もぞもぞ。
「あ、ごめんアルス君。起こしちゃった? ルロイ君が布団蹴っ飛ばしちゃってたから直してた」
「やだなぁ、いなくなったりしないよ」
「そう。あたしがアスラ王国に行っている時のこと思い出しちゃったんだ」
「うん。アスラ王国にいる時はあたしも寂しかったし、ずっとこうして、隣にアルス君がいたらなぁ、って思ってたよ」
「ほらほら、おっぱいでぎゅーっとしてあげるから安心して」
ぎゅーっ。
「やんっ、こら、なめちゃダメ」
「だーめ。明日も任務でしょ? 寝不足で行ったらケガしちゃうよ」
「そりゃさ、治療魔術もあるけど。でも油断したらダメだよ? 治しきれないケガだってあるし。最悪死ぬことだってあるでしょ?」
「わかったらよろしい。……あたしやルロイ君を置いて死んだりしたら許さないんだから」
ちゅ。
「……えへへ。ちゅーって気持ちいいよね」
「うん。あたしも最近のちゅーが一番気持ちいいかな。なんでだろうね。最初の頃はみんなに見つからないようにしてたし、ふたりで逃げてる時はゆっくり感じる余裕がなかったからかな」
「アスラ王国だとね、人に隠れてこっそりしたりするのが気持ちいいって話している人もいたんだ。背徳感とか言って」
「あたしにはわからないなぁ。だって、今が一番幸せだもん」
「アルス君も? えへへ、一緒だね」
「……ホントに。あたしが結婚して、こんなに幸せになるなんて。信じられないよ」
「ノルン姉がルイジェルドさんと結婚する時にさ、あたし、よくわからなかったんだ。人を好きになって、その人と結婚して、幸せになるって」
「うん。お兄ちゃんのことはずっと好きって思ってたよ。でも今考えると、今アルス君に感じてる好きとは全然違ったみたい」
「お兄ちゃんに対しては、そうだなぁ、家族としての一番上というか、『この人の言うことを守っていれば幸せでいれる』って感じ?」
「うん。言葉にするとなんか難しいね」
「アルス君にはね、『絶対アルス君を幸せにする。それで絶対あたしも幸せになる』って感じかなぁ」
「お兄ちゃんはずっとあたし達を守ってくれてた。アルス君もあたしとルロイ君を守ってくれると思っているけど、あたしもアルス君とルロイ君を守んなきゃ、って思ってる」
「違うよ。そりゃお兄ちゃんのほうがアルス君よりずっと強いけど、そこを比べているじゃないの」
「……あたしはねぇ。お兄ちゃんといる時はお兄ちゃんに何かしてあげたい、って感情がなかったんだ」
「うん。メイドとして仕えることはしてたよ。家事やったり」
「でもそれはお兄ちゃんが好きだからじゃなくて、メイドだからやるのが当たり前だと思ってたの」
「やらなかったらお兄ちゃんのそばにいる権利がないと思ってたんだね」
「アルス君に対しては違う。あたしはアルス君が好き。それが一番最初にある。アルス君のためならなんだってしてあげたい。あたしのやることでアルス君に喜んでもらいたい」
ちゅ。
「これだって、あたしが気持ちいいってのもあるけど、それでアルス君が気持ちよさそうにしてくれるのもあたしは気持ちいいの」
「……アルス君も? えへへ、うれしいな」
もぞもぞ。
ぺちん。
「でもこれはだーめ。明日の任務、ちゃんと終わらせてきたらいっぱいしよ」
「ねね、アルス君はもっと子供いっぱいほしい?」
「うん。あたしもあとふたりくらいは欲しいかなぁ。ルロイ君もかわいいし、もっと子供が増えたらきっともっと幸せでいっぱいになれると思う」
「……あたしは男の子でも女の子でもいいかなぁ」
「そっか。アルス君は次は女の子がいいんだね。……えー、あたしに似たらかわいげのない子になるよ」
「自慢じゃないけどあたし、子供のころから他の人ができないことがあるって、すごい鈍くさいと思ってたからね」
「ちゃんと練習すれば誰だってできるのに、やらないからできないんだ。バカだなぁって思ってた」
「今はね、向き不向きってのがあって、誰でもなんでもできるとは思ってないよ」
「でもそんな当たり前のことがわかってなかった。あたしが一番バカだったんだね」
「それがわかったのはアルス君とふたりで逃げた時。……ちゃんとお兄ちゃんから逃げられると思ったし、うまくやれると思ってた」
「でもうまくやれなかった。お兄ちゃんに見つけられちゃったし、見つからなくても今みたいに幸せにはなれなかったと思う」
「なんでもわかってると思ってたけど、幸せになるってことが全然わかってなかったんだね」
「だからお兄ちゃんに見つかったことも、そのあとアスラ王国に行ったことも仕方なかったと思ってるよ」
「アスラ王国でね、いろんな人と知り合いになったんだよ」
「あたしって、ずっと家にいたからね。お兄ちゃんたち以外の幸せを見たことがなかったんだ」
「いろんな形の幸せがあって、いろんな幸せな人たちの顔を見て」
「あぁ、幸せってこんな風になるもんなんだぁ、って思ったんだ」
「それで改めて思ったの。アルス君と幸せになりたいなぁって」
「だからね、あの経験があったからあたしは今幸せになれたんだって思ってるよ」
「そうだね。今のあたしなら、あたしみたいな女の子が産まれても小さいうちに間違いを教えてあげられるかな」
「……えへへ。改めて言うね。あたしをもっと幸せにしてね。約束だよ」
ちゅ。
「うん。そろそろ寝よっか」
「もうちょっとぎゅってしてくれると嬉しいなぁ、とか」
ぎゅっ。
「えへへ、嬉しい。それじゃお休みなさい」
「うん……明日も頑張ってね……」