今回は筆がノリに乗ってました。まあ文章力はお察しですが……それでも勢いは中々だと思います。
(な、何があった……皆は無事か……)
全身が痺れて上手く動かせない。顔だけを動かして辺りを見ると、大地が焼け焦げている。まるで雷が落ちたように。
(……っ!? リシアンサス、ランタナ、イキシア……)
ボロボロになって倒れている花騎士達が視界に入る。私の騎士団の花騎士だけではなく、ブリオニアやコオニタビラコ、テリー団長やロザリオ団長までも同じ状態だった。
(い、生きているのか……? 遠くて良く見えない……)
その時、ズシンと足音が頭の上で響いた。足音だけで分かる威圧感。現れたのは雷鳴だった。
「ほう、天地雷鳴を受けてなお意識があるのか。他の花騎士どもも、虫の息だが生きているようだ」
(生きているのか……良かった……)
「ここまで頑丈な戦士達は始めてだ。面白い」
「はぁ……はぁ……な、何も面白くはない……」
痛い。恐らく骨が何本か折れている。皮膚も肺も焼け焦げ、呼吸をするのも苦しい。それでも、何とか気迫だけで奴の前に立ちはだかった。
「立てるのか? 素晴らしい気迫だ。そのまま攻撃してこい! さあ、早く!」
「くっ……」
手には刀が握られている。あの攻撃を受けてもなお放さなかったのか……。しかし、このボロボロの身体で刀を振ったところでどうなるのだろうか。反撃で殺されるのが分かりきっている。
「く……そ……!」
「……流石に剣は振れんか。だが恥じることではない。立っていられるだけでも信じられんことなのだ」
「しかし戦いが終わってしまうのはつまらんな……そうだ、お前達が敗北したと分かれば他国から援軍が来るだろう。分かりやすいように何人かの死体を晒しておくか」
そう言って高らかな笑い声をあげた。
その瞬間、私の心臓がドクンと脈打つ。怒り、憎しみ、嫌悪。害虫相手ですらこんな気持ちになったことはない。今目の前にいるのは生物だが生物ではない、畜生だ。殺さなければ。
「っ!? な、何……」
背後からの攻撃に咄嗟に剣を弾き、距離を取る雷鳴。その黒い複眼に私の姿が映る。
「馬鹿な。何故貴様が動ける……」
明かな動揺を見せる。しかし数秒後、彼は再び笑い声をあげた。
「まあ良い。まだ戦えるということだ。実に面白い」
その言葉を聞き、私は地面を蹴った。先程までボロボロだったのに、自分でも驚く程速く動ける。一瞬で雷鳴の目前に現れ、刀を振るった。
(!? 動きが突然速く……まるで別人のようだ……)
「何も面白くはない。ふざけるのも大概にしろ」
炎のように燃える怒り。しかし対照的に心は水のように静かだった。奴の細かい仕草や心の動きが手に取るように分かる。
「貴様は何故命を愚弄する? 形は違えど、貴様だって貴様の仲間だって同じ生き物だろう。何故その大切さが分からない?」
「いや、違うな。貴様ら人間と俺達では根本的に違う。俺達は破界王……神に選ばれし種族。その命が貴様ら下等生物と同じであるはずがな……ぐぅっ!」
一つ一つの言葉が不快感を与える。その不快感を叩き付けるように、私は奴と剣を交えた。
「自分達よりも下の生物はどうなってもいいと言うのか? 弱き者には存在価値が無いと?」
「ぐっ……そ、そうだ! 弱い生物はより強い生物の食い物にされるだけ。それがこの世界の理……ぐ……がぁぁぁ!」
腹から胸にかけて切り上げる斬撃に、雷鳴の身体は数メートル吹き飛ばされた。
「違う。貴様らも我々も同じ、この世界の一部だ。生と死を繰り返す、儚い生き物に過ぎない」
私がその言葉を口にすると、雷鳴の纏う空気が変わった。恐らくこれは怒り。そして憎悪。人間と同じだと言われることは、彼には相当な屈辱なのだろう。
「違う……違う違う! 俺達は選らばれし者だ。貴様らと一緒にするな!」
「同じだよ。今から私がそれを証明する。私がお前を殺す」
同じ頃、サントリナと炎武の交戦が始まっていた。
「おらぁ! 威勢がいいのは口だけかぁ!」
「くっ……!」
炎武の炎を纏った剣戟に、サントリナは苦戦を強いられていた。いや、いかにAランクの敵が相手だろうと、サントリナならば互角以上に戦えるはず。何が彼女を苦しめているかというと、
「おりゃぁっ!」
「!?」
(また炎攻撃……しかも狙いは……)
「きゃぁぁぁ!」
逃げようとしていた花騎士の目の前に火柱が現れ、彼女は腰を抜かした。
「やめろ! お前の敵は私だけだろっ!?」
「甘ちゃんだなぁ……使えるもんは全部使う。自分より弱い相手だろうと、俺は勝つための手段を選ばねぇからな。ほら、もう一丁!」
炎武の手の中から再び炎が放たれ、花騎士達目掛けて飛んで行く。サントリナは咄嗟に地面を蹴り、彼女達の前に立ち塞がる。そして、
「ぐぅぅぅ!」
「直撃か。無事じゃ済まないだろうな。雑魚どもを庇って死ぬなんて、戦士としては三流以下だな……っ!?」
「はぁ……はぁ……」
煙が晴れ、炎武は驚愕した。炎魔法は確実にサントリナに直撃したはず。手応えもあった。それなのに何故、
(何故立っていられる……しかも傷もほとんど付いてねぇ……)
「……もう一発だ! さっさと死ね!」
「たりゃぁぁぁ!」
「っ!?」
はっきりと見えた。サントリナが何をしたのか。
(炎魔法を……物理的に斬りやがった……!)
