オーバーロード ~堕ちし聖女と黒き騎士~ 作:赤猫project
今年も自分のペースで投稿していきますので、よろしくお願いいたします。
にしても……王国騒乱編が長くなりそうです……。自分なりに短く、まとめたいなとは思っているのですが、どうしても王国騒乱はしっかり書き綴りたいので、お許しを……。
<グレイ視点 王国・路地裏>
その後、修行と題して簡単なモノを行うと告げたセバスさんはクライムさんに武器を構えさせました。その後セバスさんも拳を構え始め……闘気を開放しました。
いままでセバスさんは任務の為、自身の力を隠すために異業種としての迫力、気迫、闘気などを極限まで抑えて活動していました。それゆえに一般人として活動出来ていたんですが、そのオーラというべきものを開放し、クライムさんに強烈な殺気を向けたのです。
「……ッ!?!?!?」
「漢とは、この程度のモノですか?」
「せ、セバスさん!?」
強烈な殺気はクライムさんの身体を強張らせ、震えさせ、強大な敵…おそらく上位種のドラゴンと相対したような錯覚さえ覚えているのでしょう、小さく「……ドラゴン」と呟いていたのが聞こえました。というかそれよりも……セバスさん、これは流石にやり過ぎです!こんな殺気浴びせてしまったら彼、ショックで死んでしまいますよ!
私も何とか止めようと動こうとしましたが、「手出し無用で」と気迫だけで私に伝えようとしているのを感じました。至高の御方々や守護者の皆様と同じレベルの頂に至っているセバス様の気迫、クライムさんが浴びている殺気に比べてその迫力は微々たるものでしたが、それでも上位の存在たる迫力を感じてしまい、拙は口を開けませんでした。
「グゥ……あ…あぁ……‼‼‼」
「ク、クライムさん……(……あの人、セバスさんのあの殺気に抗う意志を見せている……?)」
「この程度ですか……では、
「ッ!?せ、セバスさ―――」
拙が言葉を言い終える前にセバスさんの拳がクライムさんの顔に向かっていきます。あの一撃は先ほどの言葉通り相手を一瞬で殺せる威力!もしやセバスさんは修行とだいしてクライムさんを処理しようとしているのでは!?
もしそれが事実だとしたら、いくら人気が少ないと言えどこんな明るい場所で処分は目立つし、なによりこの影響でセバス様がさらなる問題に巻き込まれることとなったら至高の御方々が……!
急ぎアッドを盾に換装させて防がなくては……そう思っていました。ですが、クライムさんは諦めていませんでした。
この数十秒の間、強烈な殺気を真に受けたクライムさんの脳内では幾つもの想像も付かない程の負の感情が渦巻き、脳が走馬灯を見せていたハズ…そんなクライムさんが、覚悟を決めたかのような目を見せ頭を動かし躱そうとしていました。
そして……剣の柄を強く握り、眼差しにひとかたならぬ決意を燃やしたクライムさんは、死の恐怖を乗り越え、セバスさんの一撃必殺の拳をすんでの所で躱したのです。
クライムさんは、先ほど自身の頭があった所に突き出された死を匂わせる拳を見て、瞳と身体が震え、想像を絶する経験から解放されたのをゆっくりと実感したクライムさんは、崩れるように膝から崩れました。大量の汗が吹き出し、運動していたわけではないのに、息切れで苦しそうです……。
そんな彼と心配で一杯だった私を気にすることなく、セバスさんは拳を躱したクライムさんに向けて賞賛の拍手を送っていました……。
「はぁ……はぁ…はぁ…ッ……はぁはぁ…ゲホッ」
「(パチパチッ)おめでとうございます。どうですか、死を目の前にした気分は?そしてそれを乗り越えた気分は?」
「これが……死……?」
「それに、ショック死しなくて良かったですよ。時にはあるんです、死を確信してしまったが故に生きることを諦め、命を捨てる選択をしてしまうという事が」
「(セバスさんレベルの覇気なら、普通そうなって当然なのでは……(汗))」
「し…失礼ですが、貴方は一体……」
「私は単に腕に自信があるだけの老人にすぎませんよ、ただ貴方より長く少し生きているだけの…ね」
優しい笑顔を見せながら受け答えるセバスさん。さっきまでの鬼神の如き形相とは正反対すぎて、逆に今のセバスさんが恐ろしいと拙は感じています……。
「それに良かったですよ、グレイさんが手助けに入らないでくれたおかげで、彼は少し成長の道が開けたのですから」
「あ、あぁ…それは、その……あれ程の覇気を出しているセバスさんを見たら、止めたくもありますよ……!本当に殺してしまうのではと思ってしまったんですよ……!」
「ハッハッハ、失礼しました。ですが、私は殺人鬼ではないのですから、もう少し信用してください」
「それは……そうですけど!」
ハッハッハと笑いながら私の不安を流そうとするセバスさん、少しずるいです。そんな風に話していたら、先ほどの極度の緊張感から少し解放され動けるようになったクライムさんが立ち上がれる程に回復したようです。
……なんか、一皮むけた?というのでしょうか。今のクライムさんの顔はどこか、先ほどの自分から何かを脱ぎ捨てたかのような…心向きというのでしょうか、何処か変わったような気がします。
セバスさんも立ち上がったクライムさんの表情をみて、どこか関心している様な顔をなさったので、拙の感覚はあっているんだと思います。
「では、もう一度行いましょうk――」「まっ、待ってくれ!!」
突如後方から一人の男性が声を掛けてきました。かなり興奮し焦っているような表情です。顔立ちは以前邪ンヌ様が見せてくれた「マンガ」という"聖典"に乗っていた一部の人間の女性からは評判が良さそうな顔立ちに似ています。
腰にはこの国では珍しい刀を携えています。たしかこの世界では刀はかなりの高級品で、この世界基準では高レベルの武器の一種に数えられていると学びました。そんな貴重品を持っているなんて、この人は一体?
