お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話 作:たーぼ
先日ランキングを覗いたら日間18位にまでなってて普通にマジでかってなりました。
恐悦至極です。
もっとネイチャの良さを広めたいですね。
気付けば奥に連れられ座らされていた。
「(おいどうすんだよこれ完全に今からパーリナイする雰囲気じゃねえか既に酒飲んだくれてる人いるじゃねえか一番角の逃げれねえ席じゃねえかどうなっちゃうんだよどうにかしてくれよこれなあおいネイちゃんッ)」
「(トレーナーさんまでそのあだ名で呼ぶなってのっ。しょうがないでしょこうなったらもうさっさと酔いつぶれてもらってその隙に退散するよ。てかトレーナーさんも大人なんだったらもっとハッキリ断ってよねッ)」
「(バッカお前、大人だからこそ余計年上の方々には変に断れないモノなんだよ。俺はノーと言える人間ではあるけどその場の勢いで流される人間でもあるんだ覚えときな嬢ちゃん)」
「(ダサいだけじゃん)」
「(おう泣くぞコラ)」
周りが勝手に騒いでるせいで小声で話しても気付かれない。
というかメインの2人を放置して普通に飲んで食っている商店街の人達。主役がもはやモブの空気感であった。
「完全に商店街のメイン張ってる人ら集まってるし。さてはこれを口実に店切り上げてきたか他の人に任せてきたな?」
「自分の店より優先ってどんだけ好かれてんだお前」
「そんなんアタシが聞きたいくらいだわ。いやまあ、嬉しくない訳ではないけどさ……」
何だかんだ言いつつも満更ではないらしい。ため息を吐きながら仕方ないといった表情で騒ぎの方を見ている。
目の前のテーブルには商店街の人達が持参してくれた食べ物が山ほど置かれていた。
先ほどの牛串を含む串カツ類、鮮魚を使った刺身や干物、塩だれがかけられたキャベツに様々な漬物、聞いてからわざわざ作ってくれたであろう揚げたてのコロッケと唐揚げ、焼きそばにたこ焼きまである。
まさに商店街の名物が勢揃いだ。
「……いや、こんな食えないんだけど」
「そのためのこの人達だと思ってていいよー。どうせ自分達でみーんな食べちゃうだろうし。アタシ達は普通に食べれる分だけ食べりゃだいじょーぶ。いただきまーすよっと、あむっ」
「随分慣れてんだな」
「選抜レースの時にね、みんな見に来てくれててさ。その時の夜も今とおんなじ感じで盛り上げてくれたんだよね。結果はあんなだったのに」
「なるほどねえ。っと、いただきます……うまっ! ネイチャこれめっちゃ美味いぞ!」
「知ってますよー。アタシが来たらみんないつも一番人気のやつばっかくれるし」
さすがは商店街の中でも人気の品ばかり用意されているだけあって美味い。空腹な分その箸は止まる事を知らない。
成人男性、とはいえまだまだ若い青年の食いっぷりは見てて面白いなと思う中等部のネイチャ。ここだけ見ると保護者と子供の立場が逆転しているようにしか思えない。
がっついているトレーナーをよそによく見れば酒のツマミばかりだなと内心ツッコミながら軽く箸で突っついてると、串屋の主人が頬を紅潮させながらやってきた。
「よおトレーナーさん、どうよウチの商店街の味は! どいつもこいつも美味えモンばっかだろ!」
「いやあ、めちゃくちゃ美味しいですね! これは俺も帰りに寄って行きたくなりそうですよ」
「かぁーッ! 上手い事言うじゃねえか! その口でネイちゃんの事も口説き落としたって感じかあ!」
「うっわ酒臭っ、おっちゃんもうそんな飲んでんの? ほどほどにしとかないとまたおばちゃんに怒られるよー?」
