オーバーロード ~堕ちし聖女と黒き騎士~   作:赤猫project

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こちら8話の前に分かれたジャンヌ(分体)のヴリトラ回となっております。
大きく話の流れが分かれるシーンがありますので、許せるという方のみお読みください <(_ _)>


第9話

―馬車の中 邪ンヌ(分体)視点―

 

シャルティアからの<転移門(ゲート)>をくぐり移動するヴリトラ、一瞬の暗闇から抜けた先の景色は豪華な馬車の中だった。

左にはプレアデスのソリュシャンとセバス、右には真ん中にシャルティアと両脇に"吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)"が座っていた。そして私が来たのに気づくとわざわざこんな狭い馬車の中で全員私に向かい膝間づき頭を下げていた。

 

「ようこそ、邪ンヌ様」

「うむ、楽にせい」

「はっ」

「さーて、早速じゃが今の現状を教えてくれるか?」

「畏まりました」

 

ソリュシャン達の報告によると、ある男がこれから私達の馬車を盗賊達が待ち伏せする所に連れていく予定のようでその中に武技の使い手が居れば捕獲、いなければ彼らの一人からアジトの場所を聞き襲撃という算段らしい。

 

「なるほどのぉ、大体わかった!まあわえがいるから安心せぇ」

「おお!なんと心強い!」

「流石至高の御方です!」

「あと……シャルティア、お主は暴走だけはせんようにな」

「は、はい。気を付けるでありんす……」

 

っと、ある程度話していたら突然馬車が止まった。外からは数人の男達の声が聞こえてくる……あれが今夜の犠牲者のようだ。

 

「おい、降りろ!」

「うるさいのぉ……言われずとも降りるというのに」

「では、行ってくるでありんす」

 

シャルティアはそういい馬車を開き外にでる、外には複数の武装した人間達……完全に欲にかられた愚か者達が私達を取り囲んでいた……が、それも一瞬だけ。

降りてきたシャルティアに先走って触れようとしたアホがまず一人しんだ。そしてその光景に恐れた他の盗賊達は足がすくみ逃げる機会を失いシャルティアの従者である二体の吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)に無残にも殺され、ここまで案内した愚かな貴族の男はソリュシャンの娯楽の為の玩具となり体の内に沈む。

とこんな感じに想定通りのあっさりとした終わりを迎えた。

 

「はい、お疲れ様じゃ。とはいえ武技使いが居なかったのは少し残念だったが――」

「――邪ンヌ様」

「お?どうした吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)、なんか情報は得たか?」

「はい、どうやらこの近くにある山の洞窟に盗賊のアジトがある様です。そこに()()()()という人間を雇い守らせていると」

「ブレイン?誰じゃそれ?」

「その名、情報収集の際聞いたことのある名です。確か王国最強の戦士であるガゼフ・ストロノーフと互角に戦った者とか」

「ほぉ、あのガゼフとか……いい事を知った!よくやったぞ吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)!」

「ありがとうございます」

 

「では今からそこに向かう。セバスはこの後再度情報収集の任務を続けよ。私とシャルティアと"吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)"の4人でアジトに向かうとする」

「「「はっ!」」」

「念の為セバスには第9位階の透明化魔法を込めたスクロールを渡しておく。もし何者かにつけられていると思ったらそれを使いソリュシャンと王国を離れ森で潜伏するように」

「畏まりました」

 

一通り指示を出し、セバスとソリュシャンは馬車に乗り王国へと戻った。

残った私達は死体を操りアジトの入り口まで案内させた。どうやら昔使われていた採掘現場の跡地を盗賊達が占拠しアジトへと改装したようだ。山の大きさと洞窟の大きさや補装を見た感じかなり広く入り組んでいるだろう。

 

「かーなり広いのぉ。それに盗賊のアジトじゃ、トラップもあるかもしれんな」

「私が先行します」

 