炎を斬っているのは剣圧だ。物理的に振れていない所まで切り刻むことが出来る。そしてそれを可能にしているのは、サントリナの剣を振るう異常なまでの速さ。世界花の加護を剣先に集中させ、一呼吸で振る。それにより、どんな硬い敵も、魔法等であっても斬ることが出来るのだ。
(だから何だってんだ……魔法が斬れたって、奴はその場から動けない。遠距離から攻撃出来る俺の方が圧倒的に有利だ)
魔法の連打に、流石のサントリナも追い詰められていく。……ように見えた。
(……何だろう、不思議な感覚だ。奴のことが憎くて仕方ないのに、頭の中は物凄く冷静になってる。集中すればする程、攻撃がゆっくりに見えてくる)
サントリナの強さは、もう一次元先へ進もうとしていた。何が彼女をそうさせたのか?
それは命の危機を感じ取ったことに他ならなかった。自身を上回る強者との戦い。負ければ自分も仲間も死ぬ。
伝説と言われる程強くなったサントリナにとって、そんな命のやり取りは久しいものだった。
それは団長が雷鳴との戦いで発現させたものと同じ力。創世の女神によって与えられる『創世の力』。
「ほらほら、出来るもんなら攻撃してみ……ろ……」
突然目の前に現れたサントリナの顔に、炎武は始めて恐怖を覚えた。
(こ、この俺が知覚出来なかった……奴の動きを。まずい、武器を取れ。こいつを早く殺せ!)
炎武が剣を握ろうとした瞬間、彼の右腕は地面に落ちた。既に斬られていたことに気付いていなかった。
「ぐ、あぁぁぁ!」
失った右腕を抑え、その場にうずくまる炎武。
(い、痛い! 何だこの激痛は! は、早く再生しなければ、逃げなければ奴に殺される!)
彼は右腕に力を込めるが、それが再生する気配は無かった。
「な、何故だ!? 何故再生しない!?」
動揺する炎武に、サントリナはゆっくりと歩み寄った。
「どうやら再生しないようですね。それじゃあ止めを刺します。何か言うことはありますか?」
普段の穏やかな彼女とは別人のような、冷たく無感情な物言い。その威圧感に、炎武の身体は震え出した。
「す、すまなかった! 見逃してくれ!」
「……」
頭を地面に擦り付ける炎武。その様子を、サントリナはただ黙って見つめていた。
「はぁ……はぁ……くぅっ!」
「オジギソウ!」
よろけるオジギソウ。彼女の横を氷魔法が掠め、無数の切り傷を付けていった。
(やはりあちらの花騎士が先に力尽きましたか。そうなれば金色の方も時間の問題。ふふ……)
「アブラナさん、私に構わないで下さい!」
「そんなこと出来るわけ」
(出来るわけありませんよねぇ……仲間を見捨てるような残忍さ、覚悟は、あなたにはありませんもんねぇ……)
仲間に駆け寄るアブラナを、氷雪は内心嘲笑う。
彼女達にとっては勝つことこそ全てだ。それは自身を造り出した破界王に報いること、すなわち自身の存在意義と言っても良い。そのためならば仲間だって見捨てることが出来る。それが出来ない人間に負けるわけがない。氷雪はそう思っていた。
だがそこには誤算があった。
『アブラナさん、0.5秒後に私目掛けて氷攻撃が来ます』
『うん……死なないでよ、オジギソウ』
『アブラナさんこそ』
「ぐっ……あぁぁぁ!」
「おや?」
オジギソウに氷魔法が放たれた瞬間、アブラナは方向を90度変え、氷雪に向かって走り出した。
(ほう、仲間を見捨ててのフェイントですか。てっきり氷魔法を弾きに行くと思いましたが。まあ、こちらのパターンも想定済みですがね)
レイピアを構え、応戦しようとする氷雪。そこにもう一つの誤算があることも知らずに。
(あなたの速さは既に把握している。この距離なら充分迎撃態勢に入れます。残念でしたね……っ!?)
