オーバーロード ~堕ちし聖女と黒き騎士~   作:赤猫project

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遅れた分、2本立て…なんてどうでしょう。

これからも不定期更新になってしまいますが、どうか見てくださると嬉しいです。


第18話

朝の冷たい空気がエ・ランテルの街を包んでいた。オルタはいつものように冒険者ギルドの任務報告書に目を通していたが、その中身は単調で無意味なもので、すぐに興味を失った。彼女の中で、これらの仕事は単なる雑事に過ぎず、真に重要なことはその影で進んでいる計画だった。そんな時、脳内にソリュシャンからの〈伝言〉が届いた。

 

『オルタ様、昨夜、ツアレが八本指に攫われました』

 

内容としてはツアレをさらった、取り返したければ指定した場所へセバス一人で来いとの記述された置手紙が置かれていたそうだ。短い報告にオルタは一瞬だけ目を伏せたが、顔に表情の変化はなかった。むしろ、想定内だとすぐに結論づけた。ツアレが何かしらの事件に巻き込まれることは予期していたし、八本指が動くのも予測済みだ。彼女が連れて行かれることなど、現状を考えれば簡単な推理だ。

 

「八本指……やはり、あの程度の連中にしては順当な動きだ」

 

オルタは冷ややかな声で呟く。八本指がどう動こうと、ナザリックの存在には届かない。彼らの狙いはツアレのような駒を使った取引や交渉…又は処刑だろうが、その愚かさが透けて見える。所詮、八本指はこの国の裏社会においてさえ、支配されるべき道化に過ぎない。彼らは力を持っていると思い込んでいるが、ナザリックの影にすら気付かず、ただ遊ばれるだけの存在だ。

 

「遊び相手にはちょうどいいか。……どこに連れて行かれた?」

『アインズ様に報告し、既にシャドウデーモンを派遣しております。追跡を進めていますので、場所の特定はもうすぐかと』

 

オルタは報告を聞き流しながら、椅子に深く腰掛けた。ツアレに特別な感情はないし、彼女が攫われたことも彼の計画には大した影響を与えない。それどころか、八本指が動いたことで、計画は一層円滑に進む可能性すらある。彼らが思っている以上に、オルタはこの件を軽視していた。

 

「まあいい、引き続き報告を待て。時間の無駄になるかもしれないが、少しばかり付き合ってやろう」

 

彼女は表情を崩すことなく窓の外を眺めた。エ・ランテルの街が徐々に朝の陽に包まれていく。その光景はどこか無機質で、変わり映えのしない日常の一部に過ぎなかったが、これから起こる王都騒乱の前触れに過ぎないことを、オルタは知っていた。

 

「デミウルゴスに伝えておくべきか。少しばかり作戦に調整が必要かもしれん」

 

そう言いながら、オルタは遠隔連絡の魔法〈伝言〉を唱え、デミウルゴスに連絡を取った。脳内に広がるデミウルゴスの冷静な気配は、いつもの通り正確で落ち着いていた。

 

『オルタ様、いかがなさいましたか?』

「昨夜、八本指がツアレを攫った。彼女はナザリックへの忠誠を誓った我が()()、殺されるような事は避けたい。奴らの目的を考えるとおそらく殺される事は無いだろう。私はすぐに動くつもりはないが、念のためにこの件を作戦に組み込んでおけるか?」

 

わずかに間を置いて、デミウルゴスはすぐに返答した。

 

『問題ございません。作戦に支障はありませんし、ツアレの奪還も含めて計画に加えることが可能です』

 

オルタは軽く頷き、視線を再び窓に向けた。デミウルゴスが言う通り、計画に問題はない。ツアレの存在が彼らの手に渡ろうとも、それが作戦全体に及ぼす影響はほとんどないだろう。

 

