お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話   作:たーぼ

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お気に入り登録ご感想高評価本当にありがとうございます。
またしてもランキング入り……身が引き締まる思いです。ありがとうございます。


そんな訳で前回毎日投稿は一旦終了とかほざいていましたが、その後にネイチャが誕生日だと気付き急いで書きました。

今回の世界線としましては、出会ってある程度時間が経ち仲がより深まっている2人だと思って読んでみてください。番外編なのであくまで本編とは別時空ですが、多分本編も時間が経てばこうなります。いや絶対。


flumpoolの『星に願いを』という曲をテーマにして書いてみたので、それを聴きながら読むともっと楽しめるかも……?




ナイスネイチャ生誕祭 番外編.星に願いを

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある夜の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 春のファン大感謝祭。

 普段ウマ娘を応援してくれるファンに対してウマ娘達がトレセン学園全体を使って感謝の気持ちをお返しする催し物。つまりは学園祭のようなものと思えばいい。

 

 そんな大規模な祭りの前日。

 トレーナー室の窓から夜空を見上げる2人の姿があった。

 

 

『そういや今日って何たら流星群が見えるらしいぞ』

 

『肝心なとこ忘れてるじゃん。えー何々ー……ああ、こと座流星群だって』

 

『そうそうそれそれ』

 

 ナイスネイチャがスマホで調べるとすぐに分かった。

 隣にいるトレーナーも相づちを打ちながら空を眺めている。

 

 

『時間帯的にはもう見えてもおかしくないらしいよー』

 

『おっ、んじゃいっちょ探してみっか』

 

『そもそも流れ星ってそんなに見えるもんなの?』

 

『分からん。けど探してみないと見えるものも見えないだろ? 幸いこの周辺は結構星自体見えるからな。チャンスはあるさ』

 

『うへー、アタシよりロマンある事言っちゃいますねーあなた』

 

 まず大前提に、だ。

 何故この2人が夜に、それもトレセン学園のいつものトレーナー室にいるのかという話になる。

 

 理由としては単純だった。

 春のファン大感謝祭の準備のため、特別にトレセン学園で泊まる事を許されているからだ。もちろん寮へ外出届を出さないといけないがそこはネイチャ、ちゃんと事前に出していた。

 

 トレーナー室にはこの2人しかいないが、廊下を出れば夜なのにも関わらず結構賑やかだったりする。

 感謝祭なのを良い事に、ほとんどのウマ娘やトレーナーがちょっとした合宿気分で泊まるケースが多いので有名であった。

 

 もちろんこの2人もそのうちの一組であるのだが、この部屋にいる理由は少し違ったりする。

 トレーナー自体は特に何も準備する事はないから帰ってもいいのだが、ネイチャにクラスの出し物で運び出さないといけない荷物が多いから人手が欲しいと頼まれたからだ。

 

 当然、単純な力であれば人間のトレーナーよりもウマ娘の方が強いので力仕事は大丈夫だ。しかし、荷物量が多いとなると話は変わってくる。

 ということでの臨時残業なのだった。そしてそれも終わったから今はのんびりこうして夜空を見上げている訳である。

 

 

『つうかお前自分の教室には戻らなくていいのか? みんな待ってるとかないの?』

 

『んー? ああ、アタシは荷物運びが仕事だったからね。教室じゃまだ他の作業してる子達がいるからここにいるわけ』

 

『手伝わなくていいのかよ?』

 

『適材適所ってのがあるじゃん? アタシに細かい作業はムリムリ』

 

『だから力仕事ってか。何、パワー系女子でも目指してんぎゃぶぇッ』

 

『余計な事言わんでいいっての』

 

 肘でトレーナーの横っ腹を突きながらも流れ星がないか探すネイチャ。

 手加減はされてもウマ娘の力は人の域を超える。ので普通にエルボーを喰らった気分のトレーナーは横っ腹を押さえ悶絶していた。

 

 流れ星。

 聞いた事は何回もあるが、言い伝えも様々ある。

 

 流れ星を見た時、願いを言えば叶う。流れ星が流れている間に3回同じ願いを祈れば叶えてくれる。というありきたりなモノだ。

 ネイチャ自身、こんな性格もあってかわざわざ流れ星が願いを叶えてくれる訳もないと思っている性分である。

 

 それでも、もしも本当に願いが叶うとしたら何を願うのか。

 そんな事を夜空を見上げながら考えていると、その時は突然訪れた。

 