「はっはっは! 大丈夫だっての。何たって今日はネイちゃん達の祝いの場だからな!! 無礼講だっつって!!」
酔っているようだが、基本的に出会った時とあまり変わっていないように思える。テンションが高くなるだけだろうか。
そして串を焼きながら主人を睨んでいる女性が目に入る。これは綺麗に後でフラグ回収されそうだ。
「ごめんねトレーナーさん。おっちゃん酔ったら適当ばっか言うから」
「ん? まあ口説き落としたってのもあながち間違いじゃないと俺は思ってるぞ? おかげで契約できたし」
「……すぐそういうこと言う……」
「熱いねえおい! こりゃあっついなあお二人さん!! 赤飯炊いてやろうか!?」
「ボリュームボリューム。声でかいってのおっちゃん」
子供に嗜められる中年とはこれ如何に。どうあがいても奥さんに説教される未来しか見えない。
しかしそこはもう酔っぱらいの空間であり領域だ。現状シラフで止められる者は奥さんしかいないが、他の客の対応でできないでいる。
つまりは串屋のおっちゃんノーブレーキなのだった。
どんちゃん騒ぎをしている向こうに行ったと思ったら一升瓶を片手に戻ってきた。
「トレーナーさんも一杯どうだい? ここはいっちょ乾杯といこうじゃねえか!」
「ああいえ、俺はお酒あまり飲まないので、お気持ちだけありがたく頂戴しときます」
「何だ、あんま強くないのか?」
「それもあるんですけどね。酔ってこいつに迷惑かけたくもないんで」
「おわっ」
急に頭に手を乗せられ声が出る。
むしろ酔ってないのにこういう事をしてくる方がネイチャにとってタチが悪いのだが、それを言う勇気も不思議と抵抗もない。
「それを言われるとこっちは辛えな!! いいじゃねえか、ネイちゃん。やっぱこのトレーナーさんは俺達の期待通りな人だぜえ!!」
「んなこと言われなくても分かってるってば。それより迷惑かけてる自覚あるんだねーおっちゃん。見てみ、おばちゃんこっち見てるよ」
「うえっ!? あ、あっはっは、じゃあなトレーナーさん。俺はあっちの連中んとこ行ってくるから、好きなだけ食べてってくれな! もちろんお代なんかいらねえからよ!!」
「え、いやでも──、」
「こりゃあ俺達からの感謝みたいなモンだ。ちょいと捻くれちゃあいるが、この子はちゃんと頑張れる子なんだよ。だから、ネイちゃんをよろしく頼むな」
「……はい」
言うだけ言って奥さんの視線から逃げるように集団の方へ行った。
酔ってはいても、いいや、酔っているからこその本音だったのだろう。隣を見るとネイチャがぶつぶつと小言を垂れている。
「ったくもう、余計な事ばっかり言っちゃって……」
「そんだけ好かれてんなら幸せ者じゃねえか」
「あははーあんま期待されてもって感じではあるんだけどね~」
「頑張んなきゃな」
「……まあ、うん」
これだけの人達がネイチャのために集まってくれる。それだけで思いの強さというのは伝わってくるものだ。
それに応えたい。報いたい。結果として残し、胸を張れるようなウマ娘になりたい。
思うだけなら誰だって出来る。
それらを実行し叶える事が難しくないのであれば、だ。
「テイオーなんて、とんでもないのと同期になっちゃったなあ」
「いいじゃねえか。どの世代にも突出してるヤツはいるもんだ。だからこそ燃える」
「わーお、本気で言ってます? 自慢じゃないけど勝てる気しないよアタシ」
「ほんとに自慢じゃないな。いつかはでっかいライバルを超える展開。まさに主人公みたいだろ?」
「アタシはせいぜい主人公を離れたとこから見てるモブなんだけどなあ」
「なーに言ってんだ。少なくとも、あの人達はお前を主人公として見てると思うぞ。もしくはヒロイン」
