そして話も大きく動き始めます。
「たぁぁぁ!」
レッドジンジャーの鋭い斬撃が、敵部隊を次々と蹴散らしていく。
彼女だけではない。テリー騎士団の花騎士たちの連携のとれた動き、流石バナナオーシャンの強豪と言われるだけはある。
「一体、向こうに逃げた!」
「あっちは確か……」
テリー団長が脚に力を集中させる。太ももの筋肉は鬼の形相のように膨れ上がり、凄まじい瞬発力を発揮させた。
「子供達に手ぇ出すんじゃねぇ!」
「がっ……!」
一気に距離を詰めたテリー団長は、素手で敵の頭を叩き潰した。
パワーだけなら花騎士以上を誇るテリー団長。彼にとっては、世界花の加護がなければ倒せない害虫よりも、単純な戦闘力で勝てる怪物達の方が相性が良かった。
「団長、こちら側の敵は全て殲滅した。次の指示を」
「はぁ……はぁ……」
「団長?」
「……はっ! す、すまねぇ……次は嬢ちゃん達の援護に回るぞ」
「……了解」
シャツに汗を滲ませ、荒い息を吐く彼のことを、レッドジンジャーは心配そうに見つめていた。
「行きますよ……変身!」
クマツヅラが魔法少女形態に変身する。
彼女はリリィウッドの世界花と共に、コダイバナの加護を受けた花騎士である。その特徴は、本人だけでなく周囲にも加護の影響が及ぶこと。事実アブラナやブリオニアはその加護により、普段よりも格段にパワーアップしている。
(クマツヅラさん……噂には聞いたことがあるけど、凄い能力。この力を使えば、不利な戦況も一気に有利に変えられる……。それに、あの飛行能力も興味深い。戦況を平面から立体に変える、つまり今までのセオリーを一新する必要が……)
いつもの癖でぶつぶつ呟くブリオニアの背後に、敵兵士の姿があった。
「っと、考えるのは後にしよう」
一突き、それだけで数体の敵が葬り去られた。
結局、大きな被害を出すことなく敵を殲滅出来た。特にクマツヅラ達の援軍の活躍が大きいだろう。流石最強と呼ばれるグリフィス騎士団と言わざるを得ない。
その彼女達は何か言い争っているようだが、一体何があったのだろう。
「団長が意識不明って、どういうことよ!」
「わっ! あ、アブラナさん、落ち着いて下さい……」
「落ち着いていられないわよ!」
アブラナはクマツヅラの肩を掴み、激しく揺さぶる。戦いの時は冷静な彼女でも、流石に動揺を隠せなかった。
(あんなに元気だったじゃない……何でなのよ!)
「アブラナちゃん」
背後からの声に、アブラナがハッと振り返る。そこにいたのは金髪のツインテールの、背の低い少女だった。
「コオニタビラコ……」
グリフィス騎士団参謀、コオニタビラコ。個性の強い騎士団をまとめる、団の中心人物である。
「心配なのはアブラナちゃんだけじゃないよ。クマツヅラちゃんも私も、団長のことが心配。でも私達には任務がある、守るべき人達がいる。アブラナちゃんなら分かるよね?」
琥珀色の瞳がアブラナをじっと、優しく見つめる。
「……そうね。動揺してたわ、ごめんクマツヅラ」
「いいんですよ。私だって、凄く動揺しましたから」
「団長ならきっと大丈夫よね。殺しても死なないような奴だし。起きたら愚痴の一つでも言ってやりましょう」
「うん!」
「団長、早く戻ろう」
「あぁ……っと、すまないが先に帰っていてくれ」
帰り際、テリー団長の姿を見つけた。いつもの朗らかな笑顔とは程遠く、俯いてとぼとぼ歩いている彼のことがやけに気になった。
後を付けると、彼は建物の中に入っていった。孤児院だろうか。何故こんな場所に……。
「どうかしたの?」
「す、すみませんっ!」
後を付けていた罪悪感からか、背後から聞こえた声に思わず謝ってしまった。
「って、女の子団長さん。どうしてここに?」
「レッドジンジャー……テリー団長がここに入っていったのが気になってな」
「気になるなら入ってみる?」
「嬢ちゃん……どうしてここに?」
何人かの子供を抱き抱えたテリー団長が、ばつの悪そうな顔をする。
「テリー団長こそ、どうして?」
「団長はバナナオーシャンの孤児院をいくつか支援してるんだ。金銭的にもそうだし、たまにこうして遊び相手にもなってあげてる」
