このくらいのバランスが一番書きやすいですね。
あんまりシリアスが多いと書いててキツイですし。
「ここは……」
霞んだ視界が段々とはっきりしてくる。真っ白な天井が見える。病室だろうか。その中に見知った顔がいくつか。
「団長!」
「団長さん! 良かった~……」
ポーチュラカとリシアンサスが抱きついてくる。二人の目の下には泣きべそが。私は両手でそっと二人の頭を撫でた。
「心配かけてすまなかった。急に力が入らなくなってな……」
「お医者さんが言うには、極度の疲労らしいです。病気じゃなくて良かったですよ」
疲労か……確かにこの身体になってからあまり休んでいなかった。
「団長、急に動きが速くなったよね。それも関係あるのかな?」
あの戦いで発現した力、『創世の力』と言ったか。
「凄かったですよね~。スパンスパンってあっという間に怪物を倒しちゃって」
自分でも信じられない程の力が発揮できた。その力に肉体が付いていかなかったのかも知れない。
「団長」
ドアが開いてクコがひょっこりと顔を出した。
「平気? 漢方、飲む」
「少し疲労が溜まっていただけだから大丈夫だ」
「疲労……あい。クコ、提案」
クコの提案とは街に遊びに行くことだっだ。
平日の昼間からプラプラと歩き回るのは新鮮で、それだけでも気分転換になる。
「よし、それじゃあまずは団長に似合う洋服を探すんだよ」
「い、いや私は今のままでも……」
今着ているのはクコのおさがりだ。若干腋が心もとないが、スカートが膝丈まであるのが良い。これ以上のミニスカートは履ける気がしない。
「駄目ですよ団長さん。折角かわいくなったんですから、色んなお洒落を楽しみましょう!」
リシアンサスとポーチュラカに引っ張られ、結局服屋に入ることになってしまった。
「いらっしゃいませ~」
茶髪ショートカットの店員が駆け寄ってくる。しかしこの店員、やたら露出が多くないか。お腹は丸見えだし、スカートも下着が見えそうな程短い。そう言えば店内に飾ってある服もそんな感じだ。
「ここは……」
「ここは私達のお気に入りのお店なんだよ」
そうだった。彼女達はバナナオーシャン民なのだった……。
「私のオススメはこれだよ!」
「全身真っ赤じゃないか。派手すぎるだろ」
「こっちはどうです?」
「何だこのミニスカートは……これじゃあパンツを見てくださいと言ってるようなものだろう」
「団長さん、顔真っ赤になってますよ」
結局何着か試着をさせられた。恥ずかしい……こんな格好で外を歩くなんて考えられない……。
「ありゃりゃ、団長は恥ずかしがり屋さんだね」
「次、クコのオススメ」
今度はクコに手を引かれる。
この店にはクコが普段着ているような、可愛らしい服が並んでいる。どちらかというと、こっちの方が私の好みには合っているかも知れない。
「ベレー帽、おそろい♪」
にっこりと笑って、紫色のベレー帽を差し出してくるクコ。それをちょこんと頭にのせてみた。
「に、似合うか……?」
「似合ってますよ、団長さん」
「おそろいですか。いいですね~。お二人は姉妹ですか?」
そんな我々を見て、店員が話しかけてきた。
「姉妹、違う。恋人」
「あら~」
あらぬ誤解を与えたような気がするが、間違ったことは言ってないのでそのまま頷くことにした。
それからも花騎士たちに連れられ、色々な場所を巡った。
「アイスキャンディ食べよう。このお店のは評価(氷菓)が高いんだよ」
「皆で写真撮りましょうよ」
「ふぅ……」
「団長、疲労?」
ベンチに座って休んでいる私の顔を、クコが覗き込んできた。
「いや、疲れたわけではないが、新鮮でな。女の子たちが普段どうやって遊んでいるのか、何となく分かった気がするよ」
「これからも、遊ぶ、一緒に」
「うむ……」
街の景色を見渡す。
平日の静かな街。平和を絵に描いたようなこの風景にも、侵略の魔の手は着々と伸びてきている。
「こんなに呑気にしていていいのだろうか……」
ポツリと漏らす。
「あい。休養、大事」
クコの微笑みが私の心の中に温かく染み入っていく。