彼女が構える前に、アブラナの剣は彼女の胸に突き刺さっていた。
「ば、馬鹿な!? 貴様、まさか今まで力を温存していたのか!?」
「はぁ? そんなことする余裕無かったわよ」
(しかしそうでなければ計算が……!?)
氷雪の碧い複眼が見たのは、アブラナの左足。肉はズタズタに切れ、血が大量に流れている。
(私の攻撃で出来たものじゃない……どういうことだ!?)
「団長には止めろって言われてたけど、背に腹は代えられないわよね」
これはアブラナの奥の手だった。
アブラナ程優秀な花騎士であれば、当然世界花の加護の扱いにも長けている。それを適材適所に集中させて使うことで、花騎士は更なる力を手に入れることが出来る。
しかし、花騎士と言えど肉体には限界がある。その限界を超えた力を出せばどうなるか。当然、肉体が力に耐えられずに壊れる。最悪再起不能になる可能性すらある。
特に、先程アブラナの使った力は危険だ。一本の足に世界花の加護を全て集中させ、一気に爆発させる。凄まじい瞬発力を生むが、見ての通り肉はズタズタに引きちぎれる。恐らく骨も折れているだろう。
「あんたを倒せるなら、足の一本なんて安いわよ!」
(本当は雷鳴戦まで温存しておきたかったけどね)
「ぐぬ……ぐぅぅ……」
(馬鹿な……人間程度に私が追い詰められている!? ありえない……ありえない!)
ぎりぎりと歯軋りの音が鳴り響く。氷雪の恨み、憎しみが現れていた。
「もう手遅れよ! このまま一気に核を……なっ!?」
(剣先が……凍ってる!?)
「貴様如きに殺されるものか!」
氷雪が死に物狂いで発動させた氷魔法。それが彼女の核を守り、そしてアブラナをも凍らせようとしていた。
(くそっ! 剣が動かない……もう少しなのに……)
(この攻撃を受け切れば、後はこいつを殺し、回復するのを待てばいい。貴様のような下等生物が私に勝とうとしたのが間違いだったんだ!)
剣からアブラナの腕へ、氷が迫って来る。薄れゆく意識の中、アブラナの頭の中にはグリフィス団長の顔が浮かんできた。
(だ、団長……力を、貸して!)
「ぐっ! な、何だ!? 力が更に!」
「ぐ……おぉぉぉ!」
アブラナが苦痛の混じった叫びをあげる。
彼女の足元の地面が割れている。折れた足で全力で踏ん張っているのだ。
(痛い……死ぬ程痛い! で、でも……こいつに殺された人達はもっと痛かったはず!)
「し、死ね! 早く死ね!」
「あんたを倒すまで、死ねるかっての!」
(もう少しよ……頑張れ、アブラナ。行け、行けぇぇぇ!)
最後の力を振り絞り、アブラナの剣は遂に氷雪の核を……突き破った。
「はぁ……はぁ……アブラナさん、やりましたね」
切り傷と凍傷でボロボロになって座り込んだオジギソウが、事の一部始終を目に焼き付けていた。
「本当に、凄い人です」
冷えた頬に暖かい涙が伝う。まだ終わりではないと分かっているが、それでも止めることが出来なかった。
「くっ……さて、私はまだ辛うじて歩けますし、アブラナさんに肩を貸してあげないと……っ!?」
その時、オジギソウは信じられぬものを感知した。
「ふぅ……さて、女の子団長達を援護に行かなきゃ……ん? オジギソウ?」
遠くに見えるオジギソウの姿。しかし様子がおかしい。何かを叫びながら必死に腕を振っている。
「何……? 何て言ってるの?」
口の動きからそれを予測するアブラナ。
「に……げ……」
「逃げて下さい!!」
「っ!?」
そこではっと背後の気配に気付く。核が壊れたはずの氷雪の身体から、無数の氷柱が放たれようとしていた。
(ふふ、私は死にますがあなたも道連れですよ。金色の花騎士さん)
「アブラナさん!」
(これ……まずい……逃げられない……団長、皆、ごめん……)
悔し涙を見せるアブラナ。そんな彼女に、無情にも氷雪最後の魔法が襲い掛かった。
文字サイズって一部だけ大きく出来るんですね。知りませんでした。
他にも知らない機能が色々ありそう……。
遂に決着した氷雪戦。しかしアブラナの運命やいかに。
そして覚醒した団長は? サントリナは?
次回もお楽しみに。