オーバーロード ~堕ちし聖女と黒き騎士~   作:赤猫project

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遅くなりました……。


仕事忙しすぎて、小説書く体力残ってないのです、許してくださいなんでもしまむら……。


第17話

 館を襲撃しているグレイ、セバス達。

地下に居る八本指の組員立を鎮圧していく。こちらに気付き襲い掛かってくる輩は始末し、無抵抗で逃げる輩はできる限り気絶させていく。とはいえ、全員鎮圧する必要があるため気絶はできる限りである。

途中、セバスさんがある一室に入り、そこから逃げてきた醜い体系の男を蹴り殺したのちその奥へとグレイを置いて行ってしまった。

なにやら「俺は貴族だぞ」「この無礼者」やらと喚き散らしたようで反響音が廊下中に響いてきたが、グレイにはその男が到底平民の上の地位にたてる存在とは思えなく、醜い嘘だと思い無視した。その醜悪な肉塊がこの国では本当に貴族になれるのだとは知らず。

 

その後、この場所に囚われ奴隷とされた女たちが閉じ込められた牢屋を見つける。その環境は劣悪、麻布で作られたベッド、周辺に見える血痕の痕、気の桶に注がれている水は唯一の身を清める為のモノだろうか。

だがその檻の中には人影は見えない、よくみると牢を塞ぐ鍵穴部分が切り取られ、抜け落ちている。おそらくブレイン達が先にこの場所にやってきて、既に救助した後なのだろう。相手側がバレる事を恐れて連れ出したのであれば、このように鍵穴だけ壊さすような事はしないはずだ。

 

そうしてあらかた探索し終え、まだ入っていない扉はあと一つ。最後の扉を開こうとした時、頭の中で響く音がした。ピピピッとアラーム音が3回、コレは誰かからの<伝言(メッセージ)>だ。相手は……オルタであった。

 

「は、はい、オルタ様!どうなさいましたか」

『グレイか、今どこにいる』

「い、今ですか……えっと」

『――セバスと娼館に居るのだろう』

「な、何故それを……⁉」

 

至高の御方に報告はしていない、いや…いずれする予定ではあったが、事態を終えた後にしようと考えていた。その為、無断でこのような事を行った理由を問いただしに来たのではないか、内心焦りで溢れ身体が小さく震えている。

 

『クレマンティーヌから昨日の夜、セバスの雰囲気がおかしいと連絡があってな。私が数日程監視するよう指示していた。そしたら、セバスの様子が明らかに変だと気づいたようでな。先ほど私に報告を入れてきたのだ』

「そ、そうだったのですか……」

 

クレマンティーヌからの報告では、教会のおつかいを頼まれ買い出しに出た際あの人混み中で逃げるように路地を歩くセバスとそれを追いかけるグレイを見つけたらしい。その為距離を取りながら屋根の上から観察をしていたところ、人間二人と会話していたのち、襲撃者を撃破。その後、襲撃者一人を尋問したのちどこかに向かい、建物内に侵入していった。

明かに何かに巻き込まれていると判断したクレマンティーヌはオルタに連絡を入れた…これが一連の流れらしい。

 

「(やっぱり、クレマンティーヌさんは昨日の事を気にしていらしたんですね……)」

『さてグレイよ、私はお前を怒っているわけではない。だが、先ほど別件……いや、別件とは言えぬか』

「……?」

『まあいい。とりあえず何があったのか説明してほしい。構わぬな』

「(……この場はセバスさんに任せれば問題ないでしょう、一応セバスさんにも伝えないと)」

『ああ、それともう一つ。セバスにはこの事は()()()()

「えっ、ですが……」

『問題ない。「冒険者の規約があるから」と伝えれば納得するだろう。私達はセバスが借りている屋敷で待っている。そこに来るがいい』

「(私()……?)か、かしこまりました」

 

最後に「またな」と言い<伝言(メッセージ)>を切るオルタ。まさかこちらの行動が全部筒抜けだったとは知らなかった。アサシンであるグレイが気づかなかったという事は、自身の探知外から偵察していたのだろう。

流石は吸血鬼といった所、まだ日中であろうとその身体能力の高さは侮れないということだろう。グレイはそっと耳に当てていた指を離すと、次はセバスへ<伝言(メッセージ)>を送った。脳内に流れるピコンという音の後に、セバスから返答が届いた。

 

