お気楽そうなトレーナーとナイスネイチャがほのぼの?頑張る話 作:たーぼ
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模擬レースの日がやってきた。
トレーナーと契約したウマ娘がどれだけの実力を身に付けたか試すためのレース。
模擬レースとは言ってもウマ娘には距離適性があり、それをトレーナーが見極める事によって模擬レースの出走グループが振り分けられる形となっている。
ナイスネイチャが出走する模擬レースは中距離、芝の2000mだ。
トレーナー、渡辺輝は配られた出走グループとウマ娘が書かれているプリントを見ていた。
他の距離はもちろん中距離を走るウマ娘はたくさんいる。だから出走グループ表には中距離A、中距離Bなどとグループ分けがされているのだ。
中距離だけで7つあるグループ。それだけあれば被る確率は低いと思っていたのだが。
(トウカイテイオー……)
ネイチャの出走グループウマ娘欄に、その名前はあった。
まさかいきなりテイオーとぶち当たるなんて、と思わないでもない。しかし、元々ネイチャがテイオーを意識している節があるのでこれはこれでありと思う事も出来る。
何にしても、だ。
「強敵、だよなあ」
先日ネイチャと話した時の事を思い出す。
勝てるとは思っていない。今は自分の実力を試したいだけと。虚勢を張る訳でもなく、自分の実力を自覚した上での言葉。その冷静な分析は立派なのだが、トレーナーとしては思うところもある。
「やっぱ最初なんだし勝って自信を付けてほしいところなんだが……」
出走欄とにらめっこ状態であった。
頭一つ抜きん出ているトウカイテイオーだけが強敵な訳ではないのだ。他にも強くなっているウマ娘はいる。それを考えると作戦などはどうしたものか悩みも多少は出てくるものだ。
これまでネイチャの走り方を矯正したり、末脚を強化するために脚を重点的にトレーニングを行わせてきた。
無理のない適度なトレーニング。健康状態や体重管理。例え模擬レースだとしても、始めが肝心なのである。そこを大事に出来ない者に勝利は掴めない。
基本中の基本。新人トレーナーの自分がこう考えているのだ。
きっと他のトレーナーも同じ事を考えているはず。それかそれ以上の事を。
「やっぱ奇をてらって先行で行かせるべきか……?」
「おーい、トレーナーさーん?」
「いや、最初だからこそいつも通りの走りをさせないと意味がない」
「ちょいちょーい、聞こえてますかー?」
「あの末脚なら差す事も可能なはずだ。上手くいけばテイオーも……
「なーにブツブツ独り言言っとんじゃーい!」
「どぅわっ!? 何だ!? あ、ああ、ネイチャか……」
耳元で叫ばれたおかげで正気に戻る。
隣を見たらネイチャが体操着のジャージ姿で座っていた。目の前には何人かのウマ娘達が練習場でゆっくりと走っている。
「もー、ウォーミングアップのランニング終わったよ?」
「悪いな、少し考え事してたみたいだ」
「ずっと1人でブツブツ言ってたけどね」
「え、マジ?」
「大マジ。アタシも最近分かってきたけどさ、トレーナーさんってあれだよね。考え事というか何かに集中してる時って独り言呟きがちになりますなー」
「うそん」
何とも初耳だった。全くもって意識していなかった。もしや今までもそういうのがあったのだろうか。
主に同期トレーナーなどがいる場所でやっていないか気になってしまう。普通に死ねるレベルの恥ずかしさだ。
「ほら、そろそろ時間だし行かないとじゃない?」
「っと、そうだな」
時計を確認して立ち上がる。
ネイチャの出走時間まであと10分程だ。本番のレースではないため、今回は控室などの待遇は用意されていない。実技テストのようなものと考えるのが良いだろう。
「調子は?」
「まあフツーって感じ? 悪くはないよ」
「そうか」
「うん」
2人してレース場まで並んで歩く。
他にも同じように歩いているウマ娘やトレーナーもいた。全員がそれぞれ誰かの仲間でありライバル。友人だとしても誰かが蹴落とし、誰かが蹴落とされる宿命。
それが走る事を選んだウマ娘の生き方だ。そんな舞台に一歩踏み入れようとしているのだ。