自信満々に"吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)"の一体が走り坑道内に入った。が、まさかの入り口近くに仕掛けられていた落とし穴に引っかかりズポッと落ちていく……そのあまりにもシュールな光景に私は笑いシャルティアは呆れた表情を見せる。

 

「えー……」「プッ、ハハハハ!」

「お前……かの偉大なる御方の前で恥を晒すの?さっさと出てこい」

「も、申し訳ございません……!」

「お前、御方を失望させ――」

「ハハハ、まあまあ良いではないか!」

 

私は竜の尾で"吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)"の体を掴み落とし穴から出す。

"吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)"はかなり申し訳なさそうな顔をして私を視ている、そんな顔しなくてもいいのに……。

 

「よいよい、この程度のミスで失望するようならギルドは成り立っておらんわ!ハッハハハハ!」

「邪、邪ンヌ様?」

「それに、誰にでもミスは起こるし苦手なモノは存在する。それを知った上で役立てるのが上に立つ者の役目ってもんじゃ♪」

 

適当にそれらしき事を言いながら引き上げた吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)の頭を撫でる。

吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)は先程の出来事のせいか、頭を撫でられている事に驚いているのかわからないが白い綺麗な肌が赤くなっている。

その光景をみて私のカワイイメーター(?)が上昇し私はさらに彼女を撫でた。

 

「まったくカワイイのぉ♪」

「邪、邪ンヌ様、お、お止めください……///」

「なっ⁉羨ましい‼(お、お前!喜んでんじゃありんせん!)」

「本音と建て前逆になっておるぞ~」

「っと、そんなこんな騒いでたらやってきた様じゃぞ」

 

私達が駄弁っていると洞窟の奥から物音がこちらに近づいてきていた。その音はだんだん近くなるにつれ装備がこすれる音や足音も大きく増えていく、どうやらかなりの団体で"お出迎え"が来たようだ。

 

「さて、収穫じゃ♪」

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

大分坑道を歩き山の中腹辺りまで降りて来た。

此処まで降りてきても出てくる盗賊は皆武技を使わない雑魚ばっか、軽く手を振るだけで体を両断できてしまう程に脆弱、額へのデコピンで10数mふっ飛び頭が消し飛ぶ人間すらいるレベルだ……こんな盗賊の所になんでガゼフと互角とまで言われる男が居るのか不思議でならない。

 

「こりゃわえが居なくても良かったかものぉ~」

「至高の御方が欲しがるような人間も居ませんし、此処はハズレかもしれないでありんすねぇ」

「うーん――」

「――おいおい、楽しそうだな」

 

突然前方から男がやってきて声を掛けて来た。青い髪に軽装の装備、腰にはこの世界では珍しい刀を携えている。

明らかにほかの盗賊とは雰囲気が違う、この盗賊達のボスなのか、それとも目的の"ブレイン"なのか……

 

「ぜーんぜん、弱すぎて楽しくありんせん」

「血で出来た球……見た事ないが、マジックキャスターか」

「ええ、信仰系でありんす」

「何だっていい、こっちの準備は出来てるぜ」

「……お主、わえら相手に一人で十分だと?」

「雑魚が増えたところでお前達に届く訳もないし余計足手まといだ、それなら俺だけで良いさ」

「ふーん、まあいいわ。行きなんし」

「シャアアアアアア‼‼」

 

シャルティアの名で吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)が青髪の男に突貫した。その爪で男に襲い掛かるが男は居合の構えと同時に高速の斬撃を繰り出す。吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)はその攻撃を見切り後ろに飛びのいたが肩辺りに傷を負った。

 

「(ほーん……あ奴、吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)に立ち向かえる程度のレベルは持っているようじゃの)」

 

吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)も魔眼や魔法で対抗するが、魅了の魔眼はレジストされ放った魔法も上手く回避されている。あの早い斬撃が来る以上うかつに間合いを詰めることもできない吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)は尻込みしていた。

おそらくあの高速の斬撃は……武技か?確認しなければ――

 

吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)よ下がれ、わえが試す」

「は、はっ」

「い、至高の御方直々に!でありんすか⁉」

「少しわえがためしてやろう」

「フッ、そうかよ(あの白い吸血鬼とドレスの吸血鬼が驚き焦る主人……同じヴァンパイア、では無いな)」

「(なんの種族だ……?それが分かれば立ち回りも変えられるんだが……)」

 

「ブレイン・アングラウスだ」

「(っ、じゃあコヤツがガゼフと互角に近い腕を持つ奴じゃったか)わえは「ヴリトラ」、是非楽しませてくれ」

「(その余裕そうな笑み……引っぺがしてやる!)」

 

ブレインは先程と同じ様に刀を鞘に納め居合の構えを取り動かない、もしやこの構え自体が武技なのか。

今まで身体能力を一時的に強化するモノや攻撃スキルに似た技を放つ武技は見て来たが"「構え」から「居合」までの流れ"が一つの武技となっているものとは驚いた。

 

「準備は出来ているようじゃな♪」

「(飛び込んで来い……!俺の武技〈領域〉は半径3m以内の全てを把握する……間合いに入った瞬間、あの首に〈神閃〉を叩き込んでやる!)」

 

私はゆったり歩きながら男との距離を詰める、そしてブレインの領域内に足を踏み込んだ。

 

「(喰らえ、秘剣<虎落笛(もがりぶえ)>‼‼――)」

 

鞘から人類が知覚する事すらできない超高速の抜刀から不可視の居合を放つ……が、私から見れば鞘から抜かれた一撃はかなり遅い。感覚的には緩いキャッチボールの弾ぐらいのスピード、刀を避ける事も止める事も容易い一撃だった。

 

「(んーわえがこのレベルのスピードに感じるという事はー……人間のレベルでは上位という事に~……なるのかのぉ?)」

 

そんなこんな考えてたら刀の刃が首元に到達寸前だった。が、そんな事気にせずこの男をどうするかを考えている。そして居合の一撃が首に命中する――

 

カキィイン‼‼

 

「……は?」

 

神速の一撃は確実にあの女の首を捕えた、その一撃を持って首を刎ね飛ばしている筈だ。はずだったのに……女の頭は残り、刃が止まっていた。

 

「ば、ばかな……」

 

刀を首から放す。刃が触れた箇所に傷は一つもなく、薄皮すら斬れていないのか血すら一滴も出ていなかった。

 

「んー……人間レベルだと速いんじゃろうが……わえ的にはイマイチじゃな」

「ば、化け物……!」

「フッ、今更じゃのぉ。わえ達は化け物、冷酷で可憐な化け物じゃよ……♪」

「……(逃げるか、狙うは足!)」

 

ブレインは再度<神閃>を放つ、その一撃は先程とは違い首ではなく足首を狙ったモノの様だ。が、その今度はその居合が届く事は無くその刀を脚で簡単に踏み止められた。

 

「……っ⁉」

「んーその武技は見飽きたのぉ。もっと強い武技は無いのかぁ?」

「(その武技は俺の最強だっつうの……)」

「やっぱ実力を測るのは無理だったんかのぉ……。わえらの実力は天と地ではなく宙と地程の差があっては武技はどうなのかとか調べるのは苦労する……」

「ぐ……うぉおおおおおおお‼‼」

 

怒号を吐きながらブレインはヴリトラに斬り掛かる。先程とは違い神速の一撃を放つ武技ではなくがむしゃらに連続で刀を振り下ろし続ける。

おそらく普通の人間であれば高速の連続斬りに見えその一つ一つが人間一人程度なら両断することは容易な威力はあるだろう。

そう、()()であればの話だ――

 

ヴリトラはその一撃一つ一つを爪一本で一振り一振り丁寧に優しくはじき返していた。

 

「ハァ……!ハァ……!グッ、ハァ……、ハァ……」

「おや、疲れたかの?」

 