『グレイさん。どうかなさいましたか』

「セバスさん、申し訳ありませんが拙はここから離れたいと思います」

『おや、何かありましたか?』

「いえ、元々私は至高なる御方からのおつかいでこの町に来ていたので、あまり待たせるわけにはいかないと思いまして。時間を見た所結構経っているようですし」

「それに、冒険者の規約には「極力人同士の争いには首を突っ込まない」とありまして……この後の事を考えると、衛兵の方々が集まるとおもいます、そうなると拙が居てはまずい様な気がいたしまして」

『成程…たしかにそうですね。ではグレイさんの事は私からクライム君達に伝えましょう。彼らならしっかり口に栓をしてくれると思います』

「わかりました、では…失礼します」

 

<伝言(メッセージ)>を切ると、武装展開していたアッドを元に戻す。正直彼女の無い筈の心臓は今バクバクと動いている錯覚を起こしている。緊張の糸が切れて少し息遣いが荒くなる。

アサシン部隊の一人とはいえ、あまり騙すような事が好きではなく嘘を吐くのが苦手な彼女は、セバスに上手くごまかせる言葉が話せていたか、不安でしょうが無かった。

 

「ギッヒヒ!お前にしては、上出来だナ!」

「はぁ~……心臓が潰れそう……‼」

「オメェ心臓ねぇだろ」

「とにかく、オルタ様の所に行かないと……!」

 

グレイは娼館を出て、指示があったセバス様が隠れ蓑にしている屋敷へと向かう。<気配遮断(ノーオーラ)>と速度上昇の魔法<加速(ヘイスト)>を発動しつつ、屋根を飛び越えながら目的地に向かった。

普通なら数十分かかる道のりだが、スキルを併用すれば一目を気にすることなく数分で到着できる。御方の命令は絶対、その考えは変わらないグレイはこの後何が起こるのか、何となく想像できていた。

 

「セバスさん……」

 

そう言葉をこぼしながら、一人の亡霊の少女が空を駆ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

<娼館 地下>

 

グレイと別れた後、セバスは地下の探索を終えクライム達と合流していた。何やら他の人間と雰囲気が違う男?が居たので、首裏を叩き気絶させて確保する。

突如男の身体の力が抜け、ふわりと浮かんでいく様子がセバスとクライムの視界から見え一瞬焦りをみせる。彼らから見れば何も気配がしなかったのに突如男が気絶し宙に浮き、それをしたのがいつの間にか合流したセバスだったのだから焦りもするだろう。

 

「お見事です」

「なっ、セバスさん!」

「……いつのまに」

「つい今しがたです。皆さんの意識がサキュロントに向かっていたので、気づかれなかったようですね」

「そ、そうですか」

 

クライムは納得している様だが、ブレインはセバスの言葉にどこか納得できていなかった。彼はサキュロント、この八本指のグループの糸つ「六腕」の一人と対峙していた。その際、彼は<武技・領域>を発動していた。<武技・領域>は自身の範囲内に入った対象を知覚することができる武技。

 

たとえ瞳を閉じてようと、背後からやって来ようと知覚し攻撃へと移ることができる。それを利用した武技の合わせ技がブレインの編み出した奥義「秘剣"虎落笛"」である。

だが、この執事は領域範囲内に探知されることなく侵入してみせた。どれほど気配を消したアサシンでさえ知覚できるこの領域が破られ、「自身が別の事に気を取られていただけ」と言われても、すんなり納得はできる事などできない。

 

「(この御仁は一体……)」

「あれ、そう言えばグレイさんの姿が見えませんが」

「彼女はこの場を離れました。元々彼女は冒険者、あまり人の争いに加わるべきではない様でしたからね」

「ああ、そうでしたね。冒険者の規約があるんでしたね」

「そうか。今度会った時にでもここまで手伝ってくれたことに感謝しないとな」

「そうですね」

「それと、この事に関しては」

「はい、今回の件はグレイさんの名前は出しません」

「俺も約束するさ」

「ありがとうございます」

 

やはり彼らは素直で良い心を持っている、そう思い笑みと共に感謝を告げるセバス。その後3人で地下から脱出すると、衛兵が娼館前に駆けつけていた。こちらに向かう途中、クライムが近くに居た衛兵にこの場所の存在と、八本指の存在を伝え応援を読んでおいたそうだ。

中で奴隷になった人達を彼らに預け、セバスは衛兵に事情を伝えた後この場をさった。クライムが何かお礼をと言っていたが「当り前のことをしただけ」とだけ答え離れた。離れる前の自身を尊敬するような困惑のこもった顔がセバスの記憶に残った。