「ヒロインなんて余計似合わないってーのー」
そう言いながら漬物を口に入れる。心地いい音と共に程よい酸味が広がっていくのを感じた。
油モノを食べた後だと口内をサッパリとリフレッシュしてくれるのだ。
何となく気持ちまでリフレッシュされたような気がした。
と、そこで先ほどのトレーナーと主人の会話を思い出した。
単純に気になる事がある。
「あ、そういやさっき言ってたけど、トレーナーさんってお酒飲めないの?」
「や、めちゃくちゃ飲まないってだけで一応は飲めるぞ」
「強くないんだっけ? すぐ酔っちゃうとか?」
「まあ、そんなとこだ」
何だか少し含んだ言い方をしていた。
23歳と言っていたか。その歳と若さならむしろ友人とたくさん飲み交わしていそうなのだが、ここでネイチャの中である仮説が立つ。
「まさか、過去にお酒で失敗した事ある?」
「……、」
「あるんだ? ほらほら、アタシに言ってみなさいな。実家のバーでそういうの見てきたから少しはアドバイスできるかもよ」
沈黙は肯定なのである。
目を逸らしてはいてもだ。ネイチャは幼少の頃から実家がバーという事もあり手伝いをしていた。
それもあってか、酔っぱらいの扱いに心得があったり失態を何度も見てきた経験がある。
だから自分を担当するトレーナーの酒の失敗談が少し気になるのだ。本音を言えば面白半分だ。
「……や、まあ、二十歳祝いで飲みに行った時にな」
「ほうほう」
「ちょっと調子乗って結構飲んだんだが、何だろ。酔ってる自覚はあって理性もあるんだけど、酒のせいもあってかいつもより本音をぶちまけたり少し絡み酒みたいになっちまうんだよな」
「……なるほど?」
「だから、そういうのもあって酒は基本1人で休日にストレス発散のために少し飲むくらいだよ。最近はもう飲んでないけど」
「何で最近飲んでないの?」
「あー、最近っつうかネイチャと契約した後から飲むのは止めたよ。さっきも言った通りお前に迷惑かけたくないからな。酔ってネイチャに絡んでしまう自分を思い出したくないし」
「……へえ?」
ゾクッと、ネイチャの中でナニかが目覚めかけた。
これまで酔っ払いのそういうのは何度も見てきたが、何も思う事はなかったのにだ。
あのトレーナーの絡み酒に、興味が出てしまう自分がいた。自分の前で酔わせるとどうなるのか。何なら酔ったトレーナーを世話してみたいと。
それと同時に自分のために飲むのをやめたという気遣いに対してもあるのか、変に口角が上がってしまう。誤魔化すように漬物を頬張って話題を流す。
「ちなみに誰と飲みに行ったの?」
「あん? んなの男友達に決まってんだろ」
「ははっ、彼女とかいるもんだと思ってたわー」
「生憎、こちとらずっと中央のトレーナー資格取るために必死だったからな。出会い求めてる暇なんてこれっぽっちもなかったんだよ言わせんな。自分が見苦しくなる」
「……へー、ほー、ふーん」
「え、バカにしてる? もしかしなくてもバカにしたよね? 男のそういう繊細なとこ攻撃したらダメだよ? 今後の関係に響くよ?」
「してないってばーもー!」
何故か笑っているネイチャ。
どうして女子はこういう話題が好きなのか分からない彼女いない歴年齢のトレーナー。いっそ悲しみの酒を飲んでやろうかとさえ思ったところで踏み止まる。
そこでだ。
シラフなだけあって冷静な判断が出来るトレーナーはここで疑問に思った。
あれだけあった大量の品々も半分以上は無くなっていた。主に酔っ払い集団のせいで。
という事はだ。それだけの時間が経っているという事でもある。
はて、確かナイスネイチャは栗東寮住みではなかったか?
