そろそろ決戦に入りたいですね。
テリー騎士団の会議室。ここに五つの騎士団の団長や副団長が集められた。彼らの前で、ブリオニアは語り始めた。
「まず、今ここに集まっている騎士団は主力部隊。敵のボス、四天王雷鳴と戦いこれを撃破して貰う」
ごくりと喉が鳴る音が聞こえた。
「現在確認されている敵の戦力を説明しておく。まずは最も数が多いのがCランクの雑魚敵。次に部隊長クラスのBランク。そしてそれを越えるAランクの兵士……アブラナさんは戦ったことがあるよね?」
「あの氷使い……あれがAランクだったのね」
「サントリナが接触したという、炎を使う怪物。あれも恐らくAランクだろう」
「そして四天王の雷鳴。これはその二つの個体を遥かに上回る戦闘力だと推測出来る。並の花騎士を数百人当てても、悪戯に死傷者を増やすだけ。だからこちらの主力を当てる」
「それがあたし達ってわけね……」
ブリオニアはこくりと頷いた。
「厳しい戦いになると思う。それでも、私達が倒すしかない。もし私達が負けたら、それは春庭の全滅を意味する。そのことを忘れないで」
「全滅……」
作戦会議が終わり、ブリオニアは部屋の外へ出ていった。
「あの嬢ちゃん、中々はっきり言うな。全滅か……」
「それだけ真剣に戦って欲しいってことだろうね」
春庭の全滅。その言葉が私の頭の中をぐるぐると回る。……こうしていても仕方ない。
「団長、どこ行くの?」
「一汗かいてくる」
◇◆◇◆
「ここがトレーニングルームだ。好きに使ってくれ」
流石バナナオーシャンの古豪。最新の器具が揃っている。それに、それを扱っている花騎士達も一流だ。引き締まった身体を見るだけで分かる。
「嬢ちゃんはまずはウェイトトレーニングだな。まだ身体の扱いに慣れてないだろ?」
「そうですね……まだこの身体になって間もないですから」
「それならやっぱり筋肉を付けなきゃな。筋肉は裏切らないぜ! がっはっは!」
大きな大胸筋を上下させながら笑う。私もトレーニングしていけば、いつかあんな筋肉に……ならなくていいか。
「ぐっ、ぐぬぬぬ……」
「おぉ、見かけによらず凄いパワーだな!」
ペンチプレスで200kgを持ち上げる。男性時代はここまで出来なかったので、世界花の加護のおかげなのだろう。
「俺も負けられねぇ! おりゃぁぁぁ!」
「っ!?」
テリー団長は私を越える250kgを持ち上げてしまった。花騎士じゃないのに、何だこのパワーは。
「へへ、俺は生まれつき筋肉が付きやすい体質でな、パワーだけなら花騎士にも負けねぇ」
「す、凄いですね……」
世の中には色々な体質の人間がいるのだな……いや、体質で言えば私が一番特殊かも知れないが……。
◇◆◇◆
何時間経っただろう。他の花騎士たちも訓練を終え部屋に帰ったことだし、私もそろそろ終わろう。そう思った時だった。
「誰かいるの?」
トレーニングルームにブリオニアが入ってきた。長い黒髪から、花のような香りがふんわりと漂う。
「女の子団長さん……まだやってたんだ」
「身体を動かしていないと落ち着かなくてな」
「この状況だし、皆そうだよ。でも、無理矢理にでも休んで」
そう言った彼女の目はどこか遠くを見つめている。
「団長さんもそうだった……いつも無茶ばかりで、私はいつも心配で……」
「セオ団長が……意外だな」
セオ団長の騎士団は生存率が高いことで知られている。そんな彼が無茶ばかりしているとは。
「自分のことには無頓着なの。今回の決戦だって、自分で指揮を取ろうとしてた。身体が弱くて、バナナオーシャンに長居出来るわけないのに……」
「女の子団長さん、あなたも部下の花騎士のことを考えてあげて。彼女達がどんなにあなたを心配しているか、それを忘れないで」
彼女の声色はどこか柔らかさを帯びている。最初は冷徹な指揮官だと思っていたが、根は優しい女の子なのだと分かった。
「ブリオニア、何となく分かったよ。君達、花騎士の苦労というものが」
思えばこの姿になってから、花騎士たちには心配を掛けっぱなしだった。彼女達に少しでも苦労を掛けないようにしなければ。私は団長、彼女達の上司なのだから。
「おっ、いたいた! 団長、先頭に立って銭湯に行こう!」
声に振り向くと、ポーチュラカ達がひょっこりと顔を出した。