只の散歩だったはずが、帰宅が遅くなり中に居るソリュシャンにどう話そうか悩みながらドアノブに手を掛けた時――

 

「……!」

「おかえりなさいませ、セバス様」

 

扉の前で立っているソリュシャンが目に入った、それもドレスではない()()()()の姿で。

その姿が意味する事は、彼女は今任務上で話があるわけでなく、ナザリックの一人としてセバスを待っていたことを表している。無表情の冷たい顔は表情を見せることなく、ソリュシャンは静かに口を開く。

 

「――セバス様、オルタ様が奥でお待ちになっておられます」

 

ドクりと心臓の胎動が、全身に伝わる。至高なる御方々の一人が今この場に来ている。その理由はおそらく――

何故バレたのか、緊張を表に出さぬようソリュシャンに問おうとしたが、その理由は奥の階段から降りてきた。灰色のローブに鎌を携えた身体に黒霧を纏わせる死神の如き亡霊と、その傍に立つ足元に血痕が目立つ黒のシスター服を身に纏った一人の吸血鬼が立っていたから。

 

「……グレイさん、貴方なのですね」

「……。」

 

亡霊は言葉を返さない。何故伝えたのか、何故なのかと問いただすことはしない。愚かにもこの事態を招いたのは自分であり、本来彼女の在り方がナザリックにおいて、アインズ・ウール・ゴウンにとって当然の行動なのだから。

 

「――セバス様、オルタ様がお待ちです」

 

これ以上この場でこたえることは何もない、そう告げるかの如く静かな声でソリュシャンに従う様に、セバスは彼女の後を歩く。その先には先行して御方が居る場所へ向かうグレイとクレマンティーヌ。御方が待つ部屋までの距離はそう遠くない、そのはずだが足が重く感じているのかとても距離がある様に感じる。

夕暮れの空でカラスが鳴きながら飛んでいる、その声が今は一瞬セバスに恐れを覚えさせ、彼の瞳に荒廃した町に置かれた処刑台へと連れていかれている様な光景を幻視させる。自身の先を歩くグレイの姿は断頭する為の鎌を持つ処刑人に見えてくる。

不安と恐怖が足元から湧き上がってくる感覚を必死に周囲に隠しながら歩いていると、気が付いたら御方が居る大部屋の場所に着いたようだ。まだ部屋についていないというのに、強烈なオーラがドア越しからも伝わってくる。

 

「失礼します、オルタ様。セバス様がご到着なさいました」

「通せ」

 

ドア奥からの返答が聞こえ、ゆっくりとドアが開かれる。普段手入れをしており滑らかに開くハズのドアだが、今日の扉はまるで金剛でできた重扉の如く重く開かれたように感じる。

扉が開き部屋奥の光が廊下を照らす。その奥には赤いスーツを着た悪魔デミウルゴス、部屋の端に武器を持ちやってきたこちらを見つめる水色の甲殻の魔人コキュートス。そして一番奥のソファに一人、黒い鎧を身に纏い黒霧掛かった聖剣を床に突き立て押さえながら足を組み、此方が来るのを待っていた至高の御方々が一人セイバーオルタが凛とした表情で座り待っていた。

 

「……遅くなり申し訳ありません」

「気にするな、連絡もなく来たのだ。お前が気にすることでは無い」

「それより……その顔はどうした、何故そこに立っている?」

 

廊下に立ったままのセバスを早く中に入る様に尋ねるオルタ。当然の疑問と問いのはずなのにその言葉にはどこか重みを感じるセバス、震える心を落ち着かせ部屋の中に入り、静かに床に跪き頭を下げた。

跪いたセバスに周囲の視線が刺さる、特にオルタの裏で後ろに手を組み膝まづくセバスを睨みを利かせているのはデミウルゴスであった。

 

「どうした、やけに顔色が悪いな。ハンカチならあるぞ、使うがいい」

 

そういいオルタが何処からかハンカチを取り出し、軽く頬り投げる。ふわりと動きながら舞ったハンカチは落ちる手前、セバスが跪いている場所に近いテーブルの端に止まった。恐る恐るハンカチを手に取り、自身の額から流れた一滴の汗を拭きとる。

そのハンカチは無地の白いハンカチで会ったが、左端にナザリックのシンボルである紋章が施され、裏面にはオルタの旗と同じ紋様が施されいている。普段これを見て何も思う事は無い筈なのに、今はこの象徴が心の奥底に突き刺さる。

 