「お、おい、レッドジンジャー……」
いつも豪快な彼が、おどおどしているのが面白い。
「嬢ちゃん、このことはくれぐれも……」
テリー団長は口の前に一本指を立てる。
「別に隠すようなことでもないと思いますが」
「そうかも知れねぇが、う~む……嬢ちゃん、一つつまらねぇ話を聞いてくれるか?」
「?」
テリー団長と共に外に出る。夕暮れに染まった街が美しい。
「やっぱりバナナオーシャンの街は綺麗だな。春庭一だ」
テリー団長の笑顔も夕暮れに染まる。いつもの笑顔を徐々に取り戻しているようだ。
「ま、本当につまらねぇ話だからな、聞き流してくれて構わねぇ」
◇◆◇◆
あれはまだ俺が駆け出しの騎士団長だった頃。俺には嬢ちゃんくらいの娘がいたんだ。俺には似ても似つかない、可愛い子でなぁ。この子と妻のために、俺は一流の団長になるんだと意気込んでいた。
そしていつの間にか難しい任務も任されるようになっていた。家に帰る時間は少なくなったが、妻は「気にしないで下さい」と優しく微笑んでいたのを覚えてる。
直接会う時間が減っても俺は二人を愛していたし、こうして任務を全うし、二人に良い生活を送らせてやるのが一番の愛情表現だと思っていた。不器用だからな、俺は。
俺が遠征任務に出掛けている時のことだった。俺の住んでいる街に、極限級の害虫が現れたという噂を聞いた。
嫌な予感がしたが、任務を途中で放り出すことは出来ねぇ。結局俺が帰れたのは次の日の朝だった。
結果は……分かるだろ? 娘も妻も害虫に食い殺され、見るも無惨な姿に変わっていた。
俺はその害虫を見つけ出し、バラバラになるまで叩きのめした。
極限級の害虫を倒したことで、俺の騎士団の評価は上がり、バナナオーシャンの強豪とまで呼ばれるようになったが、俺には虚しさしか残らなかった。
……どうして傍にいてあげられなかったのか。どうして守れなかったのか。その思いが、まるで呪いのように今でも頭の中を巡っている。
この孤児院を支援しているのも、騎士団長を続けているのも、その呪いのせいだ。どうにかして、妻や娘に罪滅ぼしが出来ないかともがいている。善意なんかじゃないんだ。
どうしようもなく愚かで、馬鹿な男だ、俺は。
◇◆◇◆
「……ってなわけだ。つまらねぇ話だっただろう?」
「テリー団長……」
彼の大きな身体が、今では何故か小さく見える。
「私は、あなたが愚かだなんて思えません。バナナオーシャンには、あなたに救われた人がたくさんいる。例えあなたに善意が無かったとしても、彼らは皆あなたに感謝しているんです」
「嬢ちゃん……」
(どうしてだろうな。嬢ちゃんに娘の姿が重なる。確かに背は同じくらいだが、顔も雰囲気も全然違うのにな……)
「害虫を一匹倒せば、それだけで数十人の命が守れる。極限級ならその十倍以上も。だからこそ私は騎士団長になった。あなたも同じだと、私は信じています」
「嬢ちゃん……そうだよな、過去は変えられねぇが、これから救える命はたくさんある。いつまでもウジウジ考えてたら、あいつらに顔向け出来ねぇしな」
そう言って、いつもの笑顔を見せた。白い歯が薄暗い夕暮れの中でやけに目立っていた。
≪一方その頃、ブロッサムヒルでは≫
「ブンブン、攻撃!」
クコの魔法攻撃が炸裂し、敵部隊は陣形を大きく崩した。
「フリージア、今です?」
「はい! 行っきますよ~! わっきゅううう!」
ズドドドド。彼女のガトリングガンが火を吹く。敵は成すすべもなく、身体が崩壊していった。
「凄い威力です? 流石グリフィス騎士団期待の新人?」
「ふみゅ~……、褒め過ぎですって。でもフリージア、褒められて伸びるタイプです。ありがとうございます!」
主力花騎士がバナナオーシャンに遠征している状況だが、各騎士団の共同戦線により、ブロッサムヒルの安寧は保たれていた。
「グリフィス団長、心配。漢方、処方、必要?」
そう言って漢方の入った袋をフリージアに手渡す。
「ありがとうございます! それにしても、本当にどうしちゃったんでしょう団長さん。この前まであんんなに元気だったのに……うみゅ~……」
ツインテールがしゅんと下がっていく。彼女の気分と連動しているのだろう。
