お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話   作:たーぼ

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56.夕陽差し込み何思う

 

 

 

 

 

 

 

 11月上旬。

 月末のジャパンカップに向けてミーティングをする予定のネイチャは授業が終わるとすぐにトレーナー室にやってきていた。

 

 部室よりもトレーナー室で過ごす事の方が多くなった今、ノックなんてするはずもなくいつも通り部屋に入る。するとトレーナーの渡辺輝がソファに座ったまま何かを呟いていた。

 テーブルの上には資料らしきものとレース映像のだろうか、そのDVDが何枚も重ねて置かれている。

 

 何やらブツブツ言っているようだ。

 

 

「(今回は海外のウマ娘もいるけどデータが少ないな。もっと何か参考になるような映像を探すか? けど昨日も大分探してそんなに見つからなかったし、変に時間を取られるのも惜しい。まずライスシャワーとメジロパーマー、ウイニングチケットやマチカネタンホイザとかここにいるウマ娘達の対策を万全に練って、それから時間が少しでも余れば海外のウマ娘達の資料を探すのが効率的にもいいか)」

 

(あー、いつものね)

 

 案の定ネイチャが来たのに気付いていない。ずっと資料と睨めっこしている。

 トレーナーの癖と言うべきか、はたまた考えを口に出す事でより集中できるのかは分からないが、トレーナーは集中している時よく独り言のようにボソボソと口に出しているようだ。

 

 こうなっていると話しかけない限り周囲に誰がいるかなども全然気付かないらしい。この約3年間一緒にいて分かった事である。

 完全に自分の世界に入っていた。もはやこれも一種の領域(ゾーン)なのではないかとネイチャは内心冗談めいたように思ってみる。

 

 とりあえず今日はネイチャを入れてのミーティングなので元の世界に帰ってきてもらう事を優先させた。

 

 

「トレーナーさ~ん、ネイチャさんが来ましたよ~って」

 

「(パーマーの大逃げ作戦は今回炸裂するかどうか……された場合レースを引っ張られて余計にスタミナ奪われちまう危険性があるな。ライスは標的がいれば一点集中で恐ろしいけど、今回に至っては海外勢相手にどう対応するのかまだ分かってない状況だろうしこちらも判断は早いか。タンホイザはふとした時のど根性から来る末脚がどこで発揮してくるか、ウイニングチケットに関しては警戒しなくちゃいけない部分が多すぎてもっと記録映像を見返す必要がある)」

 

「……今日は一段と集中してんね。ったくもう」

 

 全然こちらに振り向く気配すらない。目線はテーブルの資料へ一直線だ。視界が狭いどころの話ではない。

 こうなれば仕方ない。普通に声を掛けても気付かないなら隣に座ってやる。

 

 

「(こうなってくると余計海外勢のデータが欲しくなってくるな。全員の走り方を完全に詰め込んでどんなレースをするのか疑似的に頭の中で少しでも鮮明に思い浮かべたいし、今日もここで泊ま)」

 

「はいそこで一旦ストップねー」

 

「え? って、あれ、ネイチャ? 何でここに?」

 

「いやトレーナー室だからですけど。ミーティングだからですけど。てか何もなくても来ますけど」

 

 キョトン顔で見られても逆に困る。こっちは時間通りに来たというのに何故疑問に思われないといけないのか。

 

 

「ああ、そうか。もうそんな時間になってたか。集中してたら時間経過が狂うな」 

 

「まーたボソボソ1人で何か言ってたよ。トレーナーさんの癖は相変わらずだねえ」

 

「1人暮らしで家に話し相手とかいなかったら結構独り言話すようになるんだよなあ。今はネイチャが割と家に来るから頻度は少なくなったと思うけど」

 

「バチバチに1人で喋ってたよ」

 

「それはほら、あれだよ。今言った通り集中してたから」

 

 取り繕うように言いながら、テーブルの隅に置かれていたコップを取ろうとして中身が空になっていたのに今気付いたらしい。

 多分家で1人の時は普通に独り言を言ってるんだろうとネイチャは結論付けた。もっとトレーナーの家に行こうかなと、どういう口実で攻めようか密かに考える必要がある。

 

 とりあえずその話は一旦心の引き出しに入れておく。

 今はミーティングが最優先だ。

 

 

「さ、まずはちゃちゃっと本題に入りますかっ。ジャパンカップまでにやらないといけない事はたくさんある訳だし」

 

「そうだな。詰めれる所は詰めていこう」

 