「さて、私が何故この場にいるのか…説明する必要はあるか」

「いえ……ございません」

「ほう……セバスよ、お前は私が何故ここに居るか分かっているのか」

「あえて質問するぞセバス、お前はいつあの()()()()を手にしたのだ?」

「……っ」

「お前は私達に様々な情報を書き知るし伝えてきた。眉唾物の噂であっても、事細かく調べ上げ報告していたな。だがデミウルゴス、お前も同じ報告書を見ていたはずだから覚えているだろう。故に確認だ、この事に関する報告は上がってきていたか?」

「いいえ、そのような報告は一度たりとも上がってきておりません」

「ふむ、やはりそうだな」

 

デミウルゴスがわざとらしく一言を強調し返答する。分かっている、私が余計な事をしなければこのような事態を起こすことも、ましてやナザリックに余計な時間と心配をかけることも無かったのだから。先ほど拭いた汗が辿った道に再度汗が流れていく。

 

「本来なら愛玩動物(ペット)程度の件は報告なぞしなくても気にはしない。どう過ごすかなど個人の自由だからな。だが。お前はその愛玩動物(ペット)と共に余計な騒乱の火種を連れ込んできた。だから尋ねる、セバスよ……何故報告をしなかった?」

「……あの程度の事を報告するまでもないと、そう…私が勝手に考えたからです」

「成程、お前の自己意志で…と言う訳か」

「……はい」

 

数秒の問答の後にくる沈黙。この不気味な程静かな間がセバスの身体を震わせる。周囲から発せられる殺気はセバスを包みこむ様に刺してくる。デミウルゴス、コキュートス、ソリュシャン、グレイ、クレマンティーヌ……その全員からの殺気だ。

 

「セバス、お前が連れ込んだ人間を此処に連れてこい」

「……畏まりました」

 

静かに立ち上がり、この場を去るセバス。その後ろ姿は後悔と自責の念が強く表れている様に感じた。セバスが廊下に出た後、アイコンタクトでソリュシャンにドアを閉めるように伝える。それを瞬時に理解し戸を閉める。

それと同時のこの場の空気が一転した、先ほどまでの殺気満ちた空間の重さがフワリと消えていく。

 

「さて……やはり私の想像通りだったな。お前たちの報告で確信に変わった。感謝するぞ」

「いえ、やるべきことをしただけです」

「…はい、拙も同じく報告するべきことを報告しただけです」

 

 

 

――数分前

 

先にセバスが住まう屋敷に向かったグレイ。扉をノックするとソリュシャンが優しく出迎えてくれ、中へと案内されていく。

応接室に案内されると中ではオルタとコキュートス、そしてクレマンティーヌが待機していた。

 

「よく来たな、グレイ」

「いいえ、呼ばれれは拙は何処でも」

「此度はお前に聞きたい事があって呼んだ。早速で悪いが、お前が先ほどまであった事を包み隠さず話してくれ」

「(クレマンティーヌさんが居るという事は、やはり――)」

「(この事を話すのはセバスさんにとっては踏み絵を刺せるような事……いや、でもこの事を話さないなんて…………いいや、何を迷う事はあるのです。拙はナザリックの一員、それなら、いますべきことは――)」

 

静かに瞳を閉じ覚悟を決めるグレイ、再び瞳を開けた時に見えた目は、普段の少女のような明るさのある瞳とは違い、暗く深淵を映したかのように深く曇り切っていた。

 

「はい、かしこまりました」

 

彼女はセバスと出会ってから起こった事の全て、セバスが騒動に巻き込まれることになった理由を全て語った。話を聞いている間、ソリュシャンは何処か気分が悪そうな顔をしていた。話を聞いている間、オルタは何かを考えている様子。顎に手を乗せ何かを必死に考えている様子。

 

「――以上になります」

「そうか……」

 

オルタは瞳を閉じ思考を巡らせる。セバスというNPC……いや、()はどのような人間だったか。創造主がどのような人間で、どんな考えを持っていたか。セバスにとって行動するべきと判断したその動機は……普段から物事を考え、行動しながら2手、3手後の行動を模索する彼女の思考はある会話を記憶の奥底へ引きずり出した。

それはまだギルド「アインズ・ウール・ゴウン」がまだ数10人程度のギルドだった頃、ギルドの内装を整えつつギルド内に配置するNPCについて相談していたころの記憶だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、たっちさん』