ブレインは恐怖する、その圧倒的な力を見せつける化け物に――

人間如きが、最強という存在を目指す事は間違いだったのだと強く感じさらに息が乱れる。

既にボロボロとなり散りかけた心を強引に繋ぎとめていたが、いまそのつなぎ目が解けていくのを実感する。

 

「俺は……努力して……!」

「うんうん努力は大事じゃの。だがのぉ、いくら努力したところで()()()()()()()()わえ達に追いつけるわけがない」

 

()()()()()()()――

この一言がブレインの心を完全に砕き折った。

自身は死に物狂いで無駄な努力をし、あの男を超えようとした夢すら無意味。

「全てが無意味だったのだ」と、そう教えられたのだ。

自身の無意味な人生と努力に涙が溢れた、いつ以来の涙だろうか。

 

「さて、わえも目的があるんでのぉ。大人しく――」

「――俺は馬鹿だ……」

 

ブレインは声を上げ、背を向け駆け出す。

その声は先程までの戦士の咆哮とはまるで違う幼い子供が泣きわめいているのと同じだった。

 

「あっこら逃げるな⁉」

 

あまりの展開にすぐに動く事ができなかったヴリトラはすぐに追いかけ捕まえることが出来ず目の前でみすみす逃してしまった。

 

「んー……もしかして、わえあの男の心へし折ったのか?」

「流石でありんす邪n……ヴリトラ様!あの男を力でなく言葉だけで全てをへし折るなんて!」

「いやー……完全に無意識なんじゃがなぁーじゃない!済まんがシャルティアよ、あの男を捕まえてくれ!」

「畏まりました!」

 

シャルティアと吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)はウキウキで駆けだしブレインが逃げた方角に向かう。

シャルティアが向かった後その時のハイテンションな感じに突然謎の不安感を感じた、そしてその不安は現実となってしまう。

数十秒後、シャルティアが向かった方角から無数の悲鳴が木霊してきたのだ。

 

「んあ?」

 

ものすごい不安感を抱きながら全速力でシャルティアの後に向かうヴリトラ、進んでいくと奥の通路から他とは違う明るい光が漏れてきているのを見つけその方向に駆け寄る。

光の先は開けた広間、そこはいくつもの通路とつながっておりテントや武具も置かれていたようだ……だが今一番に目が入った光景は其処では無い――

ヴリトラが来た通路方面を守るように建てられたであろう無残に壊されたバリケード。

 

辺り一帯に飛び散る盗賊の血と肉片、その人間だったモノが使っていたであろうボウガンや剣といった武器。

爪の様なモノで切り裂かれた跡が目立つ荷物が散乱し崩れたテント。

そして……恐怖によって狂った表情をしながら倒れている無残な死体の山と大量の血だまり――

凄惨な現場とその時の恐怖が一瞬で理解できるおぞましい地獄絵図、異種族の体でなければヴリトラさえ恐れてしまっていたであろう光景が目の前に現れていた。

 

無数の死体はあるが先行したハズのシャルティアの姿はなく、周辺の死体を漁り何かを探している一緒に先行した吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)が居るだけだった。とりあえずヴリトラはこの場で何が起こったのか……まぁある程度想像は付くが、一応聞いてみることにした。

 

「おい吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)よ、なにがあった?」

「邪……ヴリトラ様!申し訳ございません。この場所に逃げた男を追いかけていたのですが、途中でシャルティア様の〈血の狂乱〉が発動してしまい……」

「相手の能力を調べる前に殲滅したと……」

「……はい、私も止めに入ったのですが……暴走の方が強く」

「はぁ~……仕方ない、お主のせいではないから気にするな」

 

