お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話   作:たーぼ

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59.真実

 

 

 

 

 

 理事長室の扉から誰かが出てきた。

 チーム・スピカのトレーナーであり、トウカイテイオーも担当している滝野勝司だ。

 

 ドアを閉めてため息を一つ吐く。

 

 

(理事長自体は許してくれそうだが、輝自身がそれで納得するとは思えない。有記念まであと2週間……そこにはテイオーの他にも強いウマ娘達ばかりが出てくる。ナイスネイチャが勝てる可能性もなくはないが、俺もテイオーを勝たせるために妥協は出来ない……)

 

 渡辺輝は滝野勝司の弟子だ。才能もあるし素質もある。普段はお気楽そうにしているが、隠れた努力ならおそらくトレセン学園の中でもトップクラスと言えるだろう。

 滝野勝司の中で彼は弟子以上に大事な存在でもある。そんな逸材でもある彼を失うのはきっとトレセン学園にとっても痛手となるのは明白。

 

 だから渡辺輝にも内緒で理事長に直談判をしに来たのだが、理事長の言い分に納得させられてしまった。

 彼がここに残るにはナイスネイチャが強豪ばかりが集う有記念で勝たなければならない。『簡単』なんて言葉は一切出てこない。むしろ『困難』でしかないはずだ。

 

 チーム・スピカのトウカイテイオーも出る。自分は他のチームよりも担当しているチームのウマ娘が勝つ事を望むのは当然だろう。

 しかし、そうなってしまえば彼はこの学園を去る事になる。妥協は許されない。以ての外だ。

 

 

「……ぁぁぁああああもうッ! 俺はいったいどうすりゃいいんだよ!」

 

 我武者羅に両手で頭を掻きむしり葛藤を発散させる。少しも楽にはならなかった。

 むしろ事態は悪化する。

 

 すぐ隣に足音がしたのだ。

 振り向くと、出会えば今一番タイミングの悪いウマ娘の少女が立っていた。

 

 

「なっ」

 

「……理事長室での話、詳しく聞かせてもらってもいいですか」

 

 弟子の唯一の担当ウマ娘、ナイスネイチャがこちらを真っ直ぐ見ていた。

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

 屋上へのドアが目の前にある階段の踊り場、そこにナイスネイチャと滝野勝司が2人でいた。

 周囲に生徒は誰もいない。ここならば例え聴覚の良いウマ娘の耳であっても誰にも聞かれる心配はないだろう。

 

 昼休みの残り時間はまだ10分ほどある。聞ける範囲は聞いていった方がいいか。

 正面にいる男性は気まずそうな顔をしながら頭を搔いていたが、やがて覚悟を決めたかのようにネイチャと目を合わせた。

 

 

「あー、どこまで話聞いてた?」

 

「全部は聞いてないけど、アタシが次の有記念で勝たないと……トレーナーさんが辞めるってとこまでは」

 

「ある意味一番聞かれたくないとこだったか……」

 

 ため息を吐きながら小声でどうしたもんかと呟きつつ、滝野勝司はネイチャの目を見て観念したように口を開く。

 

 

「あいつに強く言われてたし本当なら最後まで秘密にしておかないといけないんだけどな……。担当ウマ娘の君に聞かれちまったらもう話さない訳にもいかないか」

 

 黙ってネイチャは頷く。

 こんな話を聞いてしまった以上、詳細を聞くまでは滝野勝司をここから逃がす訳にはいかない。何が何でも話してもらう。そうでないとこれからトレーナーとどう接すればいいのかさえ分からないのだから。

 

 滝野勝司は悪いな輝、と小さく謝ってから経緯を話し出す。

 

 

「まず最初に言っておくと君の聞いてた通り、次の有記念でナイスネイチャが勝たないと輝は中央トレセン学園にいられなくなる」

 

「ッ……どう、して」

 

 世界が壊れる。

 分かってはいたけどこうもはっきり言われると、やはり心の大事な部分に来るダメージがでかい。一瞬で心臓が縮こまるような気配がした。

 

 

「そもそもここのトレセン学園は原則としてチームに2人以上ウマ娘が所属している必要がある。トレーナーの人員不足が原因なのと、2000人近くいるウマ娘に少しでも多くのチャンスをあげるためのルールだってのは知ってるか?」

 