『オルタさん、久しぶりですね』

『今は…セバスの設定中ですか?』

『ええ、このギルド唯一と言っていいほど善性あるキャラにしてるのでね、もうちょっと練りたくて……今は只完璧な執事としての設定ぐらいしか書いてないんですよねぇ』

『ホント、よくこのギルドに留まってくれてますね。最近ギルドの異業種PK狩りを逆に狩る「PK狩り狩り」してるせいで、本来いい人なのに害悪PLみたいに言われ始めてるらしいのに』

『今さら何を言われても動じませんよ、私は私が信じている良き事の為に行動しているだけなんですから』

『それをキッパリ言えるのがたっちさんの凄い所です、流石警官』

『警官だから……じゃないと思いますがね』

『あっそうだ!ならセバスもたっちさんぽさをもっと出しましょうよ!』

『私らしさ?』

『そうすれば「困っている人が居たら助けるのは当然」なたっちさんならではのNPCが出来ると思いますよ!』

『それだと、このギルドの雰囲気に合わない様な?』

『なーに言ってるんです?ギルドの雰囲気なんか、メイド作ろう発言した茶釜氏以降無いにも等しいでしょうよwスパやらメイドやら混沌としてきてるんで、今更ですよ今更。それに――』

『自分のNPCなのに、"自分らしさ"を出さないなんて、ゲームしてるのにもったいないですよ』

『勿体ない…ですか』

 

そうコメントすると、たっちさんはセバスの前に立ちコンフィグをいじり始め、キャラクター設定欄を開き始めた。空中に浮かびあがるキーボード、そこにゆっくりと指を乗せた。

 

『そうですね、でしたら――』

 

感情表現などないユグドラシル。だがとても晴れやかそうなボイスチャットから聞こえてくる声は、たっちさんの楽しそうであった。そして、ゆっくりと書き始める。最初の一言は――

 

 

 

 

 

 

 

 

「――心優しい9階層の執事」

「オルタ様?」

 

フッと笑みがこぼれた。そうか、セバスはたっちさんの子であった。であればそう行動するのは必然だったのだろう。この世界にやってきてから数多のNPC達を見てきた。ナザリックの忠誠心に溢れた者、己が創造主の理想を体現していた者、ナザリックに最後まで残った私達の為に身を削る覚悟を決めている者達……そうであれば、彼を裏切りであると声を荒げる必要は限りなく低くなる。そう、彼は――

 

「オルタ様、セバス様がご到着なさった様です」

「そうか、通せ」

 

そうして通したセバスの顔は、暗かった。おそらく自身がしたことが間違いだったのだと心で自分への怒りと後悔を反芻しているのだろう。おそらく予想どおりではあるが、万が一の可能性もある。セバスには悪いと思うが最初は少し威圧的に接する。

心苦しいがこれも、今後のナザリックに必要な事だと思ってもらうしかないだろう。そうして一通り威圧を含めた言葉で少しの問答を終えた後に、本人の口から全てを喋ってもらった。話の内容はグレイと同じであった。そして語り続けている間のセバスの表情をもってして、9割そうだろうと思っていた仮説が、確信に変わった。

その後、一旦場の空気を変える目的もかねて、セバスに例の人間を連れてきてもらう事にした。セバスが去った後の空気は他のナザリックの面々の冷たく鋭い殺気と疑心に満ちた空気であふれかえっていていた。

 

「フッ……クク、フフ」

「お、オルタ様?」

「(オルタ様が……)」

「(笑っていらっしゃる……?)」

「(初めて見ました、ここまで楽しそうに笑っているオルタ様)」

 

どうやら完全に闇に落ちた自分達とは違い、彼はどんな場所でも正義一筋だったようだ。私達とは違い、どれだけ歪んだ思想を持った人物達でも、彼の輝かしい光に満ちた思想は暗闇を晴らそうとしている様だ。だがその光が今は一人の紳士の心、感情を揺るがせてしまっているのは……意図しない事故といった所か。

 

「いやなに…あの人は、どんなところでも正義なのだったな、まったく……生粋の善人め」

「ドウイウコトデショウカ?」

「今回の件、大元の元凶は私達、お前たちの言う創造主のせいだろうからな」

「至高なる御方々のせいなど、あの行動を行ったのはセバスの独断で――」

「そのセバスの思考を、生き方を創り上げたのだ誰だ?」

「それは、たっち・みー様であります」

「そうだ。そして彼の性格は……私達とは真逆だった――」

 