「……そうだな。よし、今日は一日一緒に遊ぼう。戦いの心配をするのはその後でいい」
「あい♪」
クコと手を繋ぎ、街の中へ駆け出した。
団長たちが休暇を楽しんでいる時、ワレモコウ達はブロッサムヒル平野部の警備を行っていた。
「団長さん、何事もなければいいですね」
「ご主人なら大丈夫? 今まで何度も死線をくぐり抜けてきた?」
「そうですね。団長さんならきっと大丈夫ですよね」
サントリナの微笑みにワレモコウもぎこちなく笑う。
「っと、来ましたね」
怪物十体程が姿を見せる。
「よーし、いくじょー!」
花騎士たちも武器を構え、臨戦態勢となった。
「たぁっ!」
サントリナの剣が最後の怪物を切り裂く。核ごと身体を真っ二つにされ、怪物の身体は消滅した。
「この怪物の相手も大分慣れてきましたね」
「というか、サントリナがまた強くなってるような……」
実際、最初は数十回切り刻まなければ倒せなかった敵を、今は一撃で倒せるようになっていた。核の場所を把握したこと、この怪物相手の訓練を積んだことが大きな要因だろう。
「それじゃあ一旦拠点まで……っ!?」
サントリナの動きが止まる。その瞳の中に映っていたもの、それは炎のように真っ赤な身体の怪物。他の個体とは明らかに違う、異様なプレッシャーを放っている。
「おいおい、随分派手にやられちまったみたいだな」
散らばる核の残骸を見て、その個体、炎武はそう吐き捨てた。仲間が死んだというのに、悲しむ素振りは全く無い。それどころか、人間に負けた彼らを嘲笑うかのように見えた。
(彼、相当強い……これまでの敵とは比べ物にならない程……)
サントリナが固唾を飲み込む。彼の一挙一動に目を凝らす。
「これ、お前らがやったのか?」
「……そうだと言ったらどうします? 敵討ちでもするつもりですか?」
相手の出方を探るための挑発。かつてない程の強敵を前にしても、サントリナは冷静さを保っていた。
「冗談じゃない。人間に負けるような雑魚にそんな大層なもんは必要ねぇよ。ただ、お前らなら少しは楽しめるかと思ってな!」
炎武が大地を蹴り上げる。その瞬間空気がどよめいた。鋭い殺気を孕みながら、炎武は一直線に花騎士たちへ向かっていく。
「ワレモコウさん、皆、下がって!」
「皆、退くです!?」
ワレモコウの号令に花騎士たちは数歩分距離を取り、サントリナは彼女達の前に陣取った。
「はぁっ!」
剣と剣が交差する。その衝撃だけで周囲の地面は砕け散っていった。
(す、凄い力……)
初撃を受け止めたサントリナだったが、炎武の激しい攻撃は止むことは無い。
「ぐっ!」
「どうした、そんなもんか! オラァ!」
(速い……それに重い……それでも……)
サントリナの瞳孔は炎武を、彼の剣を逃すことなく見つめていた。
(見える。動きは直線的で、予想しやすい……これなら)
サントリナが防戦一方なことに気をよくした炎武は、更に攻撃を加えていく。相手が自分よりも格下だと勘違いした彼の動きは、段々と大振りになっていく。その隙を、サントリナは見逃さなかった。
「……そこです!」
「ぐっ!?」
炎武の胸に斬撃が走る。
(浅い……それでも!)
サントリナの双剣が唸る。胸や腕、肩、身体全体を切り刻んでいく。
「ぐっ、がぁっ!」
炎武は思わず距離を取る。
「逃がさない! ……っ!?」
サントリナが距離を詰めようとしたその時、炎武の手から炎が放たれた。
「はぁ……はぁ……」
(魔法攻撃まであるんですね……これはかなり厄介な……)
「……してやる」
「?」
身体を再生させながら、炎武は下を向いて何かブツブツ呟いている。
「ぶっ殺してやる! てめぇの手も足も滅茶苦茶に引き裂いて、その綺麗な顔も真っ二つにしてやる!」
「うわぁ……悪趣味だじょ……」
炎武に芽生えた激情、それはプライドを傷付けられたことによるものだった。
Aランクの戦士。破界王の僕の中でも十数名程度しか居ない、エリート中のエリート。それを追い詰めたのが、自らが下等生物だと侮っていた人間だということ。それが彼には許せなかった。
(殺気が強まってる……来るっ!)