 

『……あっ、流れ星』

 

『うぶふぅ……え、マジ!? 流れ星流れたの!? 嘘だ、俺まだ見てないのに! エルボー喰らっただけじゃん!! 損じゃん!!』

 

『ふふっ、それはトレーナーさんが悪いんでーす。さて、アタシはそろそろ行きますかねー』

 

 言ってトレーナー室から出ようと窓から離れる。

 当然、それが原因で悶絶していたトレーナーに疑問が浮かぶ。

 

 

『あれ、他の子達がまだ作業してるんじゃなかったっけ?』

 

『まーね。けどせっかくだしアタシもクラスでこの学園祭みたいな雰囲気に呑まれてきますわー。トレーナーさんはそこで流れ星でも探しときなー』

 

 トレーナー室から出ていくネイチャ。

 それを見送ったトレーナーは1人夜空を見る。

 

 流れ星を見たならナイスネイチャはいったい何を願ったのか。そもそもそんな願い事を彼女はするのか。

 そんな事も考えずに、トレーナーはまったく別の事を考えていた。

 

 

『……今日も探してみるか』

 

 夜空を見上げてはいても探し物は決して流れ星とは限らない。

 願いをする事よりも、それ以上に価値のあるものを得るために、青年は星々と同じく無数にあるネットの海から目的の物を探す。

 

 

 

 

 トレーナー室を出てすぐの廊下。ナイスネイチャは出来るだけ他のウマ娘達に顔を見られないように、自分のもふもふツインテールで顔の下半分を隠しながら()()()()()()()()()()()歩いていた。

 

 

(本当はクラスの手伝いはしなくてももう大丈夫なとこまで準備は出来てるんだけどね……)

 

 ただ耐えられなかった。

 トレーナーと同じ空間にいるとどうにかなってしまいそうだったから退散してきたと言った方が正しいか。

 

 流れ星が流れたら何を願うのか。

 念願の一着を取りたい。それは自身の努力で勝ち取るべきだ。トウカイテイオーに勝ちたい。それは自身の頑張り次第だ。センターで踊りたい。それは自身で死力を尽くすべきだ。

 

 類似した安直な願いの終着点には必ず『一着』という目標が絡みついてくる。だからネイチャはそこに執着はしない。願いと目的を履き違える事はない。

 しかし、『一着』以外にそこへ付随してくるものがあった。

 

 そのためにナイスネイチャは目標に向かって頑張れる。

 想いは無自覚にますます膨らんでいき、いつしか少女の中でその存在は遥かに大きくなっていた。

 

 だからだろうか。

 ふと、流れ星にあんなお願いをしてしまったのは。

 

 

(あーあ、アタシらしくないなー。あんなの願っちゃうなんて)

 

 何を願うのか。

 それを考えていたら偶然流れ星が流れた。

 

 本当に偶然。無意識に思っていた事でもあった。

 些細な願い。あるいはちょっとした我が儘。夢、希望、望みを常に思っていないと叶わないような代物ではない。

 

 それでも願ってしまった。

 我が儘を思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 誰もいない飾られた庭園に出て、少女は空を見上げる。

 ウマ娘だとしても、乙女には変わりない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女が願ったのは──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……まさかこうなるなんてねー……」

 

 4月16日。

 時間は夜の19時を過ぎた頃、ナイスネイチャは1人学園内を歩いていた。

 

 昨日。

 春のファン大感謝祭も終わり、いつも通りのトレーニングを終えた時の事だ。

 

 

『あ、あのさ、トレーナーさん……明日の夕方なんだけど……よ、良かったら一緒に──、』

 

『ああ、明日ならオフにしたから友達とかと遊んでこいよ』

 

『……え、オフ?』

 

『おう、スケジュール見てもそろそろ休み入れとかないとってな。俺も明日はちょっと用事あるし、タイミング的にはちょうどいいだろ。だから明日はパーッと息抜きしてこい』

 

『……あー、うん、そっか。りょーかいりょーかい! それじゃお言葉に甘えて適当に遊びますかねー』

 

 

 こうして今日は休みとなった訳である。

 普通なら休みになればそれなりに嬉しいはずなのだが、さすがに今日はそう思えなかったのだ。

 

 

「……一応今日はアタシの誕生日なんですケドー……」

 

 ついつい独り言が漏れる。

 そう、4月16日。今日はナイスネイチャの誕生日だった。

 

