オーバーロード ~堕ちし聖女と黒き騎士~ 作:赤猫project
<王国 とある館 館内>
暗闇に包まれた一室に多種多様の異業種が集まり会議を開く。ナザリック最高の頭脳の持ち主デミウルゴスがリーダーとなり話を進めている。その理由は簡単、王都で行う作戦についてのすり合わせを行っているのだ。
元々の予定とは別にツアレ救出の任が追加されたが、問題はない。調べた所、元々襲撃予定の場所に囚われている様子。セバスが救出に向かう予定なので一部作戦の概要を伝え、その後の作戦からは部外者となるため語らなかった。彼がデミウルゴスの話した内容を理解したのち、この場から去った。
「さて、ではこれよりメンバーを7つに分けて、誰が何処を襲うか決める。それとシャルティア!」
「な、なんでありんすか!?」
「君は今回、遊軍として行動してくれたまえ。君は血を浴びすぎると我を忘れてしまう。雑魚を相手にして暴走されたら厄介だからね。あぁ、スポイトランスがあるから多少は…と考えていても無理だ。今回の作戦、できる限りのリスクは減らしておきたいからね」
「(い、言いたい事を先に言われた…!)ぐぬぬ……!」
「(そう。今回の作戦、失敗は許されない……なにせ、この作戦が成功しなければ、ナザリックが表舞台に台頭する足掛かりができないのだ…至高なる御方の目的のため、この作戦の支障となりえる部分は、極限まで避けたい)」
この作戦には至高の御方も関わってくる。それはナザリックの頂点が既に近くで見ているという事なのだから、失敗なぞしてしまえば我ら守護者、もといナザリックの者達すべてに無能だと眼前でお伝えしてしまうことになる。それだけは…絶対に合ってはならない、ならないのだ。
「さて、まず最初に皆へ重要事項を告げる。エントマ」
「りょうかいですぅ~」
エントマはデミウルゴスの言葉に答え、何もない虚空に幻影魔法を使い一つの虚像を投影した。浮かび上がった幻像をみて、その出来にデミウルゴスは満足そうに笑みを浮かべ、再度周囲の者達に向き直った。
「この人物を殺すのは禁止だ。多少危害を加える事は許可するが、積極的な危害は絶対に禁止だ。特に――」
そういいながらシャルティアの方に目を配る。周囲の者達もそれにつられ同じ方向へ視線を向ける。そこに居たのはシャルティア、みなそれをみて納得するように2度頭を小さくうなずいた。
「お前たち、揃いも揃って酷いとは思わないんでありんすか!?」
「え、えっと……実際、前回の件があるので、えっと…仕方ないかと……」「グフッ」
マーレからの悪意のない一言が心に突き刺さり、しおしおとしぼんでいくシャルティア。それをみて今の彼女なら問題ないだろうと納得し小さくデミウルゴスは頷いた。そして、そのまま言葉を再度話の続きを語ろうとした際、影が揺らいだ。
「―――どうかしたか、シャドウデーモン」
「……成程、そうか。多少手間が増えてしまうが、この程度であれば問題ない。それで、場所は?」
「――ほう?それはある意味都合が良いな。すまないマーレ、どうやら襲うべき拠点が1つ増えたそうだ、君はエントマと共にそちらに向かってくれないか」
「は、はい!わかりました」
「よろしい。後ほど追加の人員が来るだろうが、その際は君が指示をだしてくれ」
少しのイレギュラーが現れたが、
「さて、計画の第二段階「ゲヘナ」。そして」
<八本指拠点 とある屋敷の庭>
暗闇の王国、その場に似つかわしくない派手な装飾を身に着けた男女2人が館の入り口を歩いている。
長い白髪を優雅に揺らしながら、まるで夜の闇に溶け込むような黒衣を纏って立っていた。その胸元には血のように鮮やかな赤の装飾が煌き、彼の存在がただの人間ではないことを物語っている。手にした杖は不気味な異形を象り、その瞳は冷たく鋭く、しかしどこか楽しげに輝いていた。
背後に幻視できる異界の景色は、彼の全てを映す鏡の様。彼の威厳を一層際立たせ、まるでこの世ならざる支配者のようだ。その微笑には、秘めたる企みが潜んでいる――そう、彼の名はカリオストロ。
「アレッサンドロ・ディ・カリオストロ」――幻影を得意とする、悪魔の一人だ。
「何故私があなたなんかと一緒に……」
「まぁまぁ、そう邪険にしないでくださいませ、女王陛下」
「女王はやめて。女王の肩書はかの御方に相応しいの、私なんか、只の罪人よ」