「ふふっ、それじゃあ私はこれで」
「ブリオニアさんも居ましたか。それじゃあ一緒に入りましょう。裸の付き合いってやつです」
「えっ……?」
《一方その頃》
「う、動きが見えない……」
サントリナとアブラナは合同で訓練を行っていた。そのあまりの速さに、周りの花騎士達は唖然としてしまった。
「……ふぅ。噂通り、いやそれ以上ね」
「アブラナさんこそ、本当に凄いです。こうして最強の騎士団の花騎士さんと戦えるのは、良い刺激になります」
「やっぱり、あの二人は別格ですね~。近付くだけでもピリピリとした空気を感じます~」
「ふふ、やっぱりそうですよね!」
「……どうしてハツユキソウさんが胸を張ってるんですか?」
「はぁ……ついつい夢中になっちゃったわ」
汗で濡れた服をパタパタさせる。
「それじゃあお風呂に行きましょう。ここのお風呂、ヘチマさんっていう温泉の女将さんが管理していて、凄く気持ちいいって評判なんですよ」
「ふぅ~ん、でもハツユキソウは大丈夫なの?」
「?」
「お風呂なんか入ったら溶けるんじゃない?」
「溶けません! 雪女じゃないですよ!」
「ふふっ、冗談よ」
やって来た大浴場。花騎士ヘチマ特製の入浴剤がお湯を濁らせている。
疲れが吹き飛ぶような気持ち良さの中、アブラナはある動揺を隠せないでいた。
(う、嘘でしょ……オジギソウはともかく、ハツユキソウもサントリナも結構……結構……)
自身の身体を見下げる。視界に入らない程度の平坦な胸。それはブロッサムヒルを代表する花騎士、アブラナにとって、唯一にして最大のコンプレックスであった。
「あんた達……仲間だと思ってたのに……」
「? 何言ってるんですか。アブラナさんは仲間ですよ」
「そうじゃなくて~……」
◇◆◇◆
「ちょっと待て皆」
「女湯」と書かれた赤い暖簾の前で立ち止まった。
「どうしたの、団長?」
「私は女湯でいいんだろうか?」
良く考えたら、今まで一緒に風呂に入ったことがあるのはクコだけだ。流石に他の花騎士たちと入るのはまずいのではないか。下手したらセクハラで訴えられる可能性も……。
「別に気にしませんよ?」
「しかし……」
その時、男湯の方から野太い鼻歌が聞こえてきた。
「テリー団長さんだね。一緒に入りたいんならどうぞ?」
「……」
結局花騎士たちと一緒に女湯に入ることにした。しかし私は紳士だ。女の子の、しかも部下の裸をじろじろ見るようなまねは絶対にしないと誓おう。
「よっしゃー、入るじょ! 先頭に立って銭湯突入じゃぁー!」
「それは私のセリフなんだよ!」
タオルすら着けず、すっぽんぽんで進むバナナオーシャン組。お国柄、肌を出すのには慣れているのだろう。
「あ、女の子団長さんはちゃんと隠した方がいいよ」
ブリオニアはそう言ってタオルを渡してくれた。
「あぁ、ありがとう」
「……誰が見てるか分からないからね」
ポツリと独り言が聞こえたが、はっきりとは聞こえなかった。
「おっ、先客だ」
「団長さん達! 皆さんもお風呂ですか? ここのお風呂、すっごく気持ちいいですよ」
サントリナが立ち上がると、その程よい胸が揺れ……いかんいかん、気を沈めなくては。
「このお風呂を管理してるヘチマさんって、確かセオ騎士団の花騎士さんですよね?」
「うん。花騎士の体調管理がしたいって志願してくれた」
「へぇ~、凄く良い人ですね」
(絶対それだけじゃないと思うけど……)
「どうしたの、団長? 顔が真っ赤だよ。まだのぼせるほど入ってないでしょ?」
これだけたくさんの全裸の女の子に囲まれたら、こうなるのは仕方ないだろう。
「オジギソウさんって、お胸おっきいですよね。何か秘訣とかあるんですか?」
「自分の所のだんちょに揉まれてるのか、オジギソウ!?」
「そ、そんなんじゃないです~……あんまり見ないで貰えると助かります~」
その時、ガラッと扉が開き、ある花騎士が入ってきた。
「あれ? 皆も入ってたんだ?」
「でっかぁぁぁい!」
「レッドジンジャーさんはどうしてそんなにおっぱい大きいの? やっぱり恋してるとか?」
「恋……花言葉にもあるけど、したことはない」
「テリー団長は?」
「団長はどちらかと言うとお父さんみたいな感じかな。それに、団長には好きな人がいたし」
(いた……? いるではなく?)
