「はぁ……」
最近、アイシャのスキンシップが激しい。
「お兄ちゃん、膝に座っていい?」
とか。
「お兄ちゃん、あーんして!」
とか。
「お兄ちゃん、頭なでてくれない?」
とかだ。
別に嫌なわけではないのだが、こう頻繁だとびっくりする。
アスラ王国から帰ってきてからこっち、ずっとそんな感じだ。
ちゅーして、とかは言ってこないので、そこから先はアルスに満たされているのだろうか。
シルフィたちも最初は驚いていたようだが、今はほほえましいものを見るような目で気にしないようになっている。
どんな心境の変化かわからないが、いいことなのだろうか。
30超えたおっさんと30間近の女性の関係性としてはよろしくないのではとも心配になる。
アルスはどう思っているのだろう。
亭主の意見をちゃんと聞いてみたほうがいいのかもしれないな……。
‐‐‐
「ただいまー!」
アルスはグレイラット邸の扉を開けながら挨拶をした。
「アルス君、おかえりー!」
どひゅん。
そんな音がしそうな様子でアイシャが飛び出してきた。
「大丈夫? ケガとかしなかった? 風邪もひいてない?」
アルスにしがみつきながらアイシャが問いかける。
家を空けていたのはたった3日だったのだが、数か月ぶりに会ったかのような心配ぶりだ。
「大丈夫だよ。ケガも風邪もないよ」
ふわりと笑ってアルスが答える。
「そっかー。よかった!」
アイシャは花のような微笑みを浮かべた。
‐‐‐
アルスが帰ってきた。
さっそく聞いてみようと思う。
「おかえり、アルス」
「ただいま、パパ。――ルロイはどこに?」
「庭でロキシーから魔術の授業」
「じゃあちょっと挨拶してきますね」
――うーん。どう言い出したらいいのかわからん。
「無詠唱魔術の練習でした。気を散らしたら青ママに悪いので放っておきます」
アルスが戻ってきて言う。
無詠唱魔術の練習は無言で自分の中の感覚とにらめっこしないといけないからな。
確かに人がいると邪魔か。
「今回の任務はどうだった?」
「そうですね。オルステッド様にはもう報告したのですが、アスラ王国で100人規模の盗賊団の壊滅でしたよ」
「100人か。そりゃ多いな」
「苦戦はしませんでしたよ。ルード傭兵団に協力してもらって、正面で騒ぎを起こしました。手下が気を取られている隙に俺が裏口から忍び込んで幹部を叩きのめして終わりです」
「そうか」
「逮捕とかはアリエル女王が手配してくれた騎士団にあとを任せちゃいましたからね。楽な仕事でしたよ」
それは確かなアルスの実力あってのものだろう。
例えばエリスだったら忍び込むとか考えもしなそうだし。
俺でも上級剣士が複数名いるかもと考えるとひとりで手練れ数人を相手にするとかやりたくない。
まだ拠点を丸ごと吹き飛ばす方を選ぶかもな。
「アルスくーん、今日はこっちで晩御飯でいーい?」
アイシャが顔を出して言う。
「いいよ」
「わかったー。あたしたちの分も料理しちゃうね」
そう言ってアイシャは台所に戻る。
アイシャは晩御飯の準備を手伝ってくれているようだ。
アルスとアイシャはしょっちゅうこうしてうちで食事をしていく。
別にお金には困っていないだろうし、気が向いたら自分たちの家で食事をするので、単にアイシャが2度料理する手間がもったいないからだろう。
でもちょうどアイシャが顔を出したところだし、聞きたかったことを聞いてしまおう。
「あのさアルス。……最近アイシャがめっちゃ甘えてくるんだが、何でだかわかるか?」
「あー」
心当たりがあるのか、アルスが頭をかく。
「いままでの15年を取り戻すんだそうですよ」
「へ?」
「アイシャ姉って、10歳からパパと暮らし始めたじゃないですか」
「そうだな」
「で、俺と駆け落ちするまで15年くらいずっとメイドかつ家族の一員だったわけです」
「ふむ」
「今になってもったいなく思ってるらしいんですよ。もしメイドじゃなければもっとパパに甘えたかったのにって」
「そうなのか?」
割とアピールしてきたりはしてたけど。
あ、でもアピールか。
いつからか俺が許可しないと抱き着いたりはしてなかったな。そういえば。
メイドだからか。主人の許可がないとダメだからか。
そうか。メイドであることって、アイシャの中でそんなに大きかったんだな……。
「だからしばらくは好きにさせてほしいです。パパが嫌じゃなければ」