 だから、せっかくなので専属として世話になっているトレーナーと一緒に、いつも通り商店街でぶらりと軽いパーティーも兼ねて祝ってもらおうかと思っていた。

 なのに、トレーナーは今日用事があると言って休みになった。

 

 もちろんネイチャがこの時間までトレセン学園にいるのは、同室のマーベラスサンデーやマヤノトップガン、トウカイテイオーを含む友人達が食堂で誕生日パーティーという名のお菓子パーティーを開いてくれたから何もなかった訳ではない。

 

 あのトレーナーの事だ。ネイチャの誕生日を知らないという訳ではなさそうだし、もしかするとテイオー達がパーティーを開催すると知っていて気を遣ってくれたのかもしれない。

 しかし、しかしだ。

 

 

「そーゆう事じゃないんだけどな……」

 

 こういう気遣いが嬉しくない訳ではない。実際パーティーを開いてくれたテイオー達には感謝しているが、それとこれとは話が違う。

 本当に祝ってほしい人がいる。それだけの事でしかない。

 

 パーティーの片付けを手伝おうとしたら今日の主役はそんな事をしなくていいと言われ帰された。

 だから用もなくトレセン学園を歩いている。いいや、トレーナーがいないか探していると表現した方が正確かもしれない。

 

 だがどれだけ探してもトレーナーの姿はどこにもない。用事があると言っていたが、トレセン学園にいないとなると外に行っているのか。

 だとしたらそれはもう詰みだ。今日会える可能性は限りなくゼロに近い。

 

 

「……帰ろ」

 

 一日会わない日も珍しくはない。いくらトレーニングがあるからと言っても日頃から休日は設けられている。

 日曜日は大体休みだし、そういう日は基本的にトレーナーとは会わないから何か思うところもない。

 

 はずなのに、今日だけは違った。

 誕生日なのにトレーナーと会えない。それだけでネイチャの心は今の夜空のように暗くなっていく。

 

 用事が何なのか聞かなかったから分からない。

 普通に考えたらトレーナーだし、それ関連のものだとは思う。しかし日頃から斜に構えがちなネイチャに今のメンタルでは最悪な事しか考えられなかった。

 

 誰かと会っている可能性だってあり得る。なら誰と? 何故用事としか言わず詳細は言わなかった? もし自分には言えない用事だったとしたら? もしそれが、人間の女性だとしたら……? 

 

 

「……っ、ダメッ!!」

 

 思考を振り切る。自分を制御しろ。今の考えは絶対にダメだ。超えてはならないラインを履き違えてはいけない。

 自分の立場を考えろ。自分はウマ娘、相手はトレーナー。良くも悪くも相棒やパートナーレベルでしかない。

 

 自分にも他者にも過剰な期待はしないのがナイスネイチャだ。

 だから。なのに。

 

 

(苦しいなぁ……)

 

 近いからこそ、それは最も遠い。

 誰かと笑い合っているトレーナーを想像したくない。今にもどこかに駆け出したい気分に駆られる。

 

 

(はーあ、分かってはいたけど……やっぱ流れ星に祈ったところで願いなんて叶わないもんだねー)

 

 あの日。

 偶然にも流れ星に祈った願い。

 

 それはスケールで言えば遥かにちっぽけで、矮小な願いだった。

 誰もが流れ星を見ると見合わない願いや傲慢な欲望ばかり言うのに対してだ。

 

 

 

 

 

 

(誕生日の日に、トレーナーさんと一緒に過ごしたい)

 

 

 

 

 

 

 たった1人のウマ娘の願いは、この夜空に吞み込まれていくしかないのか。

 こんなにもささやかな願いさえも、叶えてはくれないのか。

 

 

「あんな願いでも、アタシには似合わないって事かなぁ……」

 

 決して目には見えない感情が心の内で熱くなるのを感じた。

 トレセン学園を出て寮へと向かう途中、赤信号になり足を止める。

 

 ふと空を見上げると、あの時と同じくらいの星空があった。

 2人で見た空。短い時間だったけれど、ネイチャからすればそれだけで幸せだと思える時間だった。

 

 目尻に雫が浮かびそうになる。

 こんな事で泣きそうになるなんて情けない。そう思っていても、コントロールできない感情は誰にだって存在する。

 

