お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話   作:たーぼ

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55.大敗

 

 

 

 

 

 

 

 

 10月末。

 東京レース場でGⅠレース、『天皇賞(秋)』が行われていた。

 

 

 レースも終盤に差し掛かり、ここからが盛り上がりどころだと誰もが湧いた。

 最終コーナーが終わって最後の直線になる。

 

 

「はぁ……はぁ……ッ!!」

 

 本来ならばもうスパートをかけて全てのウマ娘が先頭を狙い前線へ来るのだが、その集団の中にナイスネイチャはいなかった。

 ポジションで言えば最後方の1人。今でこの順位ならここから追い上げるのは不可能ではないがとても難しい。

 

 

(くっ、何で……!?)

 

 今日は調子も良い方だった。いつも通りの作戦で良い位置取りも出来て仕掛ける準備も出来ていたはずだ。

 それなのに、何故自分はこんなところにいるのか。スタミナ切れではない。脚もまだ残っている。末脚で今も追い上げている真っ最中だ。

 

 だけど。

 前に切り開けるだけの道が閉ざされていた。

 

 

(ブロックされてる……! みんな追い上げるために横に広がってて隙間がないッ)

 

 これでは前に行こうとしても狙えない。ジリ貧状態のままレースが終わってしまう。

 

 

 

 

 レースを見ていたトレーナーもまた、拳を握り締めていた。

 

 

(くそっ、GⅠレースだからこそ慣れてる差し作戦で行かせたけど、逆にそれが仇になったか! あの感じ、1番人気のライスシャワーと2番人気のネイチャに対策してきてるウマ娘が多すぎる。先行集団が図らずも完全にブロックしててネイチャの抜け道がなくなってるんだ……!)

 

 それだけ脅威と思われていたのか。そう捉えるだけなら高く買われていて悪い気分ではないが、如何せんこんなにもあからさまに警戒されて対策されていれば良い気分とも言えない。

 1人や2人程度なら何とかなっただろうが、GⅠレースに出る強者達がほぼ総出で壁になられるとどうしようもない。

 

 現に注目されていたライスシャワーも未だに先頭ではなく6番目ぐらいを走らされている。

 強者ほど警戒され作戦を封じられてしまう。それをねじ伏せるだけの圧倒的強さを、まだネイチャは持っていない。

 

 レース会場を響かす地響きような足音と共に、ウマ娘達がゴール板を切った。

 今まで大敗を喫した事のなかったナイスネイチャ。1着にならずとも必ず5着以内で掲示板入りの常連だったウマ娘は。

 

 初めてその掲示板から名前を消した。

 

 

 

 

 東京レース。

 天皇賞(秋)──ナイスネイチャ、15着。

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

 トレセン学園に帰り、いつものトレーナー室。

 当然明るい空気はなくどちらかというと重たい空気が漂っている。

 

 控え室で一言二言交わし、帰りの車でもいつもより会話は少なくそのままここへ戻ってきた。

 しかしこんな空気に耐えられる訳もなく、落ち込む担当ウマ娘のメンタルケアも仕事の内として渡辺輝は口を開く。

 

 

「控え室でも言ったけどあんま気にすんなよ。ネイチャの実力じゃ間違いなく勝てるレースではあったけど今回は運が悪かっただけだ。さすがにあんだけ前を閉ざされてたらどんなウマ娘も前にいけなかっただろうしな」

 

「うん……」

 

 17人中15位。初の掲示板を逃した上でしかも大敗。今まで何だかんだで上位に入っていただけに落ち込むのは当たり前か。

 強いと思われているが故に自慢の末脚を発揮する前に前を封じられたのだ。注目されるのも考え物かもしれない。

 

 あのライスシャワーですら6着だった。それだけレースには絶対はなく、強者が勝つとは限らない。

 そこがレースの面白さでもあるけれど、自分達でそれを思い知らされると中々くるものがある。

 

 

