もうちょっと日常描写も書きたいんですがねぇ……。
我々の騎士団が怪物と交戦してから1週間が経った。
「打ち砕く!」
「回して貫く!」
「魔法……ドン!」
花騎士たちの必殺技が怪物に命中していく。初めは再生していた怪物の身体だったが、花騎士たちの連撃に再生速度が追いつかず、やがて崩壊を始めた。
「はぁ……はぁ……」
「何とか……退けたです?」
交戦しているのは我々の騎士団だけではない。同タイプの怪物の目撃情報が各地であり、各国の騎士団は苦戦を強いられていた。
「団長、団長~! この前の銀色の球体の調査結果が出たよ!」
慌てた様子で執務室に入ってきたのはコマチソウ。この前現れた怪物の調査をしてもらっていたのだった。
「簡単に言うと、この球はあの怪物の本体。身体は所々害虫とか動物とか……人間とかの成分と一致してるの」
「つまりはあの球を核にして、他の生物を取り込んでいっているのか?」
「そう言うこと。その核を破壊しない限り、あの怪物は再生し続けるの」
聞いた所、サントリナの連撃でやっと核が露出したとか。となると、並みの花騎士があの怪物を倒すのは容易でないだろう。
「あたし、怪物の身体の結合を破壊する毒を作ってみる。ちょっと時間はかかると思うけど……」
「頼んだ。それまでは何とか持ちこたえる。そう緊張するな」
珍しく表情が固くなっているコマチソウの頭を撫でる。背伸びをしないと手が届かないのが何だか不思議で、二人で笑い合った。
「森林部と港都市で怪物の目撃情報がありました!」
「うむ。至急向かおう」
花騎士たちを二部隊に編成し、私とワレモコウがそれぞれの指揮をすることにした。
「団長。まだその身体に慣れてないんだから、無理は禁物だよ」
ポーチュラカのその助言に、無力感を感じながらも頷く。
(しかし何かあれば私が花騎士を守らねば。そのための力が私には与えられたのだから……)
「数は……五体か。リシアンサス、頼んだぞ」
「了解しました!」
まず速さに長けたリシアンサスが敵を撹乱。その後一か所に集まった敵を私達が一網打尽にするという作戦だ。
「ほら、こっちです!」
リシアンサスがナイフを投げながら縦横無尽に走り回る。しかし、
「無駄だ。貴様らの作戦は読めた」
「!?」
敵の中にいた赤い個体の言葉に、リシアンサスも他の花騎士も驚きを隠せない。これまでの怪物も言葉は喋っていたが、ここまで流暢に話してきた者はいなかったからだ。
「な、何ですかあなたは……私達の言葉を理解しているんですか?」
「我々の中の一部の個体は、既に貴様らの言葉や文化を学習した。じきに全個体にその知識は行き渡る」
「それなら……分かり合えませんか? こんな戦いをしなくてもいいように」
「リシアンサスさん……」
リシアンサスの説得を、我々は息を呑んで見守る。確かに害虫と違って言葉が通じ合うのなら無駄な戦いをなくせるかも知れない。そんな思いを抱いた矢先だった。
「ぐあっ!」
私達の淡い期待は、脆くも崩れ去った。赤い怪物の長く鋭利な爪がリシアンサスに襲い掛かったのだ。
「リシアンサス! ……やるしかない、行くぞ!」
私の号令と共に花騎士たちは駆け出していく。
「どうしてですか……」
額から血を流しながらも、リシアンサスはまだ赤い怪物と話そうとしている。
「何故貴様らと共存する必要がある? 我々に何のメリットがある?」
しかし怪物は無情にも再び攻撃態勢に入る。危ない、そう思うと同時に身体が動いていた。
「無駄だリシアンサス。彼らとは根本的な考え方が違う。分かり合うことは出来ない」
「団長さん……」
怪物の爪を刀で受け止める。しかし凄い力だ……花騎士になって腕力も上がったはずだが、それでも両手で受け止めるのが精一杯だ。
「はっ!」
一旦距離を取る。相手は間違いなく格上、冷静にならなければ勝つことはできない。
「団長!? くっ……!」