「嫌ってことはないんだけどな……。アルスは、焼きもちとか、感じないのか?」
「俺はもっとすごいこと毎晩してますんで」
あらやだこの息子。
さらっとのろけやがった。
「……でも、兄妹でそんなにくっついていたりするのは一般的に変じゃないか?」
「パパもこだわりますね」
アルスが笑う。
「そうですね……あ、クリス、いいところに来た。ちょっと来て」
ちょうど廊下を通ったクリスにアルスが声をかける。
今のクリスは小学6年とか中学1年とかそれくらいの年頃。
世間的には難しいとされる年頃だが、相変わらずパパっ子で嬉しい。
「なに? アルス兄さん」
がばっ。
「わっ!」
アルスがクリスをお姫様抱っこした。
「クリスー! クリスは本当にかわいいなー! お兄ちゃんは鼻が高いぞー!」
言って、お姫様抱っこしたままくるくる回る。
「な、なんですか兄さん」
クリスの顔が赤くなるが、まんざらでもないようだ。
最後にアルスがおでこにちゅーして、降ろす。
「ほら、お返しは?」
アルスが自分の頬をつつくと、クリスは赤い顔のままほっぺにちゅーをした。
「もう、急にふざけないでよ……」
困惑しながらも、ちょっとでれでれしながらクリスが階段を上って自室に去る。
と、アルスが俺に向き直る。
「――わかりましたか?」
「ああ。クリスがかわいいというのは全く同意見だ」
「そこじゃないですよ」
アルスが笑う。
「……今のも兄と妹なわけですが、何か変でしたか?」
「あ」
そうか。
どっちも俺の子供だからまったく気にしてなかった。
うーむ。
兄妹であれば、別に変じゃないのか。
リーリャはもとより、シルフィたちが変な目で見ないのも、納得だ。
「まぁいい年をして、って思われることはあるかもしれませんが、別に家の中なら身内しか見ないんだし、いいんじゃないですか」
「そうだな……俺の頭が固かったかもしれん」
その後、クリスに自慢されたらしいララとリリも自室から降りてきて「私も」なんて言ってきた。
「リリー! かわいいぞー!」
「ララ姉ー! クールでかわいいよー!」
とアルスが抱っこしてくるくる回る。
リリはえへへ、とほっぺに手を当てていた。
ララはなぜか俺にVサインを見せてきた。
‐‐‐
「へえ、お兄ちゃんがそんなこと聞いてきたんだ」
アルス邸のお風呂。
アルスとアイシャが風呂に入っている。
ルロイは食べたらおねむになってしまったようで、もう布団の中だ。
「うん。急にスキンシップが増えたから戸惑っているみたい」
アイシャに体を洗われながら、アルスが答える。
アルス邸ではお互いの体を洗いあうのがデフォルトだ。
ちなみに夫婦一緒に入らないという選択肢も存在しない。アイシャの体調的な問題の日以外は。
「お兄ちゃんもまだまだ修行が足りないねー。ちょっと人妻に近寄られたくらいで」
「人妻って言い方はやめてよ」
アルスが笑う。
「んー、焼きもち?」
「そんなんじゃないよ」
ひょい。
アルスがアイシャのわきの下に手を入れると、自分の膝の上に乗せる。
「アイシャ姉は俺のものだって、ちゃんとわかってるから」
アルスがアイシャの胸に顔をうずめる。
豊かなバストがむにゅむにゅと形を変え、アルスの顔を包み込む。
「んふふ」
くすぐったそうに、アイシャが笑う。
ぎゅっと、アルスの頭を抱えるように手を回す。
「……人妻って聞くと、意識しちゃうんだ。アイシャ姉が俺の奥さんなんだって」
「うん」
「そうすると、ほら、興奮しちゃうというか」
「具体的には?」
「今すぐお風呂から出て、寝室に行きたくなっちゃう」
「だーめ。ちゃんとお風呂入ろ。アルス君任務明けなんだから、ちゃんと疲れとろ」
「うん。だから、人妻とか、そういうワードは避けてよ」
「はーい」
ざばー。
アイシャがアルスの体にお湯をかける。
「じゃあ、アルス君」
「ん」
「洗って。……優しくね」
「はいはい」
つまりは。
ルーデウスは、ラブラブカップルにダシにされているだけなのかもしれない。
毎度内容がなくて申し訳ありません。
本物語は幸せなアイシャを書きたいだけですのであしからずご了承ください。
20/4/17追記
時系列的にララはアスラ王立学校に通っているはずですが、
よく勝手にサボって帰宅しているのです。
決して忘れていたわけではないったらないのです。