「まず、お三方の邪魔をしたことを心より謝罪させてほしい。だが、どうしても待っている事が出来なかったんだ……!」
「(成程、この方がクライムさん同様駆け足でこちらを追いかけていた二つの人陰の内の一つでしたか……となると、この人も王国の兵士?)」
「…お知合いですか?」
「いえ、違います。あなたの知り合いでも無いのですか?グレイさんはどうです?」
「いえ…拙の記憶にも……(王国の兵士でもない?)」
「私はブレイン・アングラウスと申します。お三方の邪魔をしてしまった事を重ねてお詫びさせてください、申し訳ありませんでした」
「っ!ブレイン・アングラウス……!」
「(ブレイン……ブレイン?…あっ、あぁ…!「ブレイン・アングラウス」…!以前邪ンヌ様が任務で出会ったっていう……!)」
「…それで、どのようなご用件でしょうか?」
セバスさんが尋ねると、ブレインさんはクライムさんと私の方を向きある事を尋ねた。それも、かなり真剣なまなざしで。
「なぜ…何故君達は、あの殺気を前に立っていられたんだ!」
「……。」「え、えっと……」
「あの殺気は常人の耐えられる領域を軽く超えていた!俺……いやすまない、私だって耐え切れない程のものだった……!にもかかわらず、君達は違う…耐えていた、立っていた!そして君はその殺気を跳ね除け、彼を守ろうとした……!」
「どうしてできたんだ!あれほどの事が!!」
ものすごい剣幕で綴られた問い。正直ブレインさんの言葉に戸惑っています。だって何故動けたと言われても、そもそも"拙に向けて"あの殺気を
そんな風に悩んでいたら、ブレインさんの言葉にどこか戸惑いながらもクライムさんは、ゆっくりと口を開きま始めました。
「……分かりません。あれほどの殺気の奔流の中、何故自分が耐えられたのか……。ですが、もしかすると、私の主人の事を考えていたからかもしれません」
「主人?」
「はい。私が仕えているお方の事を考えたら……頑張れました」
「そんなことで、あれを……?」
……拙は、ブレインさんがあれほどの顔をしてまでクラインさんに問いかけた理由が、なんとなくわかったような気がします。おそらく、ブレインさんは「強さだけを求めて、他を捨てた」…そういう人生を歩んだんだと。
だから、おそらく自身より実力が劣っているであろうクライムさんがあの殺気を耐えきったことに理解が出来ず、困惑しているんだと……そう感じました。
「……そんなこと……そう、たしかにそんな忠義だけで耐えられるなんて普通は考えられないかと思います」
「だけどそれで耐えられるのが強い人なんだと思います。拙も、おそらくクライムさんと同様に殺気の渦に飲み込まれたとしても、拙を大切な仲間だと呼んでくださった方々の為を思えば、どんな苦難も乗り越える覚悟はできる……と思っています」
クライムさんの言葉を聞き、自然と拙も喋っていました。多分、拙にも決して他に譲れない忠誠、至高の御方々の存在があるからこそ、拙もブレインさんにその大切さを伝えたいと思ってしまったんだと思います。
「グレイさんの言う通りです。人は大切なものの為であれば、自分でも信じられない力を発揮することができます」
「大切なものを守り続けること…それが人の強さだと思っております。彼もまた、発揮したという事です。そして、それは他人事ではありません。他に譲れない何かがあれば、貴方が考える自分を超えた力を発揮することが出来るでしょう」
「譲れないもの……」
「自分一人で培った物なんて弱いものです。自分が折れてしまえば終わりなんですから。そうではなく、誰かと共に築き上げたならば、誰かのために尽くすなら、へし折られてもまだ倒れたりはしません」
強いまなざしでブレインさんへ答えるセバスさん。私達の返答にどこか自身を振り返り呆れている様子です。そして小さく笑い、「俺が捨ててしまったものばかりだな」……と、どこか清々しい顔もちで呟きました。
どうやらブレインさんの心の中で燻っていた何かが吹っ切れたようで、先ほどまでのどこか揺らいでいた目がしっかり前を見ているように拙は感じました。まだ不安はある様ですが、クライムさんが優しく強い声を掛けて応援したのをみて、さらに何かを感じた様に感じます。