少し引っ掛かったが、あまり突っ込んで聞かないようにした。というか、この状況ではそんな余裕がない。どこに視線をやればいいのだろうか……。
花騎士達が入浴を楽しんでいる時、着物を着た黒髪の少女がそれを覗き込んでいた。
「ふふふ……どの花騎士も綺麗な肌してる~。この決戦に参加して良かった~」
「ヘチマさん、やっぱり覗いてたんだ」
「げっ!? って、ブリオニアちゃんか~……驚かせないでよ~」
朗らかな笑顔を見せるヘチマに、ブリオニアはやれやれとため息をついた。
「もしバレたら団長さんの評判にも関わるんだから、注意してね」
「大丈夫大丈夫、団長ちゃんに迷惑はかけないよ~」
この少女はセオ騎士団の花騎士、ヘチマ。ブリオニアの親友でもある。
この決戦に参加する花騎士たちの健康管理をするため、自ら志願してきた。風呂の管理もその一環である。しかし彼女にはもう一つの目的があって……。
「はぁ……飽き性のヘチマさんが、こんな長引きそうな戦いに志願してくるなんておかしいと思った。やっぱり覗きが目的だったんだね」
「うっ……だって他国の花騎士の肌を見る機会なんて中々ないもん。これは逃す手はないと思って!」
ヘチマは綺麗な肌を見ることが大好きな花騎士だ。そのため、肌のケアに対するこだわりは誰よりも強い。彼女自身の美しい肌を見て貰えば、そのこだわりようは納得できると思う。
「でもね、それだけじゃないんだよ。ブリオニアちゃんが大変そうだなと思って、あたしに出来ることを手伝いたいなと思ったんだ」
「ヘチマさん……」
ヘチマの明るい笑顔に、ブリオニアの顔にも自然と笑みがこぼれた。
「おぉっ、次の花騎士が入ってきた! わぁ、この子も良い肌!」
「……」
≪翌日≫
「市街地に侵入を許しちまったのは痛いな……」
怪物達の軍勢が突如押し寄せた。その数、500は下らないだろう。花騎士たちも迎え撃ったが多勢に無勢、市街地への侵入を食い止めることは出来なかった。
「過ぎたことは仕方ない。防衛戦は難しいけど、私達が最後の砦として堪えるしかない」
(おそらくこの軍勢は主力じゃない。Bランクの兵士の数も少ない。つまり敵はまだ様子見をしてる……? 先にこちらの戦力を全て教えてしまうのは得策じゃないけど、温存していられないのも事実。特に市民の命が懸かった状況では)
「俺達は北側を防衛する!」
「私とアブラナさんの部隊は東を守る。ロザリオさん部隊は南、女の子団長さんの部隊は西をお願い」
「了解!」
「しかし凄い数ね。倒しても倒してもキリがないわ」
一振りで三体の怪物を絶命させながら、アブラナが不機嫌そうにぼやく。
「はっ! この数でも、おそらく敵勢力のほんの一部でしかない。本当の決戦ではこれよりも……」
「まったく、しつこいっての!」
アブラナもブリオニアも、ぶつくさと文句を言いながらも敵を倒していく。しかしその数は未だ減っているようには見えない。
(まったく、こんな時にあたしの団長は何してるのよ……って、別に頼ってるわけじゃないけど、こんな状況なら一人でも戦力が欲しいし……)
その時、重力波が地面を砕き、数十体の怪物が一気に砕け散った。
「この魔法……クマツヅラ!」
「遅れてすみません、アブラナさん!」
黒い大きな帽子を被った少女が、魔法陣で飛んでいる。花騎士のクマツヅラ、根源の世界花の加護を受けた、魔法の得意な花騎士だ。
「あんただけなの? 他の花騎士は……団長は!?」
「花騎士の皆さんは追々やって来ます。団長さんは……すみません、後でお話します」
(何だろう……妙な胸騒ぎがする……でもまずは一般人の命を守らないと!)
「おりゃぁぁぁ! いいか皆、誰一人死なせるな! これは団長命令だ!」
「了解、テリー団長。……敵を殲滅し、人々を守る、花騎士として」
果たして花騎士たちは、団長たちは人々の命を守ることが出来るのか。続く。
ちなみに、敵の兵士は全て破界王によって生み出されています。彼らには生殖能力がありませんから。
また、強い兵士程、個性も強くなっていきます。ですから、Cランクの雑魚敵は皆似たような色や外見になります。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。