やっぱりベルガモットバレーと言えば温泉ですよね。
「皆揃ったね。では作戦会議を始める」
円卓に三人の団長と十名程度の花騎士が並ぶ。グリフィス団長はホワイトボードの前に立ち、これからの作戦内容を書き連ねていった。
しかし、高い場所に書く時は背伸びをしなけれ届かないのが可愛らしい、とは本人には口が裂けても言えない。
「まず、敵の雑兵の血には毒がある。これは既に解析済みで解毒も容易ではあるが、浴びてしまえば数日の戦線離脱を余儀無くされる。よって近接系の花騎士はなるべく温存したい」
それを聞いて、フリージアが立ち上がった。
「つまりフリージアの出番ってことですね! 頑張りますよ~!」
「ふふ、そうだね。フリージアには部隊の中心として頑張って欲しい」
何だか、普段の騎士団でのやり取りが頭に浮かんでくる。さしずめ、グリフィス団長は騎士団のお母さんと言ったところか。
「次に四天王紅毒だ。彼女の身体には核が無い。核を外部に隠しているのか、それとも他に倒し方があるのか。それは分からないが、効果がありそうな攻撃方法が二つある。一つはコマチソウ君の作った毒。雑兵には充分効いたが、四天王レベルに効くのかは不明。そしてもう一つは……」
グリフィス団長がこちらに目線を向ける。
「団長くんが雷鳴戦で発現させた『創世の力』。これは紅毒にも確実に効く」
「しかしあれは自力では使えません。戦力には入れられないかと……」
申し訳なく思っていると、グリフィス団長はにこりと微笑みかけた。優しい笑顔だった。なるほど、これでは花騎士達がグリフィス団長を頼りにするのも分かる気がする。
「どうすればあの力が扱えるようになるのか、一緒に考えよう。それに、あの力が使えるのは団長くんだけではない。世界花の加護がある者は皆使える可能性がある。そうだろう、セオ」
セオ団長はこくりと頷いた。
「あの力は世界花の加護の延長だ。鍛え抜かれた花騎士ならば、一つのキッカケで発現することが出来るはずだ」
「キッカケ……私の場合、怒りでしたが」
花騎士を殺して回ると言った雷鳴に怒り、突然あの力が目覚めたのを思い出す。
「団長くんは創世の力を出すためのトレーニングをしよう。私も付き合うよ」
「ありがとうございます、グリフィス団長」
瞳を閉じて微笑むグリフィス団長に思わずドキっとしてしまった。
「とっ! たぁっ!」
トレーニングは簡単なもので、まずは自分の力を最大限高めることから始まった。
「人は知らず知らずのうちに、自分にリミッターをかけてしまうからね。そのリミッターを外した時、思わぬ力が発揮されるものだよ」
説明しながら私の攻撃を避けるグリフィス団長。先程から全力で打ちにいっているのだが、一向に当たる気配が無い……。
「はぁ……はぁ……」
「うん、良い動きだ。段々と力が高まってきている」
汗だくの私に、グリフィス団長はタオルを渡してくれた。しかし、何故そんなに涼しい顔をしているのだろう……。
「す、凄いですね……一度も攻撃が当たらなかった……」
「団長くんも凄いよ。この短時間で成長している」
自分より格上の相手と戦うことが一番の訓練だ。どうすれば攻撃を当てられるのか試行錯誤していくと、動きの悪い癖が矯正されていく。結果、無駄なく力を発揮する方法が分かってきた。
「団長くん、ここの構えはこうだ」