この場にいる面々にたっち・みーについて知っていることを話す。彼が有している善性、そして明るすぎる性格の全てを。全員が食い入る様に聴き続ける。クレマンティーヌに関しては……聞いている情報が整理できず宇宙猫じみた顔をしている。まあ、私達の様な悪性の者達が集う場所にそこまでの善性持ちが居たなんて想像すらできないだろう。

そもそも、もともと悪性ごった煮のようなギルドだったわけではなく、異形種狩りを狩っていたら周りからヘイト買って、恨みつらみ書かれて今に至るわけでなのだが。

 

「たっち・みー様とは、そのような御方なのですね……!」

「ナントモ貴重ナ話ヲキクコトガデキタ……」

「??????????????????????????」

「オルタ様オルタ様、クレマンティーヌさんが自我ここに有らずなのですが」

「チョップして直せ(適当)」

「そんな古びた魔道具の様にですか!?」

 

各々私が話したことを(一名を除き)脳内で租借し、それぞれの感想を口に出している。昔のギルドでも、彼の人の好さを話し合ったことがあったが、同じ様なリアクションをしていたものだ。アインズ……モモンガはうんうんと頷き、ウルベルトは悪態付きながらブツクサ呟き、武人建御雷は若干呆れていたのはどこか記憶に新しい。

 

「まあ、そういう事だから今回の件は()()()()()をしたのち不問とする。とはいえ、本来起こる事が無い筈の荒事を持ち込んだのは事実。その一部の解決を任せる事でセバスの件は洗礼されたものとする、異論ある者は述べよ」

 

異議を唱える者は誰もおらず、皆静かに瞳を閉じ頭を下げる。

 

「「「「「主の仰せの通りに――」」」」」

 

その会話の後に扉がノックされる。セバスが扉越しに「オルタ様、ツアレを連れてまいりました」と伝え、私が頷くとソリュシャンがすぐに扉を開く。廊下に立っているセバスの様子は先ほどと変わらず暗く青い表情を浮かべている。先ほどまでと違い、向けられていた殺意が全くなく、むしろどこか穏やかな雰囲気を残しつつ、優しい眼を向けられる現状に余計動揺してしまっている。

しまった、こっちは例の話で先ほどまでのムード崩してしまっていた…すまないと心の奥底で謝り部屋に通す。

 

「―――。」

「オルタ様?」

「いや…何でもない」

 

恐る恐る足を進めるセバス、その奥には不安そうな顔をしながらゆっくり後を追いかける人間の少女。黄色に近い金髪のロングヘア―を揺らし、メイド服に身を包んだ少女、その顔立ちは何処か見覚えがあった。

彼女は周囲にいる異形種に恐怖心を抱いている様だが、逃げる事はなく勇気を振り絞り前へ足を進めセバスの横に立つ。普通の人間では卒倒されても可笑しくないと思っていたのだが不安そうな表情を浮かべてはいるが、その奥底に燻っている勇気が彼女を支えている様だ。その勇気を讃え、デミウルゴスには支配の呪言は使わぬよう視線を向け告げようとした。だが事前に察知したのか、私の目を見た瞬間、軽く微笑み小さく頭を下げていた。まったく……頭が回り過ぎる配下というのは、優秀故に恐ろしいモノだ。

 

「貴様がセバスが連れ込んだ人間か、名は」

「ツ……ツアレ、ツアレニーニャと、いいます」

「…そうか、ではツアレ。私がセバスやこの場に居る者達を率いる支配者の一人、オルタだ。お前の事情はある程度聞いた、今はこの場で立っているだけで良い」

「あ……は、…はい」

「さてセバス、貴様の罪について許そうと思う」

「……なっ、よろしい、のですか?」

「ああ、お前の思考は大元を辿れば私達ナザリックのギルドメンバーがそう創り上げた者。たっちさんは自身と同じ様に、自身の正義を信じ行動するよう願ったのだ。その意志はお前はしっかり引継ぎしている」

「報告の有無など一部の行動については反省すべき点は多少あるが、お前はその後どうすべきかは…自身で気づいているだろう?」

「はっ、今後は報告すべきことは随時、報告し、問題が起こった際は必ずナザリックへ判断を仰ぐよういたします」

「よろしい。今後も自身の行いに後悔することなく、己の信じた行動をするがよい」

「はっ!寛大なお言葉、感謝いたします――」

「――とはいえ、只で不問とするほど甘くはない。この騒動終着後お前はしばらく、リーダーから外すことになるが構わないな」

「問題ございません」

「それとお前には最後、確認の為にこの場でしてもらう事がある。女を殺す覚悟はあるか」

 