「……な、なあ、ナイスネイチャさんや」
「何でいきなりフルネーム? そんな怒らせちゃった? だったらゴメンてトレーナーさん。きっとイイ人見つ……いややっぱ何でもな──、」
「貴女様の寮の門限って何時でしたでございましょうか……?」
「い……って、ん?」
2人して時計を見る。
門限などない中年達は今も騒いでいるが、少女と青年は色々と理由があるのだ。
ネイチャの顔がサッと青ざめていく。綺麗な赤髪の色とは真逆のようだった。
それを見てトレーナーも察す。あ、これはヤバいと。
2人して席を立つ。幸い商店街の人達は入り口付近で固まっているから当初とは違い、席が奥でもすんなりと抜け出せる。
ここからはもう時間との勝負だった。
「皆さん今日は本当にありがとうございました!! ネイチャ共々頑張っていきますのでこれからも応援してやってください!! はいネイチャ本筋説明!!」
「寮の門限ヤバイから帰るわー! また来るからよろしくねみんな!!」
「おーうもうそんな時間か。ネイちゃんもトレーナーさんもまた来いよお! いつでもサービスすっからなあ!」
「ネイちゃんの事よろしくねトレーナーさん! 今度ウチの店にも直接寄ってってちょうだいねー!」
「必ず来ます! 出来るだけ早い時間に!! それでは!」
頭だけ下げてダッシュで栗東寮まで向かう。
当然ウマ娘と人間。差は歴然だった。
「何でトレーナーさんまで来てんの!? 寮には入れないでしょ!?」
「一緒に謝んだよ!! 俺もいたらそんな説教されなくても済むだろ!? ぜえ、一緒にレースのはあ、研究してたとかぜえ、言えばぜえ……許してくれはあ……ちょ、ま、死ぬ……胃袋の中のやつ全部リバースしちゃう……俺の中でシェイクされちゃってるぅ……!」
「……ったくもー、そんな気ぃ回さなくてもいいのに」
全速力で今にもキラキラを出しそうなトレーナーのとこまで戻るネイチャ。
こちらは息を切らしてもいない。そこはウマ娘、食べたばかりでも問題ないらしい。
「ほら、肩貸して」
「うぷぅ、でも急がねえと……」
「どーせ怒られるんならゆっくり行っても問題ないっしょ」
やはりバーの娘、慣れている。
これじゃ酔っ払いの世話と変わらないように見えるが、ネイチャに嫌悪感はない。
「ふふっ、トレーナーさん、まるで酔ってるみたいだよー?」
「酔わなくても迷惑かけちまうってどうしようもねえな俺」
「こーいう時のためのアタシなんだから、気にしなさんなって。ゆっくり歩いてこっ」
またもご機嫌なネイチャ。年頃の女の子の気持ちは分からない。
そして自分の胃袋の容態も分からない。トレーナー業なんだから自分ももっと体力付けるかと密かに決心したトレーナー。
夜の道を2人。
寄り添い肩を貸し合う姿は、まさに熟年のソレであった。
(いつかトレーナーさんにお酒飲ませてみよ)
密かな企みを胸に。
模擬レースまで、もうすぐ。
2人の無自覚イチャコラ書くとなるとどうしても会話文が多くなりがち。
しかもまだこれ以上仲良くなるのか……。
タグのシリアス追加は一応保険です。
今後のストーリーを視野に入れるとどうしてもね。
では、今回高評価を入れてくださった
月夜空さん、鳩の餌やり係さん、ごーすてっどさん、HALLIONさん、ライカ・ヨーさん、シノビガミさん、草と風さん、すず塩さん、ほびっとさん、マルタケの里さん、TAKA TYOさん、コウ@スターさん、うなむ~さん、むっしゅさん、ticotunさん、ガリューさん、cesilさん、クオ212さん、てっちゃーんッさん、綾ちぃさん、邪竜さん、ひね様さん
以上の方々から高評価を頂きました。
前回の倍以上頂いて驚いております……。どんどんネイチャ好き広めましょ!!
ところでカレンチャン出ません。