 ネイチャにしては珍しく楽しみにしていた誕生日だから、その反動はより大きい。

 誰もいない路地に一旦避難する。周囲に人がいないのがせめてもの救いか。零れそうになる涙を制服で拭い、また信号が青になるのを待つ。

 

 待っている間、スマホを見る気にもなれずまたしても星空を見上げる。

 こうすればトレーナーと見たあの日を思い出せるから。

 

 

「(会いたいなぁ……)」

 

 小さな声が零れる。

 そして、無数にあるどこかの星が一瞬強く輝いたような気がした。

 

 今は4月だ。

 まだ何とか桜も咲いている状態だった。

 

 春の夜風が桜の花びらを散らした。

 どこからか舞ってきたその花びらがネイチャとすれ違うように飛んでいく。言い伝えによると、常に夢や希望、望みを持っていると、流れ星は小さな奇跡を起こす。

 

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

 

「ネイチャ!!」

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………え?」

 

 時間が、だ。

 ネイチャの中の時間が止まりそうになった。

 

 今日はもう聞く事はできないと思っていた声だ。

 今日はもう見る事もできないと思っていた姿だ。

 

 

 ナイスネイチャの専属トレーナー、渡辺輝が必死に走ってこちらに向かっていた。

 

 

「はあ……はあっ、や、やっと追いついた……!」

 

「……と、トレーナー、さん……? 何で……」

 

 理解が追いつかない。

 だって、言っていたではないか。用事があると。だから探してもトレセン学園のどこにもいなくて諦めていたのに。

 

 未だに息切れで両手を膝に付いているトレーナー。こんなに急いでいる理由が一向に見えない。

 あんなにも会いたかったのに、実際に会うと急すぎてどうすればいいのかさえ分からないほどネイチャは混乱していた。

 

 

「どうしてここ──、」

 

「ごめんッ!!!!」

 

 突然の謝罪だった。

 それはもう綺麗な90度での頭下げである。ここに来てネイチャの混乱は最高潮になってきた。

 

 

「……え? え? な、何でトレーナーさん急に謝ってんの!?」

 

 ネイチャの問いに対し、トレーナーは一つの袋を差し出してきた。

 

 

「今日がネイチャの誕生日だってのは知ってたんだ」

 

「え? そうなの……?」

 

「ああ、だからプレゼントは何がいいかってずっと考えてたんだけど。ほら、ネイチャの同室にマーベラスサンデーがいるだろ?」

 

「う、うん」

 

 何故か相部屋の友人の名が出てきた。

 差し出された袋を受け取りながらトレーナーの言葉を聞く。

 

 

「あの子にネイチャが好きなものを聞いたんだ。何をあげたら喜んでくれるか。そしたら教えてくれたよ。よくネコの動画とか休日にネコと触れ合える店に行ってるってな。ちなみにネイチャがどこにいるか帰ってきて聞いたらさっき学園を出たって教えてくれたのもその子だ」

 

「そうなんだ……」

 

「だからネコに関する物で使えそうなやつがないかずっとネットで探して、少し高いけどネコをモチーフにしたネックレスがあったからそれを買おうとしたんだ」

 

 ネックレス、と聞いてドクンと心臓が胸を打つ音がした。

 顔に熱が集中していないか気になってしまう。

 

 けど、とトレーナーは続ける。

 

 

「いざ買おうとしたらどこの店も売り切れで、今日も他の店舗とか探して回ったんだが見つからなくてな……。買えなかったんだ。だからすまん!!」

 

「そんな、いいってもー! そんだけアタシなんかのために頑張ってくれたんでしょ? それだけで充分だってば!」

 

 そうだ。今日はもう会えないと諦めていたのだ。

 こうして会えただけでもネイチャにとっては掌を返すような出来事である。

 

 

「……でも、じゃあ今くれた物って……?」

 

「ああ、ネックレスは買えなかったからグレードはどん底に落ちたようなもんだけど、開けていいぞ」

 

 言われて袋の中にあったケースを開けてみる。

 そこから出てきたのは、シンプルな物だった。

 

 

「ちっちゃいネコのフィギュア……?」

 

「……や、言いたい事は分かるけど待って。え、もしかしてどん底より下って事ある? 現金あげた方が良いとかありますかね? だったら喜んであげますけどネイチャさん?」

 

 赤い毛が特徴のキャラクターっぽいネコのフィギュアを見る。

 トレーナーはどん底とか言っていたが、とんでもない、と言いたかったのはネイチャの方だ。

 