サントリナが身構えたその時だった。
『炎武、遊びはそこまでだ。一旦戻れ』
炎武の頭の中に響いたのは、彼の上司である雷鳴の声だった。
「雷鳴様、しかし!」
『今後の作戦をたてる。戻れ。それとも……俺に逆らうと言うのか?』
「っ!? め、滅相もございません。今すぐ戻ります!」
声だけでもひしひしと伝わる雷鳴のプレッシャーに、炎武は身震いをした。
「撤退命令が出た。運が良かったな。今度会う時こそお前らの最後だ。てめぇの顔は忘れねぇからな、オレンジ色の花騎士」
炎武の身体が炎に包まれる。その炎が晴れると、既に彼の姿は消えていた。
「……今度会う時」
「決戦もそう遠くないということです?」
地面の焦げる臭いを感じながら、サントリナやワレモコウ達はその場に立ちすくんでいた。
《同時刻、ウィンターローズ》
「たぁぁっ!」
この国でも花騎士と破界王の手下との戦いは続いていた。
「いいですよ、その調子です。そのままやっちゃって下さい!」
数歩退いてその様子を見ているのは、花騎士のハツユキソウ。優秀な花騎士なのだが、同時に極度の流され気質で長い物に巻かれるスタイル。
今日も花騎士として役目を果たさなければいけないという使命感はあるが、このまま自分まで戦闘が回ってこなければラッキーだなと心の底では思っている。まぁ、その考えは次の瞬間脆くも崩れ去るのだが……。
「どうやら花騎士側が優勢のようですね」
背後から声を掛けられ、ハツユキソウは媚びた笑顔を見せながら振り向いた。
「そうなんですよ~、皆さん本当に強くて……って、ぎえぇぇぇ!」
そこにいたのは花騎士ではなく怪物の仲間。しかも雷鳴の側近、氷雪。青白い外殻が女性的な曲線を描いている。
「あわ、あわわわわ……」
腰を抜かしてしまい、雪の上を這って逃げるハツユキソウ。そんな彼女に氷雪はゆっくりと近付いていく。
「ふふ、そんなに怯えなくてもいいのですよ。痛みを感じない程一瞬で殺してあげますから」
「み、見逃してくださぁい、この通りです……」
逃げることは出来ないと悟ったのか、ハツユキソウは雪の積もった地面に頭を擦り付けて情けない声を上げる。
「ふむ……どうしますかねぇ。それならば、この世界の戦士、花騎士たちの情報を教えてください。そうすれば見逃してあげてもいいですよ?」
勿論見逃す気はない。情報だけ抜き出した後に殺すつもりだった。彼らにそんな慈悲の心は無い。
「情報? そんなの教えるわけないじゃないですか? バカにしないで下さい」
ハツユキソウはそうきっぱりと答えた。
「……そうですか。なら死になさい」
氷雪が剣を高く掲げる。一面の雪の中、青白い剣の光がキラリと輝く。
(あっ、これ死にましたね……さよなら花騎士さん達……)
ハツユキソウが目を閉じると、今までの楽しかった記憶が走馬灯のように流れてきた。
(色々なことがありましたね。寒がりなのにノリでウィンターローズに移籍させられたり、子供たちに雪女に間違われたり……あんまり楽しい思い出が無いなぁ!)
「……?」
しかし中々剣が振り下ろされない。ゆっくりと目を開けてみると、氷雪の剣はもう一本の細身の剣によって受け止められていた。
「何者です?」
その剣を弾き、氷雪は一旦距離を取った。
「別にアンタに名乗るつもりはないけど」
「アブラナさん!? た、助かりましたよ~」
すり寄って来るハツユキソウをスルーし、アブラナは氷雪を凝視する。
(こいつ相当強い……ここで抑え込んでおかないと、多分犠牲者が出る……)
二人が剣を構える。次の瞬間、乾いた空気の中に斬撃音が響いた。
十手、剣を交えた後、二人は再び距離を取る。
「ふふ、中々やるようですね、金色の花騎士さん」
「アンタこそね」
『氷雪、一旦戻れ』
「雷鳴様? ……了解いたしました」
「何ぶつぶつ言ってんのよ!」
アブラナが仕掛ける。その連撃を、氷雪は軽々といなしていく。
「っと、ふふ……この程度では私には勝てませんよ」
「ふ~ん……ところで、どこ見てんの?」
背後から声が聞こえ、氷雪は驚愕した。
「!? がはっ!」
(ま、回り込まれた? この私が……?)
アブラナの一撃で吹き飛ばされた氷雪。
「くっ……!」
「逃がすかっての!」
何とか体勢を整えた彼女に、アブラナはすぐさま追撃を加えようとする。
「このっ!」
「っ!?」
氷雪が手をかざしたその瞬間、アブラナの腕が凍り付いた。
(氷魔法!? こんなのも使えるの!?)
「撤退命令が出ました。今度会う時はあなたの息の根を止めて差し上げます。楽しみにしていて下さい、金色の花騎士さん?」
氷雪の身体の周りに吹雪が吹き荒れる。その吹雪が止むと、彼女の姿は見えなくなっていた。
「消えた……?」
「アブラナさん! だ、大丈夫ですか!?」
アブラナの凍ってしまった腕をさするハツユキソウ。
「あぁ、これ? 痛くはないし大丈夫。ちょっとお湯に浸けておけば治るだろうし」
(それに、相手の攻撃手段を多く知れたのはラッキーだったな。おかげで対策も取れそう)
強敵炎武、氷雪と接触した花騎士たち。そして彼女達の本当の戦いが今、始まろうとしている。
初めてアブラナちゃんを書きました。
今作では今まで書いたことのないキャラもどんどん書いていきたいですねぇ。
ちなみに今作のアブラナちゃんは主人公の騎士団の所属ではなく、ブロッサムヒルの別の騎士団所属です。ウィンターローズにはたまたま出張で来ていたという設定で。
別バも貰えてベテランの風格も付いてきた彼女ですし、そういうところも描写できればと思います。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。