「ならば良い。あの愚か者どもが手に入れたつもりでいる駒も、すぐに無意味なものだと気付くだろう。計画に支障が出ないよう、対応を進めてくれ」

『かしこまりました。オルタ様の指示通りに進行いたします。八本指の動きもこれで想定内のものとなりましょう』

「所詮、八本指など道化に過ぎん。彼らがどれほど足掻こうと、こちらの手のひらで踊っているだけだ。……その点だけは楽しめるがな」

『はい。お任せください』

 

魔法を解除し、オルタは再び静かな空間に戻った。八本指がどれだけの力を持とうと、彼らの動きは全て計算され、操作されている。彼らが必死になって動いているのを、ただ冷ややかに見守るだけで十分だった。オルタは窓の外を眺め、冷たく静かに呟く。

 

「道化が自らを強者と信じる姿は、実に滑稽だな……」

 

その言葉に感情の揺れは見られなかったが、内側には僅かな楽しみが芽生えていた。八本指の連中が、ナザリックの本当の脅威を知らずに無意味な足掻きを続ける姿は、オルタにとって取るに足らない問題に過ぎなかった。すると黒い霧が部屋に漂い、アインズと邪ンヌが姿を現す。オルタは彼らに目を向けず、淡々と話を始めた。

 

「アインズ、デミウルゴスから報告は受けたな。ツアレの件、私たちが動く必要はないだろう」

 

アインズは静かに頷き、丁寧な口調で返答する。

 

「はい、オルタさん。デミウルゴスからの報告は受けました。しかし、彼がすべてを掌握しているとはいえ、予期せぬ事態が発生した場合、私たちも即座に対応しなければならないかもしれませんね」

 

そうは言ったものの、アインズの心の奥底には、ふとした不安が広がっていた。デミウルゴスは確かに優秀な悪魔で、戦略的には信頼できる。しかし……彼は「悪魔」なのだ。人間であるツアレを救出させるということが、本当に問題ないのだろうか? もしデミウルゴスが彼女を犠牲にしてでも計画を優先するようなことがあったら、どうする……?

 

(うーん……デミウルゴスの計画は信頼してるけど、悪魔だしなぁ。人間に対しての扱いが雑だったらどうしよう……まさかツアレに危害が加わることはないだろうけど、あの冷酷な感じがちょっと怖いんだよなぁ)

 

アインズは思わず自分の思考を整理するために目を細めた。しかし、セバスがツアレ救出に関わっていることを思い出し、少しだけ肩の力を抜いた。セバスなら問題ない。彼はナザリックの中でも特に善性の強い存在だ。彼がいる限り、ツアレには危険はないだろう……そう思うと少しホッとした。

 

(セバスがいるなら大丈夫……だよね?うん、セバスなら人間に対しても丁寧だし、ツアレを無事に救い出してくれるはず……デミウルゴスの計画もきっと問題ないよ……多分)

 

オルタはアインズの葛藤など気にせず、冷静に話し続けた。

 

「デミウルゴスがすべてを管理している。ツアレの救出も含めてだ。私たちが動くべき時が来たら、その時に動けばいい」

 

その時、邪ンヌがにやりと笑みを浮かべ、道化じみた口調で割り込んできた。

「あら、ツアレちゃんが無事じゃなかったら、私、本気で八本指を焼き払っちゃうかもしれないわよ? あんなに可愛い女の子を傷つけたってだけではらわた煮えくりかえっていたんだから。死刑決定よ。ねぇ、アインズ?」

 

邪ンヌの戯けたような口調に、アインズは内心苦笑するしかなかった。相変わらず、邪ンヌは可愛い女性に対しては特別な執着を持っているようだ。その嗜好は変わらないけれど、それがあの強大な力と結びつくと、逆にちょっと怖い……いや、かなり怖いかも。

 

「邪ンヌさん、ツアレが危険な目に遭うことはないでしょう。セバスが動くのですし、デミウルゴスも慎重ですから」

 