 あれだけ走り回って探してくれて、でも結局なくて、最終的にくれたのがこのフィギュア。

 本物のネコには見られない赤い色が、何だか自分に似ているようにも思える。きっと数ある中のフィギュアからこれを選んでくれたのだろう。

 

 小さな奇跡が、だんだんとネイチャの中で膨らんでいくのが分かる。

 ここまでのどんでん返しなど誰が想像したものか。

 

 

「ね、ネイチャさん……? 嫌なら返してくれてもいいからね? 俺の部屋に置いとくからね……?」

 

「やだ。トレーナーさんがくれたんでしょ? ならもうこれはアタシのモノだしー」

 

「い、いいのか? フィギュアなんかで。一応保険として望むならネイチャが欲しい物買うつもりでいたんだけど」

 

「いいのー」

 

「こんなフィギュアでも?」

 

()()()()()()()()

 

 どこかで聞いたセリフだとトレーナーは思った。

 主に自分がネイチャと担当契約した時に。

 

 ともあれ、だ。

 こんなフィギュアを大事そうに抱えるネイチャを見てしまったらもう何も言えない。彼女がそれでいいと言ったのならもういいのだろう。

 

 

「ありがとねっ。トレーナーさん」

 

「ッ」

 

 ふと、夜風に舞い散る桜の花びらを背景に笑う彼女を見て、不覚にも見惚れてしまった自分がいた。

 それほどまでに美しい一枚の美術絵のようだった。

 

 軽く咳払いをして気を取り直す。

 腕時計を見れば19時半を超えたところだ。

 

 時間はまだある。

 

 

「よし、ネイチャ、まだ飯は食えるか?」

 

「え?」

 

「実は俺一日中探し回って何も食ってないから腹減ってるんだよ。だから商店街でたらふく食べたい気分なんだけど。どうよ?」

 

 言葉の意味を正しく理解する。

 要はこうだ。

 

 

「ネイチャの誕生日。俺と二次会しようぜ!」

 

 分かりやすい誘い文句。ド直球ストレートなトレーナーからの気持ちだ。

 返す答えなんて分かりきっていた。

 

 流れ星にかけた願い。

 その小さな奇跡はまだ続く。

 

 

 

 

「モチロンお菓子だけでお腹膨れる訳ないじゃん? だから、トレーナーさんの奢りでいっちょ全制覇やったりますかー!」

 

「おう、今日は好きなだけ食え食え! 年に一度の誕生日なんだ。最後まで最高の一日だって思える時間を過ごしてやろうぜ」

 

「トレーナーさん」

 

「ん、何だ?」

 

「大事にするね。プレゼント」

 

「……ああ」

 

 2人して歩いていく。

 確かな心の距離がゼロに近い状態で。

 

 

 

 こうしてたった1人のウマ娘のささやかな願いは叶えられた。

 偶然に偶然が重なり、必然の奇跡を迎えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 就寝時間を迎えた頃。

 ある一室でこんな事があった。

 

 

 

 

「あれ、ネイチャ何それ~?」

 

「これ?」

 

「うんうん、イイ笑顔で見てるから気になって~!」

 

 いつもならこう言われるとどう答えるか迷っていたのだが、今日のネイチャはひと味違った。

 愛おしそうに人差し指で軽く撫でるようにフィギュアを触りながら。

 

 

 

 

 

 

 

「……うん、大事な()から貰ったんだー」

 

「……おー、ネイチャのその表情……すご~くマーベラースッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





本編よりも長い番外編とは。
中盤まではほんのり切なく、だけど終わりはハッピーにできたかなと。

現実のナイスネイチャはもちろん、ウマ娘のネイチャも誕生日おめでとうございます。これからも大好きです。


では、今回高評価を入れてくださった

水無月凌さん、十埜さん、ヒビカリさん、マケライネンさん、feruzenさん、牛丼ブレストさん、まいせんpammさん、ノブオさん、リンたんさん、wanTanさん、月の魔王さん、みっつだよさん、スズコウさん、筆銀〈ペンギン〉さん、鳥ん取るさん、ファビラウさん、雨西瓜さん

以上の方々から高評価を頂きました。
こんなにもたくさん……感無量です。おかげで頑張れます。
これからもネイチャ布教し隊として精進します!



今回で本当に毎日投稿は一旦終了。
ですが出来るだけ早く更新できるようにしますね。

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