<血の狂乱>、シャルティアが持つスキルでもありペナルティでもある存在。血を浴び続けると戦闘力が増大するが、精神的制御が利かなくなってしまうスキル。

ここに来るまでの戦闘は「私共にお任せを」と言われたのでブレイン・アングラウスが来るまでずっと任せてしまったのが裏目に出てしまったようだ……。

アインズ達はこの時の為にお目付け役としてわえを傍に置いたというのに……発動条件の事をすっかり忘れてしまっていた。

 

「で、そのシャルティアは何処に行ったのじゃ?」

「シャルティア様はこちらに」

 

吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)が案内した場所は他のテントより比較的綺麗に形を保っている一つのテント。

中にはいると無数の木箱が散乱しており奥には他の洞窟の通路と違い小さく狭いが通路が続いていた。そしてその通路の入り口付近にもう一体の吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)がわえを待っていた。

 

「どうやらこの通路は隠し通路のようでして、あの男はその先に向かったようです」

「それに気づいたシャルティア様は急ぎこの通路に駆け入ってしまいました……。報告したい事もあったのですが」

「報告したい事?」

「はい、つい先程この盗賊共のアジトに向かって進行してくる集団が一組見つかりまして、身なり的に冒険者だと思われます」

「そうか、では案内せい。そちらはわえが対応する」

「畏まりました、こちらです」

 

吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)は隠し通路へと案内する、ヴリトラ達もその後を追いかけ通路を進む。

細いがある程度綺麗に舗装された逃げ道を通り、出口であろう月の光が入ってくる場所を出る。そこにはすでに異形化したシャルティアと9割殲滅された冒険者達の残骸が散らばっていた。

よくみると一人だけ殺さず残している様でその人間は武器を落とし無抵抗で異形化を解き何かを問いただしているシャルティアの前に座る、どうやら催眠を掛けているようだ。

ヴリトラもシャルティアのいる所に合流し声を掛けようとおもったその瞬間――

 

「―――!?」

 

シャルティアが何かに気付いたのか突如森の方を眺め催眠を施した人間をほったらかしにし全速力で森へと駆け出した。

 

「っ、居たと思ったら今度は森へと駆け出すとは!何が起こっておるのじゃ全く‼‼」

「ヴリトラ様、この冒険者の女はどういたしましょう?」

「その女の処遇は後でよい、とりあえず催眠が解けぬよう一人は見張りに着け!もう一人はわえと共に来い!」

「はっ!」

 

今日何度目かわからないが森の方へ急ぎ駆け出すヴリトラ、超高速で動きながらも的確に前方の樹々や障害物を最短のロスで躱し突き進む。

前方の森の切れ目からは何かの戦闘音と、竜に似た咆哮のようなものが聞こえて来た。だがそれだけでは無い――

森の奥から感じるのは……()()の気配。

 

「あれは……」

 

森の出口付近に到着し様子を伺うヴリトラ、眼前にはシャルティアと5人以上の重装備をした者達が目の前で戦闘を繰り広げていた。

シャルティアもその者達が危険な存在だという事に気付いたのか急ぎ排除しに掛かる。

 

大楯持ちが白いスリットのチャイナ服に似た服を着た老婆をカバーする、シャルティアもその老婆が一番危険だと感じ取ったのか急ぎ排除にかかる。

シャルティアの前に立ちはだかる大楯使いとその背後からカバーするように攻撃に移る長髪の男が襲い掛かるがシャルティアはその男の槍が振るわれる前に先制し爪で攻撃し防御した。

そして、あいている脚で大楯に強烈な中段の回し蹴りを放ち大楯使いを老婆の近くまで大きく吹き飛ばしつつ両手で槍使いを攻撃する。

槍使いはその攻撃を何とか槍で受け()()が横に吹き飛ばされ樹に背を叩きつけられ、少し苦悶する表情を見せた。だがその顔はまだ戦意に満ち溢れている。

 

「シャルティアの一撃で死なない人間じゃと⁉」

 

まさかの光景で気が動転するがまだ戦闘は続く――

シャルティアは槍使いを吹き飛ばし障害をはねのけた後は集団の中で少し離れた位置にいる大剣持ちとマジックキャスターと思われる女性を魔法で拘束し抑える。

そしてそのまま老婆を襲撃……するハズだった。

 