 勝負は既に始まっているのだから。

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

 何時間たったか。

 既に陽は傾き始めていた。

 

 変な無駄話も入れず、たまにコーヒーを口に含むだけの手間さえ省けばこんなにも詰めたミーティングをしたのは初めてかもしれない。

 そしてネイチャは改めてトレーナーへの関心を再確認した。これだけ分かりやすく相手の対策とデータを詰め込んで話してくれるのはこちらとしてもとてもありがたい。

 

 本人はまだ完全なデータが足りないから不確定ではあるけど、と言っていたが大体どういう走りをすれば疲れにくいか、良いポジションにつけるかなどコースや対戦相手の走りを想定して対策を練ってくれている。

 逆に言えば、どれだけ時間を費やせばここまで相手の事が分かるのか想像もつかない。

 

 

「とまあ、今の段階でこっちに出来る対策はこのくらいかな。出来れば海外勢の映像をもっと見たいんだけど、生憎記録映像もそんなにないし向こうに知り合いのトレーナーもいないから全部は分からずじまいだ。だからまずは中央(ここ)にいるウマ娘達の対策を完璧にこなす事を最優先にって感じでいいか?」

 

「オッケー、それに合わせたトレーニングメニュー組んでくれてるって事でしょ? ならアタシはそれをこなすまでだし」

 

「そゆこと。っと、気付けばもうこんな時間か。休憩も入れずに話しっぱなしってのも結構疲れたろ。現状出来る事は全部話せたし、今日は早めに終わっとくか?」

 

「アタシは全然大丈夫だけど、んー……そうだね。気になる事もあるし一応今日は終了にしときますか」

 

 そう言ってネイチャはテーブルにあった資料達をそそくさと片付け始めた。

 多分、これらが原因なのだろうとは思う。

 

 

「片付けくらい俺がするぞ。元々全部自分で用意したんだし」

 

「ダーメ。トレーナーさんも今日はこれで仕事全部終わってるんでしょ? じゃあ終わりなら終わりでしっかりスイッチ切り替えないと体がもたないよ」

 

「いや、俺は大丈夫だけ」

 

「目に隈、できてるよ」

 

 ずっと気になってはいた。ネイチャは恋心を自覚してから以前よりもっとトレーナーの顔を見るようになっていたからかすぐに気付いた。

 普通の人よりも寝るのが好きなトレーナーだから、寝不足になるような事だけは決してしないと思っていたがそうでもないのか。

 

 

「あー、まじか。鏡見てないから分からなかった」

 

「寝不足になるなんて珍しいね」

 

「まあ、色々見てたら少しな……ふぁあ、やべ、落ち着いたら急に眠気が」

 

 あれだけミーティングに集中していて緊張が解けたからか、一気にトレーナーが瞼を重そうにしていた。

 うつらうつらしながら首を振ってはを繰り返している。

 

 

「じゃあ1時間ほどここで仮眠していけば? アタシが見といてあげるからさ」

 

「え、それは悪いしネイチャは帰ってくれていいぞ。俺も家まで踏ん張ってから思いっきり寝ようと思ってるし」

 

「今でそんだけ意識ふわってんのに帰り道にいきなり倒れて寝られたらそれこそ気が気じゃないし。いーから一旦ここで寝なって。早めにミーティング終わったおかげで下校時間までまだ余裕あるしさ」

 

 トレーナーを思う気持ち半分また寝顔が見れるという気持ち半分であった。

 どちらも本心なので悪意は一切ない。恋する少女はこういう時に限って何気に押しが強かったりするのだ。

 

 そしてここまで言われたトレーナーも観念したのか、ほんの少し苦笑いして首を縦に振った。

 

 

「じゃあお言葉に甘えて少しだけ仮眠させてもらうよ。誰か来たら起こしてくれ」

 

「はいはい、ネイチャさんにお任せあれ~」

 

「ようやく泊まり込みの徹夜からひと眠りできるなぁ……」

 

「…………ん? 泊まり込み? 徹夜? えっ、それってどういう」

 

 健康面的に聞き捨てならない事を聞いて隣を見たら既にトレーナーは夢の世界へと旅立っていた。

 それだけ限界だったのか。座ったまま寝ているので首を痛めてしまいそうな寝方だ。某名探偵アニメに出てくる催眠針で眠らされた人みたいになっている。

 

 

(寝るの早っ)

 

 これでは何も言えない。何度かトレーナーが寝ている所に遭遇した事はあるが、一度寝たら時間になるまで中々起きないのが渡辺輝だ。

 アラームを1時間後に設定しておく。そしてこのままじゃ首を痛める可能性があるのでどうしようかと、せめて枕代わりになる物を探して横にしてあげようと考えている時だった。

 

 コツンッと、バランスを崩したトレーナーの身体がネイチャに寄りかかってきたのだ。

 つまりドラマやマンガなどでもよくある、寝ている想い人に肩を貸すあのシーンである。あれが突然やってきた。

 

 

(ホァァァああああああああーッ!?)