自然と拳を握る力が強くなる。所詮、どこまでいっても自分は実戦経験のないトレーナーだ。自分の考えたトレーニングメニューはネイチャをどれだけ強くしたのか。確信を得れる程の自信があるのかはトレーナーでさえまだ分からない。
「え、もしかしてトレーナーさん緊張してる?」
「……え? まさかそんな感じに見えてる? 結構顔に出さないようにしてんだけど」
隣を歩くネイチャにあっさりバレた。
「少なくともアタシにはバレバレですよー? そーんな気張りなさんなって。どーせ模擬レースだし、負けたってどーってことないんだからさ」
「お前はお前でいつも通りすぎなような気もするけどな。……まあ、俺にとっては初めて担当するウマ娘が走るからな。それなりに緊張だってするさ」
「うーわ、いつも気楽そうにしてるくせにらしくなー」
「最近ナチュラルにディスるようになってない?」
「ソンナコトナイデスヨー」
ふと、こんな会話をしていたからか、拳に入っていた力が緩んでいた。ネイチャとの会話はリラックス効果でもあるのだろうか。
レース場に着いた。模擬レースに出るウマ娘はもちろん、レースに出ないウマ娘達の姿も見える。おそらくレースが見たくて来たのだと思う。
「よし、俺はここまでだから、しっかり走ってこいよ」
「あれ、作戦とかはないの? あんだけブツブツ言ってたのに?」
「まだ言うか。色々考えてはいたんだけどな。今回はナシだ。いつも通りネイチャの走りたいようにやってみろ。仕掛けるタイミングも任せる」
「ほいほーい。けどテイオーいるしあんま期待しないでよー」
ぷらぷらと手を振って歩いていくネイチャ。
相変わらず気の抜けた声であったが、果たして大丈夫なのかと思う。
心配していてももうどうにもならないので観覧席まで移動する。
どうなるかは、この目で見ればいいのだから。
「あっ、ネイチャだ! やっほーネイチャ!」
「ああ、テイオー。今日も元気だねーアンタは」
「やっと模擬レースだからね。ボクとしては早くデビューしたいとこなんだけど!」
同期の中では今最も注目されているウマ娘、トウカイテイオー。
そんな彼女だが、ネイチャの真後ろの席という事もあって普通に仲は良い。元気があり余ってる所が少しネイチャとノリが合わないくらいだろうか。
「とりあえず今日の一着は譲らないからね! 無敵のテイオー伝説は既に始まってるのだー!」
「ハイハイ、こちらとしてはお手柔らかにお願いしたいんだけどねー」
「ボクはいつだってレースに関しては全力だよ!」
「分かってるって。……ま、アタシも全力で走らせてもらうけどさ」
観覧席を見る。そこにはトレーナーがいた。
こんな自分を選んでくれて色々メニューを試行錯誤しながらも一緒に付き合ってくれたのだ。
(トレーナーさんが見てるんだ……)
恥ずかしいレースを見せる訳にはいかない。
一着は無理かもしれないけれど、そこまで喰い付くレベルの走りはしたい。
「そういやネイチャのトレーナーさんってどんな人なの?」
「え? アタシの?」
「うんうんっ、ちょっと気になってさ!」
「……あー、まあ、トレーナーとしては新人みたいで、ふざけたり気楽そうにしてる感じかな?」
「それってトレーナーとしてどうなのさ……」
「だよねー。けど、レースとかトレーニングの事になると結構真面目になるんだ。そーいうギャップがさ、アタシみたいな性格と割と合ってんのかなーって」
聞かれた質問に普通に答えた。
それなのに、質問してきたトウカイテイオーは頭上に? マークが出ている。ネイチャの答えというよりも、もっと他に気になる事があるような。
「……ネイチャ?」
「ん?」
「何でそんな嬉しそうなの?」
「……う、うえぇ!? ウソ、そんな顔してる!?」
「すごくしてたよ」
「あーやだやだ……レース前だってのにもーっ。テイオーも変な事聞かないでよっ」
「そんな変な質問したかなボク……」
割と普通の質問だったはずだが、ネイチャの反応からしてあまりツッコまない方がよさそうだと判断したテイオー。
これでネイチャが本領発揮できなかったら申し訳なさすぎる。