……ですが、拙とセバスさんは彼らの話より、
「……アングラウス様」
「貴方ほどの方に敬称など……アングラウスで構いません」
「では私の事はセバスと…それではアングラウス君、ここに居る彼に稽古をつけてあげてはいただけませんか?」
「えっ、それは構いませんが、先ほどセバス様は……」
「はい、そのつもりでしたが……どうやら、お客様がいらっしゃったようで」
セバスさんが路地裏の奥を睨みつけると、そこには人影が3人。都市の風景に溶け込めるようブラウンのローブを纏っており、腰には複数の短剣を備えています。ローブの奥には、おそらく投げナイフ等が納められているのであろう縦長のシース*1が胸元に見え隠れしているのも見えますので、やはり拙の思っていた通り暗殺者の類の様です。
「馬鹿な!?あの殺気を受けてなおこちらに来るのか…!」
「いえ、先ほどの殺気は貴方とクライム君にしか向けていませんよ?」
「……え?」
「彼らは最初から敵と判断しておりましたので、逃げられても困りますので殺気は向けていませんでした」
「な、なるほど……だ、だとしたら君は何故あの殺気に気付いたんだ?」
「(え、えぇ…!敵が目の前に居るのにそっちが気になるんですか!?ブレインさん!)え、えっと……拙は、盗賊系を取得しているので、そういうのに敏感なので…」
「そ、そうか……(あの3人ですらあの殺気を気取られた様子が無いんだが…となると、この少女もセバス様側なんだろうな……)」
「私は彼らの内の一人二人程捕縛し、情報を引き出そうと思います。ですがお二人は部外者、私事に巻き込みたくはありません、ですのですぐに―――」
「セバス様、お邪魔かもしれませんが私も王国の騎士の端くれ、王都の治安を守る者として見過ごす事はできません…!」
「なら、お…私も強力させてもらおうか」
「ブレインさん……!」
このお二方は何処までも優しい人なようです。お二人共武器を抜き戦闘態勢を取りました。この感じだと、拙も逃がしてくれるような感じではありません、一人がこちらをじっと見て機会をうかがっているのが視線で分かります。なので拙も戦わなければいけないようです。
「ここは大人達に任せてくれ、君は今すぐここを――」
「アッド![第一段階]…限定解除!」『オウよ!幽霊じゃネェのが残念だが、しゃあネェなぁ!』
腰にぶら下げている籠を取り出し、アッドを私が一番使い慣れている鎌へと変形させます。セバスさんは尋問したいとの事でしたし、他のお二人も居ますので殺傷しないよう、釜の刃は無くし、気絶させられる様にしています。
「な、なんだあの武器!?彼女は一体……」
「彼女はエ・ランテルで新しく生まれたアダマンタイト級冒険者、「聖光」のメンバーのお一人、アサシンのグレイさんのようです」
「彼女が……!っはは、まったく…世界は広いな」
「さて…私は前の3人をお相手しますので、後ろの4人をお願いできますか」
「わかりました」
「グレイさんも、彼らの方を手伝ってあげてください。前の3人程度、私で十分です」
「(ですよね…セバスさんに勝てるような人達ではなさそうです)分かりました」
そういい拙とブレインさんが後ろを向くと、先ほどまで見えなかった4人の人影が立っていました。既に武器を抜いており、その武器の刃の先端…細いスティレットからは紫色の液体が滴っている。かなり粘性のある液体……毒武器の様ですね。
そんな風に警戒していたら、後方から何かが飛んできている様な気配を感じました。小さく風を切る音、明らか拙達の方に飛んでいる様です。でも風切り音が少し高い……なるほど、拙ではなく私の前で背を向けているブレインさんに向けて投げたようです。なので、すぐさま私が手を出しナイフを一本キャッチします。
今掴んだナイフの後に続きもう2本のナイフも投げられていたようですが、そちらはセバス様が目にも見えない程の速度でナイフを指の間に掴み、止めていました。流石……拙の速さでは1本しか取れませんでした……。