どくりと誰かの心臓が跳ねる音が聞こえた気がした。恐る恐る私の顔をみるセバス、おそらく女が誰なのかは察しているハズだ。それゆえに、この後何をされるのかも、想像してしまった。

 

「――なんと」

「お前の覚悟、そして真なるナザリックの忠誠を示せ。その女を殺す気で殴れ」

「――な、なz」

「一人殺すのに言葉が必要か?お前の行動をもって示せ」

 

動揺により瞳の奥が揺らいでいる。だが、静かに瞳を一度閉じ、呼吸を整え立ち上がった際に開いた瞳は、覚悟を決めていた。静かに彼女の前に向き直り、拳を構える。ツアレもこの場で話を聞いていた者、薄々こうなる可能性は頭に有ったのだろう。

緩やかな表情でセバスに微笑んだのち瞳を閉じ、これから迎えるであろう結末に静かに身をゆだねた。ギリリと拳を握りしめ、彼の皮手袋から響く音がその力の込めようを表す。そして、彼女に向けて必殺の一撃をその顔へ振るう。

 

「それでよい」

 

私はすぐに行動し、ツアレの前に立ちセバスの拳を受け止める。強烈な衝撃波と共に周囲の家具が揺れ動きミシリと音を立て騒ぎ立てていく。スキル等のバフも無い素の一撃とはいえ、流石はレベル100。この一撃であれば、確実に彼女の頭を吹き飛ばしている。こちらも素で受け止めたとはいえ、装甲無しの素手での受け止め、かなり身体の芯にまで衝撃が届き、手のひらが少ししびれてしまった。

 

「な、何を!?」

「よいよい、これでお前の忠義は伝わった」

「な、何故です!?オルタ様は確かに彼女を殺せと!?」

「ふむ…私は別に殺せとは断言していない。"殺す気"で殴れ、そういっただけだ」

「なっ!?」

「まあよい、これでお前の忠義は伝わった。お前の件はこれ以上問う事はない」

「は、はっ!」

「さて、次はお前だな…ツアレよ」

「は…はい」

 

ツアレの方に向き直り、彼女の顔をみる。やはり近くで見れば見る程面影がある。彼女は、やはり――となれば、あの事は必ず伝えるべきなのだろう。これがアインズであった場合は、おそらく黙っておくだろうな。私達は彼女について関わっている、ならば。

 

「お前に、きょうだいは居るか」

「は……はい、妹が一人……おります」

「ニニャか」

「な……なぜ、妹の、名前を」

「彼女にエ・ランテルで会ったことがあってな。冒険者として行動していた際、彼女に様々な事を教えてもらった。ただ――」

 

そういいながら、私は一冊の手帳を取り出した。血の痕が残る皮の手帳。その手帳をみて彼女は今まで表に出さなかった動揺を初めてみせた。コレは彼女の手帳だ。「漆黒の剣」の一人の()()として戦い冒険し、いずれ姉を取り戻す為に力をつけていた者、だがそれがかなわず悲しくも叶う事が無かった者の思いが乗った手帳だ。

 

「そ、それは……私が、誕生日に…あげた――」

「彼女は最後までお前の事を思っていた、だが……すまないな」

「あ、ああ……」

 

手帳を受け取った彼女は膝から崩れる様に座り込んでしまった。手帳を胸に抱え、静かに涙をこぼす。私は周囲にいた配下達を静かに下げさせた。デミウルゴス、ソリュシャン、グレイ、コキュートスは足音を立てることなくこの場を去る。只一人クレマンティーヌは数秒動けなく居た。それもそうだろう、彼女はニニャを殺した本人であり、ツアレにとっては敵とも言える存在、片腕を掴み握るクレマンティーヌの表情は沈んだまま、自身の身体を血に変えこの場から静かに去っていく。

 

「(……いずれ、伝えるべきなのだろうな)」

 

彼女は静かに涙を流す。私達異業種が殺した、そう思われるかもしれないと覚悟はしていたが彼女はひとしきり涙を流し終えると、静かに私へ頭を下げていた。「ありがとう」と伝える為に……彼女の様な善性に満ち溢れた人間が居るというのに世界は彼女を地獄へと迎え入れた……この世界もやはり腐りきっているなと改めて実感する。

 

「ニニャはずっとお前の事を考えていた、そして彼女が残した手帳のおかげで私達はこの世界について多くの事を学んだ。故にこれは借りだ、ニニャへの借りをお前を救うという行為をもって返す」