突如老婆の頭上から光のオーラで作り出された龍が降り立ちシャルティアに向かう、そして龍をかたどったオーラがシャルティアを包む。

シャルティアは突如動きが鈍くなり苦しそうな表情を見せる――

 

「っ、あの服はまさか⁉」

 

ヴリトラは老婆の服をみて思い出した、あれは――

 

――ワールドアイテム

 

ユグドラシル時代にあらゆるプレイヤーが求めた最上位のアイテム。

一つ存在するだけで戦況を大きく変えてしまうチート級の武具やアイテムの総称。

あれはその内の一つ「傾城傾国(けいせいけいこく)」に違いない。白銀のチャイナ服に黄金の龍の刺繍、そして天から降りて来た光る龍のオーラ……何度かユグドラシルで見たモノと同じだ。

 

「ワールドアイテム……‼‼この世界にも存在するか⁉」

 

シャルティアは今「傾城傾国(けいせいけいこく)」の能力である精神支配に抗っているのだ。

自身の意識が薄れながらもシャルティアはスキルで作り上げた槍を持ち最後の一矢として全力の一投を放つ。

その槍は大楯使いの両盾をいともたやすく貫き盾使いの体の一部をえぐり取った、その勢いは衰える事なく後ろの老婆の心臓も共に貫き始末して見せたのだ。

 

「―――――――‼‼」

 

長髪の男が老婆と盾使いに駆け寄り声を掛ける。一方のシャルティアはいまの最後の一矢ののちにピクリとも動かなくなりその場に佇んでしまった。

 

「っ‼あれは野放しには出来ん‼‼」

「ヴリトラ様⁉」

「わえが真の姿であの者達を囲う、その隙にお主はナザリックに戻り報告せよ!」

「で、ですが!」

「急げ!わえは分体、洗脳されても分体を消せば本体は無事じゃ!それに今わえには<伝言(メッセージ)>が渡されておらん!お主が頼りじゃ、行け‼‼」

「……かしこまりました、ご武運を!」

 

ヴリトラの体から青と黒の禍々しき炎が噴き出す。

その炎はみるみると周囲の物を焼き広がりあの人間達を囲い込み、そして黒き炎の壁が森に広がった。

 

 

 

 

 

「っ!なんだ、この炎は⁉」

――何者だ

 

炎の壁から突如声が木霊する、複数の女性が同時に喋っているかの様に重なり合った恐ろしい声が。

長髪の槍使いが盾使いを抱えながら周囲を見渡すが、見渡す限り青と黒の混じった炎の壁が広がるのみで声の主は見えない。

 

「っ、どこに居んのよ!」

「よせ、無闇に魔法を使うな!」

――わえの眠りを妨げたのはお主か

 

炎の壁から青い巨大な顔が浮かび上がる。

その眼は蛇竜の如き鋭い眼光、あらゆる生物を一飲みできそうなほど巨大な口……そんな恐ろしき顔が炎の壁から無数に浮かび上がったのだ

人間の集団はその考え難いおぞましき光景を見てしまい体が強張り凍り付く。

あれは逆らってはいけない――

そう心の底から思えるほどに、恐ろしく強大な存在だった。

 

「わ、私達は……とある国から来たものだ」

「た、隊長⁉」

「あれは明らかに竜種だ、討伐対象だ――」

「――静かに⁉」

「「っ!?」」

「……攻撃しても死ぬだけです」

ーー……ほう

 

槍使いの男は他の人間達とは違い恐れを抱きながらも勇敢にヴリトラの前に立つ。明らかにこの世界であったどの人間とも違う勇敢で強靭は心をもった強き者の風格、あきらかに他の人類の壁を一つか二つ超越した存在である事は確かな様だ。

 

「我々は法国の者、私はその隊長だ……」

ーー何故この地に来た……虚偽を言えばどうなるかは分かるだろう?