「え、原則……? まさか、本来はそういう決まりなんですか?」

 

「その様子じゃチームの仕組みについては輝から全く聞かされてないって事か。まあ一応例外として実績を積んできたトレーナーとかだと特別にマンツーマンも許されてるんだけどな。ナイスネイチャも知ってるだろうが、君と契約した頃の輝は俺の下でサブトレーナーとして修業してたとはいえ新人トレーナーだ。実績なんてないに等しい」

 

 それはネイチャも知っていた。

 過去にふと何で自分のチームは1人なのかと聞いた事もあったが、その時に自分はまだ新人だからと言っていたとも記憶している。

 

 

「自分で言うのも何だけど俺の弟子として修業してた輝は理事長からも結構期待されててな。色んなウマ娘を活躍させてくれるんじゃないかって色々言われてたんだよ。だけど、いざトレーナー業を始めたと思えば君の専属トレーナーになるって言いだした」

 

「……、」

 

「俺も理事長も驚いたさ。どれだけ実績を積んでいくのかって思ってた所にこれだからな。原則ルールを破ってでもあいつはナイスネイチャだけを担当させてくれって俺と理事長に何度も頭を下げてた。色んなウマ娘達の活躍を期待していた分、これを承認するのに無条件でっていうのはさすがに理事長も憚られてたよ」

 

 それはそうだ、とネイチャも思う。

 人員不足やウマ娘のためだからそういうルールが制定されていて、だけどそれを破って1人だけを担当したいと新人トレーナーが言うのは傲慢だろうと。

 

 期待されていた1人のトレーナーがルールを破るだけで、どれだけの数のウマ娘達が活躍する機会を奪われてしまうのか。考えただけで心が痛む。

 渡辺輝のウマ娘を大切に想う気持ちは人一倍強いとネイチャも分かっている。だからこそ、彼が自分に拘った気持ちが余計分からなくなってきた。そこまでの実力と素質を自分は持っているのか。

 

 

「だから理事長は輝に特別な条件を付けた。期限までにGⅠレースを1勝する事をな。俺の弟子だからって期待されてるからなんだろうけど、新人トレーナーにとっちゃ担当ウマ娘をGⅠレースで勝たせるのはめちゃくちゃ難しい事なんだよ。何せ勝者はいつだって1人だけなんだからな。そこには実力はもちろんだが、運も絡んでくる」

 

 GⅡやGⅢならば何度か勝った事があるが、よりによってGⅠ勝利が条件。

 当然GⅠレースの勝利はウマ娘にとって目指すべき道だけれど、そう簡単に獲れるものではないと実際に走ってきたネイチャなら嫌でも分かる。故に条件として働くという事か。

 

 

「そんでもってその条件を呑んだ輝は君に黙ったまま最後まで一緒に走り切る事を決めた。そしてその期限が、2週間後の有記念という事になる。これが君の聞きたがってた経緯だ」

 

「……そう、ですか」

 

「輝は君の走りに惚れて専属トレーナーになりたいと言った。だから大事に思ってるんだろうし、ルールを破ってでも貫きたいって頭を下げた。この事を話すと君は思い詰めてしまうかもしれないから絶対に話さないでほしいとも言われたよ。あいつは、ナイスネイチャには何も気にせず走る事を楽しんでほしいって願ってる。だから俺が言うのはおかしいかもしれないけど、どうか輝が内緒にしてた事は許してやってほしい」

 

「……、」

 

 正直、思う事はたくさんある。

 何故そんな無謀な条件を呑んだのか。何故全てを話してくれなかったのか。何故自分だけのトレーナーになりたかったのか。何故平凡な自分の走りに惚れてくれたのか。何故頑なに諦めようとしなかったのか。

 

 疑問も不満もないと言えば噓になる。むしろめちゃくちゃあると言ってもいい。

 だけど、それでも、彼が自分を大切に思ってくれているという事が分かって嬉しい気持ちもどこかにあった。

 

 許せるかどうかは分からない。だって自分のためとはいえずっと嘘をついていたのだから。

 だが、これで最近トレーナーが夜更かしやら根詰めたように作業をしている理由が分かった。ネイチャの中で散らばっていたピースがだんだん埋められていく。

 

 つまりは、だ。

 渡辺輝は何一つ諦めていない。最後の最後までネイチャが勝つと信じて粘ってくれているのだ。これからも一緒に頑張っていくために。

 

