お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話   作:たーぼ

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49.ふとしたエンカウントは気まずいものである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3月上旬。

 真冬とはいかないまでもまだ寒い時期が続くこの季節。

 

 

 

 下半期まではレースに出ない代わりに上半期はトレーニングに集中し、メニューは4日連続追い込むようにキツい練習の後、2日ほど軽いトレーニングをして1日休みという日が続いた。

 その結果。

 

 

「だうー…………」

 

「あははっ☆ ネイチャ顔がスライムみたいに溶けてる! マーベラスだね!!」

 

 マーベラスサンデーの言う通り相部屋テーブルで溶けていた。

 下半期のレースで勝つためなので練習には何の不満もなく、ネイチャ自信もやる気に満ち溢れながら励んでいたのだが。

 

 

「さすがにメンタル的に疲れる……」

 

 それとこれとは別問題であった。

 どれだけやる気を持っていても疲れるものは疲れるのだ。このローテーションを既に3週間ほど続けていて効果はあるかと問われれば、あると答えるくらいには成長しているだろう。

 

 実際タイムも縮まっているし、スタミナもついている。

 何より、これだけ厳しい練習をしていてもケガなどをしていないのはトレーナーの管理のおかげだ。最近はトレーニング終わりに脚を見てもらい、どこをマッサージすればいいかアドバイスを貰う事も多い。

 

 さすがにトレーナーに直接マッサージしてもらうのはネイチャの精神的に耐えられないので断っているが、アドバイス通りのマッサージやその他の疲労回復にと勧められた食事や入浴法を試すと、これが案外効いてくる。

 おかげで練習後の疲労もあまり残らず、1日の休日でほとんど疲れが取れているのだ。

 

 そう、メンタル面を除いては。

 

 

「なるほど! ネイチャは疲れてるんだねっ☆」

 

「そーそー、ネイチャさんはメンタル的な疲労がアレなので出来ればそっとしてもらえるとありが」

 

「ところでバレンタイン以降トレーナーさんとはどうなったの!?」

 

「ぶぇあっほぃ!? 話聞いてない上に容赦もないなアンタ!?」

 

 ちょうど口に含んだホットミルクティーを盛大に吹き出した。

 温かい飲み物を飲み込む前に噴射したのに何故か身体が熱くなっていく。

 

 

「どこまで進んだ!? ネイチャ的には進展とかあったの!? マーベラスな事とかあった!?」

 

「やややややめーいッ!! 近いっ、顔も近いし心の距離もめちゃくちゃ近いからッ! そんなぐいぐい来ないでー!」

 

「バレンタインの日は帰ってきた時何だか機嫌も良かったよね☆ きっと良い事あったんだよね!!」

 

「あーもー相変わらず何言っても止まんないなこの娘はッ……! わ、分かったってばっ。言う、言うからキラキラした目でこっち見ないでえ!!」

 

「何があったの!?」

 

「……思い返せば別にそんな大袈裟な事じゃないんだけど、アタシがあげたチョコをね、トレーナーさんがちゃんと目の前で全部食べてくれた事……かな」

 

「うわぁ……ネイチャの本命チョコだったもんね! それをちゃんと食べてもらえたなら嬉しい訳だよ!! まさにマーベラースっ☆」

 

「拷問かこれ……」

 

 まさに地獄だった。マーベラスにも恋心を知られていて一応は間接的に相談にも乗ってもらっている以上(ほとんどマヤノトップガンかマチカネタンホイザ)、報告しておく義務はあったのかと思う。

 にしても自分の口から自分の恋事情を報告するのは精神的によろしくない。ちょっとした拷問レベルである。

 

 ネイチャの言葉から勝手に色んな事を想像しているのか、マーベラスは口を開いてはマーベラスマーベラスと語尾に☆を付けてそうな感じで騒いでいる。

 ダメだ。ここにいればいつまでたっても精神的疲労が取れない気がしてきた。

 

 

「あー、アタシちょっと出掛けてくるわ。適当にブラブラしてリフレッシュでもしましょうかねえ」

 

「あっ、行ってらっしゃいネイチャ!! マーベラスなもの見つかるといいね☆」

 

 適当に手だけ振って返す。

 マーベラスには悪いが、今はあのハイテンションについていける気力がない。

 

 とにかくこの部屋から出る必要がある。

 休日に外へ出掛けるのは至って自然の発想だ。

 

 

 つまり、明確な目的があってネイチャは栗東寮を後にする。

 

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

 

 要は外に出るための口実は何でもよかった。

 ただし本当の目的はマーベラスに悟られないように適当な理由付けで。

 

 

「あぁ~今日も可愛いな~アンタ達はぁ……!」

 

 結論で言えば学園近くの猫カフェにネイチャはやってきていた。

 身体的ではなく精神的疲労を取り除くのであれば、自分の好きなものに触れたり没頭するのが一番。

 

 ネイチャからすれば好きな猫に触れて囲まれる猫カフェはまさに理想郷である。

 もふもふに囲まれ堪能できる空間は至高に至高。この上ない幸福感に満たされるのだ。

 

 ちなみに今日もと言っている時点で察する事はできるが、ネイチャは大の猫好きであり猫カフェには何度も通うほどである。

 店員にはもはや常連と思われており、近くの猫カフェは全部当然のように網羅している。その日の気分でお気に入りの猫がいる店に行くくらいには名前も見た目も覚えているのだった。

 