邪ンヌは不満げに腕を組みつつも、軽く肩をすくめて答えた。「まあ、セバスがいれば大丈夫でしょうね。でも、もしあの子に一つでも傷がついたら……私は全てを焼き尽くしてやるわ。竜の焔でね」

 

アインズは彼女の言葉に少しだけ心配を抱きながらも、彼女が状況を理解していることに安堵した。

 

「邪ンヌさん、あなたのその決意は頼もしいです。しかし、今はデミウルゴスに任せ、時が来れば力を振るう、それが最善かと思います」とアインズは慎重に言葉を選んだ。オルタはそのやり取りを聞きながら、再び窓の外へ視線を戻した。

 

「現状、デミウルゴスの計画に支障はない。私たちが今動く必要はなく、ただ時を待つだけだ」

「そうですね、デミウルゴスに信頼を置きましょう。そして、セバスがいる以上、問題はないはずです。万が一に備え、私たちも準備しておく必要がありますかね?」

「問題ないだろう。ツアレの救出は偶然計画の一部に過ぎない。八本指の連中はただの道化なんだ、デミウルゴスに任せておけ。もし必要があれば、私たちで後始末をつける。それだけのことだ」

 

邪ンヌはにやりと笑いながら、「ツアレちゃんが無事ならそれでいいわ。可愛い子にはちゃんと報いが必要だしね。もし何かあったら、私は全てを焼き尽くす。それだけよ!」と明るく言い放った。

 

アインズは彼女の言葉に少し苦笑しつつ、頷き返した。

オルタは窓の外を見つめていた。彼女の中で、全てが予定通り進んでいることに満足しつつも、必要な時に動く覚悟を持っていた。アインズは一方で、デミウルゴスへの信頼と共に、彼が悪魔であるという事実に対する不安を抱えながら、セバスがいることで心の安定を保とうとしていた。

 

「あ、そうだ。オルタ、私少し用があるから一足先に王国言ってくるわよ。良いわよね」

「例の件か、好きにすればいい」

「(……例の件?)」

 

 

 

 

 

 

<王国 王城 ラナーの自室>

 

 

夕暮れの赤い日差しが室内を照らすラナーの部屋。窓の外、下の部屋ではテント等を設営している冒険者や兵士の姿が見え、声をあげながら場所を整えている。その理由は八本指のアジトの掃滅作戦の為。本来の予定ではさらに数日後に決行する予定だったが、クライムの娼館襲撃の件があり、早めに行動しなければ逃げられると考えたからだ。

表舞台に現れることなく、あちこちに根を張っている八本指。彼らの情報網と行動力であればすぐに逃げる算段を立て、行動に移すだろう。その前に……。

 

「……クライム」

「相変わらずお熱ねぇ、王女様」

「っ⁉」

 

突如背後から聞こえてきた、寒気すら覚える暗い声。すぐに振り返ると、そこには一人の鎧を着た女性が立っていた。暗いマントと鎧に身を包み、不敵な笑みを浮かべながらこちらを見る女騎士。どこか聖女に似た雰囲気を感じるが、その恐ろしい負のオーラが彼女は聖女ではなく、魔女なのだと思わせた。そんな彼女だが、背後に立っていた女性の姿を見た瞬間、急ぎ近寄り頭を下げた。一国の王女であるラナーが、である。

 

「邪ンヌ様、ようこそいらっしゃいました!」

「あら、一介の王族である貴女が、私に頭を下げるのかしら」

「……私は、貴方様方ナザリックの方々への願いを聞いていただいた者です。頭を下げるのは当然です」

「ふーん」

 

そう、ラナーは既にナザリックとの交流を交わしていた。それはセバスとツアレの一件の後「デミウルゴスが気になる所があるので行ってみたい」とオルタに進言し、<伝言>で交流していた邪ンヌも同じく「行きたいところがある」と告げ、王国のある場所へと向かっていた。そう、ここ……ラナーの部屋だ。デミウルゴスはセバスが報告に書き記したラナー王女の話に興味を持ち、実際に合っていることにした。