 

(トレーナーさんはアタシのためにたった1人で頑張ってたんだ)

 

 見方が変わる。

 認識が変わる。

 

 

(アタシなんかのために、寝る間も惜しんで対策を練ったり勝つための方法を考えてくれてる。あの時の言葉は期限の事だったんだ)

 

 ジャパンカップが終わった直後の控え室。あそこでネイチャが聞いたトレーナーの独り言。間に合わなくなるとはこの事だった。

 次の有記念、そこで全てが決まる。決まってしまう。敗北は2人を引き裂く決定打となる。

 

 相手は強敵ばかり、GⅠレースを1度も勝っていない自分が勝つにはあまりにもハードルが高いレースになるだろう。目の前のベテラントレーナーが担当しているあのトウカイテイオーだっている。

 勝率は正直に言って半分もあるかないか。

 

 

(……それがどうした)

 

 拳を強く握る。世界を再構築していく。

 決意の表れだった。

 

 

(勝てる見込みがないから諦める? それでトレーナーさんと一緒にいられなくなるなんて論外に決まってるっ。トレーナーさんは諦めてない。ならアタシだって最後の最後まで足掻いてやる)

 

 GⅠレースを勝てていないにしても基本的に掲示板を外さないほど好成績を残せているのは間違いなくトレーナーのおかげだ。

 成長はしている。努力もしている。素質もあると言ってくれた。ならば絶対勝つためにこれからすべき事はもう決まっている。

 

 

(トレーナーさんがアタシだけを選んでくれた選択が間違っていなかった事を証明してみせる!)

 

「……話してくれてありがとうございました」

 

「え、あ、ああ……」

 

 自分の中でとりあえず大体の整理は出来た。ネイチャは同年代のウマ娘からすれば大人びた方の考え方をする少女だ。

 だから変に感情を表に出す事はしない。やれる事はやる。自分の手で。

 

 

「テイオーも有記念に出るんですよね」

 

「……ああ」

 

 ライバル。だけど真正面から一度も勝った事のない相手。

 そんな最強を担当しているトレーナーの前で、ナイスネイチャは去り際にこれだけを言って去っていく。

 

 

「絶対に負けないんで」

 

 

 

 

 昼休みももう終わりに近づき予鈴が鳴る。

 自分以外誰もいなくなった階段の踊り場で滝野勝司は一筋の汗を頬に垂らしていた。

 

 去り際に見たナイスネイチャの瞳。

 その奥底にあった何かを滝野勝司は垣間見た。まるで見た事のない圧が目を見るだけで感じるかのような瞳をしていた。

 

 色んなウマ娘を見て担当してきた中でも、あんな目は見た事なかったはずだ。

 覚悟が決まったような瞳。燃え盛る紅焔のような輝きすらあった。

 

 だから、こんな言葉が独りでに出ていた。

 

 

「……こりゃあ、敵に塩を送るってレベルじゃ済まないかもな」

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

 放課後。

 いつも通りグラウンドで走行トレーニングをしているネイチャを見ながら渡辺輝は少し違和感を感じていた。

 

 

(あいつ、いつになく真剣に取り組んでるな。いやいつも真剣だけど)

 

 それにしてもいつもと少し様子が違うようにも見えて一度声をかけたが、何もないの一言でまた走りにいったネイチャだ。

 何があったかは知らないが、無理に彼女の事情に踏み込むのも悪い気がして結局そのままである。練習に支障がないから問題自体は全然ないが。

 

 

(今日は一段と走りにキレがある。タイムもまた縮みそうだな。これなら可能性も……いや、油断はダメだ)

 

 そう考えながら、渡辺輝はネイチャに関してのメモを書き込んでいく。

 だから見えなかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 走っているネイチャの瞳から、何か燃えるようなモノが出かけていた事に。

 

 

 

 

 

 





真実を聞いたネイチャですが、決して崩れる事がなかったのは成長しているからかなと。
さて、次回は有マ記念にするか最後に一休み回を入れるか迷ってるところです。



では、今回高評価を入れてくださった、


るむぞんさん、ななな5629さん、御聡さん、gbwjさん


以上の方々から高評価を頂きました。
嬉しいお言葉をたくさんいただいております。本当にありがとうございます!



次のガチャにブライト、だと……!?
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