「……ニニャ……」

「そしてツアレよ、お前は今後どうしたい?お前の記憶を消し、新たなる人生を歩ませる事も可能だが……その感じだと、そういう事を願っているわけでは無さそうだな」

 

彼女のセバスへかなり心を預けている。先ほどのテストを見ればそれはすぐにわかる、普通の人間が只助けられたというだけで自身の命を殺そうとしてきた恩人へゆだねるなんて事はありえないハズだ。そう私達の様な存在を見てなお、彼へ一定の信頼をもって付き添おうとした……それほどの覚悟、そして他者への献身……いや、心酔に近いモノを持ってしまった様だ。

 

「私は……セバス様と、一緒にいたい……セバス様と、共に……!」

「――我らは暗く人道に背く道を行く、血が絶えず、死を振りまく者だ。それでも我がナザリックの下へ来ると……」

「構いません……私は、セバス様となら……どこまでも!」

 

その目は弱弱しく、ただ救われる事をただ願うだけの人間の目では無かった。決意を身に纏い、悪辣な世界だろうと生きる事をあきらめず、大切なものの為に命を使おうとする……勇士の瞳だった。私はそんな彼女を見て思った……そう、思ってしまった。

 

 

――素晴らしい、と

 

 

「やはり人間というのは原石に溢れている……」

「二人共、聞いたな?」

『『ええ』』

 

いつの間にか空中に浮かぶ2つのウィンドウが彼女を囲っていた。そこに映っていたのはアインズと邪ンヌ、何が起こっているのか分からない様子で困惑するツアレ、ウィンドウに映っていた異形種の姿を見て恐怖より困惑が勝っている様子からみても、彼女は他者とは違い、心が人であることを忘れているのだろう。それをみて私はますます彼女の様な人間が欲しくなった。

 

「我がギルドにこのような言葉がある。『人、その友の為に自分の命を捨てる事 これよりも大いなる愛は無し』…これは我がギルドにとって重要な言葉である」

「そう人だ。このツアレという者はそれをこの場で証明してみせた。覚悟を、忠義を……意志を!我らは配下は人間種をただの一片の価値もない家畜以下の愚物と思う者が多い、しかし私は、この覚悟をみせた者を無碍にするほど愚か者ではない」

「故に歓迎しようツアレ」

 

彼女は体勢を整え、ぎこちなく忠誠を誓うように顔を伏せた。彼女はおそらく、私たちが国を作るために重要なファクターの一つになるだろう。部下たちへの教育は……かなり骨が折れそうだが、私は人間という存在をただ殲滅するつもりはない。彼らもまた、重要な要素となるはずだ。それでも、必要な処理として大規模な人の殺しを行うことが避けられないならば、仕方のないことだ。

 

「ツアレ、お前は後ほどセバス直轄のメイドとして働いてもらう。いずれ、我らが国を作った際には、その国でメイドを率いる立場についてもらう予定だ。構わないな?」

「は…はい!」

 

ツアレの声は震えながらも、決意が込められていた。オルタは一瞬、彼女をじっと見つめたが、やがて無言で頷き、手で退出を促す。ツアレはその指示に従い、ぎこちなく扉の方へ向かい、部屋を後にした。

扉が閉まり、部屋には静けさが訪れる。オルタはわずかに肩の力を抜き、心の中で次の一手を考えていた。問題はまだ完全に片付いてはいない。だが、焦る必要もない。むしろ、状況の展開を見守るのも悪くないと感じていた。ゆっくりと窓の方へ歩み寄る。夕暮れの微かな光が、窓枠を淡く照らしていた。ふと、窓の外に目を向けると、影がいくつか蠢いているのが見えた。隠しきれない監視――その不器用さに、オルタは軽く鼻で笑った。

 

「……愚かだな」

 

冷たく淡々とした声が、部屋にぽつりと響く。何者かがこちらを伺っているのは明白だ。遠くから感じる気配は、オルタからして決してプロのものではないが、それなりの数がいるのだろう。明らかな敵意がこの館の外から向けられている。

 

「……逃げ場はないぞ」

 

その言葉は、まるで自分に対する確認のようでもあり、外にいる監視に向けられた挑発のようでもあった。オルタは窓の外をしばらく眺め、何かが動き出すその瞬間をじっと待っている。薄暗い景色の中で、彼女の唇がわずかに歪んだ。

 

「さて……どう動くか、見せてもらおうか」

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