「悔しいか?」

 

「……うん」

 

「なら良い」

 

 あれだけブロックされれば仕方ないと言っても許されるのに、そうは言わなかった。悔しいと思える気持ちがまだある。それだけでも充分負けた価値はあったのだ。

 ネイチャの隣に座る。

 

 

「どこかで一回思いっきり負ける事も悪くないとは思ってたんだ。何せ今までずっと5着以内だったんだからな。まあその方がよっぽど凄えけど。今回の大敗で色々見えた事や分かった事もあるし、きっちりこの敗北を価値ある経験値にしようぜ」

 

「はぁ~あ、トレーナーさんは優しいですなぁ……」

 

「負ける事は勝つ事よりも学びがある。反省点や修正点も踏まえてな。今回負けたのは俺の伝えた作戦がいつもと同じすぎたのが原因だし、ネイチャの強さは俺が一番知ってる。だから次こそは勝てるように前を向く事から始めるんだ。いいな?」

 

「……トレーナーさんが前向いてんのにアタシだけ下向いてるのはおかしいもんね。……っし、オッケー、気持ち切り替えますわ。次もGⅠだしね」

 

 ネイチャは両手で自分の頬を軽く叩いた。気合いを入れ直したのだろう。

 彼女もGⅠレースに思うところがあるのか、ふんすっとやる気がアップしている。トレーナーの事情とは別にネイチャもGⅠレースに勝ちたい理由があるのかもしれない。

 

 何はともあれだ。

 

 

「よし、ネイチャの機嫌も元に戻ったし」

 

「お、じゃあさっそく今日の反省点でも話し合いますか」

 

「今日はもう帰って休んでいいぞ」

 

「……ん? え、何で!? 今の流れはこれから2人で色々話し合うとこだったじゃん!」

 

「や、元々今日は普通にレース終わったら解散するつもりだったし流れ的にはおかしくないぞ。……あ、言ってなかったっけ」

 

「聞いてないわっ。もう、せっかく頼もしかったのに台無しじゃーん」

 

 力なくソファにもたれ掛かるネイチャ。どうやら元の調子に戻ってくれたようだ。

 

 

「よく動き、よく学び、よく遊び、よく食べてよく休む。これが立派な修行だって亀仙人のじっちゃんも言ってたろ。それと一緒だ。今日明日はしっかり休んで気晴らしして次のトレーニングまで英気を養う事」

 

「誰が亀仙流の弟子じゃい」

 

 ツッコミのキレも元通りになった。メンタル面はもう大丈夫だろう。

 勝敗に関わらずレースで頑張ってくれたウマ娘にはちゃんと休んでもらうのが渡辺輝のやり方だ。それはミーティングとて同じ。変に無理をさせて余計疲れるような真似は絶対にさせない。

 

 

「初めての大敗で色々思うとこはあるだろうけど、とにかく今日はもう帰って休んでてくれ。明後日からはまた来月末のGⅠレースに調整して厳しいトレーニングが続くからな」

 

「トレーナーさんは?」

 

「俺はネイチャみたいに走ってないから別に疲れてないし、今日はまだここでやる事あるからもうちょっと残ってくよ。あ、今日だけは一緒に残るとかはナシだかんな」

 

「……ちぇー、バレたか。まあトレーナーさんがそう言うなら今日は大人しく帰るとしますかね~。トレーナーさんもあんま無理しないようにね」

 

「何ならレース見てただけだし疲れは一切ないレベルだけどな。気遣い感謝する」

 

 立ち上がって自分の作業机に向かう。ネイチャも帰り支度をして鞄を肩にかけていた。

 

 

「んじゃアタシは帰るね」

 

「おう、お疲れ」

 

 軽く手を振ってきたネイチャに同じく手を上げて返す。

 バタンッとドアが閉まり部屋の中を静寂が包んだ。ネイチャが離れていく足音を確認しつつ、溜め息を一つ吐いた。

 