なので話題を自分のへ持っていく事にした。
「そ、そうだ聞いてよネイチャ! ボクのトレーナーなんだけどさー」
「……テイオーの?」
「そうそう。結構強いウマ娘とか出してて凄いトレーナーらしいから期待してたんだけど、これがもう全然分からないトレーニングばっかさせてくるんだよ!」
「へー、例えば?」
「ツイスターゲームとか階段うさぎ跳びとか」
「へ、へえ……」
ベテラントレーナーともなると普通のトレーニングからはかけ離れるのだろうか。
何か意図はあるのだろうが、それを聞いても特に教えてくれなかったらしい。実際のレースで走ったら分かるのかもしれない。
特殊なトレーニングには何かしらの効果が必ずあるのがお約束だ。
ならば、やはり侮れない。退屈そうに話しているテイオーだが、きっと選抜レースの時とは比べ物にならないほど強くなっているに違いない。
模擬レースの時間がやってきた。
各々がゲートに入っていく。
「じゃ、お互い良いレースにしようね。ボクが勝つけどっ」
「ほいほい、ホントブレないねーアンタ」
テイオーがゲートに入り、ネイチャも自分のゲートに入る。
全員がゲートに入り、数秒間の静寂が訪れた。
そして。
ゲートが開く。
「……、」
「お、始まったな。ここいいか?」
「滝野さん。ええ、大丈夫ですよ」
観覧席で座って見ていると男性がやってきた。
歳は29前後か。顎からもみ上げにかけてチリチリと髭を生やし、黄色のカッターシャツの上に黒のベストを着ている。
名を
お調子者でありながらトレセン学園からも認められているベテランであり、トウカイテイオーのトレーナーとなった人物だ。
「で、お前のウマ娘は今どの辺りだ?」
「6番目くらいですね。位置的にも悪くない」
「なるほど、そしてうちのテイオーは4番目か。上出来だな」
第2コーナーが終わり前半の直線に入った。
先頭にはこのまま逃げ切るつもりらしいウマ娘が走っており、そこから先行組の集団の中にテイオー、ネイチャも混じっていた。
「テイオーの作戦は何なんですか?」
「あん? んなの聞くまでもないだろ」
「いつも通り好きに走れ、ですか」
「おう、よく分かってるじゃないか」
何故これでベテランなどと言われているのか不可解でしかないが、実際これで好成績を残しているから何も言えない。
トレーニングも基本放任主義であり、いざメニューを考えたとなると奇想天外なトレーニングだったりするのだ。未だにこの男の底が知れない。
「そういうお前んとこの作戦は?」
「好きに走ってこいって言いました」
「一緒じゃねえか! 俺の作戦パクんなよなあ!」
「いや作戦って呼べるモンじゃねえでしょこれ! はあ、
「俺のせいにすんなっての」
そう、渡辺輝はトレーナーの資格を得るまでこのベテラントレーナー、滝野勝司の元で色々勉強していた。
何としてもトレーナーになるために、トレーナーとして良いモノを盗むために、ノウハウを叩き込もうとしたのだ。
そして得たモノと言えば、全て感覚的なものしかなかった。
だから今回はこの感覚に従った。ネイチャの実力を明確にするために。
「おっ、
「っ……」
何が、とは言われなくても分かる。
第3コーナーに入り、最終コーナーへ移ろうとしていた。
レースに詳しい者なら誰だって分かる。
ここから展開が変わると。
(ネイチャ……)
あれだけ期待するなと、勝てるとは思っていないなどと、そう言っていたはずの彼女の顔は、とてもそうは思っていないような表情をしていた。
たかが模擬レースではない。模擬レースだからこそ、だ。
(トレーナーさんのメニューは間違ってなんかないって証明するんだ……!)
最終コーナーに入る。
ネイチャはまだ先頭集団の中にいた。
凄まじい足音が前後から聞こえる。しかし、微かに前方にいるウマ娘達からは荒い息遣いの声も聞こえた。
スタミナが切れてきた証拠だろう。だがネイチャの息はまだ乱れてきてはいない。脚も十分に残っている。
(直線に入る直前、そこで仕掛けるッ)
少しずつ外側へ移動する。
空間は空いていた。いつでも行けると、そう思った時だ。
「行っくよー!!」
(……なっ、あんな速かったっけ!?)