そう卑屈そうにカリオストロを睨みながら歩く少女。
銀髪の少女は、冷ややかな眼差しを携え、白と黒のコントラストが際立つモダンな衣装を纏っている。大きめの白いジャケットが彼女の細身の体を包み、軽やかに舞うようなデザインが動きのある印象を与える。
赤と黒のアクセントが施されたその衣装は、まるで彼女の冷徹な美しさに彩りを添えるようだ。脚には片方ずつ異なるデザインのタイツを穿き、カジュアルながらもどこか異世界的な雰囲気を醸し出している。
瞳の奥にはかつての優雅さとは異なる冷たい輝きが宿り、彼女がもはや「かつての王女」ではないことを物語っていた――その名は、マリー・アントワネット・オルタ。
は復讐を叫び、破壊と破滅をもたらす妄執に囚われた、
「なるほど、ではマリー…いいや"アントワネット"でしょうか……?ふむ、どれもしっくり来ませんねぇ。やはり貴女様の事は「女王陛下」と呼ばせていただきましょうか」
「ああ、気になさらずとも至高なる御方々の前では控えさせていただきますとも」
「……勝手にしなさい」
彼の軽薄な笑みと共に響くその名が、まるで嘲笑のように感じられる。だが、それが彼なりの敬意の表れだと理解していた。
彼はただ、己の興味と戯れで相手を翻弄するだけの存在ではない。そんな軽口の裏に、彼の知識と真意が潜んでいることを、私はよく知っている。
そんな心の裏での罵りあいを繰り広げながら歩くと、不意に館の扉がギギィと開く音がした。
中からは無数の蟲達…だが、普通の蟲とは違う。奇形に形を成した昆虫達、無数の腕が背から生えた芋虫。ギョロリと動く瞳が羽に見える蛾や毒の鱗粉を大量に蓄えた蝶等が無数の宝石等の貴金属をもって現れた。
その奥からは、虫の複眼を宿したメイドが、人間の血が滴る腕をぶら下げながら出てきた。彼女はエントマ――
「おや、お早い到着ですぅ」
「何かまずかったかしら?」
「いえいえ、そういう訳ではないですよぉ。ですが、ここの仕事もすぐ終わっちゃいますのでぇ、皆~ナザリックまでお願いねぇ」
エントマが人間の腕で手を振ると、蟲達が呼応するかの様にギチリギチリと不快な音を響き渡らせ、ザワザワと羽や身体を揺らす。
そして、合図と共に羽根のある蟲達は何処かへ飛び去り、地を進む昆虫達は素早い動きで隣の樹々の隙間を通りすぎ、どこかへ去っていった。
「どうやら、終わったおうですな。ふむ…エントマ殿、その腕…ここに居るであろう幹部ではありませぬよな?」
「ちがいますぅ!ちゃんとこの屋敷で雇われていた護衛の男のですぅ!幹部らしき女はマーレ様が恐怖公の下へお連れしたですぅ」
「そ、そうですか」「な、なら大丈夫ね、ええ」
恐怖公は同じナザリックの面々ではるが、失礼ながら抵抗感が凄いお方。そういう風に創られた方なので仕方ないのであるが、悪気が無いとはいえ、出会いたいとは思えない。
恐らく他のナザリックの面々も同じ気持ちだろう。それを踏まえたうえで、恐怖公の下へ連れていかれたという事実は、ほんの少しではあるが、人間に同情の気持ちが生まれる者である。
「それにしても…大分綺麗に片付けましたな」
「皆がいたから楽勝ですぅ♪(ブンブン」
「エントマ、その腕振り回すのやめて頂戴。汚らわしい人間の血が飛び散ってくるのだけど」
「あっと忘れてた。いけないいけない」
そういいながらガブリの顎から肉にかぶりつく。グシャリ、モシャリと器用に骨の周りの肉を一片残らず喰らいつくす。
その動きは一見ハムスター等の愛らしい食い方に見えるが、その本性をしれば悍ましさが際立つ。
「やっぱダイエットには、筋肉質な男の肉だねぇ(ガブガブ」
「器用に食べるわねぇ…」
「まったくですな。人間など食わぬ私ですが、この光景は見ていて気持ちいと感じておりますぞ、ハハッ」
「そ~お?(むぐむぐ」
「おい、何してんだ」
後方から突如声を掛けられる。一人の赤い鎧を身に纏い、大槌を握る一人の女戦士…女戦士?が立っていた。おそらくデミウルゴスが語っていた、件の冒険者だろう。これで、ようやく役者がそろい…二人の任務が始まる。
「お肉たべてるの~」
「……人間の?」
「そぉ、人間のぉ~」
そういいながら綺麗に完食した肉の消えた骨の塊をポイッと捨てるエントマ。その光景に、男女の戦士は強く持ち手を握り構えを取る。