「……とある情報収集の任務中、突如情報収集していた我が国の聖女の一人が謎の爆発により亡くなった。国の上層部はその原因は"破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)"が復活したのが原因だと判断し、その調査の為我々は行動していた」

 

"破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)"……王国の書籍やこの世界史を記録した書物等をかたっぱしから読み漁ったが聞いた事が無い名前。

ただ"破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)"という単語は無かったが竜王という単語は何度か目にした。

ニニャが教えてくれた歴史の中に竜王という単語が出て来た。なにやら強大な力を持った存在と戦い多大な犠牲を払いつつも勝利したとかなんとか……。

この場合私がプレイヤーだとばれると面倒な事になりそうと直感的に感じたヴリトラはリアルで培った演技力と想像力でこの場を収めようと動く。

 

ーーキッ、キッヒッヒッヒッヒィ‼竜王(ドラゴンロード)とはこれまた久しいモノを聞いたものだ‼

「……貴方は、"破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)"では無い……のか?」

ーーなんじゃわえを知る物はおらんのか?

「……この場には」

ーーわえは……竜王を超えた真なる龍種なり

「……竜王を超えた存在?」

 

「(んー、ヴリトラの種族解説の中に「2000年以上存在する"真なる龍"の一体」だとかなんとか書いておったしその背景をそのまま用いるかの。最高峰の種族らしく少し見下した感じで……)」

 

ーーなんじゃ2000年以上たつと真なる龍の事すら知らぬと申すのか?キッヒッヒ……人間は変わらず劣っているのぉ

「嘘だ……!そんな種族存在するはずが――」

ーーわえが虚偽を語ったと?

「ヒィ……‼‼」

「どうか殺意を抑えていただきたい、彼らは先程の吸血鬼との戦闘で仲間が傷つき……少し、冷静ではないのです」

 

真なる龍の威圧力はかなりの強さがある様だ。

ユグドラシルでも竜王(ドラゴンロード)やその上である竜帝(ドラゴンカイザー)はユグドラシルでも屈指のボスとして君臨していた。

ナザリックの面々も大規模部隊を編成し討伐を計画する程に強大な存在――

だがこの世界とは違い"ユグドラシル"は所詮ゲーム、動きやスキルはパターン化されており周回するとなれば少数でクリア可能ではある。

実際この姿である〈アスラの中の最上のもの(ヴリトラ)〉はユグドラシルでの竜種ボスの一体である氷の魔竜<氷極の竜王(ヘルフリギット・ドラゴンロード)>を倒し極稀に手に入るアイテムを入手――

その後ヘルヘイム上空の雲海に住むドラゴンのレイドボスである〈海曇の竜帝(シークラウド・ドラゴンカイザー)〉を複数のギルドと協力し討伐する事で取得する事ができた超希少な種族だ。

 

――(あの氷の魔竜だけで100以上倒したのはなつかしいのぉ、途中でなれてオルタとたっちとわえの3人だけで討伐したっけのぉ……おっと今はそんな事どうでもよいわ)

――まあ良い、説明した所で理解できるとはわからんからな

――それで、その吸血鬼は何者じゃ?

「わかりません。突如、襲われたのです……」

――ほぉ、なら……()()()()問題ないのう

 

ヴリトラは炎の壁からその本来の姿を見せる――

黒く光る黒曜の如き鱗、その背からなびく壁と同じ炎がなびく背びれ……そして炎の壁からシルエットだけ見えた龍の顔がはっきりと見えた。

その首はシャルティアと近くに居た老婆の死体の真上から急降下し地面ごと飲み込んだ。

首が持ち上がりその場所にあった地面の吸血鬼と死体はこの場から消え去る。

 