 暇があればスマホで猫の動画を見るほどであり、たまに学園に迷い込んでくる野良猫にも密かに声をかけたりもしている。

 そして何より猫カフェの良い所は誰にも気遣う事なく猫を可愛がれるところだ。知り合いもいないので遠慮なく猫へ話しかけたり写真を撮れる。誰かにからかわれる恐れもない。

 

 

(むふ~、将来は猫カフェ経営か家で猫飼うのもありかな~なんてッ)

 

 猫を優しく抱いて頬ずりしながらそんな事も思ってみる。

 アニマルセラピーという言葉もあるように、動物には心を癒す効果もあるとされていて、それが医療の役に立つ事も立証されているのはまた別の話だ。

 

 疲れ切った心に猫の癒しがネイチャへクリティカルヒットする。

 こうして何十回も来ているせいか猫の方もネイチャを見ると覚えているのかもふもふツインテールへ猫パンチしてくるようになった。それがまたネイチャの心をくすぐってくる。

 

 

(トレーナーさんにも猫の良さを教えてあげたいけど、さすがにこんなアタシを見せるのは恥ずかしいし黙っておくのが正解だよねえ)

 

 いくら好きな人でも秘密にしておきたい事の一つや二つはあるものだ。

 ましてや猫に向かってこんなだらしない顔をしている自分なんて尚更。

 

 

(まあ猫の写真とか動画を一緒に見るならあり、かも?)

 

 秘密は秘密でも欠片の部分くらいは共有したいと思ってしまうのが思春期の難しいところである。

 人懐っこいのが有名なこの店の猫達は1人考え事をしているネイチャのツインテールに興味津々なようでずっと手を伸ばしている。

 

 何というかあれだ。自前の猫じゃらしを持っている気分にされる。

 思い出したように猫を撫でると腹を見せて手足をわたわたさせていた。自分の顔が癒されて溶け落ちそうになるのを感じる。

 

 

「うにゃ~ッ、アンタはアタシの顔埋めの刑にしてやるぅ~!」

 

 完全にキャラ崩壊しちゃっていた。

 猫の腹に顔を埋めて歓喜乱舞のネイチャだった。たまにトイレのお世話や水の入れ替えでやってくる若い女性店員は常連ネイチャの暴走を見ても動じない。テレビでもレースで活躍している彼女を知っているので、こういうリフレッシュも必要かとむしろ優しい笑みで見守っていた。

 

 猫は猫で腹に顔を埋められているなんて気にもせず、ネイチャのツインテールを両足でわなわなしている。

 まさしくWINWINであった。

 

 トレーナーには見せられないほど破顔しているが、どうせ彼はここにいないのだから気にする必要もない。

 万が一遭遇なんてしてしまえばどんな顔をすればいいか分からなくなるしどんな声が出てしまうか分かったものではない。

 

 

「ぷはぁ~、アンタのお腹はやらかいねえ」

 

 ちなみにこの店の配置を詳しく説明すると、だ。

 トレセン学園の近くにはあるが、あまり生徒が通るような通りにはないため重宝している店であり、1階に猫カフェがあってペットショップのようなガラス張りで外からも中からもお互い見えている状態だ。

 

 だが人通りが少ないから生徒に見られる事も今までなかったしそんな心配もほぼ不要だろう。

 そんな事を思っていた時期がネイチャにもあった。

 

 運命というものは時に不条理で不可解である。

 ほんの少しだけよぎった嫌な予感ほど当たる時は当たるもので、万が一というのはフラグのようにしか思えないものだ。

 

 つまりは、こうなった。

 

 

 

 

 

 

 2度目の顔埋めを堪能し、気持ちの良い顔で解放され世界を見渡したら。

 いた。目に入った。

 

 ガラス張りの店の外。

 人通りが少なく穴場と言える猫カフェの前に、立ち止まってこちらを見ている男性が1人。

 

 買い物袋を片手に少し目をパチクリさせながらじっとネイチャを見ている。

 対して、破顔したままご満悦に浸っていたネイチャの時は止まっていた。

 

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………、」

 

 万が一。そんな事を思っていた彼女は見事にそのフラグを拾い上げた。

 満面の笑みから凍り付き乾いた笑みに変わり、口角がヒクヒクとカクついていた。

 

 およそ数十秒。

 ガラス越しにいる男性、いいやトレーナー渡辺輝がネイチャに向かって軽く手を振っていたところ、ようやくネイチャに動きがあった。

 

 

「な」

 

 現実を受け入れ、平等に時間は進むと思い知らされた挙句、どうあがいてもだらしない顔を見られた少女がとった行動は至ってシンプルだった。

 

 

 

 

 

 

「なにゃァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!?」

 

 絶叫が店内に響き渡り、何事かとやってきた店員が見に来たり、本来であれば大きい音や声などがすると逃げる猫達は構わずネイチャに群がり、ガラス越しにいるトレーナーは声が聞こえていないため頭の中に『?』しか思い浮かばず。

 

 

 

 

 

 

 ネイチャは現実逃避した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





明けましておめでとうございます。
新年早々ネイチャには可愛い絶叫で締めてもらいました。

以前活動報告で頂いたお題を自分なりの解釈でまとめてみましたが、いかがでしたでしょうか。
新年なので凝った内容などではなく気楽に読める1話完結型の話にしました。ええ、この話、別に次回とかに続きません。変にエンカウントしてしまって終わるだけです。

レースが始まるとこうしたほのぼの系統の回は少なくなる可能性があるので、今の内に書いておきたいなと。



では皆様、今年もこの作品をよろしくお願いいたします。
今年中に完結させるのでどうかそれまで読んでいただける事を祈っています。
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