お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話   作:たーぼ

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53.夏に誓う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 8月中旬。

 

 トレセン学園恒例の夏合宿も終盤になり、チームごとに休暇やら追い込み練習など様々な過ごし方を満喫していた。

 そして、渡辺輝とナイスネイチャはというと。

 

 

「お待たせ~っと。時間は……間に合ったねえ」

 

「おう、10分前行動は良い事だ。さすがに夜付近は暑さも少しマシになるな」

 

 思いっきり休暇を満喫するつもりだった。

 時刻は19時前。焼けるような暑さを放つ太陽もほぼ沈み、気温も1度か2度くらいは下がって幾分か耐えられる暑さとなっている。

 

 

「んじゃ今年もさっそく行くか、合宿終わりの夏祭りに」

 

「はいはい、お腹減ってるんですね分かりますよー」

 

 合宿場付近の神社で祭りをやっている事に去年気付き、その前の年に行っていた地元の祭りではなくこちらの祭り会場に行くようになって2年。

 初めて夏祭りに行った時の言葉はまだ遂行できている。毎年夏祭りに行くという言葉を。

 

 ネイチャのペースに合わせて歩きながら問いかける。

 

 

「そういや今年は浴衣着てるけど持ってきたのか。それともどっかでレンタルした?」

 

「んー、この前買ったんだよねー。マヤノ達とも行く事あるし、その時一緒に着てこってなってさ。まあ良い機会だしどうせお祭りに行くの分かってるなら着ていこうかなって。ほら、その方が雰囲気も出ますし?」

 

「確かに着れる時に着ないと勿体ないしなそういうのって。ネイチャが着てくるなら俺もどっかで借りて来ればよかったか」

 

「今からだと時間かかるしお祭り楽しむ時間もなくなるから却下でーす」

 

(や、まあ浴衣デートには憧れてるけど……今は一緒に過ごす時間が最優先だし)

 

 ネイチャの気持ちを察する事もなく、トレーナーはネイチャをじっと見つめる。

 

 

「……え、ナニ? 何でそんな見てくんの? え、何か着付けおかしいとこあります? 何回も確認したんだけどっ」

 

「いんや。ネイチャが自分で選んだだけあって似合ってんなーって」

 

「………………いきなりそういう事言われるとビックリするんですケド」

 

「いやー、やっぱ浴衣にはポニーテールだよなあ。気品というか貴重な髪型だからこそ男的にはそういうのに視線奪われるってもんだし。……あ、ヤベ、今のナシでっ。別に他意はないから! ちょっと本音が……じゃなくて、えーっと……褒めようとして言葉のチョイスミスっただけだから!」

 

 男渡辺輝、20代後半になって見苦しい言い訳しかできなかった。このご時世では迂闊な発言で吊るし上げられてしまう世の中だという事を忘れてはならない。

 うっかりな本音が自分の身を滅ぼしかねないのだ。それも担当ウマ娘なら尚更。

 

 浴衣姿にポニーテールのネイチャ。今年の初詣の時も振袖姿でポニーテールという似たような恰好をしていたが、彼女にはこういった和な雰囲気が合うのは親のような面倒見の良さといった性格もあってだろうか。

 もちろん反応が怖いから口に出しては言えない。

 

 そしてトレーナーの弁明を聞いたネイチャの反応は。

 

 

「ははは、分かってますって~。トレーナーさんはそんな事言えるような人じゃないって知ってるし」

 

 手首をパタパタ扇ぎながら意外にも淡泊なリアクションだった。

 

 

(あっぶな! 今まで何度か言われてきたけど不意打ちはダメだってば! けど気合い入れてきて良かったぁ……)

 

 少女の内心と言動に必死の努力はあったけれどトレーナーはそんな事分かるはずもなく、理解のある担当ウマ娘で良かったと思っているだけである。

 歩いている内に祭りの会場にやってきた。こじんまりとしつつも風情を感じられる雰囲気が漂っている。

 

 これでも走りづらい砂浜を何十回も走り、暑苦しい中を駆けずり回ってきた。

 短期間で急成長するための合宿だけど、それでもしんどくない訳ではない。普通に苦しいし辛いのだ。熱中症にだけは気を付けてネイチャを見ていたトレーナーもトレーニングを見てるだけでうなされる地獄のような暑さ。