ポーチュラカたちも他の怪物を相手取っているため援護は期待できそうにない。リシアンサスと私だけでやるしかない。
(大丈夫だ……冷静になれ……)
怪物は自分の爪を一本の刀のように変化させながら、一歩また一歩、ゆっくりと近付いてくる。
「諦めろ。貴様ら有機生命体では我々には勝てん」
「やってみないと分からないだろう」
「分かるさ」
「っ!? がぁっ!」
突然怪物の姿が消えた。と同時に背中に激痛が走る。
一瞬で回り込まれてしまった。
背中は大きく切り裂かれ、血がボトボトと流れ出した。
「団長さん!? くっ!」
リシアンサスの攻撃も軽々避け、怪物は返しの一撃を彼女に叩き込んだ。
「ぐぁっ!」
何という速さ。何という力。抜きん出ている、他の怪物よりも頭一つ二つ。
「ふふ、この程度で我々と戦おうなどと良くほざけたものだ。本当の地獄を知る前に、この場で殺してやるのがせめてもの情けか」
「地獄だと」
「破界四天王、雷鳴様が春庭に侵攻なされる。我々偵察隊すら倒せない貴様らでは到底太刀打ち出来んだろう」
「雷鳴……」
絶望的な言葉だった。こんなに強い敵がただの偵察隊だとは……それに敵の幹部と思わしき人物、雷鳴。何もかもが絶望的な状況だ。
「だからと言って、諦めるわけにはいかないんですよ!」
リシアンサスの言葉に我にかえる。そうだ、いかに厳しい状況だって、そこで足を止めたら終わりだ。死に物狂いで足掻かなければ春庭は滅ぼされる。
「リシアンサスの言う通りだ。滅亡を指をくわえて待っていられる程、我々はお利口じゃないんでな」
私も刀を構える。勝てなくてもいい。何か突破口が見つけられれば、後続に少しでも希望を与えられれば。
「ふん、いくら足掻いても無駄なこと! 貴様らは滅びから逃れることは出来んのだ!」
怪物が地面を蹴る。
(集中しろ……強いが、強すぎるが、絶対に勝てない相手ではない)
奴の一挙動に目を凝らす。下半身の動き、関節の動き、瞳の動きに。
「……そこか!」
「くっ……!?」
怪物の動きを予測し、何とか奴の攻撃を受け止める。
「リシアンサス!」
「はぁっ!」
リシアンサスのナイフが怪物の背中に突き刺さる。その攻撃に怯んだ隙に、私も奴の腹に一太刀を浴びせた。
「がぁっ!? こ、この下等生物どもが!」
「ぐぁぁっ!」
怪物が爪を一振りすると、私の身体は軽々と宙を舞う。何とか着地した私に、奴の追撃が襲い掛かった。
「死ねぇ!」
「くっ……ぐぅ……」
あまりに速く重い攻撃。いなすことすら出来なくなり、
「ぐ……ぁ……」
敵の攻撃をもろに喰らってしまった。腹から吹き出す大量の血しぶきが、地面を赤く染めていく。
「団長!」
「団長さん!」
花騎士たちの声が遠く聞こえる。意識が……遠のいていく……。
『騎士団長』
いつか聞いた声が聞こえてくる。
「あなたは……」
『お久し振りですね』
この前よりも姿がはっきりと見える。優しそうな女性が私の前で微笑んでいる。
「あなたは一体。それにあの怪物たちは」
『あまり時間はありませんから、手短に話します。彼らは破界王の手下。春庭の外の世界を次々と侵略している者たちです』
「何のために……」
『理由はありません。あなた達が生きるために生きているように、彼らもそう定められた存在なのです。強いて言えば、それが世界の、上位存在の意思なのかも知れません』
「世界は滅ぼされる定めなのですか?」
『違います。上位存在が望んでいるのは調和です。ですから私があなたに力を与えた。破壊を逃れるための、創世の力を』
「創世……」
『騎士団長、負けてはいけません。あなた達の未来を創るのはあなた達自身なのです。理不尽かも知れませんが、勝ち取るのです、あなた達の世界を』
彼女の姿が遠のく。伸ばした手の先に、温かな感触が伝わった。
『私は創世の女神。あなた達のこと、いつでも見守っていますよ』
「団長さん……このぉ!」
