ミリス大陸大森林。
ちょうど人族と獣族の領域の狭間の地域。
街道からは少し離れた森の奥。
「誰か助けてーっ!」
悲鳴が響いた。
悲鳴を上げたのは獣族の少女だ。
獣族らしく薄手の服をまとっているが、破かれたのか無残に半裸となっている。
豊満な体があられもなくむき出しだ。
「へへっ。こんなところで悲鳴を上げたところで誰も来ねえよ」
いやらしい声をかけたのは人族の中年だった。
ひとりではない。
10人ほどで少女を取り囲んでいる。
手には武器。
彼らはこの辺りを根城にする盗賊団だ。
通りすがりの旅人を襲う。
迷い込んだ者がいればさらう。
今日はたまたま彼らの根城にこの獣族の少女が迷い込んだことをいいことに、凌辱した挙句に売り飛ばそうとしているのだ。
「獣族ってのは今頃発情期なんだろ? 俺たちが満足させてやろうってんだ」
にやにやと下卑た笑みを浮かべ、リーダー格の男が少女に手を伸ばした。
「誰が……あんたたちなんかにっ」
少女は必死で手を払いのける。
しかし背後にいる男たちが手に手に武器を持っているという事実が、少女の身をすくませる。
「なぁに、お互い気持ちよくなろうってんだ、悪い話じゃ……」
「待てっ!!」
誰も来るはずのない森の奥。
そのはずなのに鋭い声が走った。
少女も、リーダー格の男も、背後の手下たちも。
声のした方に顔を向ける。
そこには、ひとりの青年が立っていた。
軽装な皮鎧。
腰には1本の剣。
しかしなにより目立つのは燃えるかのごとく真っ赤な髪だ。
「何だぁ、てめえは」
「その子の知り合いではないが、こっちも仕事でね」
「あん?」
盗賊団をつぶす仕事か? それならば騎士団の仕事だ。
こんな若造ひとりで来るはずがない。
こっちは10人もいるのだ。
職業柄荒事ばかりをしてきた10人。
目の前にいる若造ひとりどうとでもなる。
襲われている少女もそう思っているのか、助けが来たというのに動くことができない。
「おい、さっさとやっちまえ!」
リーダー格の男の指示で、数人が武器を手に近寄る。
「へへっ、余計なちょっかいを出してこなければ、がっ!?」
近寄った男は最後まで言い切ることは出来なかった。
赤髪の青年の右手が掻き消えたかと思うと、男の顔が弾け飛ぶように上に跳ね上がった。
顎に一発のアッパーカット。
一撃で男は失神した。
「てめえ!!」
周囲の男たちが色めき立つ。
武器を構えると赤髪の青年に殺到する。
そこから一方的な殺戮が始まった。
‐‐‐
赤髪の青年の姿が掻き消えたかと思うと、数メートル離れたところに出現した。
瞬間移動と見まごう速度で移動したのだ。
すでに剣を抜き放ち構えている。
剣を振った。
男たちのひとりが血しぶきを上げて倒れる。
剣を振り切った体制のまま赤髪の青年は別の男に凄まじい速度で体当たりをした。
男は数メートル吹き飛ばされ近くの樹に叩きつけられた。
赤髪の青年が剣を振り、地を蹴り、宙に舞うたびに男たちは吹き飛ばされていく。
武器を振るい攻撃を仕掛ける暇すらない。
1分と立たず手下たちは壊滅した。
「な、何もんだ、てめえ」
「アルス・グレイラット。……龍神オルステッドの手の者だ」
「りゅ、龍神!?」
リーダー格の男が目を見開く。
あまりにも自分たちのいる場所とは違いすぎる存在だ。
街中で喧嘩していたら星をまたにかけて戦う世界最強のヒーローが相手だったようなものだ。
「もうこの盗賊団は解散しとけ」
赤髪の青年――アルスがそう言うと、リーダー格の男は意識を焼失した。
アルスが剣の腹で思い切り顔を殴りつけたからだ。
‐‐‐
「さて、大丈夫かな、お嬢さん」
アルスは少女に手を差し伸べた。
「あ、ありがとうございます!」
少女はアルスの手を握り立ち上がると、そのままの勢いでアルスに抱き着いた。
「え!? あの、ちょっと」
「危ないところを助けていただき、なんて申し上げたらよろしいか……」
少女の目がキラキラしている。
「他にお礼できるものもありません。よろしければこの体を好きにしていただければ……」