 

 それを耐え抜いてやり切ってみせたネイチャには、ちゃんとご褒美があってしかるべきだろう。

 つまりは、祭りの毎年恒例食べ歩きである。

 

 

「よっしゃ、んじゃ好きなだけ食いたい物買うぞ。いつも通り俺が全部出してやるから遠慮すんな」

 

「いよっ待ってましたぁっ! 今日はたらふく食べちゃいますもんねー!」

 

 ウマ娘脅威の食欲が祭り会場を席巻し始めた。

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

 小さな祭りとは言っても規模はそれなりにある。

 地元の人も多く行き交い、合宿を終えるウマ娘達もそれぞれのトレーナーや友人とここに来ていた。

 

 食欲に飢えたウマ娘達が、だ。何故祭りで売られている食べ物は一層美味しそうに見えるのかは未だに不明だが、多分祭りの雰囲気や楽しい気分のせいも含まれるのだろう。

 それもあってか出店に並べられた食品はほとんどウマ娘達の手によって平らげられていた。おかげで毎年店の人達は儲けられて万々歳らしいが。

 

 かくいうネイチャもその一人として大量の空き容器や串を生成していた。

 

 

「ふぅ、今年も全部制覇出来た~」

 

「去年と同じくらい金額用意してたのにまさか手持ちの金がほぼ全部無くなるとは……。屋台の人達ウマ娘が来ると分かっててメニュー増やしたな……?」

 

 一つの屋台にメニューのバリエーションが3つ程増えてたのは絶対気のせいじゃない。から揚げにカレー粉やチョコバナナに追いチョコソースなどありそうなものから無理矢理こじつけたようなメニューが増えていた。

 どうりで去年よりも装飾などが少し豪華になっている訳だ。味を占めたのかもしれない。

 

 

(ま、ネイチャが満足してんならそれでもいいか。元々全部使ってやるくらいの気持ちで来たし)

 

 数年前のネイチャなら絶対気を遣ってトレーナーのお金をそんなに消費させないよう控えてただろう。

 しかし今ではそんな素振りもあまり見せなくなってきた。そもそもこれまでのネイチャが遠慮しすぎていたのだ。トレーナーからすれば子供は大人に甘えるものだと思っている性格だから、このくらいがちょうどいい。

 

 

(こんだけ食えるって事は、『本格化』はまだ続いてるって事か。普段以上の食欲、トレーニングの集中力も上がってる。不安定の砂浜をすぐに克服して安定した走りも出来た)

 

『本格化』。ウマ娘が急激に成長すると言われている成長期間。

 アスリートの目覚めとして認識されており、そこから能力はピークに達しやがて緩やかに下降していくものらしい。

 

 しかしその判断は難しく、本人が漠然と感じられるかどうかという。

 例えば体が軽い。食欲が凄い。今までできなかった事ができるようになったなど。ネイチャもそんな感じの事を言っていたような気もするが、正確な判断は分からない。

 

 ただ、まだ『本格化』が終わっていないとすると。

 

 

(ネイチャのピークにはまだ至ってない。つまり、まだまだ成長できるって事だ)

 

 いつまで続くかも分からない『本格化』。続いている内はネイチャの成長速度を信じていくしかない。

 

 

「あ、何か今日は花火もやるらしいよ」

 

「……え、花火? 去年はそんなのなかったよな」

 

「今年からやるんだってさ。景気でも良くなったのかねー」

 

「絶対俺達トレーナーのマネーが絡んでる気がする……ってのは野暮か」

 

 せっかくの夏祭りだ。今はこれを楽しむ事に専念すればいい。後の事は帰ってからだ。

 

 

「ってか花火もうすぐじゃん! ほら、トレーナーさん早く行こっ、花火初めてだから分かんないけど良いとこで見られるかもって屋台のおばちゃんに教えてもらったからさ!」

 

「ホントよく知らないとこでおっちゃんおばちゃんとすぐ仲良くなれるなお前、それもはや才能だろってうわっ……ちょ、そんな強く引っ張んなくても行くからお前の力で引っ張られたらもうそれ引きずられるだけだからあばばばばばばー!?」