 

「……ふぅ」

 

 手元を見る。ぷるぷると握り締められていた左の拳が震えていた。

 右隣にいたネイチャからの死角。左手を開くと爪が喰い込んでいた跡があった。それだけずっと強く握っていたのか。

 

 多分ネイチャには気付かれていないとは思う。平静を装いつつ会話を続けられていたから、見られてもいないはずだ。

 15着という初の大敗。それもGⅠレースで。上手く走れていれば勝てたかもしれないチャンスを阻まれた。これもレースならではだから仕方ないと言えば仕方ない。

 

 だけど、悔しい気持ちの方が大きいのもまた事実。

 

 

(今回の敗因は俺にある。ネイチャの実力を信じて普段通りに走らせた事。あんなにも多くのウマ娘に対策されてると思わずに過信しすぎていたから負けたんだ)

 

 どんなに強いウマ娘でも道がなければ前に行く事はできない。強引に行ってもし何かあってしまっては遅いのだ。

 それらを含めてもっと相手のウマ娘を分析し何をしてくるのか対策を考えておくべきだった。勝つ事に拘り過ぎて相手がどんな対策をしてくるか警戒を怠ってしまったのも原因だろう。

 

 普段ならそれも踏まえて作戦を練るべきなのに、それらを考慮していなかった。

 何故か。

 

 

(……まさか、焦ってるのか?)

 

 GⅠに勝たないといけない。渡辺輝にはもうチャンスが2回しか残されていないのだ。

 来月末のジャパンカップと年末の有記念。どちらかで勝たないと来年の春にはもうトレセン学園を離れなければならない。

 

 分かっていて隠しながらも冷静に対処をしてきてるつもりだった。平静でいられると思っていた。

 だけど、もし心のどこかで焦っていたとしたら。

 

 

(ふざけんな。それじゃ俺がネイチャを信じてないみたいじゃねえか!)

 

 振り切る。ネイチャは勝つ。それを成し得るだけの力と素質を持っている。

 それなのにこんな邪念が浮き出てしまうとしたらそれは自分のトレーナーとしての力が未熟だからだ。

 

 滝野勝司の元でサブトレーナーとして修業を積んできたけれど、トレーナーとしてはまだ新人の部類にいるのが自分だ。

 ベテランの弟子がベテランになるとは限らない。そこには才能と努力の壁が立ちはだかる。ならばそれを超えるために出来る事を考えろ。

 

 

(俺のメンタルと未熟さがネイチャの敗因になってるとしたら、それを払拭するくらいの技術を身に付けるしかない。こんな事は他のトレーナーだっていつもやってる。なら俺はその上を行かなくちゃネイチャに見合わねえ。ネイチャの力をフルに発揮させてやるぐらいの努力をもっとしないと勝てる見込みも少なくなる)

 

 大量の資料と記録映像のDVDをテーブルに置いてソファに座る。

 やれる事は限られている。ならそのやれる事を全てやり尽くせ。一寸の隙間もなくデータを頭に詰めこめろ。

 

 相手の分析と対策。自分達が対策をするだけでなく、相手がこちらをどう対策してくるかすら考えて更にその上にいけ。あらゆる活路を見出せるように準備を整えるのがトレーナーの仕事だ。

 死力を尽くしてウマ娘のサポートに徹底し勝たせてみせろ。

 

 

 

 

「2人で勝つんだ……ネイチャと2人で……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 






ネイチャの前ではお気楽そうに、いない場所では努力を惜しまない。
こうしてみると結構似てる2人なんですよね。

さて、この作品も最終章に近くなってまいりました。



では、今回高評価を入れてくださった、


柳瀬川さん、ななな5629さん、しろくま2さん、滄海さん


以上の方々から高評価を頂きました。
本当にありがとうございます!!



アニバ前にアルダンとアヤベさん追加してくるのはズルいやん……。
キタちゃん待ってるかんな!
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