お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話   作:たーぼ

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50.一人暮らしの風邪は割とキツい

 

 

 

 

 

 

 4月中旬。

 ようやく気温も程よく温かくなってきた早朝、気怠い身体に鞭を打ち起き上がった渡辺輝はいつも通り顔を洗いに行く。

 

 

 

 

(何だか今日は体が重いな。疲れが取れ切ってないのか……?)

 

 ここ最近家でも夜遅くまでPC作業やレース映像を見ていたからかもしれない。

 ネイチャのレースがない分、後半のレースで勝つために対決するであろう相手のウマ娘達の走りを見て対策を考え、コースの全体像を見ながらどの位置を取りどこで仕掛けるのがベストなのかなど、様々な作戦を吟味しレポートに書くのが毎日だ。

 

 その日その日に行われる全てのレース映像を何度も見返しながら奪える技術がないかとか相手の癖を見極める必要がある。

 芝でもダートでも関係ない。奪えるものは奪って自分のものにアレンジすれば立派な武器になるのだから。

 

 とはいえ、そういったのが原因で体が重いのかもしれない。

 

 

(変に疲労が溜まってたら集中出来ないかもしれねえし、今日はトレーナー室で少しだけ仮眠するか。数十分くらいだけならだいじょうぶなろ……)

 

 と、ここまで来て気付いた。

 独り言を呟いている訳ではない。なのに思考の中でまで呂律が回っていないような気がしたのは何だ? 何故自分はフェイスタオルを取ろうと伸ばした手でバスタオルを掴んでいる? 

 

 いつもなら目を瞑っていても位置が分かるほど記憶しているのに。というよりも、何だか頭の中がフワフワしてきていないか? 

 それと一緒に視界も少しずつ左右に歪んでいっているのを感じる。

 

 

(……ぁ、これって……)

 

 そして、体温も上がってきている事も自覚してきた辺りで分かった。

 トレーナーになってからここ数年、一度もなっていなかったから気付くのに遅れたのだ。

 

 

(や、ば……っ)

 

 こんな急に来るものだったかと思う前に、渡辺輝の世界は闇に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

 

 

 3限目が終わった頃のトレセン学園。

 休み時間中の教室に1人の女性トレーナーがやってきた。

 

 

「えーっと……あ、いた。ナイスネイチャさん、ちょっといいかな?」

 

「え、アタシですか?」

 

 スマホを見ていたネイチャが呼ばれた通り廊下へ出ると、人気の少ないとこまで連れてこられた。

 

 

「あの、どうかしたんですか?」

 

「まあね、あなたのトレーナー、渡辺君の事なんだけど」

 

「はい?」

 

 何か伝言でも頼まれたのだろうか。一応ここは教師含め生徒がウマ娘とある通り女性が8割を占めている。

 そのため男性は多少の居心地悪さを感じてしまうのかもしれない。ネイチャがケガして世話していた時は例外だったのかもしれないが。

 

 その前に伝言なんて頼まなくてもスマホで連絡をくれればいいのではないかとも思う。

 急用であればもっとだ。と、勝手な憶測で片付けていたのだが、女性トレーナーが否定するようにこう言った。

 

 

「渡辺君ね、今朝倒れたみたいなの」

 

「………………は?」

 

 バクンッと、一瞬心臓があまりにも大きく跳ねた感覚がした。

 時が止まったような錯覚から脳が揺れる。何を言っているのか理解できない。自分の顔色が変わっていくのを体温で感じた。

 

 そして。

 

 

「あ、ちなみに風邪だって」

 

「いや大袈裟に言わないでくださいよ!!」

 

 ズッコケそうになった。

 一言目のダメージが大きすぎる。心臓に悪いったらありゃしない。温度差でこっちが風邪を引きそうだ。

 

 

「けど倒れたってのは本当だそうよ。本人から連絡が来てね。ただの風邪らしいけどもしも担当ウマ娘に移ってしまったら嫌なので今日は休みますって。まあ自分のせいで誰かに風邪を移しちゃうのは誰だって嫌だもんね」

 

「それは……まあ、そうですね」

 

 いかにも担当ウマ娘第一としている渡辺輝が考えそうな事だ。

 しかし、ただの風邪なのに倒れたというのが少し引っかかる。風邪で倒れるというのは、それほど高熱が出たという事ではないのか。

 

 本人から連絡が来たという事は意識も戻って大丈夫そうではあるが、なら何故自分には何の連絡も寄越してこないのか。

 トレセン学園に連絡するのは当然だとネイチャも思う。職場なのだから必須だろう。しかしそれなら担当ウマ娘である自分にも何か連絡するのがトレーナーというものではないのか? 