最終直線に入ろうとし、ネイチャが仕掛けようとしたそのすぐワンテンポ早く。
トウカイテイオーが、加速した。
「あそこからまだあんなにも加速するのか……!?」
「あれがテイオーの武器だ。恐ろしいほどのバネと柔軟性を利用した加速。あの踏み込みからのテイオーは、風を切るぞ」
元々のセンスもさながら、そこに滝野勝司のメニューが加わったせいか。
もはや別次元だった。これほどまでに変わるのか。
「ぐ、くぅッ……!!」
最終直線に入った。
テイオーに続くようにネイチャも加速して先頭集団を次々と差して追い上げていく。
が。
(とど……か、ない……ッ!?)
さっきまですぐ前までいたはずのトウカイテイオーが、遠い。
どれだけ踏み込んで速度を上げても、脚が残っていても、距離は縮めるどころか離されている。
トレーナーが見ているのだ。無理だと分かっていても、せめて恥ずかしくないように喰い付こうとしているのに。
これ以上速くなってくれない。追いついてくれない。いっそ笑えてくるほど、自分の思惑とは真逆の方へと展開は進んでいく。
「ッ…………くッ、ぅ……ぁ……ッ!」
まさに全速力。
さっきまで残っていたスタミナも脚も全てを使っても、彼女には届かない。
「良い走りをするな。あの子も」
「……知ってます」
「これからもちゃんと支えてやれよ。あの子は、
「……はい」
「厳しい事を言うようだが、これが
そう言って、滝野勝司は去って行った。
結果がこうなると分かっていたように。
渡辺輝自身、こうなるとは予想していた。
どのみちトウカイテイオーが出る以上、一着は無理なのだと分かっていた。しかしそれを実際思うのと見るのとではまた違ってくる。
理想は、現実とはかけ離れているものだ。
だからこそそれに焦がれ、奮闘する。どのウマ娘もそれを掴み取るために。
模擬レース。
本番ではない序章も序章のレース。
その結果は。
模擬レース──三着、ナイスネイチャ。
──────────―
「……トレーナーさん……」
「おう」
模擬レースが終わり戻ってきたネイチャを出迎えたのは、当然トレーナーだ。
「……あ、あははーやっぱ速かったわテイオー。ケッコー全力で追いつこうとしたんだけど速すぎでしょ。気付いたら目の前から消えてんだもんねー」
そう言って笑う彼女の姿は痛々しい訳でもなく、本当にそう思っているだけのようだ。
だが、顔や髪からも滴っている汗、未だ整いきれていないのか息も切れている。
本気で走ったのだと、そう痛感した。
何だかんだ言ってもウマ娘。走るとなると真剣になるのは当然のことだ。
そして、だからこそ。
勝たせたい。
「デビュー戦をするぞ。ネイチャ」
「……え?」
「6月にある京都のレース。そこでお前をデビューさせる」
本当のスタート地点へ立つために。
準備期間が始まった。
今回は甘さ控えめ。
そして、物語の都合上、ネイチャの戦績からしてレースの時は普通にスポコンやっちゃうかもです。
てかやっちゃいます。ネイチャの可愛さだけでなく、カッコイイところも書きたいので(勝てるとは言ってない)
どうか、お付き合いくださいませ。
では、今回高評価を入れてくださった
時武佳夢さん、円城伊清さん、躬月さん、猪口実芭蕉さん、PN:欲望は世界を救うさん、覚醒ウラガンキンさん、川場 菫さん、イガラさん、磐音さん、春の獣さん、綾ちぃさん、餅0825さん、rakutaiさん、Siroccoさん、kogeさん、Kentannさん、璽武通さん、741さん、とめいとうさん
以上の方々から高評価を頂きました。
一言付きで頂けたり、高評価を頂けるおかげでモチベーションを保てます。本当にありがとうございます。
テイオーのトレーナーはアニメのトレーナーと同じようなものと解釈していただけると分かりやすいかもです。