつきながらトレーナーの頬を突いている構図を見れば、誰が見てもそういう関係にしか見えない2人。

 

 しかし、決してそういう関係とは遠い2人でもあった。

 だからこそ、決める。少しでも近づくために。自分の気持ちに正直でいるために。

 

 目標を。

 

 

(もっと距離を縮めつつ、少しずつでも意識してもらえるように努力して)

 

 自分の気持ちの整理も必要。

 その上で、一番言うにふさわしい場面はどこか考えて。

 

 

(GⅠレースに勝ったら、告白しよう)

 

 そう誓った。

 

 

 そろそろ食器を片して帰ろうとした時だった。

 まだ完全に寝ていなくて、意識が朦朧としていたのか。ダウンする前にネイチャの質問があったからそれも一緒に混濁していたのかは分からない。

 

 

「……チャ、──も……ない……」

 

「……?」

 

 はたまた、酔っていて意識もハッキリしていないからついうっかり出たものかもしれない。

 奥の底の底。暗闇の深さで言えば光を通さぬどん底。ネイチャにすら黙っていてまだ見せていないその一面。渡辺輝にとっての禁忌の蓋。片鱗を。

 

 

「……ネイ、チャは、誰にも……、渡さない……」

 

「なっ」

 

 果たして、その真の意味をネイチャは正しく理解できたか。

 きっと知らない。理解できていない。恋する乙女は今の言葉を都合よく解釈する事しかできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

 起きた時には既にネイチャはいなくなっていた。

 というか日付も変わっており朝になっている。

 

 

「ッつつ」

 

 テーブルに突っ伏した状態で寝ていたからか少し腰が痛い。体を起こすとはらりと何かが落ちた。

 毛布だ。おそらくネイチャが帰り際に掛けていってくれたのだろう。

 

 

「結局迷惑かけちまったな……」

 

 昨夜、ネイチャが質問してきていたのは覚えているが、その後の記憶は曖昧だ。意識的にはほとんど寝ていたからどこまでが現実で夢なのかすらハッキリしない。

 ふと、テーブルに紙が置いてあった。ネイチャの置き手紙のようだ。

 

 

『冷蔵庫に余った食材で作った朝ご飯とか置いてるからレンジで温めてから食べてください。あとトレーナーさんが思ってるような迷惑はこれっぽっちもかかってないからそこは安心してくださいな。けど当分は健康上の理由でお酒禁止、分かった? byナイスネイチャ』

 

 最後まで読んで冷蔵庫にあった物をレンジで温めている最中、また置き手紙を読む。

 そして一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

「親か???」

 

 

 

 

 

 

 

 




酔ってイチャイチャするだけでは物語は進まないのです。
さて、ここいらでネイチャも一つの決心。そしてほぼ寝ていたトレーナーの口から出た言葉の意味を、理由も知らないので当然理解できるはずもなくご機嫌なままついでに余った食材で料理を作っちゃった模様。

ほのぼのとした中にも、ちゃんと物語を動かすパーツを仕掛けるのは難しいですね。
そういった意味でもメインタイトルにある『ほのぼの?←』の(?)には色々な意味が含められています。



では、今回高評価を入れてくださった、


PUCCINIさん、タピタピさん、migiさん、sevenstarさん、jagabataーさん、zephyさん、ぽりぽりさん、yusuke1109さん


以上の方々から高評価を頂きました。
この作品を見てネイチャをもっと好きになったと言って下さる方がたくさんいて小説を書き始めた当初の目的通りであり、そしてもっとネイチャ好き広まってしまえーとより精進する心意気になりました。
本当にありがとうございます!!




最近大好きなラノベの最新刊が出てそれを読んだらもの凄くモチベが高くなりました。
やはり好きなものを取り込むとやる気が湧いてきますな。
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