「なるほど、まさか八本指がモンスターまで飼ってるとは思わなかったぜ…。そんで、アンタらが件の八本指だな?」
「……おや、私達もモンスターだとは思わないので?」
「どうだかな。テメェがそのメイドもどきと会話してはいたが、お前はどこか…違うな」
「ふむ、戦士の勘というやつですかな。まぁ良いでしょう。そもそもそのつもりで来ている様ですからな」
そういい、二人は戦士の方へ向き直り、美しい執事礼を行う。
優雅な微笑を浮かべながら、静かに片手を胸元に当てた。黒い装飾が闇夜でも際立ち、彼のスーツの深い色合いが所作に映える。もう片方の手は背中へと添えられ、彼はゆっくりと頭を下げた。その動作は一切の隙を見せず、まるで舞台上で踊るかのような完璧な所作だった。
だが、その一礼はただの礼儀ではなく、彼の忠誠と共に隠された企みすらも見透かすような、深い意味を帯びているかのようだった。微笑みの奥に、決して読み取れない冷ややかな眼差しが光る。
「初めまして。私はアレッサンドロ・ディ・カリオストロ――八本指の金融部門の長を務めさせていただいております。そして彼女も我が同胞でありますれば」
カリオストロに諭され、彼女も普段行う所作とは不釣り合いな衣装でありながらも、丁寧にカーテシーで返答する。
そのまばゆい白のジャケットを軽く押さえながら、ゆっくりと片足を後ろに引いた。ドレスではなく、彼女のこの世界にとっては浮いている別世界にとって現代的なその装いは一見カーテシーにそぐわないように見える。
だがその動作は驚くほど優雅であり、短いスカートの裾を指先でつまみ、膝を軽く曲げ、背筋を伸ばしたまま、まるで昔日の貴婦人のように体を沈めていた。
その慣れた動作は、日ごろから行っているのだろうと推察し、ますます二人の詳細が分からなくなる。
「初めまして。私はマリー…マリー・アントワネットよ。麻薬取引の長を務めているわ」
「っ、テメェが……黒粉を」
(情報にあった人相と大分違うが、アイツが影武者ってわけか?まぁ…そんな事は、捕まえればわかる事か…!)
その言葉を聞き一段と殺気があふれだす男女の騎士。何が気に障ったのか理解できなかったが、デミウルゴスが伝えてくれた情報の中に、八本指の麻薬取引部門を襲っている冒険者の詳細が書かれていた紙があったのを思い出す。
その書類の中には組織を襲った人間達、アダマンタイト級冒険者「蒼の薔薇」に、目の前の女男に似た情報が書かれていた。
「あら、もしかして貴女が私の拠点を襲ったバカなのね。ご苦労な事ね、態々1つ1つ馬鹿らしくも潰してくれたんだから……」
「けど、まあ問題はなかったから別に気にしないわ」
「そうかよ。なら……テメェらを捕まえれば万事解決だなぁ!」
大槌を振り上げ突撃してくる男女。その勢いはまるでサイの様な勢いである。その体躯に見合った迫力をもって突撃してくる男女の事を軽く笑うと、サイドから割って入る影があった。
「無視しすぎじゃないかなぁ~!」
「チィ‼‼」
エントマが横に割って入り、相手をけん制する。男女は咄嗟に突撃の勢いを足で殺し、止まり次第すぐバックステップで距離をとる。
「では、あとはお願いしますね」
「私達は中に戻ってるわ」
「了解ですぅ~」
「逃がすかよ‼‼」
「邪魔するのが好きなんだ、ねェ!!」
再度エントマが割って入り、男女の介入を阻止する。舌打ちをしながらも、まずは目の前のエントマを対処しようとする男女。
それを後目に2人は館の奥底に姿を消し、わざとらしく軋む音を鳴らしながら玄関の入り口を閉めた。
「はぁ、演技というのは慣れていると思っていたわ。以外にも疲れるモノね」
「お疲れ様です。女王陛下」
「あ、おかえりなさいです。お二人共」
部屋の中に入ると、いつの間にか戻ってきていたマーレがロビー内で立っていた。二人は軽く彼へお辞儀すると、少しあわあわした様子で「頭を上げてください」と促す。
「え、えっと僕はここでの任務は終わりましたので、後はお二人に引き継ぐという、お話なのですが……改めて作戦の内容は、覚えております」
「ええ、問題ないですよ」
「はい。私の目的は本来の八本指の長の肩代わりとなる事――」
八本指の肩代わり、そんな遠回りな事を何故行っているのか。これも至高なる御方々の名声を高める為と、表舞台に出る為の足掛かりの一つとなる事件を起こすためである。