 

 その日、浴衣姿で男性を引きずっていくウマ娘が目撃されたとか何とか。

 

 

 

 

 人気の少ない高台にベンチがあった。

 とはいっても誰もいない訳ではなく、ちらほらとここで花火を見ようと男女が数組いる。まるでデートスポットのようだとトレーナーは思う。

 

 

「確かにここならそんなに人も多くないしゆっくり見れそうだな」

 

「一応初めての花火大会だし今年はあんま来なさそうだね」

 

 なら今ここにいる人達はあらかじめ場所を知ってた地元の人か、それともネイチャのように屋台の人に聞いて来た人のどちらかか。

 

 

(にしてもカップルっぽい人多くない!? ここにいる人みんな男女1組なんですけど! ハッ!? もしかしてアタシ達も周りから見たらそう見えてる……? それはそれでちょっと恥ずかしいな!!)

 

「?」

 

 何だか隣でネイチャが赤くなっている。さすがに夜といっても真夏だ。浴衣でここまでダッシュしてくれば普通に暑いのかもしれない。

 先ほど自販機で買っておいたペットボトルの飲料水をバッグから出してネイチャの顔に当ててみる。

 

 

「うひゃあッ!? え、何!?」

 

「ほれ、水。一応走ったんだし暑いなら水分補給しとけ」

 

「あ、ああ……アリガトーゴザイマス」

 

 そういう事じゃないんだけどな、みたいな目をしている少女だがトレーナーは普通に夜空を見ていて気付いていない。

 すると、それは突然始まった。

 

 

「おっ、花火始まったみたいだな」

 

 パァンッ! と弾ける音と共に花火大会が始まった。

 

 

「花火大会なんていつ振りかも覚えてないけど、やっぱ夏に見るとなるとこれだなってなるな」

 

「トレーナーさん基本インドアだから見てもテレビとかだけだもんね。や、テレビでも見ないか」

 

「お前は俺を何だと思ってんだよ。見ないけど」

 

 軽口を叩きながらベンチに座って花火を見る。

 小規模だからかそんなに次々と打ち上がってはこないが、だからこそのんびり見れる分もあるのでこれも悪くない。

 

 ふと、そんな時だった。

 隣からこんな声が聞こえてきたのだ。

 

 

「何かいいなあ」

 

「何が?」

 

「こういうさ、トレーナーさんと普通にお祭り回って花火見て楽しむの。何てことない平凡な時間ってのがアタシには合ってんのかねー」

 

「それその歳で言う事じゃないと思うぞ。もっとこう、年取った時に一緒に見て言うなら分かるけど」

 

 呆れながらネイチャを見ると、その横顔は花火の灯りに照らされ一つの芸術品のようにも思えた。絵になる、とはこういう事を言うのかもしれない。

 微笑みながら花火を見るネイチャに少し見惚れていた自分がいた。何故だか失いたくないという思いもあった。

 

 トレーナーもまた視線を花火へ戻す。ド派手じゃない花火が、自分達のらしさという感じがした。

 こんなものでいい。これだけで充分気持ちは満たされる。

 

 そして、最後に隣の少女はこう言った。

 

 

「来年もまたここで花火見ようよ、アタシ達でさ」

 

()()。自分にはその居場所があるのかどうかも分からない。結果次第ではトレセン学園を離れる事になってしまう。

 だけど、そうならないために今も頑張っているのだ。だから、渡辺輝は言う。

 

 言ってやる。

 確証のない口約束だけど、確信のない未来だけど。

 

 少女のささやかな願いを叶えるために。

 

 

 

 

 

 

「ああ、来年も一緒に見よう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 






捻くれず真っ当に精神も成長したうちのネイチャは遠慮がないようです。
いいぞ、有り金全部使ってやるからな。

シニア級も下半期、物語もそろそろ終盤に入っていくやもしれません。



では、今回高評価を入れてくださった、


ネイチャを全力で推すかめさん、セカンドミラクルさん、おびてんさん、最弱のニートさん


以上の方々から高評価を頂きました。
本当にありがとうございます!!



バレンタインは30連で何も出ず撤退。しかしまだ2天井分は残ってる。
来るか、アニバでキタサトWピックアップ!?(願望)
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