ナイフを受け止められたのを見て、暗殺者達の顔が驚きの表情を見せています。顔から汗が流れている所をみると、どうやら今やっとセバスさんの力を感じたのでしょうね。
「――おっと、この方達に浮気しないでいただけますか?」
「……まったく、危ない人達です」
「(あのナイフを一瞬で…!)…すごいですね」
「あぁ、あの二人のどちらかが王国最強だと言われても俺は納得するな」
「王国戦士長よりも、ですか?」
「ああ。あのご老人と彼女はお……すまない、言葉を崩させてもらう。俺とストロノーフ2人掛かりでも勝算は皆無だろうな。彼女に関しては…まだわからんが、おそらく二人掛かりで五分くらいだろうな」
「グレイさんもですか……!」
「買いかぶり過ぎです、私なんかより強い人は大勢いますよ……っと、来ますよ」
「よし、俺は右側二人をやる。クライム君は左だ」
「わかりました」
「君は奥の1人を――」
「――いえ、私が奥の二人を受け持ちます」
拙はスキルを使い脚力を強化し飛び出しました。右側の建物の壁を蹴り、後方に居る2人の後ろへ回りました。
拙の動きに驚きを隠せず、思わず口から焦りを含んだ声が漏れ出しています。さらにその後方のブレインさん達も私の動きに困惑している様です。
「ハハ……まさか、俺より小さい少女の方が頼れると思う時が来るとはな…!」
「…えぇ、全くです」
ブレインさん達二人が交戦を開始しました。剣がぶつかり合う音が路地に響き渡ります。
さて……お二人も戦い始めていますし、奥のセバスさんも~……すでに全員伸されていますね。
でしたら私も、早めに終わらせた方が良いですかね?
「……お前、例のアダマンタイト冒険者だな?」
「私の事も知っているのですね……」
「どうだ、俺達に敵対するんではなく、俺達の仲間にならないか?こっちに着くなら望むモノが手に入るぞ?金に力、名声も何もかもだ」
「……くだらないですね」
「なんだと、きさ―――」
あまりにもくだらない勧誘の言葉に呆れ、無防備すぎる喋る口が止まらない一人の首元におもいっきり鎌を振りぬきました。
鈍い衝撃音と共に首に鎌がクリーンヒットした暗殺者の一人が、「マッ……‼‼」と喋りかけていた言葉を口から漏らしながら、倒れました。……あまりにも弱いので困惑しています。ラリアットの様に鎌の一撃を喉に受けた暗殺者は白目をむき口の端から少量の泡を吹きながら動きません。
「―――は?」
「…では、貴方で最後ですね」
焦った様子でナイフを喉元に向け突き刺し来ました。そのナイフをのけぞって回避した拙は、そのまま流れるように手に持った鎌を逆手に持ち替え、裏拳の要領で身体をのけぞった状態から捻り頭の横を殴りつけました。
横から勢いよく殴りつけられた暗殺者はぐらりと体制をくずし、視界が揺らいでいる様子。一方私も危ない体制ですが、裏拳の要領で振るった鎌を地面に叩きつけ、まるで棒高跳びの様に飛び上がります。
そして再度体をひねりながら勢いをつけ、相手の肩目掛けて鎌を叩きつけました。
ミシミシと骨が軋む音がしたのと同時に、暗殺者の目が白目へと変わっていき、そのまま頭から倒れこみました。
「よし、これで終わりですね。お二人は――」
「……フッ!」「グハッ……‼」
「どうやらブレインさんの方は問題なさそうですね。クライムさんの方は……」
クライムさんの方は多少苦戦している様子、既に倒し終え援護という名の指導をしながら応対している様です。
そうして戦いを続けた結果…クライムさんが勝利を収めました。どうやらクライムさんは先ほどのセバスさんの修行とこの戦闘を経て何かを明確に掴んだようです。
「お見事です」
「さて……では、尋問を始めます」
無事脅威を排除することが出来たセバスさんは倒した暗殺者の一人を持ち上げると、自身のスキルを使い尋問を始めました。
……この件がきっかけで、この先の王国が大きく変わる事になるだなんて…この時の拙には想像すらしていませんでした。
そう……王国にとって最大級の事件の幕が、上がったのです。
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