ーーふぅ、不純物の混ざった血肉はまずくてかなわん

「っ……」

ーーなんじゃ、何か言いたげじゃのぉ

「いえ……何でもありません(今ここで聞いたところで、かの竜種の機嫌を損ねるかもしれない……すまない、エドガール)」

――ふむ、まあよい。鬱陶しい小石は除いたことじゃし、今すぐこの場を去るというのならお主らは生かしておこう

――ただし戦うと言うのなら、死を覚悟せよ

「た、隊長……」

「……撤退だ、この事を報告せねば」

――報告か……ならこう告げよ、かの国の聖女の死には関与しておらん。それでもわえに危害を加えようとするならば――

――国が消える程度では済まさぬと

「……っ、必ず伝えます」

 

法国の騎士達の背後の壁が消えその先の草原が現れる。隊長と呼ばれた男は既にこと切れた大楯使いを背負いこの場を離れていく。

一瞬こちらの方を見た後、かの者達は自国へと向かい歩みを進めた――

 

「……ふぅ~~~~~~~(汗)」

 

何とかこの場を収める事が出来た、それが分かった瞬間姿が元の人間形態に急速に戻り大きなため息を吐いた。

演技力や想像力はナザリック1を自負しては居たが、少し間違えば殺し合いになる可能性がある中での演技は心労がいつもの比ではない……一気に肩の力が抜けその場にへたり込んだ。

 

「全く……慣れない事はしないほうが良いな(パチンッ)」

 

ヴリトラが指を鳴らすと先程自身の顎で抉り喰らった地面の周りがヒビ割れ青黒い立方体が姿を現す。

これはブリトラがもつ固有スキル天地を覆い隠す隔絶の障壁(バリアズ・カバー・トップ・アンド・ボトム)――

効果は単純、「あらゆる概念を隔絶する結界を自在にMP消費なしで発動できる」というモノ。

その効果でシャルティアの周りを結界で覆い、まるで龍に喰われたかの様に見せかけたのだ。実際には喰ってはおらず結界で覆い、光すら隔絶した結果その場所にあったモノが抉れ消えたように見えたというカラクリである。

 

「さて、シャルティアはどうするかのぉ……」

 

近くの老婆の死体が着ていた傾城傾国(けいせいけいこく)は無条件で支配は出来るが支配した存在が行動するのには数分掛かる。

今はどんなに触れたり攻撃しても反応する事は無く今の内なら攻撃し、殺す事が出来ればすぐさま洗脳は解除され復活できるのだが……

 

「アインズがそんな事許すはずがないよのぉー……」

 

アインズはギルドとそのメンバー、NPCに自身の家族同様の愛を持ってしまった。

以前から怖いほどに感じた依存ともいえるギルドへの執着――

彼がどのような人生を歩んだかは知らないが狂っているとしか思えない程の執着を何度も目にしてきた……そんな男が「シャルティアを殺した」と知ったら……

 

「あー怖い怖い、連絡あるまでこの場で待機するかの」

 

伝言(メッセージ)>の魔法を本体から分体に渡されていない為連絡手段が無いヴリトラは仕方なくこの周囲を結界で覆い先程と同じく光を隔絶し周囲に溶け込む。

その間暇なヴリトラは一緒に閉じ込めてた老婆の遺体からワールドアイテムを脱がし確保する。

そしてシャルティアから離れた位置に座り込みシャルティアの動向を見守る――

 

「ワールドアイテムか。こりゃ荒れるかもしれんぞ?オルタ……」

 

ワールドアイテムを眺め小さく呟くヴリトラ。

彼女は知らない、その言葉はいずれ現実の物となる事……そして、その波乱のキーとなる存在が今この結界の上を飛び去った事を――

 




前話続けてぶっ通しで作った分疲労誤字多すぎてスイマセン……。

気づき次第随時修正していきますのでよろしくお願いします<(_ _)>

次話投稿の感覚はどちらが嬉しいですか?

  • 一話完成次第、投稿してほしい!
  • 何話かまとめて一括投稿で!
  • 投稿主の判断に一任

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