 

 

(もしかして、学園に連絡した後に高熱でダウンした……?)

 

 そうとも考えられる。それならば仕方ないと納得できるが、ここで少しモヤッとしてしまうのが恋するネイチャの悲しい性だ。

 同時にトレーナーの体調が心配になってきた。一人暮らしで風邪をひくというのは結構キツイと聞いた事がある。

 

 体がどんなに辛くても代わりに何かをしてくれる人もいなければ、用意してくれる人もいない。全部自分でしなければならないのだ。

 ましてや渡辺輝はネイチャが料理を作らなければコンビニ飯や簡易的な秒速飯で済ませてしまうほど自分に疎い。

 

 そんな人が風邪でダウン、家に残っている食材で料理する様子なんて想像できない。下手すると風邪が悪化してしまう可能性だってある。

 ただでさえ上半期のトレーニング次第で後半のレースの結果が変わってしまうかもしれない大事な時期だ。ここで悪化してトレーナーのいない日が続いてしまうのはネイチャも望んでいない。色んな意味で。

 

 と、ここで自分のスマホがポポンッと鳴った。

 メッセージアプリだ。

 

 

「じゃあ、事情は伝えたし私は行くね」

 

「あ、ありがとうございましたっ」

 

 軽くお辞儀してからスマホを開く。

 普段この時間帯は誰からも連絡は来ないはず。だから大体の予想はついている。

 

 メッセージアプリの送り主は渡辺輝。

 こう書かれていた。

 

 

≪悪い、風邪引あた。お前に移す訳にもいかないかり今日は大事を取って休む事にする。何とか明日までには治すようにするよ。それと今日のトレーニングはいつも通りせるように。グラウンド予約したぬに使わないのは他のウマ娘に申し訳ないし勿体ないからな。メニューの方についとは画像で送る≫

 

 読み終えた頃にトーク画面が更新された。

 そこには画像が貼られている。今日のトレーニングメニューがみっちりと書かれていた。事前に書き終えていたものだろう。

 

 プルプルとネイチャの手が震えていた。

 

 

「……何これ」

 

 これはちょっとした怒りだ。

 自分が呟いていた事も忘れネイチャはこの文面を見て感情を溢れさせていく。

 

 

(何でアタシに送ってくるメッセージはこんな簡素なの? 倒れたとか言わずに風邪引いたとしか言ってこないし、そりゃアタシに心配かけたくないって事くらいは分かるけど! ていうか所々誤字してるしっ。そんだけダウンしてるって証拠じゃん!!)

 

 多分重い瞼と怠さを我慢しながらこのメッセージを書いたのだろう。フリック入力が部分的に上手く出来ていない。よく考えてみればこれだけ辛いのに自分へ支障のないようトレーニングメニューとメッセージを送ってきたのかと思うと、他の怒りも込み上げてくる。

 

 

(トレーナーさんは自分の事が二の次すぎるからね。だったらアタシにだって考えがあるよ。この前弱みも見られたし、そのお返しになるかは分からないけど弱ってるトレーナーさんの家に突撃してやるんだから!)

 

 弱み(猫カフェに通っているのがバレた)かどうかはともかく、おそらく今のトレーナーを1人にしていたら栄養管理共に上手くいく事は皆無なので家へ行く必要がある。

 トレーナーの考え的にネイチャが一番来てほしくない相手なのは分かっているが、そこはマスクなり手洗いなり予防対策をすればいい。

 まずはトレーナーをちゃんと回復させるのが最優先だ。

 

 目的は固まった。

 トレーニングメニューをこなしてからトレーナーの家に突撃だ。

 

 

(待ってなよトレーナーさん。自分の体調管理も出来ない人にはお仕置き(看病)が必要って事を分からせてあげるんだからっ)

 

 

 

 

 

 

 

 ネイチャの突撃看病劇が密かに始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





総話数で言えば既に超していますが、本編ではようやく節目の50話に到達しました。
そして本編内ではトレーナーが風邪を引くという不幸な事態に。
次回はネイチャ看病編です。



では、今回高評価を入れてくださった、


路地裏猫同盟さん、libra0629さん


以上の方々から高評価を頂きました。
本当にありがとうございます!!




今のイベント、ややこしいんでもう余りあるにんじんゼリーでごり押してやろうかと思ってます(育成する時間が少ない民)
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