「げ、元気出す? グリフィス団長ならきっと大丈夫です?」
「そうだと良いんですが……」
そんな二人の掛け合いを見て、クコは物思いにふけっていた。
(団長、心配……決戦、間近? クコ、嫌な予感、存在……)
薬指の指輪を見つめるクコ。その心は遠くバナナオーシャンを見つめていた。
≪バナナオーシャン≫
「団長さん、そっちに一体逃げた!」
「よし、任せろ!」
鞘から刀を抜くと同時に、敵を一刀両断する。
「凄いね、団長さん。強くなってるよ!」
イキシアが嬉しそうにハイタッチをしてくる。
「本当に強いな、嬢ちゃん。これなら四天王が来たって怖くねぇぜ」
「ほ、褒め過ぎです……」
しかしテリー団長から褒められることは自身に繋がる。先の見えない状況だが、少しは希望が見えてきた。ように思っていた。
しかし、希望というものは、呆気なく絶望に変わってしまう。例えば、圧倒的な力を前にした時。
「きゃあぁぁぁ!」
「イキシア!?」
イキシアと、その部隊の花騎士達の悲鳴が聞こえた。何だ、何が起こっているんだ。稲妻のような光に包まれ、彼女達の姿を視ることが出来ない……。
数秒後、光が消えると、そこには倒れている花騎士達、ボロボロになったイキシア、そして黒と黄色の鎧のような外骨格を纏った敵がいた。
「奴は……まさか……」
その凄まじい威圧感に、本能が悟った。奴が最大の敵なのだと。四天王……雷鳴であると。
「ふむ。あの一撃を受けてもまだ立っている者がいるのか。この世界の戦士は、少しは骨がありそうだ」
雷鳴が一歩、また一歩踏み出す。ズシンという足音が頭の中にまで響く。
恐ろしい。あまりにも恐ろしい。もし私が動けば、その瞬間バラバラにされるのではないか。そのくらいの威圧感を奴は放っていた。
しかし動かねば。イキシアも他の花騎士達もまだ生きている。助けなければ。
刀の柄で、固まってしまった膝を何度も叩く。恐怖を捨てろ。動け……動け!
「行くぞ、レッドジンジャー!」
「了解!」
その声に、私の硬直も何とか緩む。そして彼らに続いて奴に突進していった。
「うぉぉぉ!」
「中々速いな。だが貧弱。この程度では傷も付かん」
レッドジンジャーの斬撃が、並みの敵なら数体一気に切り刻める斬撃が、呆気なく片手で止められてしまう。
(ビクともしない……なんだこの力は……)
「レッドジンジャー!?」
「五月蠅いな、虫けらども」
雷鳴はレッドジンジャーを放り投げる。同時に手をかざすと、その手のひらからはバチバチと電撃のようなものが生み出される。
「ぐっ……がぁ……!」
(魔法攻撃か……何て威力だ……身体がバラバラになりそうだ……)
「ほう、まだ生きているのか。まぁ、この程度の攻撃も耐えられないようでは、俺が自ら相手をする必要は無いが」
「くっ……そ……」
ボロボロの身体を奮い立たせる。どうすればこの難敵を倒せるのか、それだけに考えを巡らせていた。
(女の子団長さん達が雷鳴に接触!?)
セオ団長の能力により、ブリオニア達も簡易的なテレパシーを使えるようになっている。その情報共有能力により、交戦地点を割り出した。
(場所はA地点。動ける人は全員援護に向かって!)
「……すみません、すぐには向かえそうにありません」
サントリナの周りには灼熱の炎が渦巻いている。その炎の主は……Aランクの戦士、炎武だった。
「へっへっへ、やっと見つけたぜ、オレンジ色の花騎士! 今日こそてめぇを焼き殺してやる!」
「こちらアブラナ。こいつを倒したらすぐに向かうから、それまで持ちこたえなさい」
アブラナとオジギソウもまた、Aランクの戦士、氷雪と対峙していた。
「ふふ、随分と余裕ですね、金色の花騎士さん。そんなあなたが絶望し、命乞いをすることになるのが、今から楽しみでなりません」
「誰がするかっての!」
それぞれの想いを乗せて今、決戦の火蓋が切られた。
団長は、花騎士は、春庭を守ることが出来るのか。春庭の平和は彼女達に懸かっている。
ついに始まりました、バナナオーシャン決戦。
正直、戦力が違い過ぎますが、団長達は勝てるのか……。
次回もご期待下さい。