 

 寝顔が見たいとは思っていたけどこんなイベントがやってくるなんて思っていなかったネイチャは当然尻尾諸共毛が逆立った。

 綺麗にネイチャの肩に収まったトレーナーへ顔を向けられる状態でもない。

 

 枕代わりになる物をと思っていたけど、まさか自分のツインテールを枕にされるとは思わないのが普通だ。

 これでは身動きができない。何ならトレーナーの寝顔を見ようとすると髪も動いてしまうから振り向けもしない。完全な手詰まりである。

 

 

(自分で寝ていいって言っておきながら今更起こすのも悪いし、てか起きそうにないけど。これ誰か来ても対応出来なくない!? お願いだから誰も来ないでー!)

 

 何だか膝枕の時のデジャヴを感じるがもうどうしようもない。このまま1時間待つしかないだろう。

 ある意味寝顔を見るよりも役得なシチュエーションにはなったが、色々飛び過ぎて思考がまとまらない。とりあえず一旦深呼吸をする。

 

 

(……うん、まあ、これはこれでアリ……かな)

 

 思考をリセットした結果、美味しいシチュはバッチコイという結論に至った。

 ここまで来たならもういっそこの時間を大いに満喫する事に決めたネイチャ。1時間という何もしないならゆったりと流れていく空間を堪能するだけである。

 

 右手は解放されているので、起きないとは思うが一応警戒しつつスマホのカメラを起動して自撮りモードにする。

 ちょっとした背徳感はあるものの、この貴重な瞬間を残さないという選択肢は恋する乙女にはなかった。小さな撮影音がトレーナー室に響く。

 

 

(……おー)

 

 撮った写真を見て、思わず口角が上がってしまう。何も知らない人が見たら恋人の寝顔とツーショットで写真を撮っているようにしか見えない。

 思わぬ臨時収穫だ。これは万が一にも誰かに見られる訳にもいかないので秘蔵のフォルダに入れておく。ちなみにそのフォルダには既にトレーナーと普通に撮った写真や過去に寝顔を撮った時の写真などが入っているのは内緒だ。

 

 これを見られたら恐らく1ヶ月は引きこもってしまうかもしれない。スマホもロックをかけ厳重に保管しておく。

 元々やる事がないのでスマホを置いて物思いにふけてみる。

 

 

(昨日からここに泊まって寝てないって事だよね)

 

 という事は家に帰っておらず、そのままここで寝ずにずっと作業していたという事になる。

 人よりも寝るのが好きで仕事とプライベートはきっちり分けるタイプのはずなのに、寝る間も惜しんで資料と睨めっこしていたのか。時間を忘れるほどに、自分のためにここまでしてくれていたのか。

 

 ネイチャが勝てるように、2人で勝利を掴むために努力を続けてくれている。

 だから惹かれた。自分のためにここまでしてくれる人がいるから、ネイチャは諦めずにここまでやってこられている。

 

 思いを無下にはしたくない。

 テーブルの上に片付けられた資料達を見る。まだまだやる事はたくさんあるけれど、きっとこの先もトレーナーと2人ならどこまででもやっていけるような気がした。

 

 室内に夕陽が差し込み、部屋全体をオレンジに染め上げられていく中。

 少女は静かにこう思った。

 

 

 

 

 

 

(こんな日がいつまでも続いてくれたらいいなあ)

 

 

 

 

 

 

 





はい、今回はあえて過去にあった膝枕回と似たような話にしました。
あの頃からの関係の変化、成長などと少し違った雰囲気を感じていただければなと思います。



では、今回高評価を入れてくださった、


Amber birdさん


以上の方から高評価を頂きました。
本当にありがとうございます!!




1周年おめでとうございます!
キタちゃん無事天井してマチタンも☆3にしました!!推しは初日に引くのが愛ってもんよ。マチタン☆2だったから比較的入手しやすくて助かりました。
あと1回天井分残ってるのでダイヤちゃん来たらやります(鋼の意志)
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