リシアンサスがナイフで怪物を責め立てるが、怪物はそれを物ともせず避け、反撃の一撃を加える。リシアンサスの血しぶきが飛び散っていく。
倒れ込むリシアンサスに怪物がトドメを刺そうとしたその時だった。
「がっ!? き、貴様……生きていたのか!?」
「私はまだ死ねない。花騎士たちを守り、お前たちを倒すまでは!」
奴の剣を弾き、その外殻に連撃を与えていく。衝撃音と共に火花が飛び散る。
「くっ! 何だこの力は!?」
力が溢れる。世界花の加護……いや、それ以外の力も感じる。これが夢で逢ったあの女性、創世の女神の言っていた力かも知れない。
「舐めるなっ!」
見える。奴の攻撃が、まるでスローモーションのように。
私は両手に力を込め、一振り、刀を振るった。
「ぐあぁっ!」
剣が砕け散り、悶え苦しむ怪物。どうやら剣は奴の身体の一部で、痛覚も通っていたらしい。
「はぁ……はぁ……ぐっ、がっ!」
再生する暇を与えない。とにかく攻撃しなくては。今は私が圧倒しているが、相手の再生能力を考えると一瞬の気の緩みさえも許されない。
「うおぉぉぉ!」
「す、凄い……」
「く……そ……こんな下等生物に……」
怪物の身体の破片が辺りに飛び散っている。倒れ込んだ怪物の身体からは、銀色の球体、核が浮き出していた。
「はぁ……はぁ……」
「やりましたね団長さん!」
リシアンサスを始め、花騎士たちが駆け寄って来る。
一種のトランス状態に入っていたため、戦いの最中のことを思い出せないが、どうやらあの強敵を倒せたらしい。
しかし、花騎士たちの声がやけに遠くに聞こえる。いや、それだけではない。彼女達の姿もぼやけて見える。やがてもやがかかったように視界が暗くなっていき……。
「団長!?」
手足が重たい。立つこともままならず倒れ込んだ地面は、ヒンヤリと冷たかった。
「何だと……ブロッサムヒルの偵察隊が全滅? 間違いではないのか?」
「いえ、雷鳴様。紛れもない事実です」
ここは雷鳴の持つ城の中。とはいえ、建造したのは彼らではない。彼らが滅ぼした生命体が持っていたものをそのまま使っているだけだ。
その謁見の間にて、先程団長が倒した個体と似た、赤い怪物が雷鳴の前に跪いていた。
「しかしあの部隊の隊長はBランクの兵士だったはず。それが人間ごときに……」
「だから言っただろう。人間を舐めるなと」
「!?」
「苦戦しているようだな、雷鳴。何なら私が手伝ってやろうか?」
赤い怪物の影の中から、雷鳴と同じく四天王の一人、
「貴様の助けなどいらんわ!」
「やれやれ、私も嫌われたものだな……」
その時、扉の開く音が聞こえてきた。
「黒影様、今日の所はどうかお引き取りを」
扉の向こうから現れたのは二つの影。
一つは女性的な曲線の青い個体。もう一つは真っ赤でごつごつとしたシルエットの個体。
「ふむ、氷雪に
氷雪と炎武。どちらもAランクの兵士であり、雷鳴の最側近として仕えているエリート戦士だ。
「貴公らが動くということは、ついに始まるのか」
「はい! 春庭の人間どもを地獄に落としてやりますよ! 見ていて下さい!」
炎武が部屋中に響く大声でそう言った。
「そう言うことなら、しばらく傍観させてもらおう」
黒影は二体の影に同化し、やがてその姿を消した。
「まったく、いくら破界王のお気に入りとはいえ……」
「まぁまぁ。我々が春庭を侵略すれば大人しくなるでしょう」
「うむ。期待しているぞ氷雪、炎武」
「団長! 団長!」
ポーチュラカの悲痛な叫びがこだまする。
昏睡状態に陥った団長。彼女?に何があったのか。そしてついに侵攻を開始した雷鳴たち。
春庭の運命の歯車が今、動き始める。
オリキャラが増えてきましたが、個人的には黒影はお気に入り。
雷鳴にいやがらせまがいのことをしていますが、まあ期待の裏返しだと思って下さいw
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。