「この事象が偶発的に起こったのではなく、私達八本指の2人によるマジックアイテムの使用による現象とするのが目的…なのよね」
「は、はいそうです。今回の件の裏で、おねえちゃんが八本指の幹部全員を捕まえて、掌握する手はずです。それまでの八本指の代わりをお二人にお願いしたいのです」
「その動きとして、私達は裏の貴族の伝手で作戦の事をしり、昔から企てていた計画を決行した……という設定の幹部を務める…えぇえぇ、覚えておりますとも」
「そして、その敵となる私たちはデミウルゴス様を至高の御方々が撃退する…そういう手筈なのですね」
これによって、この王国にも偉大な強さを持つ冒険者のモモン、ナーベ、ラピュセル、アルトリア、グレイの名を染み渡らせる。
そうする事でナザリックの為になるとなる。
正直、その作戦の奥底までは理解できていないが、デミウルゴスがいうには、ここから表舞台にナザリックが出る為の行動が出来るというのだから、普段無気力なマリーも、力が入るというものだ。
「えっと……実は僕の方はこの場でやる事は無いんですよね。なので、一度デミウルゴスさんの方へ戻ろうとおもいます」
「あら、そうですの?」
「では、後ほどまた合いましょうね。カリオストロさん、マリーさん」
「ええ、ごきげんよう」
「ええ。またお会いしましょうね!」
軽く笑いかけると、深々とお辞儀をした後<
とりあえず、情報共有はすんでいるので外のエントマの様子を確認するカリオストロ。
「さて…外の様子は?おや……」
「増えてるわね。4人?」
「いえ。あの装備はハンゾウと同じく忍びの装束、おそらくシノビのジョブ持ちでしょう」
「シノビ?そんな高ランクのジョブ持ちがいるなんてね。警戒すべきかしら」
「警戒はしておくべきでしょうが、そこまででもないかと思いますよ、ほら」
そういい、外の光景を見る様促すカリオストロ。その先では、慎重に行動しつつも確実に相手を削り勝利へ近づいていくエントマの姿があった。蟲使いの力を余すことなく発揮し、相手を圧倒していく。男女の物理攻撃は確実に防ぎ、手数を増やしてシノビの小娘を少しずつではあるが削る。
影を使った短期転移も蟲使い…いや、エントマ特有の器官によって知覚され、袖の奥底へと貯め込んだ鋼弾蟲を自身の背後の影へ打ち込む。脇腹を数か所撃ち抜かれ苦悶の表情と共に、影から引きずり出されたシノビの娘。男女はムチの様にしなる百足、千鞭蟲による拘束で助ける事などできない。いよいよ始末される…その時、空から水晶の剣が降り注ぎエントマを妨害した。
赤いマントに仮面をつけた娘が空から降りてくる。デミウルゴス、そしてオルタから情報があった「青の薔薇」の一人、イビルアイだ。マリー側からだと後ろ姿しか見えないが、遠目でもわかる他二人との雰囲気の違いが、先ほどの二人以上の警戒をすべきと魂に訴いかけてくる。
「デミウルゴス様の言った通りね、流石はオルタ様……」
『二人には八本指役を任せると思うが、少し気にかけて欲しい人間どもがいてね』
『おや、その人間というのは?』
『アダマンタイト冒険者「青の薔薇」の者達だ。彼女達の中で警戒すべきと思った存在がいたとしたら…君達が表立って動いてもらっても構わない』
『あらいいの?そう言うという事は……殺しても問題ないのよねぇ?』
『構わないとも、ただ……もし君達の場所に来た場合。一人だけ残して欲しいのだよ』
『何故わざわざ一人だけ?私が全員殺してもよくってよ?』『ンフフ、女王陛下。
『ああ、私の計算によると…おそらく君達と青の薔薇が邂逅した場合、作戦のステップが一気に進むのだよ。その場合、私も動ける』
『そう、かの冒険者との邂逅が…この作戦を完成させる近道になるのだよ!』
会議室でそう告げられた事を思い出す。現状3人・エントマ1人の構図、どうやら特殊な魔法を使うイビルアイがエントマにとって難敵であるようで、少し旗色が悪くなりつつある。出てくるなら今だろう。
「さぁて、少しは楽しませてくれるのかしら……雄々しい冒険者様、アハハ…♪」
「私も存分にエスコートさせていただきますとも。ええ、ええ!」
攻め込まれていくエントマの下へ向かう2人、さらなる混沌とした舞台劇が平からる。カーテンコールはこの戦場、であるならば、盛大に迎えられるようにしようではないか。さあさあ、まずは開演の
舞台の開演は、すぐそこに――