少女の目に潤むものが混じっている。
情欲の色だ。
ただでさえ今は獣族にとっては発情期。
身の危険を格好よく救ってくれた若い青年――アルスに、心だけではなく体も反応しようとしているのだ。
「いや、待って、ちょっと待って」
「待てません」
ぎゅっと、少女が抱きしめる手に力を籠める。
半裸の、むき出しになった胸が押し付けられる。
大きかった。
よく育っていた。
そして、獣族だった。
ケモミミなのだ。
アルスの手が、自然と少女を抱きしめるように動き、ぶるぶると震えて途中で止まった。
理性と本能が戦っているのだ。
本能は強力だった。
アルスにはふたつの血が流れている。
父ルーデウスから受け継いだノトス・グレイラットの豊満な身体を愛する血と。
母エリスから受け継いだボレアス・グレイラットの獣族を愛でる血だ。
グレイラットのハイブリッドとも言えるアルスの体は、ついにはその理性を打ち破り、少女の体を固く抱きしめようと動き――
「おーい! アルス君、終わったー?」
――愛する者の声で一気に理性が本能を打ち破った。
‐‐‐
「えっ?」
先ほどの剣戟をさらに上回る速度でアルスの姿が掻き消えた。
声をかけてきたのは赤みがかった髪の中肉の女性だ。
少女にも負けず劣らずの豊満な胸が目につく。
と、一瞬でアルスはその女性のそばに移動していた。
「じゃ、お嬢さん! こんなところに迷い込まないように今後は気を付けてくださいね!」
「は、はい……」
抱きしめていた手の行き場をなくしてそろそろと下ろしながら少女がうなづく。
「あと、こんなことがあったからと言って、人族すべてが悪いわけじゃないですから! いい人族もいるって覚えておいてください! ……じゃ!」
言うが早いが、アルスは横にいる豊満な胸の女性を抱っこすると、すごい速度で去っていった。
急展開すぎる。
少女は理解が追い付かないまま、どうやらお礼を受け取ってもらう機会を失ったことを悟った。
九死に一生を得たにもかかわらず、何だか損をしたような気分でその場を立ち去り、自らの部族のもとへ帰るのだった。
‐‐‐
「アイシャ姉、こわかったよー!」
もう十分離れたところで、アルスはアイシャを降ろすと、いきなりアイシャの胸に顔をうずめて泣き出した。
「ええ? 10人くらい、アルス君全然問題にならないでしょ」
「そうじゃなくて、さっきの子」
「うん。アルス君に抱き着いていた子ね」
「あの子のおっぱいと、ケモミミを見たら、体が勝手に抱きしめようとしちゃったんだ……」
「あー……」
小さいころからおっぱいと獣耳に目がなかった、幼いアルスの姿を思い出すアイシャ。
「俺浮気なんかしたくない! 好きなのはアイシャ姉だけなんだよー!」
「よしよし」
泣きじゃくるアルスの頭を撫でるアイシャ。
今回のオルステッドの任務は少女を先ほどの盗賊団から救うことだ。
あの少女はある部族の長の家系である。
今回救われなかった場合、少女は命こそ失わないが人族への激しい恨みを抱くことになり、後に部族丸ごと反人族の急先鋒となる。
それを防いだ場合は部族は他の部族と共に人族と共存する道を選ぶこととなる。
それはラプラス戦争において大きな要因となるわけではないが、ひとつひとつを積み重ねることによって、少しでも戦争の情勢が変化するという見通しだったのだ。
ちなみにアイシャは今回、近くのルード傭兵団の視察という名目でついてきた。
単にアルスと一緒にいたかったからだが、今回それが功を奏したようだ。
「アイシャ姉のおっぱいが世界で一番なんだよー!」
まだ泣いているアルスの顔をおっぱいにうずめてやりながら、アイシャは考える。
――巨乳おっぱいとケモミミが登場しない任務って、選べるのかなぁ?
後日。
ルーデウスはオルステッドから「アルスの任務について相談なんだが、……巨乳というのはどれくらいからだ」と聞かれ、絶句するのであった。
アルスがかっこよく任務をこなすところを書いていたはずなんですが。
どうしてこうなった。