その後、グリフィス団長は剣の振り方を見てくれた。しかし彼女が身体を密着させてくると、花のような良い香りがする。香水ではなく、もっと自然な香りだ。嗅いでいるだけで胸が高鳴るような……。
「どうかしたのかい?」
「っ!?」
気付くと大きな赤い瞳が私を覗き込んでいて、私は思わず飛び退いてしまった。
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫です……」
「しかし顔が真っ赤だし、心音も乱れているぞ」
(ふむふむ……これは……)
そんな我々を覗き見ている一つの影があった。
「二人とも~! 訓練お疲れ様~」
着物姿の少女、ヘチマだ。
「いや~、二人とも汗びっしょりだね~。うちの騎士団の敷地内に温泉があるから、皆で入ってきなよ。うん、それがいい。そうしよう!」
「というわけで温泉にやって来たが……」
「凄いね~! こんな広い温泉があるなんて!」
桃源郷にある温泉には何度か行ったことがあるが、それらと比べても遜色のない、本格的な温泉だ。
「効能、疲労回復、傷の治癒、精力増強……」
クコが看板の説明文を読む。確かに花騎士にとっては、これらの効能は嬉しいだろう。
「団長~。うちにも温泉作ってよ~!」
「そんな予算降りないだろう……」
「あぁ~……いいお湯……」
コマチソウが気の抜けた声をあげる。最近は戦いの連続だったからな……私も花騎士もしっかり疲れを取らなければ。
「しかしさ、どことは言わないけど、あたしが一番大きいのって珍しいよね。花騎士ってもっと「バーン!」って感じのおっぱいの人も多いでしょ?」
「どこと言ってるじゃないか……」
「モコウは小さくても問題ない? 量より質?」
「クコも問題無し。団長、小さいおっぱい、好き」
そして全員の視線がこちらに突き刺さる。
「うわぁ、団長の変態~。まさか自分のちっぱいで興奮したりしてないよね~?」
「……」
「うわっ!? マジ!?」
最早何も言えない。
自分の平原を見下ろす。やはり良い。このくらいの大きさが私には丁度いい。
「わぁ~! 広いお風呂ですね~!」
「フリージアさん、滑りやすいのではしゃいじゃ駄目ですよ」
「むっ、あれは……」
グリフィス騎士団の花騎士が入ってきた。おそらくグリフィス団長もそろそろ来るだろう。
しかしあのフリージアという花騎士、あどけない顔だが中々立派なものを持っている。これがギャップ萌えというやつか。
「ワレモコウさん達、ご一緒させて貰いますね」
「構わない? むっ……」
ワレモコウの目線がムラサキハナナの胸へ。
「ワレモコウ、それはセクハラだぞ……」
「し、失礼したです!?」
何だかんだで自分より大きな胸が気になるのだろうか。私的にはワレモコウの胸は丁度いいと思うのだが……。
しかし、裸の花騎士がこれだけ集まると壮観だ。眼福眼福。
「いい湯だね、団長くん」
「そうですね……っ!?」
いつの間にか隣にいたグリフィス団長に驚く。全く気配がしなかった……。というか、この人はいつも気配が薄い。まるで空気のように、ごく自然に周りに溶け込んでいる。
「今日は疲れただろう? これから戦いは厳しさを増していくだろうから、ゆっくり疲れを癒しておくんだよ」
「は、はい……」
捉えどころの無い人だ。優しく穏やかだが、どこか飄々としている。
「あっ、そうだ。セオから聞いたんだけど、ここの温泉、露天風呂もあるらしいよ。二人で行ってみないかい?」
(ふ、二人で!?)