 

そして出会った、人とはかけ離れた逸脱者<精神の異業種>たる王女を。只の人間とは違う、興味をそそられるその人間を手の内に入れて置きたい。そう思った。その後、ラナーへある提案をした。その内容に彼女は異常な程食いつき、ある契約を交わしたのだった。ちなみに邪ンヌもその場に居たが、彼女は別にデミウルゴスの作戦の件で来たわけではなく、ただ単に絶世の美女たる噂の確認をしたかっただけである。

 

そんな邪ンヌは部屋の中を一瞥し、ラナーの頭を下げた姿を冷ややかな目で見下ろしていた。その不敵な笑みは消えず、まるで目の前のラナーを試しているかのようだった。本来なら欲望丸出しでアレコレきいたりしたかったが、ナザリックのメンツを潰しそうな事をすると後でオルタに殺されると思い、ぐっとこらえ支配者らしい姿を珍しく無理して演じていた。

 

「ふふっ……貴方の願い、それが貴女にとってどれほどの意味を持つのか、私には関係ないわ。でも、面白いじゃない?願いを持っている者が、どれほど足掻いてその結果を手に入れるのか……」

(ぬぅ……本当は、問答無用で叶えてあげたかったんだけど、そんな事許されないのよねぇ……ごめんなさいラナー王女)

 

邪ンヌはゆっくりと部屋の中央へ進み、まるでその空間を支配するかのように堂々とした姿勢で立ち止まった。そして、冷たい笑みを浮かべながらラナーに視線を向けた。

ラナーは邪ンヌの存在感に圧倒されながらも、表情には出さないよう細心の注意を払っていた。彼女の中で、冷静さを保つための強い意志が働いていたが、邪ンヌの言葉やその余裕のある態度が、確実にラナーの内心を蝕んでいた。目の前の「人外」である彼女には、ラナーの知識や計算が通じない、別次元の力があるのだろう――そのことに焦りと恐怖を感じざるを得なかった。

 

「クライムの件ですが……」

 

ラナーは慎重に声を上げた。邪ンヌは軽く微笑み、ラナーを一瞥すると、含みを持たせた口調で答えた。

 

「わかっているわ。しっかり伝えておくから、安心しなさい」

「ありがとうございます、邪ンヌ様」

 

邪ンヌは興味なさげに肩をすくめ、冷ややかな笑みを浮かべたまま部屋を後にした。

扉が閉まると、ラナーはようやく肩の力を抜いた。張り詰めていた緊張の糸がほどけ、表情が少し崩れる。内心で感じていた焦りと恐怖が、ようやく顔に現れたが、その瞬間も短かった。すぐに気を取り直し、冷静を取り戻す。

 

(やっぱり……あの人は私を試している。でも、問題はない。すべては計画通り進んでいるんだから)

 

ラナーは自分に言い聞かせるようにそう考え、深呼吸をして気持ちを落ち着けた。クライムのために立てた計画は、順調に進んでいる。ナザリックとの連携も完璧で、八本指の掃討作戦が成功すれば、彼女の願いは成就するだろう――すべてはクライムのために。

 

(クライム……貴方のためなら、私は何でもする)

 

ラナーは窓の外を見つめ、クライムの姿を思い浮かべながら、静かに呟いた。

 

「貴方は私のもの。絶対に誰にも渡さない……絶対に、だから」

 

 

 

 

 

 

一方その頃…部屋を後にし、王城の塔の頂上に立っていた邪ンヌは――

 

「あぁ、不気味な程の騎士への執着、ヤンデレの極致……イイ、良いわぁ‼‼///」

 

……溜まった思いを爆発させていた。




少し短いですが、ようやくここまで掛けました。

次回から、王都騒乱――開幕です。

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