正直、グリフィス団長の容姿は滅茶苦茶好みだ。クコや私と変わらない小さな身体、ぱっちりとした瞳、柔らかそうな頬。
そんな美少女が二人きりで露天風呂に誘ってくれたのだ。ドキドキしないわけがなかった。
……いや、良く考えれば二人とも男だ。絵面的には綺麗でも、これはアウトなのでは……。
「うん、良い景色だ。月も綺麗だね」
「そ、そうですね……」
月よりも、月明かりに照らされたグリフィス団長の方が綺麗に見えるとか、そんなことは考えていない。絶対に。
(なるべく見ないように……見ないように……)
湯気でぼんやりとしか見えないのが幸いだが、グリフィス団長は恥じらいもなく裸を晒している。私なんて未だに恥ずかしいのに……。
「団長くん、こうして二人だけになったのには理由があってね」
グリフィス団長の白く小さな手が私の肩に置かれる。その幼い顔は段々と私に近付いてきて……。
「まさか……駄目です、グリフィス団長! 我々は男同士です! それに私にはクコという恋人が!」
「うん、そうだね。男同士じゃないと話せないこともあるよね。花騎士のこととか」
「……へ?」
グリフィス団長は男同士の会話がしたかっただけらしい。期待していた自分が恥ずかしい……。
「おそらくバナナオーシャン戦線や今回の紅毒の件はただの前座に過ぎない。その後に最終決戦が始まる」
「最終決戦……」
その単語だけで胸の鼓動が早くなる。遂に来るところまで来たのだ。
「まぁ、その前にまずは紅毒を倒さないといけないけどね」
にっこりと笑った後、再び真剣な顔に戻る。
「団長くん、君はどうして戦うんだ? 何を守りたい?」
クコ達花騎士の顔が思い浮かぶ。迷いはなかった。
「愛する人々を守るため、そのために戦います」
「うん、いい返事だ。やはり主様が君を選んだのは間違いじゃなかったんだね」
「団長くん、約束して欲しい。もしも……」
彼女の一言一言に耳を澄ます。
「約束します。もしも……たら、必ず……」
「ありがとう。君と会えて良かった。辛く厳しい戦いになるが、共に頑張っていこう」
「はい!」
がっしりと握手を交わす。私の方こそ、グリフィス団長と会えて良かった。
「団長……」
風呂から上がると、クコがジトリとこちらを見つめていた。
「二人きり、内緒話? クコにも内緒?」
「うっ……」
別に内緒というわけではないが、改めてクコの前で言うのは気恥ずかしい。
「問題無し。英雄、色を好む。ハーレム、形成、賛成」
何か勘違いしている気がする……。
「く、クコ……ちがっ! 勘違いだ! クコ、待ってくれ~!」
「セオ」
執務室の扉が開けられる。浴衣姿のグリフィスが中に入ってきた。
「少し休んだらどうだ? あまりテレパシーを使いすぎると、肉体的にも精神的にも負担が掛かるんだろう?」
「ああ……だが各国で何やら不穏な動きがある。早く騎士団長達に伝達しておかねば、手遅れになりかねない」
「君は昔から変わらないな。誰よりも真面目で、誰よりも責任感が強い」
グリフィスとセオは同じ騎士学校で学んだ旧友だ。互いに優しく穏やかな彼らは、会うなりすぐに仲良くなった。
「君は少し変わったね。主に見た目が」
セオはふふっと悪戯そうに笑う。
「最初、私だと分からなかったんじゃないか?」
「そんなことは無いよ。どんなに姿が変わっても、魂の形は変わることがない。君の魂は変わらず美しいままだ」
「グリフィス、紅毒の裏で他の二人の四天王も何やら暗躍している。おそらく最終決戦は遠くないのではないかと思う」
「うん……でもきっと大丈夫だよ。今の春庭は、戦力的には全盛期だと思っている。各国に優秀な団長や花騎士がいるしね」
「ああ。我々の世代で終わらせなければ。この永き戦争を……」
≪おまけ≫
「ヘチマさん、どこ行ったんだろう……まあ、多分また覗きだろうけど……」
夕食の時間になってもヘチマが戻って来ないので、ブリオニアは温泉付近を捜しに来ていた。
「ヘチマさ~ん……ん?」
彼女が目にしたもの。それは鼻血を吹き出しながら倒れているヘチマの姿だった。
「ヘチマさん!?」
「女の子団長ちゃん……グリフィスちゃん……尊い……む、むっはー!」
「医療班! 医療班!」
男同士の百合展開……? どういうことだ!?
次回からまた真面目な展開に戻ります。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。